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大日本帝國異世界奮闘記  作者: 大福
第二章 激闘!東大陸
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エディス支援作戦 4

 1944年1月7日 午前5時


 第二機動部隊および第16任務部隊が夜明けの第一次攻撃に向け着々と準備を進める一方、支援先のエディスに置いてもとある準備が極秘裏に進められていた。


「航空攻撃まで時間がないぞ!通達を急がせろ!」


 エディス市を守る第2軍軍団長のオーソンの怒声が司令部に響き渡る。その側では参謀や通信魔道士が黙々と仕事を進めており、やがてその中の一人から報告があった。


「北街道にて防戦中の第68中隊が崩壊寸前、4度目の援軍要請です!」


「援護に回した第5中隊はどうした!?」


「迂回中に敵の偵察隊と遭遇して身動きが取れない状況との事です!」


「司令部付の部隊も全て投入しろ!主要街道だけは最後まで守りきらんと戦線が崩壊するぞ!」


 エディス市で3本しかない重車両が通行可能な街道の内の1つである北街道は、陽動主体の北部においても唯一絶え間ない攻勢を受けている地区であった。当初の防衛計画はすでに破綻、現在では現地統合部隊の第68中隊(第6中隊が壊滅した第8中隊を吸収、再編した中隊)がかろうじて戦線を維持している。しかし市街地で装甲車両の活動も制限されているとは言え歩兵火力でも大きく劣っている北部の国家連合軍部隊はすでに限界を迎えていた。


 その一方敵の主攻方面であり、これまた重車両が通行できる南街道と中央街道がある南部はと言うと、北部よりかは幾らかマシな状況であった。敵の主攻方面と見られていた南部には魔道部隊が重点的に当てられていた他、蟻の巣の様に張り巡らされた地下下水道を用いての後方撹乱も行われている。もちろん陣地構築に使われる資材も重点的に充てられており、市街各所に対戦車壕や地下通路が掘られている。また、ゲリラ的な攻撃を多く行なっているため市街地各所で戦線が入り乱れ、ガーランド軍による砲撃、航空支援がいまいち機能していないのも持ち堪えている理由の1つである。中央街道もその1つであり、守備についていた第2中隊中隊長のウェイガンからの絶叫に近い援軍要請を幾度となく受けた司令部は、本来ならば撤退時の予備として確保してあった部隊を全て投入し、一時的に戦線を膠着させることに成功している。しかしそれはあくまでも一時的な対処でありいつまでも持つものではない。根本的な戦略の転換が必要となる。具体的には……


「エディス市は放棄する」


 先日の作戦会議の際に軍団長が発したこの言葉は大きな波紋を呼んだ。一部参謀からは政府決定に反するとの反対があったがそれ以上に賛成派が多く、激論の末最終的に放棄が決定された。もともと軍内部では放棄が決まっていた事もあり撤退計画は既に作成されていたが、その作戦の要となる『敵の攻勢を一時的に停止させる』という難題はいまだ解決の日の目を見ていなかった。しかし今回日米の機動部隊が来援したことによりその最期のピースも埋まろうとしていた。


「奥宮少佐。攻撃部隊からの連絡は?」


 参謀長であるハイデンが側に控える連絡士官の2人を見て尋ねる。作戦の肝となる航空攻撃には皆敏感になっており、参謀の視線が集中する。


「本隊は無線封止を実施しておりますので事前の打ち合わせ通りとしか答えようがありませんが、両司令官の性格を考えますと……」


 そこまで言い切ると奥宮はベストの方をちらりと見ると、ベストも軽く頷く。どうやら2人は同じ結論に至っていたようだ。


「夜明けを待たずして攻撃隊を発艦させる可能性が高いですね」


「そうなると攻撃開始は6時頃か?」


「恐らく。そして敵機による黎明時の攻撃にかち合う可能性が高いです」


 それを聞いた一同が顔を見合わせる。前回、黎明時を期して行ったワイバーンによる航空支援が阻まれ壊滅の憂き目にあったことは記憶に新しい。大丈夫なのかという雰囲気がその場を支配する。


「同数程度ならば抑え込めます。ここ最近の記録を見る限り敵機の数は多くても20機程度、これならば大丈夫です」


 司令部に蔓延した不安を打ち消すため、あえて強い口調で言い切ったベスト少佐に視線が集中する。少佐を見つめる顔は2つ、未だ不安を抱えるもの、少佐の言葉に安堵し作戦の成功を願うもの。しかし最終的な願いは1つ、完璧な撤退作戦の遂行である。


「報告します!」


 司令室の静寂は駆け込んできた伝令のその一言で破られた。駆け込んで来た伝令は集中する視線に身じろぎひとつもせず報告を始める。


「第15監視哨より多数の航空機が接近中との報告です!その数およそ50以上!」


 その報告に司令部が沸き立つ。さらにそれに続き他の監視哨からも同様の報告、しかもその報告位置は刻一刻とエディス市に近づいているのである。


「そろそろ上の監視哨からも見えるのではないか?」


 誰もが思っていた言葉を吐いたオーソンはそれだけ言うと1人で階段へと向かう。それを見た参謀達が慌てて後を追い、二人の連絡士官は伝令を従えてそれに続く。やがて階段を登りきった二人は首にかけていた双眼鏡を構え航空隊が来るであろう方向を注視する。


「……あれか!」


 やがて参謀の中でも一際目のいい鳥人系の一人が編隊を見つける。見つけたのであるが、いかんせん視力が常人とはかけ離れすぎていて詳しい方向を言われても他に見える者がいなかった。しばしの間四苦八苦した一同はようやくの事で上空に黒点を視認した。


 次第に大きくなるその黒点はかなりの低空を飛行しており、やがてその機影も判別がつくようになり、遂には上空を通過するのであった。それを見つめる一同からは誰ともなく一言のつぶやきが聞こえた。頼むぞ、と。


 同日午前6時。冬至こそ過ぎたものの、未だ日が短く薄暗闇に包まれるエディス市北部であったが、ガーランド帝国軍と国家連合軍の激戦は昼夜問わず続けられていた。その中でも最も苛烈な戦闘が起こっているのが、エディス市北部に唯一存在する車両が通行可能な街道である。


「クソッタレ!もう持ちこたえられんぞ!」


 街道を守る第23臨時中隊を指揮するウェイガンの叫び声が響く。この街道で唯一組織的抵抗を続けていたウェイガン率いる臨時中隊は文字通り壊滅寸前であった。彼我の火力は遠近どちらにおいても圧倒的に国家連合軍側が不利であり、頼みの綱の夜襲も跳ね返されるばかりであった。さらに今日、ガーランド帝国軍は装甲車両ーー戦車隊であるが戦車という存在をウェイガンは知らないーーを集中的に展開させており、夜明けと共に攻勢が始まるものと予想される。今でこそ戦車隊の進撃こそないものの、既に先行の歩兵部隊による威力偵察が始まっている。前方の倒壊した家屋に展開したガ軍歩兵部隊は時折狙撃を行なっている。対する第23中隊はこれに伍する射程を持つ武器がなく、各々が障害物で身を守るしかなかった。


「通信!司令部からの返答は!」


 ウェイガンの怒声に傍で縮こまっていたまだ徴兵されて間もない通信士が泣きそうな顔で報告をする。


「よ、夜明けと同時に航空攻撃があるそうです!それまで撤退するなと……」


 ウェイガンは内心でまたか、と呟く。これで何度目だ。果たされない約束は。


 レイザ・ウェイガン。生まれはトゥーレ王国王都、数え年で25の陸軍大尉である。中堅貴族家の三男坊であり、長男次男共に健康体で成人を迎えたため後継者問題からは無縁の立場であった。そのため早期に王立軍学校への入校を決めており、卒業後は軍政を中心に順調に昇進して行くはずであった。しかしこの戦争が、彼を取り巻く環境全てを変えた。


 戦争初期こそ国家連合軍の参謀として後方勤務に勤しんでいたものの、戦局の悪化と指揮官の不足、さらには長男ではない事から前線へと駆り出されることになった。もっとも本人は前線勤務も満更ではない、戦争で箔がつけば良家の出でなくとも次官あたりまでは昇進できるのではないか、と楽観的に考えていた。そう、戦場の洗礼を受けるまでは。


 門が開く1年前。中央大陸最後の拠点となったグディニアを賭けた戦い。それがウェイガンの本当の意味での初陣だった。獣人を中心とした避難民の東大陸への撤退が行われる中、残された国家連合軍は膨大な犠牲を払いつつ遅滞作戦に勤めていた。ウェイガン率いる部隊は都市左翼の予備部隊として待機していたが、ガーランド帝国軍による近接航空支援により戦う前から被害を出していた。ここにきてようやく事態の重大さを理解したウェイガンだったが、残念ながら対抗手段が皆無であった。迎撃に当たったワイバーン部隊は敵戦闘機に捕捉され自身の身を守る事で精一杯。地上からの攻撃はバリスタや対地用魔導砲を転用した対空散弾など運任せの攻撃のみであった。やがて全域に渡って戦線は崩壊、グディニア市街地戦へと突入する。


 平野部では火力と航空支援に物を言わせて突き進んでいたガーランド軍であったが、区画ごとに要塞化された都市を攻めるのはさしものガーランド陸軍をもってしても簡単ではなかった。特に室内での戦闘では短弓や近接武器がある程度活躍できる上、トラップを仕掛ける場所が大量にあるのだ。対するガーランド軍は早期攻略を早々に諦め、戦車、航空機による火力支援や手榴弾、短機関銃等を効果的に用い、圧倒的な火力をもって1区画ずつ制圧していった。この玉ねぎの皮を剥がしていくような緻密な制圧は、自軍の損害を抑えるためであった。


 これはガーランド帝国軍が占領後の統治権を巡って自軍の損害を抑えて戦果を稼ぐ、戦功争いを起こしたからである。その結果ガーランド帝国軍は損害こそ抑えられたものの、国家連合軍に対して貴重な時間を与える事となってしまった。


 これについてはガーランド帝国軍が慢性的に抱える問題、身分制度が深く関係している。戦功を上げれば自領が増える、という単純な図式が仇となりこのような失態につながってしまったのである。以前から問題になっていた事であったが、なまじ勝ち戦が続いていたため見過ごされていた、と言うよりも誰もが責任問題に発展するのを恐れ口に出さなかったのだ。


 結局のところ軍上層部だけではなく総統自らも調査に関わる事となり、事態は一応の収束を迎えた。結果として関係した部隊指揮官らは予備役への編入、もしくは降格の上、西大陸の治安維持部隊へと左遷されている。また総統自ら今後の統治制度を改めることを決定し、今大戦における以降の獲得領土は一時的に帝国直轄領となる事で合意に至った。もちろん終戦後には改めて各貴族に再分配が行われる予定である。あくまでも予定だが。またガーランド帝国にとって幸だったのは、この騒動が地球とつながる前に起こったことであろう。


 閑話休題。


 その後もグディニア市では血で血を洗う激戦が続けられた。しかし国家連合軍の劣勢は如何ともし難く、各部隊は次第に港へと押されていった。やがて戦線の崩壊が確定的となり、司令部は中央大陸からの全面撤退を決意する。


 午後七時、日没とともに沿岸部に潜んでいた小型動力艇による決死の攻撃が始まる。夜間に行われた小型艇による奇襲は港湾封鎖を行なっていたガーランド帝国海軍に大きな衝撃を与え、被害こそ少なかったものの艦隊陣形の崩壊により一部封鎖線が途切れることとなった。その隙に国家連合軍は一大撤退作戦を決行。魔導通信によりタイミングを合わせた撤退作戦は、カリス提督率いるマギア皇国海軍の奮闘もあり見事成功裏に終わる。


 辛くも初陣から生還したウェイガンは悟った。全ての面において自軍は劣勢、そしてそれを打開する技術も時間もない。しかしこの戦いを諦めるという選択肢はなかった。彼もまた、ガーランド帝国が殲滅対象としている亜人種だったからである。


 その後もウェイガンは東大陸各地を転戦し、その度に大した傷も負わずに生き残る事となる。しかしその強運も尽きようとしていた。


 街道を侵攻するガーランド帝国軍に対し、守備につく第23中隊は成す術も無くじりじりと後退せざるを得なかった。一部の古参兵はどこで手に入れたのか、小銃や手榴弾等の鹵獲品を持って反撃を行っていたがそれも弾が尽きればそれまで。そして必至に戦線を維持する第23中隊に更なる厄災が訪れることとなる。


「敵機確認!」


 航空機。それは国家連合軍にとって憎悪の一言では表せないほど憎まれるものであった。犠牲こそ出るものの撃退が可能な地上車両とは違い、文字通り手も足も出ない航空機は地上部隊にとって天敵に他ならない。散発的な反撃をしていた兵たちはその声とともに一斉に身を伏せる。敵機から放たれる曳光弾が地面をなぎ払い、血飛沫と土煙を舞い上げる。さらに続けて攻撃体制に入った敵機からは小型爆弾が投下された。するとそれを見た先ほどの通信兵がいきなり立ち上がり、敵のいない方向へと駆け出す。


「おい馬鹿!伏せろーッ!」


 しかしウェイガンの叫びも着弾時の爆発でかき消される。やがて煙が晴れた時には通信兵の姿は消え去って、否、人として認識できない肉片と化していた。既の所で叫び声を抑えたウェイガンはその声を命令に変える。


「総員後退!」


 しかし恒久的な防衛線はここが最後。整然とした撤退という選択肢が認められない以上、選択肢は仮設の防衛線での持久か地下道に潜ってのゲリラ戦しか残されていなかった。


 さらに追い討ちをかけるように先ほどの敵機が舞い戻って来るのが確認できた。


(ここが死に場か……)


 必死に身を屈めつつあらん限りの声で部下に後退を促すウェイガンにはもはや現状を打破する考えが浮かばなかった。


 やがて攻撃態勢に入った敵機を見つけると、せめてもの抵抗にと側に落ちていた拳銃を手に取り敵機に向かって構える。最後に頼るのが敵の武器かと自嘲の念を抱きながら引き金を引いたその瞬間、降下していた敵機が炎に包まれる。


「……馬鹿な!」


 ウェイガンが驚き声を上げた瞬間、力強い爆音とともに一機の航空機が唖然としたウェイガンの頭上を通過して行った。


 やがて日米合わせて500機近い艦載機による航空攻撃を受け完膚なきまでに叩き潰されたガーランド軍先遣隊の侵攻は、エディス市南北全域に渡って完全に停止する。そしてその隙に決行された撤退作戦により国家連合軍第2軍は辛くも窮地を脱し、エディス市後方に聳え立つケプラーゼ山脈に構築された防衛線への撤退に成功する。しかしエディス市防衛線が突破された今、ケプラーゼ防衛線は東大陸に残された最後の望みとなるのであった。







投稿が遅れ大変申し訳ありません。ですが完結までは書き続けますのでどうかこれからもよろしくお願いします。また前回の投稿から長らく開けてしまったため作者も勘違いしている点、矛盾点などがあるかもしれません。その時は遠慮なく指摘をいただけると幸いです。

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