表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大日本帝國異世界奮闘記  作者: 大福
第一章 勃発
20/35

接触3

 新暦1123年(西暦1943年)12月14日

 トゥーレ王国 王都ウルティマ


 国家連合の存亡を賭けたガーランド帝国との戦争が始まって早くも3年、国家連合は既に2つの大陸を失陥し、残る1つの大陸にもガーランド帝国の魔の手が及び始めており、その圧倒的技術格差から、元からアーレンウェルト世界に存在したすべての国家の滅亡はすでに規定路線と化しつつあった。それでも国家連合は諦めることなく、官民一体となって絶望的な防戦を続けていた。そしてトゥーレ王国の王都であり、東大陸最大の都市でもあるここウルティマでも、ガーランド帝国の海上からの侵攻を警戒し、至る所に堡塁や監視塔などが建設されていた。


 ウルティマにある王宮、港および市街地は深い湾内の奥に形成され、外海と繋がる水路は2本のみと防衛に適した地形である。水路の左右及び中央の島には頑強な岩場を掘り抜いて形成した、言わば洞窟陣地があり、魔導砲や強化バリスタ等が多数設置されている。そして今日、そんな堡塁群に見守られながら、連合海軍主力艦隊、そして3隻の巨大船がウルティマへと入港してきた。ウルティマでは当直についていた兵士のみならず、非番の兵や城下町に住む一般市民、そして占領地より避難し郊外に難民キャンプを形成していた難民までもが何事かと港に詰めかけていた。


「なかなか綺麗な街だな」


 日米の外交使節を乗せた客船「氷川丸」の柏原船長は、艦橋にて入港指揮を取りながらも初めて見る異世界の街に目を向ける。いくら中世風の世界とは言え、東大陸で3本の指に入る規模のウルティマ港では護衛の駆逐艦2隻(軽巡は本隊に合流し、湾外にて待機中)は勿論のこと、排水量1万tを越す氷川丸も接岸が可能であった。可能だったのだが、残念なことに接岸に必要な機材が全くもってなかった。タグボートの様な小舟はあったものの、推進力がオールや帆では役に立たない。ましてや現在のバウスラスターの様な便利な機構は氷川丸に付いていない。そのため仕方なく湾内へ進入した3隻は沖合に仮泊する事となる。ちなみにその他の護衛艦艇は行動に制限がかかる湾内では攻撃を受けた際に危険なため、湾外にて待機して警戒に当たっている。


「船長、仮泊完了いたしました。それからトゥーレ王国から出迎えが来ています」


「わかった。すぐに使節団の方々へ知らせてくれ」


「はい!」


 報告に来た若い船員は、初めて見る世界に興奮しているのか、元気よく返事をすると一等客室へと向かう。それに続き、柏原も甲板へと向かう。一方の桟橋では、連絡を受けて出迎えに来た騎士団らしき部隊が整列して待機しており、こちらへ小舟が向かってきているのが見える。


 一方のトゥーレ王国でも、2日前に連合海軍から報告を受けた時は、文字通り蜂の巣を突いた騒ぎとなっていた。本来ならば極秘裏のうちに上層部同士で接触する予定であったのだが、バラクーダ号に設置されていた特別製の魔信が故障したことによりそれは不可能となった。また、当然のことながらメラトリアから発せられた高出力の通常魔信は各所で傍受され、遂には情報漏れが起こってしまった。その後は噂話のレベルではあるが鼠算式に情報が拡散、市民の耳にも入るようになりこれ以上の情報規制は無理と判断した王国政府は、正式にこの情報を公表した。従って王宮に隣接する迎賓館ではすでに歓迎式典の用意が進められており、はたまた港では見物人相手の屋台なども続々と出店しているなど、港周辺では一種のお祭り騒ぎと化していた。そして氷川丸の甲板ではその喧騒に包まれる港を背景に、地球と異世界との正式な外交交渉が始まろうとしていた。


「皆様初めまして、私はトゥーレ王国外務局のレパーズと申します。この度は皆様方のご来訪を心より歓迎します」


 氷川丸の甲板へ登ってきた2人の内、左に立つ1人が清々しいほどの笑顔で挨拶をする。


「ご歓迎に感謝します。私は大日本帝國全権特務大使の松本俊一と申します」


「私はアメリカ合衆国全権大使のクルツ・ベイカーと申します。この度の会談が有意義なものとなる事を願います」


 両国の特使である2人が挨拶をし、ガッチリと握手する。やがてトゥーレ王国の2人の案内のもと、日米の外交団及び護衛の兵は続々と小舟に移乗し、桟橋へと向かう。やがて桟橋へと到着した一向は一足先に上陸していた外務次官のヴェルテと合流、歓迎式典が行われる付近の迎賓館へと馬車で揺られながら向かった。


「松本特使、凄い人だかりですね」


 傍に座る松本の補佐を務める浦上が、外を観察しながら話しかけてくる。窓から伺える景色は以前に駐在していた欧州の古都を彷彿させる町並みであり、馬車が通る表街道には、買い物に訪れていた市民の他、ウルティマ各地から見物しようと押し寄せてきた市民や難民が大きな人だかりを形成しており、街道沿いの建物からは恐る恐るこちらを伺う者もいる。


「しかし戦時中とは思えん程の賑わいぶりだな。街も綺麗に整備されている」


 一応、使節団一行が乗る馬車列には騎兵隊らしき部隊が護衛につき、街道には兵士が立って警備をしている。しかし周囲には異世界から来た人がどんなものなのか一目見ようと多くの人が集まって来ており、既に表街道及び港の警備体制は飽和寸前であった。噂では首都警備旅団の全面投入も検討されているとの事である。


「あれがあの船を作った国の特使らしいぞ」


「なんだ、普通のヒトじゃない」


「わからんぞ、何か特別な能力を持っているのかもしれん」


「なんでもこの世界の船じゃないらしいぜ」


「ガーランドの時の様に無茶な要求をしてくるんじゃないの?」


 などの会話が聞こえてくるほどである。中にはガーランド帝国の特使と勘違いしたのか、罵声を浴びせてくる者もいた。やがて馬車は人並みを抜け、港から少し離れた場所に位置する迎賓館へと辿り着いた。建物の前で整列していた従兵が馬車のドアを開け、建物へと案内する。


「恐れ入りますが武器の類はここでお預け下さい。中への持ち込みは禁止しております」


 玄関にて警備を行っていた兵が護衛の兵を制止する。護衛隊長である笹川中尉が松本へ目を向けると、松本は静かに頷く。


「わかりました。私の他3名以外は万が一に備え外で待機させます。古川軍曹、ここを頼む」


 そう言うと中へ入る3名は小銃、拳銃、手榴弾などを外で待機する兵へと預ける。しかし銃剣だけは持ち込みが許可された。同じように米兵も中へ入る者は仲間に武器を預けている。


「こちらです」


 やがて一向はある部屋の前に差し掛かる。日米の大使及びその補佐、武官や事務官などが入室する。護衛の兵はその外で待機し、万が一に備えている。


「初めまして。私はトゥーレ王国外務局長のカウルス・モルガンと申します」


 待ち構えていた一団の中から握手を求めつつ使節団を迎えたのはモルガンという男であった。ただしこの男、一見は普通の人であるが良く良く細部を見ると我々が想像する“ヒト”の容姿とはかけ離れていた。まず極め付けは尾骶骨から伸びる長い尾、さらに頭にはヒクヒク動く三角形の物体。松本とベイカーがそれぞれ軽く自己紹介をして握り返した手には、人間のそれとは思えないほど鋭い爪、常人よりもはるかに柔らかい掌。そう、獣人である。しかし使節団も事前にバラクーダ号の乗員を見ていたため、別段驚く事なく接する。


「遠路はるばるご足労頂きありがとうございます。お疲れでしょうから本日は歓迎式典のみを執り行い、本格的な交渉は明後日からを予定しております。それからここへ来る途中、ガーランド帝国軍の攻撃を受けたとお聞きしましたが?」


「ええ。ですが我が海軍の駆逐艦が事前に探知、これの撃退に成功しており被害はありません」


 心配そうに尋ねてくるモルガンに対し、ベイカーが人懐っこい笑顔で答える。しかしその裏では技術的優位性を示すことも忘れない。


「そうでしたか、それは何よりです。それでは部下に部屋まで案内させますので、式典まではごゆっくりどうぞ。外にいる貴方方の護衛にも宿舎を提供しましょう」


「ありがとうごさいます。それでは、また後ほど」


 するとモルガンの傍に控えていたレパーズがこちらです、と案内を始める。案内された部屋は豪華絢爛とまではいかないものの、この世界の文明レベルを考えれば最高クラスの部屋であるのは間違いない。電灯が無いため窓は大きく、そこからは石造りの港町と深い青色の海とが生み出す、見事な絶景が広がっていた。松本はその景色を見ながら、明後日から始まる交渉への決意を新たにするのであった。


 一方その頃、氷川丸以下3隻が停泊していた港ではとある問題が発生していた。


「なに?見学の申し込み?」


 氷川丸を護衛して湾内に進入した駆逐艦「有明」の艦橋では報告を受けた艦長の川橋秋文少佐が困った顔で聞き返す。


「ええ、既に桟橋に6人ほど来ておりまして…」


 ウルティマにある連合海軍司令部と入港手続きなどのやり取りをしていた副長や航海長も寝耳に水だったようだ。双眼鏡を片手に桟橋を見ると、6人の士官と思しき者が護衛の兵を携えてこちらを眺めている。中には単眼鏡らしき物を持ち、3隻を舐めるように見ている者もいた。


「私の一存ではどうもできん。飛鷹の城島少将に連絡を取ってくれ」


「わかりました」


 その5分後、見学の受け入れはトントン拍子で決まり川橋少佐らは内火艇を桟橋へと送り出すこととなる。現在の軍のように基地解放や艦艇見学などに馴染みがないこの時代としては異例の措置ではあったが、既にトゥーレ王国使節団には横須賀で艦艇や設備の見学を許可した前例があったため比較的すんなりと決まる事が出来たのだ。その6名は湾内に仮泊していた「氷川丸」、「有明」、「ラフィー」の3艦にそれぞれ2名ずつ受け入れられる事になる。こうして地球側とアーレンウェルト側の技術交流は始まっていくのであった。


 この様にウルティマでは平和的な接触が進む中、それとは打って変わったように門付近では日米海軍により厳戒態勢が敷かれていた。その門からは各種飛行艇のみならずB17、一式陸攻と言った爆撃機までが周囲の哨戒のために代わる代わる飛来し、その下で駆逐艦や艦攻などが対潜警戒を行う。その一方で駆逐艦やフリゲートの護衛を伴った測量艦が東大陸およびその東端にあるリーヒ列島付近の測量を行うべく作戦行動を開始し、巡潜型やガトー級など長大な航続距離を誇る潜水艦が遠方に哨戒線の形成を行っている。


 そして日米の使節団がウルティマにて盛大な歓待を受けるのと同じ頃、バラクーダ号護衛艦隊から分派された艦艇に監視されつつ、一隻の非武装船がこの厳戒態勢下にある門へとやってきた。臨検隊が綿密に立ち入り調査を行い、本当に非武装であることが確認されたその船は、やがて行われる3国間の熾烈な外交戦の会場となるのであった。



すみません全くもって話が進みませんでした。しかも次回から外交戦なのに作者の外交知識が皆無という体たらく。どうすっかな…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ