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大日本帝國異世界奮闘記  作者: 大福
第一章 勃発
14/35

発動、啓号作戦(前編)

 1943年12月8日 午前5:30

 アーレンウェルト側門周辺海域


 啓一号作戦のため事前に侵入している総計12隻の潜水艦が一斉に動き始めた。今回の作戦に向けて臨時に編成された第一潜水戦隊は全て新型の巡潜甲、乙、丙型で構成されており、その中でも通信設備が整っている甲型である伊九、伊十の2隻が戦果確認並びに連絡担当に指定されている。この連絡担当艦とは、門を越えての通信が一切できなかったため苦肉の策として用意された物だ。幸いな事に今のところ防潜網等は敷設されていなかったので潜水艦での行き来には困っていない。また、連絡担当艦以外の10隻は機雷原の外側、警備艦艇が航行するあたりに散らばって待機している。それと同時に米軍のガトー級潜水艦も複数隻潜入しており、単位面積あたりの投入数で見れば過去に類を見ない程の大規模投入であろう。先の海戦で確保した捕虜や文書からは敵も潜水艦を保有している(≒対潜兵器を保有している)事が確認されているので各艦は発見されないよう慎重に行動していた。


 現在、門周辺にて警戒している敵艦艇は、それぞれの門の周辺に軽巡クラスの艦が1隻と駆逐艦クラスが2隻、それに加えて日本側の門とアメリカ側の門の中間地点あたりに戦艦と重巡が各2隻、護衛の駆逐艦が4隻ほど待機しているのが確認されている。これらの戦艦と重巡はそれぞれ1隻ずつがそれぞれの門に対し砲門を向けており、この事からもガーランド帝国はそれなりには警戒していると言える。しかし、まだ夜が明けていないためか上空支援の航空機は確認できていない。潜水艦の天敵とも言える航空機がいないのは幸いであった。


「艦長、あと5分で作戦開始時刻です」


 第一潜水戦隊、第二潜水隊に所属する伊号第十九潜水艦は門から離れて警戒している戦艦を狙うべく移動していたが敵戦艦群が意外に高速であり思うように射点に付けていなかった。そのため目標を比較的近くを航行していた重巡に変更している。


「うむ、魚雷戦用意。水雷長、九五式でいくぞ」


「了解!」


 さらに良い位置を確保すべく低速ながらも移動を続ける。幸いなことに敵はまだ気づいていないようだ。


「敵艦までの距離、およそ1万です」


「航海長、例の識別表をくれ」


 例の識別表とは、先に鹵獲した重巡より手に入れた軍備年鑑を元に作られたものだ。この識別表はすぐ様増刷され各艦船や航空部隊に配布されている。識別表を受け取った艦長の小林茂男は潜望鏡から見える敵艦とそれを見比べる。


「どれどれ……これか?ガーデロン級重巡洋艦、30.1cm砲8門、速力25ノット…。幸い足は速くないようだ、落ち着いてやるぞ」


「30.1cm砲ですか…。どちらかと言うと一昔前の戦艦に近いですなぁ」


「確かに、ドイツの…ドイッチュラント級だったか?あれに似てるぞ」


 などと何だかんだ話しているうちに発射管室から「発射用意よろし!」との報告が来た。小林は潜望鏡を覗くと素早く射角を計算し、艦の向きを微調整すべく命令する。すぐに艦首が動くのが感じられた。現在は敵艦のやや前方に位置しているため最良のポジションとはいかないものの、それでも6本全部放てば1本は当たるだろう。


「1番2番、撃てっ!」


 水雷長の号令で、発射管の外側に置かれていたボンベから発射管に圧搾空気が送られる。その空気により発射管から滑り出した魚雷は作動状態となり自走を始めた。その後も数十秒ほどの間隔を空けて2本ずつ魚雷が放たれ、無防備に航行している重巡の右舷を目掛けて疾走して行く。ちなみに今回発射された魚雷は九五式酸素魚雷。この魚雷は雷速49ノットで射程が約1万メートル、炸薬量405kgとかなり高性能なものであった。参考までに、大戦末期に米軍にて使用されたMk.23(Mk.14の簡易生産型)は雷速46ノットで4千メートル、炸薬量は292kg。ドイツ海軍のG7a型魚雷は雷速44ノットで射程6千メートル、炸薬量280kgなので九五式がいかに高性能なのかが分かる。(なお炸薬についてはTNT換算でないため注意)

 さらに酸素魚雷の利点である航跡を残さない点についても大いに役立った。


 閑話休題


 油断していたのか、はたまたそのような習慣が無かったのか、之字運動を行っていなかった重巡ガリアルにはたちまち3本の魚雷が命中、ガリアルは爆煙を吹き上げながら急速に速度を落として行く。


「本艦の魚雷、2発命中です!」


 その報告に司令塔に詰めていた全員が歓声を上げる。さらに潜望鏡からは敵戦艦1隻が被雷、傾斜するのが伺えた。そして聴音員からも同様の報告が来る。


「大型艦と思しき推進音、2つ途絶えました。その他にも小型艦1隻の推進音が途絶えています!」


「よし!」


 僚艦の戦果に沸いていたその時、先ほど報告してきた聴音員が今度は切迫した声で報告をしてきた。


「1時方向、感3。さらに近づく!」


 その報告に小林はすぐに反応、命令を下す。


「急速潜航!手隙の者は艦首へ!」


 潜望鏡深度を航行していた伊十九は潜望鏡を降ろすと同時にすぐさま潜航を開始し、少しでも早く潜ろうと艦首を重くするべく乗員が移動する。


「駆逐艦らしき音源、さらに近づく!」


 こちらの位置が正確に掴めているか否かは分からないが、向かってきている以上、おおよその場所はバレていると考えて良い。駆逐艦の速力は余裕で30ktを越えるのに対しこちらは最大で8ktと勝負にならない。唯一の対抗手段としては、潜水艦特有の三次元運動で翻弄するしかない。やがて深度が30を超えた時、聴音員から絶叫とも言える報告が来た。


「爆雷投下音!来ます!」


「総員何かに捕まれ!」


 十数秒後、艦体上部の方で強烈な爆発があった。艦体は木の葉のように揺さぶられ、保持が甘かった者の中にはあちこちに体をぶつける者もいた。やがて三度めの爆発で発令所のバルブから浸水が始まった。急いで元栓を閉めるとともに防水作業を行うが、その間も艦は左右に揺さぶられる。


「ツリム保てーッ!」


「各部損害報告!」


 艦長自ら近場の防水作業を行いつつ、各部署の被害状況を確認する。万が一機関室や魚雷発射管室に被害があれば一大事である。


「こちら機関室、今のところ異常はありません」


「こちら前部魚雷発射管室、若干の浸水あり!」


 その他の部署からも報告が来たが幸い大事には至っていないようだ。爆発の圧力は上部から横方向にかけて広がるため、今回の爆雷は下にいた伊十九にはさしたるダメージを与える事ができなかったようだ。


「深度80まで潜るぞ」


 さらに深く潜る伊十九はこれ以降、至近弾を受けることはなかったが伊十九の周りも含めて爆発音は未だに途切れない。やがて爆発音が徐々に遠のいていくのが確認できた時、航海長から意見具申があった。


「艦長、そろそろ掃海部隊が突入して来る頃合です。彼らを援護するためにももう一度攻撃を!」


「……聴音、敵艦の位置は特定できるか?」


「もう少し爆発音が収まればなんとか……」


「水雷長、浸水の方はどうだ?」


 前部魚雷発射管室にいる水雷長に問う。魚雷が撃てないなら攻撃は不可能だ。非武装の商船ならば浮上して砲を使う手もあるが、武装している船ならば撃ち負けるだろう。ましてや駆逐艦ともならば自殺行為以外の何者でもない。


「浸水の方はほぼ収まりました。6門とも異常はありません。再装填もあと少しです!」


「よし、メインタンクブロー!潜望鏡深度に付け」


 やがて潜望鏡を上げ、周囲を見た小林の目には、凄まじい光景が飛び込んできた。あたりは重油と漂流物に塗れ、門の方角では爆発が何度も起こっているのが確認できる。


「……どうやら掃海部隊が突入したようだ。付近に敵艦なし」


「敵艦は門の方へ行ったのでしょうか」


「恐らくそうだろう。追撃は行うが追いつけるかどうかは微妙なところだ」


 そう言いつつも艦を回頭させ、機関には全速を命じる。


(門の周辺に展開した連中が上手く削ってくれていると良いが……)


 小林はこれから突入するであろう水上部隊の事を考え、思わずそう心配するのであった。


 その頃、アメリカ側の門から突入したガトー級も善戦していた。中央の戦艦部隊に対しては伊号潜らと共に攻撃をしかけ、見事に重巡一隻を共同撃沈する他、アメリカ側の門周辺にいた軽巡や駆逐艦にも魚雷をぶち当てている。しかし不運なことにこれらの魚雷は軽巡に当たった2発を除いて全て不発であり、残った駆逐艦から猛反撃を食らっていた。


 これまでの戦果を総計すると日米合わせて重巡1、軽巡1、駆逐艦1を撃沈。戦艦1、軽巡1、駆逐艦2を大破させている。これは潜水艦部隊による攻撃と考えれば破格の戦果であった。そしてこの報告を受けた日米両軍は、次の段階に移るべく行動を開始した。






少し長くなりそうなので2部に分けることにしました。後編は近々投稿いたします。


それと作者は潜水艦戦の知識がほとんど無いため、これ変じゃね?と思う描写があると思いますがご了承ください。



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