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大日本帝國異世界奮闘記  作者: 大福
第一章 勃発
22/35

交渉2

トゥーレ王国との平和的接触に成功した日米両政府


その最中、突如として訪れたガーランド帝国外交団


停戦交渉か、はたまた宣戦布告か


ーーー 第22話 交渉2 ーーー

 西暦1943年 12月16日

 門周辺海域 客船レフェット


 トゥーレ王国の王都ウルティマにて日米ト3ヶ国会談が行われるのと奇しくも同日、日米ガ3ヶ国会談も開催されようとしていた。会場はガーランド帝国外交団が乗ってきた客船「レフェット」。当初は外交団の安全も考えこちらが用意する船での会談の予定であったが、臨検隊の入念な検査の結果、この客船は完全に非武装であることが判明、かつ周囲では日米の駆逐艦や巡洋艦が目を光らせている事から不意打ちの可能性は皆無であると判断され、「レフェット」での開催となった。さらに内部には外交団の護衛と称して完全武装をした2個小隊が送り込まれ、万が一に備えている。会談は16日の午前11時に始まり、終日完全非公開で行われる事となった。


 船内の一室に設けられた特設の会議室では中央に長机が設置され、左側に日本外交団、右側に米国外交団、そして対面にはガーランド帝国外交団が着席する。今回日本より派遣されてきている外交官の沢田は、対面に座るガーランド帝国の代表に対し何やら不吉な雰囲気を覚えていた。その対面に座る男、歳は四十半ばから五十程度であろうか。細身の顔に銀縁眼鏡を掛けており何処と無く頼りなさそうではあるが、その眼光の鋭さは歴戦の兵士を彷彿させるものであり、沢田はこれは侮れないなと心の中で呟く。しかしその男の第一声はある意味、予想外のものであった。


「初めまして皆様。わたしはガーランド帝国外務省に所属しておりますギムーレと申します。以後お見知り置きを」


 穏やかな表情で自己紹介をするギムーレに対し日米の外交官は予想外の低姿勢さに驚くも、とりあえずは揃って挨拶を返す。


「アメリカ合衆国特使のリチャードです」


「大日本帝國特使の沢田です」


 互いに握手を交わし、それぞれの席に座る。その周囲では特使の動きに合わせて補佐官や随員が礼をし、着席する。


「何か飲み物は如何ですかな?」


 先ほどと変わらない表情で語りかけてくるギムーレだが、リチャードと沢田はこれを差し障りのないように断る。ガーランド帝国側の食材については殆ど解析が進んでいないため迂闊に手をつけることができない。捕虜を分析し病原菌等については短期的に問題ないことが判明しているが、食料は鹵獲した重巡においてもほとんど燃え尽きておりサンプルが入手できていないのだ。現在はトゥーレ王国を通して国家連合軍に鹵獲した物資の提供を求めているところである。


「ギムーレ特使にお聞きしたい。会談を望むのならば何かしらの要望があるのでしょう。それは何だ?」


 宣戦布告もなしに市街地に対し攻撃を加えたガーランド帝国に対し良い印象を持っていない沢田はきつい口調でギムーレを問いただす。しかし当の本人はどこか飄々とした様子であった。


「まあそう焦らず。時間は幾らでもあります。少々早いですが食事などは如何でしょうか?この客船のコックは腕利きでしてね、我が国の名物を堪能する事ができますよ」


「本題は何かと聞いているんだ」


「食事は結構でして?残念ですねぇ」


 この返答に思わず怒鳴り返しそうになった沢田を隣に座る補佐官が必死に制止する。さらにその横では声こそ上げないものの、ギムーレを睨みつけるような目で見るリチャードが居る。初っ端から険悪なムードに包まれる会議室。そして数秒の沈黙の後、リチャードが口を開く。


「何か目的があって来たのではないのか?我々は別に貴官に会わなくてもよいのですぞ」


 先ほどの挨拶よりきつい口調であるが、当のギムーレは一向に表情を変化させない。むしろこちらの反応を見て楽しんでいる様子でもある。


「おっとそうでした」


 この惚けた返答にまたしても沢田が身を乗り出して怒声を上げそうになる。しかしギムーレはそれを気にせず、先ほどから全く変わらないトーンで話を続ける。


「では率直に申し上げます。我が国と停戦するおつもりはありませんか?」


「……停戦?一方的に攻撃を仕掛けておいてその言い草か。ふざけるのも大概にしろ!」


 ついに我慢の限界に達した沢田が声を荒らげる。


「停戦、と言いますと、もちろん我が国への謝罪と相応な賠償はあるのでしょうな?それとも貴国では宣戦布告無しに一般市民を攻撃することが正義なのですかな?」


 リチャードも皮肉を混ぜて返すが、ギムーレは全く意に介せず相変わらず惚けた態度でいる。


「さて、私はあくまでも一外交官にすぎません。攻撃の真意は我が総統閣下にでもお尋ねください。それでは我が国の要望を伝えたいと思います」


 ギムーレが提示した停戦の条件は以下の通りであった。


 ・現在行われている戦争への不介入

 ・先の戦闘における互いの賠償権の放棄

 ・捕虜の解放

 ・門の管理権の移譲並びに地球側出口から半径50kmの非武装地帯の制定

 ・1年間の不可侵条約

 ・最高指導者のガーランド帝国への表敬訪問



「賠償権の放棄とはどういう事だ」


 一通り聞き終えた沢田は相変わらずきつい口調で尋ねる。しかしこの問いに対して帰ってきた答えは予想外のものであった。


「現在までに我が軍が被った被害は戦艦も含め10隻近く。賠償に当てる額としては充分なほど数が沈んでおります」


「それは正当防衛にすぎない。民間人への補償は別なはずだ」


「そもそも貴官の提示する条件は我が方への利が何一つない。我々としては別に停戦しなくても構わないのだが?」


 ついに業を煮やした2人がそれぞれ食ってかかるも、ギムーレは依然としてすました顔のまま細く微笑んでいる。そして次に言葉を発したのは、ギムーレの隣に座る補佐官と思しき人物だった。


「 先の戦闘で多少優勢だったからと言って我が国に勝てるとでも仰りたいのですかな?」


 ギムーレとは異なり明らかにこちらを見下したように話す補佐官に対しリチャードが笑いながら返答する。


「ほほう。まだ一度も我々に勝っていないのに、随分と強気ですなぁ」


「何だと?この蛮族風情が!」


 このリチャードの挑発にいとも容易く引っかかり身を乗り出している補佐官を見て沢田は心の中でまだまだ青いな、と注意すべき人物から外す。しかしその横に座るギムーレはあくまでも冷静だった。


「ボフェット君、やめたまえ」


 この一言で多少の冷静さを取り戻したのか、ボフェットと呼ばれた男は鼻を鳴らして椅子に座りなおす。


「では賠償についてはさて置き、他の条件は如何ですかな?」


「不可侵条約は構わないが何故1年という短い期間なのだ?」


 先ほどから疑問に思っていたのかリチャードがすかさず問いかけるも、それに対する答えはある意味予想通りのものであった。


「それは我が国がこの世界に平和をもたらすのに必要な時間だからです」


「つまりこの世界の侵略戦争が終われば此方へもその触手を伸ばしてくると?」


「侵略戦争とは人聞きの悪い、平和のための戦いですよ」


「それは誰にとっての平和なのですかな?」


「それはご想像にお任せします。少なくとも我々の条件を呑んで頂ければ悪いようには致しませんよ。私も貴国らとの争いは避けたいものです」


「その割には、歩み寄りを望む条件には見えませんがね」


 のらりくらりと質問をかわし続けるギムーレ、それに対し追い討ちをかけ続けるリチャード。二人の応酬は永遠に続くかと思われたがそこに沢田が立ち上がり口を挟む。


「まて、我が国としては一番最後の条件はいただけない。最高指導者の表敬訪問だと?それでは隷属するのと同じではないか!」


「そうは申されましても、我が国の主戦派を押さえ込み停戦するにはこの条件は譲れませんな」


「それは我が国とて同様。その条件が撤廃されない限り、交渉妥結は不可能でしょう」


 沢田はそこまで言い切ると改めて腰を下ろす。この条件にはリチャードも快く思っていなかったのか、沢田に追従する。


「我が国としてもこの条件は国民が納得しないでしょう。我が国民は自由と平等を望みます。その国民の代表である最高指導者に表敬訪問をさせる、しかも双方行うのではなく我が方だけ。これでは沢田特使が言うように隷属と同義でしょう」


 さらに間の悪いことに、先ほどまで黙っていたボフェットがついに苛立ちを隠さず話し始める。


「先ほどから聞いていれば、我が国がこれほど寛容な条件を提示しているというのに、なんだその態度は!貴様ら蛮族には我が総統の慈悲深さがわからんようだな!蛮族は蛮族らしく服従の意を示して居れば良いのだ!」


 この言葉を受けてしばしの沈黙が訪れる。瞑目して腕を組む沢田とリチャード。そして相変わらずの表情でいるギムーレ。そして1分後、この沈黙を破ったのはリチャードだった。


「なるほど、貴国の真意はよく分かりました。そこの御仁は外交を恐喝か何かと勘違いされているようですな。私がこれまで生きてきた中でこれほど不愉快な思いをした外交の場はない。私はあくまでも特使という身分ですので最終的な決定権はない。しかしこの会談のありのままを我が国民に伝えたらどうなるか、想像に難くありませんな」


 落ち着いた声ではあるが、そこに滲み出る怒りはもう抑えようがない。さらにこれに沢田も同調する。


「……我が国には『井の中の蛙、大海を知らず』と言う諺があります。今の貴国にピッタリでしょう。先の攻撃、そして先ほどの侮辱。宣戦布告と捉えてもよろしいですかな」


「ふん、構わん。その内我が国の力を思い知り、命乞いをしても無駄でしょうな。貴官らがどのような表情で現れるのか、降伏会議が楽しみだ」


「その言葉、熨斗をつけてそっくりそのままお返ししましょう。それでは失礼します」


 その言葉を皮切りに、日米外交団は次々と席を立ち退室して行く。その様子を見て嘲笑うボフェット。そして相変わらず柔かな笑みを浮かべるギムーレ。こうして日米ガ3ヶ国会談は終わりを告げることとなった。


 会議室から退出した一行は待機していた護衛の兵を連れて甲板まで向かう。やがて出口まであと少しとなった時、半開きとなっていた部屋から飛び出てくる人影があった。先頭を歩いていた兵がすかさず短機関銃を構えるも、後ろの将校がそれを止める。


「お待ちください!少しお時間を!」


 その声は女性のものであり、驚いた外交団が改めて見ると先ほど会議室で見かけたガーランド帝国外交団の1人であった。


「貴女は?」


 沢田が問いかけるとその女性はボフェットなどとは比べ物にならないほど礼儀正しく返答する。


「私はルダ・エヴァンスと申します。私の上司より特使のお二人への書簡を預かって参りました」


 そう言うとルダは厳重に封がされた書簡を手渡す。その表には保健衛生省、赤月局長と記されてあった。


「赤月?どのような機関なのですかな?」


 全く聞き覚えのない名前に困惑する沢田とリチャードだったが、密かに会いに来たルダには詳しく説明する時間はなかった。


「申し訳ありませんが、今は詳しくお話ししている時間がありません。ここでお会いしたこと、そして書簡を受け取ったことは内密に、特にギムーレ特使らには知られないようにお願いします」


 それだけを言い残すとルダは先ほどの部屋へと戻る。若干あっけにとられる2人だったが、外交官としてこの様な事には幾分かは慣れているため、この船を離れるまでは平然を装っていた。


 やがてこの会談の報告を受けた日米両政府はかつてない国辱として激怒する事となる。さらに数日間音沙汰がない事に痺れを切らしたガーランド帝国外交団は一方的に交渉を打ち切り、急用で早期帰国(・・・・・・・)していたギムーレに代わり副団長でもあったボフェットが宣戦布告をして帰るという始末であった。こうして日米とガーランド帝国は正式的にも戦端を開くこととなった。





これにて第1章の本筋は終了となります。


この後は閑話を挟んだ後、第2章 激闘、東大陸(仮称)へと物語は移って行く予定です。


これからもどうぞ宜しくお願いします。


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