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大日本帝國異世界奮闘記  作者: 大福
第一章 勃発
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異界の地

 新暦1123年(西暦1943年)12月11日

 トゥーレ王国 ウルティマ沖約300km地点


 特設監視艇である第32号艇ことミラス号は東大陸東岸の哨戒網を形成すべく、僚船と共に5日前にトゥーレ王国の王都、ウルティマを出港していた。ちなみにミラス号というのは乗員が付けた渾名であり正式名称ではないが、乗員の間では既にお馴染みとなっている。そのミラス号はスループと呼ばれる小型船の一種であり、艦載魔導砲である12cm砲を2門、同じく7.6cm砲を4門搭載している。しかしこの程度の武装でガーランド帝国艦艇に立ち向かうのは自殺行為であるため監視役に回されているのだ。そしてその船上では手すきの乗員が釣りなどをして食料調達を行いながらも、それぞれが周囲を見張るのを怠らない。しかしそんな中、1人だけ緊張感に欠ける者がいた。


「遠い〜都よ〜、我らは〜何処〜っと」


「艇長、呑気に歌ってる場合ではないですよ」


 ミラス号の航海長であるミゼットは船尾で釣り糸を垂らしながら呑気に歌っている艇長のノーマンに呆れつつも注意をする。東大陸も半分ほどが奪われ、ここら付近にもちょくちょく敵の船が現れるようになってきている危険海域だ。


「噂によれば、敵もそろそろ動き出すみたいじゃないですか」


 これでもノーマンは中央大陸でも何度かガーランド帝国と戦火を交え、なおかつ数ヶ月前までは別の艇で艇長を務めるなど実戦経験が豊富なのである。しかし当の本人はどこか緊張感に欠けていた。


「大丈夫、俺たちの役目は監視であって戦闘じゃない。水平線上に黒煙が見えた瞬間、反対方向に逃げりゃいいんだよ」


「こちとら風まかせの帆船ですよ?奴らの機械動力船に追っかけっこで勝てるわけ無いじゃないですか!」


「まあまあ落ち着け。前の船で敵を発見した時もそうだったが、奴らはこんな小船1隻程度なら見逃してくれる。と言うか眼中に無かったんだろうなぁ」


 過去の状況を思い起こしながら話すノーマンに対し、ミゼットはそうですか、と答えただけだった。その時、マストの頂上付近の見張り台で見張っていた1人の乗員が大声をあげて報告をしてきた。


「正面、水平線上に黒煙多数!」


 すると今までのほほんとしていたノーマンはその声にすぐに反応、釣竿を放り出しマストへと駆け出す。唖然として見ていたミゼットが我に帰った時には、既にノーマンは望遠鏡片手に見張り台の上に立っていた。


「て、艇長⁉︎」


「ミゼット!司令部に通信、『黒煙と思しきもの多数見ゆ、ウルティマ方向へ向け侵攻中』急げ!」


「わかりました!」


 ミゼットは急いで船内に入ると通信士である若い魔導士に先ほどの内容を伝える。それを聞いた魔導士は魔信に使う魔石を用意し、詠唱を始める。その間にも他の乗員は船の針路を変えるべくロープ作業に勤しむ。風をいっぱいに受けた帆はその勢いを船へ伝達し、やがてミラス号は黒煙の方向とは反対に全速で進む。最も帆船が出し得る速度は高が知れているため追跡されたらほぼ生き残れないが。


「報告は終わったか⁉︎」


「もう少し……終わりました!」


 するとノーマンは見張り台から降り、船尾で見張りを続ける。その表情は先ほどとは打って変わり、とても引き締まったものであった。



 現在、トゥーレ王立海軍やリーヒ連邦海軍、さらには各大陸から落ち延びてきた艦艇を主軸とした海上警戒網は圧倒的技術格差を持つガーランド帝国の通商破壊船を相手にしながらもなんとか機能を維持している。国家連合(東大陸の国家に加え、各亡命政府を合わせた組織の総称。地球における枢軸や連合の様なもの)は東大陸の最挟部から少し東側にあるケプラーゼ山脈を最終防衛線としておりここに強固な要塞線を構築、およそ30万の兵員が配置についている。また、海上警戒網はそれの後方に回り込まれない様にカバーする形で南部に三重に形成されている。(北部は既に流氷に覆われているため陸上からの監視のみ)そしてこの任務に当たる船は旧式の軍艦からなんとか外洋で活動ができるサイズの漁船まで多岐に渡っているが、共通して言えるのがいずれの艦も通信に使用する魔信設備を装備していることである。


 この魔信は一般に言われるような万能なものでは無く、交信距離は使用する魔石の大きさや純度、魔導士の力量に大きく左右される。練達の魔導士が高性能な魔石を使用すれば大陸間での交信も十分に可能であるが、反対に新人の魔導士が純度の低い小さな魔石を使用した場合には交信距離は50kmにも満たない。しかしこの警戒網ではおよそ横は35km間隔で、警戒網同士の距離は100km程であるため、大抵の魔導士ならば通信役として使える。魔信にて発せられた情報は受信した各艦が転送を行い、やがてはウルティマにある連合海軍司令部まで届く手筈となっている。現にこの方法は有効であり、最終的に受信側では何度も同じ報告を受けることになるが、今までに幾度も侵入するガーランド帝国艦の通報に成功している。今回の場合も例外ではなく、ミラス号の発した情報は若干のタイムラグを生じながらも確実に連合海軍本部に届いていた。


 そしてこの情報を受け取った連合海軍司令部ではこれを本格的侵攻の前哨戦と判断、これに対抗するため温存していた主力艦隊を出すことを決定した。これまでも敵艦侵入の報告は多々あったが多くても3隻程度であり、相手も積極的な攻撃行動を取らなかったため見逃していたのだ。(これまで侵入していた艦艇は海図作成のための測量艦などであるが連合海軍司令部はその事を知らない)


 しかし今回は数隻ではなく多数、これに加えてエディス周辺でも敵の圧力が高まってきている事から本格侵攻と判断し残された全戦力をつぎ込むことが決まったのだ。その戦力は魔導装甲艦18隻、戦列艦11隻、フリゲート15隻、突撃艦29隻の計73隻である。この他にもスループなどの小型船も多数あるが、これらは外洋では戦力外として各地の都市や航路の防衛に当たっている。そしてこの絶望的な戦力差の中でも果敢に指揮を行うのは歴戦の名将、リーヒ連邦海軍所属のゴルイ提督である。


 今次作戦における旗艦であり、国家連合に残された最大級の船、メラトリア級のネームシップであるメラトリアは見送る人々の声援と期待を一身に背負い出港してゆく。しかしその華やかさの裏では皆、これが最後の出撃になるであろうと悟っていた。そして見送られる乗組員もまた、家族や故郷とはこれが今生の別れとなるであろう事を覚悟し、愛する者や故郷の為に命と引き換えにでも敵の侵攻を食い止める事を決意していた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 1943年12月8日

 アーレンウェルト側門周辺


 啓号作戦(米名オペレーションフロンティア)後、ガーランド帝国による本格的な反抗もなく門周辺の制空、制海権の確保に成功した日米両国は手始めに付近一帯を完全に掃海、安全を確保すると共に新たに増援の艦隊を突入させ、付近のさらなる警戒強化を図った。現在、アーレンウェルト側に展開している艦は日本から正規空母4隻、戦艦6隻、アメリカからは正規空母6隻、戦艦6隻などを中心とした艦隊が送り込まれている。またそれと同時に門を通すケーブルが敷設され、海上電信局と化した特設艦を通じて両世界間における無線でのやり取りが可能になった。その他にもこれと並行してこの世界のさらなる調査、例えば水平線までの距離、天文、門周辺の深度、海流など航海、航法に関する事や重力加速度やコリオリの力など戦闘に関係する事、海洋生物の採取等の生物学に関する事など多岐に渡っており、今後も拡大していく予定だ。またそれと並行して好奇心旺盛な学者や研究者、SFファンからの問い合わせが当局に殺到するなどの問題も起きている。現在のところ日米両国とも民間人の立ち入りは全面的に禁じており、調査に当たる学者などは軍属として派遣されている。しかしこの処置も進出が拡大するにつれ緩和せざるを得なくなるのは明白なため日米両国とDIAはどこまで制限をつけるか頭を悩ませているのが現状だ。もっとも、さすがに両国の軍艦が跋扈している海域に無許可で突っ込む者は居なかったが。


 そして門周辺の確保から2日後の12月10日、トゥーレ王国及び国家連合へ対し外交使節団の派遣が行われることになった。目的はこの世界における拠点の確保並びに情報収集、協力関係の構築などである。初めは下手に警戒されないようにトゥーレ王国使節団が乗っていたバラクーダ号の他に客船1隻と数隻の護衛艦が派遣される予定であった。しかしバラクーダ号が地球に来てから既に半年近く経っており、当時は安全であったトゥーレ王国王都のウルティマ周辺も危険海域となっている可能性があるため強力な護衛艦隊が付くこととなった。


 護衛には日本より三航戦「飛鷹」「隼鷹」、第六戦隊「足柄」「羽黒」、三水戦旗艦「川内」、第二十、第二十七駆逐隊の計13隻、アメリカからは空母「ワスプ」以下重巡3隻、軽巡2隻、駆逐艦8隻の計14隻が参加。バラクーダ号の船足に合わせるため巡航速度は10kt程度であるが、ウルティマには2日もあれば十分に到達できる。飛鷹型は改装空母ではあるが2隻合わせて90機程搭載できる立派な戦力であり、ワスプも合わせれば約170機となる。戦艦こそいないものの艦載機170機に加え重巡5隻の戦力はかなりのものである。これら一行は使節団が乗る客船を中心に、そして水先案内人としてバラクーダ号を先頭に置き一路ウルティマを目指す。また、艦隊の右側には日本艦隊が、左側には米艦隊が展開しそれぞれ警戒に当たっている。ガーランド帝国は性能こそ日米に劣るものの潜水艦を保有しているため対潜警戒も怠らない。


 そもそも、本来ならばバラクーダ号の魔信にて報告を行えばそれで済むのだが、運の悪いことにバラクーダ号が地球へ転移した直後嵐に遭遇、魔石が破損するなどの被害が生じていたのだ。バラクーダ号に乗る魔導士はそれなりの力量ではあるが、それでも魔石の助け無しに視認距離外での通信はできない。(互いに視認できれば魔石無しでも通信は可。もはや通信ではなく一種のテレパシーである)そのため仕方なくこちらから直接出向くことが決まったのだ。


 そして12月12日、遂に異世界の国家との接触が行われようとしていた。







木曜の夜には既に本文が完成していたという事実。固有名詞を考えるのに2日もかかるとは……。

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