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認識の不一致

作者: ゆさ

目が覚めた。

いつからここにいるのか、どうやってここに来たのか、自分が誰なのかさえわからない。

聞こえる唯一の音は風で葉が揺れるカサカサって音。

わかっていることは、自分が男だということと一面青白く何もない殺風景な部屋に寝ているということ。

動けない。まるで金縛りにでもあっているかのように手足が重く、口も動かない。

顔に何かかぶさっているような感覚はあるが、見える範囲では確認できない。

こんなどうしようもない状況下でも自分がひどく冷静でいることに気づいた。

俺はこうなることを前から知っていたのか?

そもそもこれは夢なのかもしれない。それにしてもつまらない夢だ。何もない部屋に寝ているだけ。

突然、ゴロゴロゴロという音と共に地面が揺れ始めた。

地震か?

一向におさまりそうにない。

それに夢からも覚めそうにない。

うっ!

右腕に何か刺さった。目だけ動かして傷みの原因を探ったが何もなかった。

なんだ?

痛みは一瞬であとはじんわり温かくなっただけだった。

いつの間にか地震もおさまっていた。

それからの変化はいろいろあった。足を叩かれたり腕を持ち上げられたり。実際に動かされているわけじゃない。感覚だけ。

不思議だ。夢だとしても、かれこれ一時間以上同じ体勢でいるのはさすがにおかしいし、いまだ手足は動かないし声も出ない。

もしかしたら、宇宙人の実験台にされているのかもしれない。地球人を捕獲して痛みとか衝撃を加えて反応を見ているのかもしれない。

急に怖くなった。もう家に帰れないかもしれない。お母さんやお父さん、生意気な姉ちゃんを心配させてしまうと思うと涙が出てきた。

しばらく放置された後、またゴロゴロと地震が始まったけどさっきみたいには驚かなかった。

これからどうなるんだろう。このままずっと動けないまま、夢から覚めないまま、宇宙人に捕獲されたまま一生を過ごすのだろうか。

ふとあることに気が付いた。相変わらず動かせはしないが、手足が軽い。まるでおもりを外されたかのように圧力を感じない。

解放されるのか?家に帰れる?なんて考えていたのもつかの間、青白い部屋が一瞬で明るくなった。眩しいどころではない。目を閉じようと力を入れても、容赦なく瞼の隙間から光が入り込んでくる。

なんだよ!!なにがしたいんだよ!

叫びたくても話し方を忘れてしまったかのように声が出せない。

するとパッと明かりが消え、また青白い部屋に戻った。

それからは何も起きなくなった。

寝たまま無音の状態が続いた。

時間がたっても腹は減らない。眠くもならない。相変わらず動けないし、自分が誰なのかも生きているのか死んでいるのかさえもわからない。

これから俺はどうなっちゃうんだろう。どうせ元の世界に戻れないなら、この状態が永遠に続くならいっそのこと殺してくれよ・・・!






「先生。佑は、佑はもう・・・」

泣き崩れる母とそれを支える父。二人は医者と部屋を出て行った。

呆気なかった。あっという間だった。病院に運び込まれてから四時間が経つ。弟は下校中に事故にあった。スピードの出し過ぎと信号無視によって弟の未来は殺された。

今までのことを何度も頭で繰り返し思い出す。

激しく揺れる搬送用のベッド、母の悲鳴と医者の冷静な声、右腕に刺さった点滴、そして私への誕生日プレゼントの入った袋。袋は大きく裂け、箱はひしゃげていた。無意識の中、弟はそれだけは手放さなかったらしく今でも握っている。

「脳死って・・・なんでよ。なによ・・・心臓は動いてるじゃない。生きてるじゃない。きっと明日には、目を覚ますかもしれない。手足だって、今は反応ないけどもしかしたら・・・」

手を握って話しかけても反応はない。

お姉ちゃん信じてる。きっと奇跡が起きて佑が目を覚ますって。それまでずっと一緒にいてあげる。いつまでも佑が帰ってくるのを家族で待ってるから。

涙が弟の頬に落ちる。

酸素マスクをつけられた弟の顔がなぜか少し歪んだ気がした。

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