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追いかけた夢

「僕はね、大きくなったらパイロットになって世界中の人たちを空の彼方へ連れていくんだ!!ぶーんってひとっとび!だからね、よーちゃんが泣いていたらすぐにでも飛んでこれるんだよ!…だから、さみしくないんだよ。」


泣いていた。ずっと守ってくれていた幼馴染が遠くに、そのころは名前すら聞いたことのなかった土地に引っ越すことになって、とにかく僕は泣いていた。

でも、ひー君は泣いてなくて、瞳を輝かせて、自分の夢を語って、僕の手を握ってくれた。

大丈夫だよ、遠くに行っても必ずすぐに会いにこれるからって。


「ねぇ…よーちゃんは、大きくなったらなにになる?」


「僕は…アイドルになる…そーして、ひー君がどこにいても歌を聞いてもらえるようになる…。」


そのころ僕たちは、ヒーローが空を飛び、ヒロインが歌を歌い世界を救うアニメに夢中になっていた。

だから、ひー君がパイロットなら僕は歌姫になろうって思った。そうしたら、また絶対に巡り合えるから。


「それなら、二人で空の上でコンサートを開こう!キラキラでみんながワーワー叫んで、ずっと忘れられないようなステージを二人で作ろう!約束だよ!!」


差し出された小指に、自分の小指を合わせて、僕は涙をのみこみながら微笑んだ。


「…うん、約束!」


鮮やかな夕焼けの中の幼いころの約束。今でも鮮明の覚えていて、消えることのない大切な思い出。


あれから…10年。



「リーフちゃん、準備大丈夫ですか?あと30秒です。」


「はい、今着替え終わりましたので、行きます!」


ふわふわ広がるスカートにはいまだに違和感がある。

頭につけられたリボンも…似合っているのか考える。

身長が高くなるヒールの靴は転ばないかドキドキする。

お化粧のにおいにはだいぶ慣れた…でも、アイメイクは苦手だ。


「…15秒前です。リーフちゃん今日はお客さん多いから、いつもみたいに思いっきり羽ばたいてきてくださいね。10秒前…9,8,7,6,5秒前。」


カウントダウンは「リーフ」になる魔法の合図。

僕は瞳を閉じて大きく深呼吸をする。


「3,2,1、スタートです!」


きらめく世界へ足を踏み出す。

とびっきりの笑顔を連れて。

光るライト、あがる歓声、飛び交うピカピカのテープ。

ここがリーフの世界。


「全国のお兄ちゃん、お姉ちゃん、弟君、妹ちゃん、おはこんばん☆リーフのところに来てくれてありがとう!今日はめいいっぱい楽しんでいってね。」


湧き上がる歓声の中でウインクをするアイドル。

今、日本で人気急上昇と噂されている美少女…アイドル「リーフ」。

その正体は僕、瀬野せの よう、17歳…筋肉のついてない華奢な身体、何故か声変わりをしないボーイソプラノ、色素の薄いサラサラの髪の毛、猫のような瞳(と言われている)こうみえてれっきとした男。

でもそれは…。


「最初は、『トップシークレット!』いくよー!打ち明けたら、魔法が溶けてしまうからどうか秘密をあばーかなーいで…」


誰にも知られちゃいけない、秘密のアイドル。

…ひー君、僕は形はどうあれあの時の約束を果たしたよ。

二人で見たアニメのヒロインみたいに、キラキラのステージで歌ってる。まだ、ひー君には届いていないかもしれないけれど…僕がリーフでいられるうちに、ひー君に届くといいなって願っている。


今、ひー君はどんな景色を見ているんだろう。



「リーフちゃん、今日も最高にかわいかったですよ!お疲れ様でした。」


タオルを私ながらマネージャーの黒瀬さんが駆け寄ってくる。彼女は、学校帰りの僕がズボンを履いていたにもかかわらず「女の子としてアイドルデビューしませんか!!」と駆け寄ってきたちょっと…いや、かなり変わった人だ。

はじめは、ものすごくイヤで、もちろん断ろうと思った…でも、アイドルには興味があった。

小さいころに離れ離れになった幼馴染のひー君と交わした約束。

「大きくなったらアイドルになる。」

それは忘れていなくて、でも残念なことに僕には男性として誇れるような部分はなくて、あの約束を守るためには「女の子」としてアイドルになることを受け入れるしかなかった。小さなときに交わした約束なんて、ひー君は覚えていないかもしれない…でも、僕にとってはとても大事な心の支えだったから。

母親と父親が唖然としていたけれど、そんなこともう気にしていられなくて、僕は目の前に差し伸べられたチャンスに手をのばした。

それから、黒瀬さんと家族に社長だけが本当の僕を知っている形で、アイドル、リーフとしての活動が始まったんだ。

本名の「葉」からとってリーフ。コンセプトは緑のうぐいすの声をだす妖精…っとなんだかてんこ盛りだけど…緑色を中心とした衣装はちょっと気に入っていたりする。

はじめはバレるんじゃないかって思っていたけど…声変わりをほとんどしなかった僕の声は、女の子として違和感がないらしい。…僕は違和感だらけだけど。

でもさ、いつもリーフから葉に戻るときに言うんだけど…


「追いかけていれば、夢って叶うんだ!」


僕は黒瀬さんに感謝している。

こんな形ではあるけど、僕は夢を叶えることができた。

ずっと追いかけても、追いかけても、たどり着けないと思っていた夢の世界に触れることができた。

性別を偽っていることに申し訳なさは感じるけれど…今は、とにかくリーフとして振る舞うことで、多くの人が笑顔になってくれるのが嬉しくて仕方がないんだ。


「リーフちゃん、ごめんね、そのままちょっと次の現場まで移動しなきゃになっちゃった」


「えぇ…こ、このままですか…」


ステージ以外ではなるべく男に戻るようにしていたけど…仕方がない。

黒瀬さんにワガママを言って困らせたくはないし。


「分かりました!これも夢を追いかけるためですから…?」


その時、僕は自分の足元に白い杖があることに気がついた。

忙しなく左右するその杖の動きを疑問に思いながら顔をあげると、いつの間にか目の前に漆黒の髪を一つに結んだ女の子が立っていた。


「…あの、どけてくれませんか?」


女の子が口を開いた。

その凛とした声に胸が高まる。


「あ…リーフちゃん、点字ブロックの上にたっちゃってる!」


道を先導していた黒瀬さんに手をひかれて一歩下がると、確かに僕は特有の凸凹の上に女の子の道を遮るようにたってしまっていた。

黒瀬さんが車通りの少ない道を通ってくれるから…気を抜いていた。


そうか…この子、目が不自由なんだ…。


「ごめんなさい!」


「いいえ…」


女の子は何事もなかったかのように先に進んでいく。

でも完璧にすれ違う直前に小さく呟いた言葉が…僕の耳に残ってしまった。


「…夢なんか…追いかけたって後悔するだけなのに…」


背筋を伸ばして去っていく女の子を振り返り…僕はなにかを噛み締めていた。


10年前の約束が犯した罪を僕はまだ…知ることはない。

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