帝國陸軍と満洲国軍
書きたいことを泥縄式に増やしていったらグダグダとなってしまいました。申し訳ありません。
日本全体が近代化と工業化を図る中、帝國陸軍では中華民国との講和により戦時体制から平時体制へと移行した。そしてそれにより生じた余剰師団を解隊、その予算を持って装備の近代化に努めることを決定する。特に、欧米列強に比べて遅れを取っている部隊の機械化や装甲車両、対戦車兵器、砲兵火力の開発や強化が急務であった。特に近い将来、対ソ戦が予想される陸軍にとってこれらは死活問題であったのである。
この当時の大陸方面の動きとしては、1931年に満洲国が建国され、それと同時に陸海空の3軍が満洲国軍として設立した事がある。満洲国軍において日本でもまだ設立していない空軍が設立された理由としては、将来日本で帝國空軍の設立を目指す際のテストベッドとして設立された背景がある。満洲空軍での組織的な問題点を洗い出しそれを将来的に行われるであろう帝國空軍設立に向け役立てようという訳だ。そのため満洲空軍には陸海軍から幾人もの参謀が派遣されておりその良し悪しを逐次報告している。もちろん日本も実験台としてだけではなく有事には関東軍と共にソ連軍の南下を防ぐ盾となってもらう腹づもりであり、そのための各種装備も有償支援や中古品の処分という形で売却、譲渡されている。
満洲陸軍には三八式小銃や十一年式軽機関銃、九六式軽機関銃などの歩兵装備に加え九七式中戦車、九五式軽戦車、改造三八式野砲、九四式37mm速射砲、九六式15cm榴弾砲などの重装備まで供与されている。さらにはソ連軍戦車部隊との戦闘を見据え新型の一式47mm速射砲なども少数ながら配備されているから驚きだ。しかもこれらの兵器は満洲国内でもライセンス生産が行えるように工業基盤を整えており、将来的にはある程度は自給できるようになっているのも強みである。
海軍には帝國海軍の中古艦艇が払い下げられておりその能力は高い。しかし満洲海軍は黄海の制海権確保と河川での小型艇による舟艇機動などが任務であるため大型艦は無い。と言うか現状では必要がないため、供与される船はもっぱら小型艦が中心である。売却される艦艇は峯風型以前の駆逐艦や新規造船の海防艦、駆潜艇、魚雷艇、河川砲艦など多岐にわたっており、今後は旗艦用として日本に軽巡洋艦の建造依頼を行う予定もある。ちなみに満洲海軍にはしばらくの間は外洋艦隊の整備計画は無く、太平洋側の守りや通商防衛は日本に依存する形となる。
空軍は陸軍と同様、ソ連軍の侵攻を受け止める大事な戦力なのでかなり力を入れて支援が行われている。九七式戦闘機はもちろんのこと新鋭機の部類に入る一式戦一型まで供与、配備されていることがその証拠だ。他にも九七式軽爆や九八式直協機などの爆撃機も配備し、押し寄せるソ連軍を関東軍と協力して陸空からの攻撃で押しとどめる計画である。
もっともこの当時のソ連軍は独ソ戦を行いながらも未だ極東方面には100万以上の兵を有しているほか、ソ連軍の主力戦車であるT-34の正面装甲を遠距離で破れる砲が関東軍、満洲軍共にほとんど無いことも問題だ。新型の機動九〇式野砲やイギリス供与の対戦車砲、15cm榴弾砲の直接射撃、さらにはドイツ軍の様に大口径高射砲を使うことで破壊できるとされているがそもそも数が足りない。航空優勢が取れたならば爆撃で潰すという手もあるが前線支援の主力機は九九式襲撃機であり搭載機銃は7.7mm、爆弾搭載量も200kgと威力不足は否めない。後継機のキ102は開発途中、重戦闘機ながら37mm砲を積み、爆装もできるため高い対地攻撃力を誇る二式複座戦闘機丙型は配備数が少ないとなんとも言い難い状況である。戦車の開発も進んではいるが数の上の主力は未だに九七式中戦車や九五式軽戦車。主砲を従来の短砲身57mm砲から長砲身47mm砲に換装し、貫徹力上昇を狙った九七式中戦車改や、同じ47mm砲を装備し正面装甲を強化した一式中戦車も少数ながらあるがやはりT-34と正面切って戦うことは難しいだろう。75mm砲を装備し、理論上はT-34に対抗できるとされる三式中戦車は未だ量産が始まっておらず、装甲兵力の不足も目立つ。その中で唯一まともに対抗できるとすれば一式砲戦車であろう。これはオープントップの車体に九〇式野砲を乗っけたもので装甲は、50mmというチハ以上の装甲厚を誇る正面以外は無きに等しいものの装軌式の車体で悪路にも強い。攻撃力もそこそことこの時期の主力対装甲戦力だ。もっとも数が足りないが。
この様に陸ではソ連に対し装備の遅れが目立つが空海ではそれほどでもない。関東軍には一式戦闘機『隼』の他に新鋭の二式単座戦闘機『鍾馗』、二式複座戦闘機『屠龍』などソ連機にも劣らない機体が配備されている。一式戦は既に二型の配備が始まっており、従来の機体と比べて火力、防弾性、急降下制限速度などが上昇している。二式単座戦闘機『鍾馗』は旋回性能こそ隼に劣るものの、最高速度や上昇性能、武装、防弾性能等どれを取っても隼よりも優れている。発動機の整備がやや難しいという点もあるがそれを補っても有り余る性能があるだろう。実際に戦後アメリカが鹵獲した機体でテストを行い、その能力から日本軍最優秀迎撃機の印が押された事からも分かる。また、Bf109Eと共に来日した独空軍のテストパイロットであるヴィルヘルム・シュテーアは
『日本のパイロットが全員これを乗りこなすことが出来たら、日本空軍は世界一になる』
との評価をしている。この様に海外からの評価は高い鍾馗であったが、九七式戦や一式戦などの格闘戦を得意とする軽戦闘機に乗り慣れた古参のパイロットからは不評であったのが残念だ。そして航空優勢を取るために必要な事として機体性能の他にももう一つ重要な事がある。それは搭乗員の練度や実戦経験だ。この点については、日本の搭乗員は中国戦線で実戦経験済みであり腕にも期待できる。それに対しソ連は主力を東部戦線に取られており極東方面に配備されているパイロットの練度はさほど高くないと見ている。
また海軍に至っては、ソ連極東海軍は巡洋艦2隻に駆逐艦11隻、哨戒艇19隻などを保有しているに過ぎず、現在世界最大の46cm砲を装備する『大和』、『武蔵』を含む戦艦12隻、正規空母6隻を含む空母14隻を有する連合艦隊と比べれば無力にも等しい。潜水艦が70隻超と多いがこの内でまともに戦力となるのは半数程度と見られている。そのため制海権は失う恐れがなく、潜水艦による大陸間輸送時の通商破壊や重要港湾への機雷敷設に注意すれば良い位だ。これは各基地の水上機部隊や根拠地隊などが潜水艦を駆り立てる他、空襲によりウラジオ軍港の機能そのものを削いでしまう方法も立案されている。
そしてその帝國陸軍であるが、当初は英米との和解に難色を示していたものの、英国から最新技術の数々を貰えることとなり、次第に姿勢が軟化していった。特に対戦車砲として輸入された6ポンド砲はその威力から歓喜を持って迎えられ、二式57mm速射砲として正式採用されている。さらには三式戦闘機『飛燕』の量産化に際し、その心臓部たるエンジンの量産を持て余していたところにロールスロイスから液冷エンジンの技術供与があり、かの有名なマーリンエンジンを装備した飛燕が再設計され、無事に飛燕二型甲として採用された事などがある。ちなみに、ダイムラーベンツ社の DB601をライセンス生産したハ40を装備した一型は生産自体は継続するものの徐々に縮小、将来的にはハ40の発展型であるハ140の実用化を目指すとともにそれを乗せて三型の開発を目指す事が決定された。
戦車についても徐々にではあるが改良がなされてきている。もともと、ノモンハン事件により対戦車攻撃能力の低さを身を以て体感したため、改良の必要性は実感していたのだが、なにぶん航空機の開発、増産や人件費諸々に予算の大半を取られており、なかなか思うように開発が進んでいなかったのだ。しかし今回、大陸からの撤退や師団数の縮小が行われたことによりその予算を得ることができたのである。
現在、鋭意開発中の三式中戦車は一式中戦車の改良型であり、攻撃能力こそ75mm砲を搭載したことにより上がっているものの、防御面ではエンジンの出力の関係上、装甲に大きな変化を付けることができなかった。そこで陸軍は新型の中戦車の開発を新たに企画する。まず制定されたのが四式中戦車である。これは57mm砲搭載、前面装甲75mmなどを目指して設計されていたが、その途中に独ソ戦や英米の情報が入ってくるようになり、主砲を75mmまで強化することが決まった。その主砲には新たに輸入されたボフォース製75mm高射砲を改造したものが搭載されることになっている。また、将来的に発生すると思われる対ソ戦に向けての準備も整えられていた。その中の一つに五式中戦車と五式砲戦車の製作がある。五式中戦車は大陸での運用に主眼を置くため、日本本土や南洋諸島での運用は考慮されていない。そして現在は四式より装甲厚を上げ、一部に傾斜装甲を取り入れるなど、ソ連の誇るT-34/85と同等の性能を目指して開発が進められている。また、五式砲戦車は固定砲塔ではあるが、完成した暁には日本戦車史上最大となる105mm砲が備え付けられる事となる。これはソ連重戦車に対抗するためであり、完成すれば帝國陸軍機甲師団の要となるであろう。
この様に装甲戦力の拡充に勤める一方、従来の歩兵師団の装備見直しも行われている。小銃や軽機関銃などはそのまま使用されているが、新たに士官、戦車兵などが使用するためにM1カービンが輸入された。これは本来輸入する予定はなかったのだが、技術交流の際に参加した陸軍士官が米軍士官より余剰品として私的に数十丁を貰い受けており、それが部隊で使用され思いの外使いやすいとのことで上申されたのだ。その他にも部隊の機械化があるであろう。従来の徒歩と騎馬による移動ではなく、トラックや自動車、装甲車など導入し始めている。機械化は歩兵だけに留まらず、砲兵や輜重部隊にまで及んでいる。これにより従来の部隊より格段と機動力が増し、より柔軟的な戦略が取れるようになってきている。もっとも、いくら資金に余裕ができたとは言えそれには限度があるので、全部隊が機械化されるのは当分先の話になるであろう。
また、戦車だけではなく歩兵の対戦車攻撃手段についても見直され始めている。具体的には、ノイマン効果を利用したタ弾の開発だ。これはRPGなどで使用されている成型炸薬弾の事であり、低初速の野砲や山砲などでも敵戦車に対抗できるようにするために開発された物だ。現在は野砲、山砲の他、航空機搭載型や小銃で使用できる物も開発中である。少々生産工程が複雑であるが、その恩恵を考えるとなかなか良いものであったのも確かであろう。
ただしこの様な改革を進めていく中、これらを欧米かぶれだとして快く思わない者も出てきているのも事実であった。陸海軍共に上層部は統合戦略研究所から大量のデータと共に嫌という程彼我の国力、戦力差を語られており、改革の重要性を理解していたのだが、末端の士官、下士官ともなると説明もあまり無く、この急な改革に戸惑っている者も多かった。そしてこの改革が新たな問題を引き起こすこととなるのだが、それはまだ後の話であり、少なくとも現在は平穏を保っていた。
そろそろ話の本筋に入りたい…
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