接触 1
100,000PV及び30,000ユニーク達成との事で、この場を借りて読者の皆様に厚く御礼申し上げます。この様な拙い文章ですが、これからもお付き合いいただけると幸いです。
新暦1123年 (西暦1943年) 12月12日
ウルティマ沖約200km地点
特設監視艇である第32号艇より敵と思しき黒煙多数見ゆとの報告を受けた連合海軍は温存していた主力艦隊を出撃させた。それを率いるはリーヒ連邦海軍の至宝とまで呼ばれたゴルイ提督である。総勢73隻の艦隊は敵の予測進路上で待ち伏せすべく昨日出港し、既に30分前より戦闘配置に付いている。
「ゴルイ提督、先行している海竜より報告です」
海竜との連絡を担当する通信士官が報告書を片手に司令室に飛び込んでくる。連合海軍では艦隊に先行させて海竜と呼ばれる知的海洋生物に偵察任務を任せるのが主流となりつつある。と言うのも従来までの小型快速艇による偵察では高確率で敵に発見、撃破されてしまうからだ。
ここで海竜について少し説明しよう。海竜の生息域は極寒地域を除くほぼ全ての海洋に広がっており、体長は成体で15m程になる。性格は温和、肉食ではあるが主食とする中型の魚以外に対しては無害である。古来よりかなり頭が良い事が知られており、人に懐く事もあるためペットとして飼う者や、芸を仕込み生計を立てている者もいる。会話による意思の疎通はできないものの、人の心情には犬以上に敏感である。近年では魔導士による魔信を応用した会話方法が確立されたことにより直接的にコミュニケーションを取る事も可能となり、より一層深い交流が行われるようになった。そしてこれに目をつけた軍部が偵察、潜入用として採用し、現在ではおよそ30匹程度が運用されている。一部の大きめな海竜の中には中央大陸や西大陸で抵抗運動を続けるレジスタンス組織への魔石等の貴重物資輸送任務に就いている個体もいる。
「読んでくれ」
「はっ。敵艦と思しき艦20隻以上確認、飛行機械搭載艦と思われる艦を3隻確認。以上です」
「わかった。続けて接敵するよう頼む」
報告を聞いたゴルイはさらに続けて別の通信士官を呼ぶ。
「ワイバーンの上空援護は?」
呼ばれた通信士官は通信書の中から一枚を引っ張り出し読み上げる。
「えー、陸上基地より一直8騎体制で警戒に当たるとの事です」
「8騎か……。後方の龍母艦との距離は?」
するとまた別の通信書を引っ張り出してそれを読む。現在、連合海軍では龍母艦なるものを3隻保有しており、合計120〜130騎のワイバーンを海上で扱うことができる。しかしこれら3隻は離着艦のために船上を平らにして滑走路としたためマストの類が一切なく、自力航行が不可能であった。魔導機関が開発された今、これを順次搭載する予定だったのだが、改装工事は主力となる魔導装甲艦と突撃艦が優先され、補助艦艇たる龍母艦は後回しにされ今に至る。今次作戦には2隻の龍母艦が参加しており(もう1隻は魔導機関搭載工事兼定期メンテナンスのため入渠中)、それぞれ護衛任務を兼ねているフリゲートが曳行している。
「およそ120kmです」
「となると艦隊上空までは30分程度か。すぐに上げれるように準備しておけと伝えてくれ」
「了解です」
通信士官はそう言うと船の中にある通信室へと向かう。その傍ではゴルイの長年の部下でもあるライル参謀長が何やら計算を行っていた。
「どうした?」
声をかけられた参謀長のライルは手元の手帳を見せながらこれに答える。
「いやぁ、彼我の航空戦力を計算していたのですが……。飛行機械搭載艦が3隻となると少々厳しいですな」
これまでの戦訓から敵の飛行機械搭載艦は大型のもので70〜80機、小型のものでも30機は搭載している。そしてそれが3隻。それに対してこちらは2隻合わせて80騎強、性能差も考慮したら戦闘にならない。
「敵の飛行機械が最大で250機ほど。対してこちらはその3分の1程度」
「…………我々は海上における最後の砦だ。諦めるわけにはいかん」
ゴルイがそう呟いた瞬間、新たな報告が舞い込んできた。
「提督、前方60kmに展開している海竜が接敵しました。艦橋へお越しください」
「わかった、直ぐに行く。それから通信参謀、後方の龍母艦と地上基地に全騎を直掩に回すように連絡してくれ」
「わかりました」
その言葉に弾かれたように司令室にいた参謀達が続々と出て行く。やがて司令室にはゴルイとライルの2人が残された。
「……提督?」
皆が移動する中、ひとり席に座ったまま考え込むゴルイに対しライルが声をかける。
「なあライル。これまでに死んでいった者達は……、何を思って死んでいったのだろう。最後に何を考えたのだろう」
「……何だからしくありませんね」
何時もと打って変わったゴルイに対し困惑するライル。しかしゴルイは話を続ける。
「これまで私は連合海軍の一員として多くの部下を率いてきた。そしてその多くは帰らぬ人となってしまった」
ライルは何も言わずに、ただただ噛みしめるようにゴルイの言葉を聞く。
「グディニア撤退作戦の時のカリス少将を覚えているか?」
「……そんな、忘れる訳が無いじゃないですか」
ライルは唇を噛み締めながら過去を思い起こす。2年ほど前、ガーランド帝国の魔の手は中央大陸にも及び、中央大陸からは民間人、特に亜人種の決死の撤退行が始まった。中央大陸最東端の港町、グディニアから出港する多数の民間船。そしてそれを護衛する連合海軍。脱出も9割方終え、安堵の空気が流れかけたその時、小規模ながらも強力なガーランド帝国の艦隊が現れた。この時護衛に就いていたのはカリス少将率いるマギア皇国艦隊であり、その他の艦隊は既に出港している民間船団を護衛してグディニアを去っていた。小規模ながらも圧倒的性能差を武器に暴れるガ軍艦隊に対し、カリス艦隊は孤軍奮闘。戦力の7割を失いつつもガ軍艦隊の撃退に成功する。ゴルイ率いるリーヒ連邦海軍が連絡を受けて駆けつけた時には既に戦闘は終結、あたりには沈没船の漂流者が大勢漂っていた。そしてその中には重傷を負ったカリスも混じっていた。カリスは急ぎ救助され艦内で治療を受けるも時すでに遅し。その後カリスは1階級特進し、マギア皇国の皇帝より直々に賞賛の言葉が、さらに各亡命政府より最大級の謝辞が送られ一躍英雄へとなった人物である。そしてカリス率いるマギア皇国艦隊の身を挺した奮戦により命を救われた者は10万を超える。
「カリスが生き絶える時、私は側にいた。苦しむカリスに対して私は何もしてやれなかった。無力だった。だがカリスはそんな私に最後にこう言ったんだ。『頼む』…と」
一瞬、2人の間を沈黙が支配する。しかし次の瞬間、ゴルイはまた話を始める。
「あれからずっと、銃後にいる人々の平和を守るため、私は、私達は必死に抗ってきた。だが一時期、私が託されたのは本当に抗うことなのか、と疑問に思い始めたことがあった」
「……と言いますと?」
「本当に……、本当に平和だけを望むなら、彼らの軍門に下るのも一つの手では無いのか?と」
「提督‼︎それは…!」
ゴルイの思わぬ言葉にライルは絶句する。軍人として、指揮官として言ってはいけない言葉だった。
「提督、それは言ってはなりません!」
「ああ、わかっている。奴らのイリニッジ宣言を聞いてからはその考えも無くなった」
その言葉にホッとするライル。しかしゴルイはまだ話を続ける。
「だがライル、人は希望も無しに何処まで頑張れると思う?」
「希望……ですか」
「そうだ。私も君も、祖国や家族のために命を投げ出す覚悟はあるだろう。だが他の兵達はどうだ?中には徴兵されてこの艦隊に来た者も大勢いる。無理やり家族と引き離された者もいるだろう。その者達にまで、この絶望の中で死を強要するのはどうなのか、と」
「……」
黙って聞くライルに対し、ゴルイはさらに言葉を重ねる。
「現状、我々の滅亡の時は日に日に迫ってきている。そしてそれを覆すだけの力は私には、無い。十死零生の作戦を立てることしかできない己の無力さを呪うよ」
「そんな……」
「そんな事はありません!」
その時だった、司令室の扉が勢いよく開かれ、艦橋へ行ったはずの参謀達が、そして艦長までもが入ってきた。
「お前達……聞いていたのか?」
「提督、申し訳ありません。なかなか艦橋へいらっしゃらないのでお呼びに来たのですが……」
「そうか、聞かれていたか」
参ったという顔で苦笑しながら頭を掻くゴルイに対し、入ってきた一同は声を上げる。
「私達は一度も絶望などしておりません。少しでも愛するものの為になるならば、この命、惜しくはありません」
参謀一同が思いの丈をぶつける。さらにこれに艦長も同意する。
「私も、いや、この艦の乗組員一同も絶望などしておりません。私も艦内を見回りましたが、皆引き締まったいい表情です。そして他の艦も同じでしょう」
この訴えにしばらく唖然としていたゴルイだったが、やがて自分の頬を叩き気を引き締める。
「そうか……よし。では奴らに我々の意地を見せに行くとするか!」
ゴルイはおもむろに立ち上がり、艦橋へと歩き出す。ライル以下参謀一同もそれに従い、続々と部屋を出る。やがて艦橋へ到着したゴルイは艦隊全体へむけて魔信による訓示を行った。
「諸君。我々は愛する祖国、愛する家族のためにこらから戦う。暴虐の限りを尽くすガーランド帝国に対し、我々が尖兵となって立ち向かうのだ。諸君らの働きが必ずしも報われるとは限らない。だが!行動を起こさなければ、何も変わらない!今を変え、平和を取り戻すために、私は最後まで闘う!どうか諸君らも、最後まで抗ってほしい。以上!」
短い訓示ではあったが、その効果はとてつもないものだった。あちこちで声を上げる兵達。士気は上々である。さらにちょうど良く一直目の直掩として到着したワイバーン部隊が上空を乱舞する。いくら性能差があるとは言え、エアカバーは心強いものである。
「提督、やはり皆、気持ちは一つのようです!」
興奮のためか、顔を紅潮させたライルが嬉しそうに言う。
「ああ、少しでも疑った私が恥ずかしいくらいだ」
そう言うとゴルイは前方を力強く睨む。
「さあ、来るなら来い!」
小説の方向性はその時の心情と聞いている曲に大きく左右されますね。後から見返してなんだこりゃ?状態でした。そして一向に進まない本編、どうしたものか……。




