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大日本帝國異世界奮闘記  作者: 大福
第一章 勃発
12/35

日本の反撃

 1943年10月27日 日本時間08:25

 房総半島沖


 駆逐艦ヴィラーテより緊急通報を受けたガーランド帝国海軍第3遠征艦隊は、所属する「サントス」、「ヴィヘイム」の両空母から艦載機発進を行いつつ『門』をくぐる事となった。


「バーグレー提督、あと10分で全機発進が終わります」


 艦隊旗艦である戦艦「アルザンツ」の司令室に入ってきた航空参謀より報告が行われる。本来ならば艦載機の発進はもう少し後に行う予定であったが、本隊に先んじて門を潜って調査をしていたヴィラーテから敵機見ゆとの報告があったため予定を前倒しして第一次攻撃隊の発艦準備を急がせていた。


「ご苦労。中央の指示通りの攻撃目標は伝えたな?」


「はい。抜かりありません」


 自信満々に答える参謀とは裏腹にバーグレーは密かに不安を覚えていたのであった。


(中央からの指示だと交渉も無しに敵首都に攻撃を仕掛けることとなる。だが、この世界の国家はあの様な大型飛行艇を作れるほどの技術水準を持った国だと報告したはずだ。しかし現在に至るまでなんの返信もない。いったい中央は何を考えているのだ……)


「提督、お顔が優れないようですがどうかなさいましたか?」


 傍に居た督戦将校が純粋に不思議に思ったのか、はたまた何かを感じ取ったのか、覗き込むように聞いてくる。


「いや、何でもない。それよりゲーレン、第一次攻撃隊の編成をもう一度教えてくれ」


 危うく咎められそうなったため、作戦のことに話題を変える。これならば文句を言われる筋合いは無い。そして質問を受けたゲーレンこと航空参謀は手元のメモ帳を見ながら話し始めた。


「はっ。第一次攻撃隊はG(ガルム)-21NFが32機、G-23Bが28機、Z(ザランド)-19Aが24機の計84機となっております。攻撃隊長はハイラー中佐です」


 G-21NFはガルム設計局が開発した新型の艦上戦闘機である。元型は陸上戦闘機仕様として試作されたXG-21AF/BFであり、最高速度は250yk(ヤクロン)(約535km)を発揮、武装は両翼合わせて5act(アクト)(10.75mm)機関銃2門、3act(6.45mm)機関銃2門の計4門となっている。機動性や瞬発力、上昇力はそこそこであり、各能力において不足の無い性能を発揮する。

 G-23Bはこれまたガルム設計局が開発した艦上爆撃機で、最高速度は190yk(約419km)、武装に120glm(ギルム)(257kg)相当の爆弾と3act機銃2門、3act旋回機銃1門を備えている。またこの機体は新たに考案された急降下爆撃が可能となっており、従来の爆撃機よりも精度の高い爆撃を行える。

 Z-19Aはザランド航空局が開発した艦上雷撃機で180yk(約387km)、350glm(752.5kg)の魚雷もしくはそれに匹敵する量の爆弾を装備できる。防御機銃は3act連装旋回機銃が1基となっている。

 いずれもガーランド帝国海軍の主力機であり、アーレンウェルト戦役(門で繋がった星の名前で、元から存在した国家のみならずガーランド帝国も捕虜から聞き出したこの言葉を使っている)においては空軍機と共に帝国軍の快進撃に一役買っている。


「ふむ、予定通りだな」


「はい。整備士の頑張りもあり不調機も今のところ出ておりません。攻撃隊は盤石です」


 その時新たな報告が来たのか、通信室からの伝令が司令室内に駆け込んできた。


「報告します!第一次攻撃隊、全機発艦準備完了しました!」


 どうやら両艦共に発艦準備が終わったようである。


「全艦に通達。第一次攻撃隊、発艦始め!」


 この言葉を受けて攻撃隊見送りのために司令部要員一同は艦橋に上がる。その間にも命令は順調に伝達され、司令室の上にある艦橋からはサントスの甲板に駐機していた戦闘機がスルスルと滑走を始めるのが確認できた。一番機は危なげなく離陸を決め、その後ろを一機、また一機と続いてゆく。空母のスポンソンに配置されている将兵のみならず各艦の手隙の者が歓声を送っている。やがて無事に全機が発艦を終え、将兵の歓声に後押しされて進撃して行った。


「何とも頼もしいあの編隊!向かうところ敵無しとはまさにこの事!これならばあの醜い人種どもも殲滅できるでしょう」


(……こいつにはさっきの飛行艇が見えていなかったのか?それに例の船の解析結果も読んだはずだ。それを……)


 全亜人種(ここではガーランド帝国人が属する人種以外の種族を指す)の支配をスローガンに掲げる現総統の熱狂的な信者である航空参謀が興奮した口調で話し始めたのに対し、バーグレーが流石に注意をしようと思った矢先に、先にそれを咎めた者がいた。そう、督戦参謀である。もっとも、バーグレーが思っていた事とは全く違う事でだったが。


「ゲーレン航空参謀、総統のお考えはあくまでも支配です。殲滅ではありません。そこの所を履き違えないようにお願いしますよ」


「はっ、申し訳ありません!」


 流石に亜人種憎しを公言しているゲーレンも、総統直轄の情報局に属する督戦参謀の権威の前には忠実な子犬に成り下がるようだ。その変貌ぶりが滑稽だったのか、一部の参謀が失笑しているものの、当の本人は対して気にした様子もなく、司令室に戻るや否やすぐに総統の忠実な僕として話し始めた。


「それにしても白昼堂々、大都市を襲われた敵は戦々恐々、すぐに我々の軍門に下るでしょう。ま、これだけ突発的な襲撃だと迎撃する暇も無いでしょうし、我がガーランド帝国が誇るG-21も今回ばかりは出番が無さそうですな」


 誰だこんな無能を参謀にしたのは……、とかすかな頭痛を覚えるバーグレーとは真逆に次々と自信満々と話しを続けるゲーレン航空参謀だったが、その自信も数十分後には早くも崩壊することとなった。


「攻撃隊より緊急電!20機程の敵戦闘機より迎撃を受けたとの事です!」


 司令室に駆け込んできた通信参謀が早口に始める報告に司令室にいた全員が驚愕する。だが20機という数に少し安堵したのか大口を叩き始める者が出てきた。


「ふん。たかが20機程度、32機のG-21に掛かれば赤子の手を捻るようなもの。なあに、すぐに終わるでしょう」


 確かにこの時点で初撃の3機以外は攻撃隊に被害は出ていなかった。だが244戦隊との戦闘に入ったG-21NFの24機は思いの外手こずっていたのが事実であった。


 そしてさらに十数分後、攻撃隊より新たな電文が送られてきた。


「報告します!19:35(日本時間09:35)、敵固定脚機の迎撃を受けるもこれを突破、攻撃は成功のようです!」


 この報告にさっきまで不安がっていた者も含め司令室にいる参謀全員が歓声を上げるが、それとは対照的に司令官のバーグレーは冷めた気持ちで報告を聞いていた。


(やはり今までの弱小国とは違う。突然現れた我々に対しても遅れをとることなく迎撃戦闘を仕掛けてきた。これは中々激しい戦いになるかも知れんな。一歩間違えれば…、いや、彼らは先程まで平時だったのだから反撃にはもう少し時間がかかるはずだ。その間に命令通り第二次攻撃と交渉に持ち込めれば何とか……)


 しかしそんなバーグレーをよそに一部の参謀達は相変わらず舐めきった会話を続けていた。


「ふん、アーレンの奴らよりかは進んだ技術を持っているようだが、所詮は蛮族、我々の敵ではないな」


「この調子で波状攻撃をかけ、一気に敵の戦意を挫きましょう」


 たが今も沸き立っている参謀連中はもとよりこの艦隊の中で一番冷静であったバーグレーでさえも、この後すぐに行なわれる事となる反撃を読みきれなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーー

 日本時間09:25

 愛知県沖 第三航空艦隊


 先行していた二式艦偵より敵艦隊の情報を得ていた第三航空艦隊の全艦は攻撃隊を発艦させるべく風上に向けて三十ノットの速力で走り始める。発艦始めの合図の信号旗が降りるや否や、一番機の零戦が轟音とともに滑走を始めた。零戦は用意された助走スペースを使い切るまでもなく甲板から離れてゆく。「翔鶴」から零戦9機、九九式艦爆14機、九七式艦攻12機、「瑞鶴」からは零戦9機、九九式艦爆19機、九七式艦攻10機、計73機の第一次攻撃隊が、帽子を振ったり声援を上げている将兵に見送られて発艦していった。そしてこれに要した時間は僅か6分という驚異的なものだった。


 やがて空中で集合した攻撃隊は第一次攻撃隊隊長である高橋少佐の指揮の元、一路敵艦隊へ向けて進撃を始めた。


「それにしても、異世界の国家が敵とは驚きましたね。ほとんど情報がないようですが、大丈夫なのでしょうか」


 10分ほど経って飛行も安定してきた時に後部座席に座っている小泉から声がかかる。出撃前の訓辞にて角田中将より直々に説明があったものの、未だに現実味がわかないのも当然であろう。


「確かにな。相手の情報が少ない事ほど不気味な事はない。が、ここにいる連中は皆、あの過酷な訓練を乗り切った猛者ばかりだ。後は今までの訓練で培った自分の腕を信じるだけだ」


 立場上部下を不安にさせる訳にもいかず激励をするが、高橋も内心ではなんとも言えない不安を感じていたのも事実だ。


(しかし異世界の国家が敵とは驚いたもんだ。全く未知の相手だが、我々の持つ武器が通用するのか?……いや、指揮官がこんな弱気ではいかんな)


 珍しく弱気になっている自分に思わず苦笑した高橋は改めて気を引き締め直す。その時、通信機をいじっていた小泉が何かを傍受したようで、途切れ途切れに報告してくる。


「……航空無線を傍受しました。……どうやら敵の第二次攻撃隊が本土に侵入したようです」


 従来のものに比べて格段と性能が良くなった無線機は、本土防空に就く航空隊の通信をしっかりとらえていた。


「発艦中を狙いたかったが間に合わなかったか……」


 そしておよそ30分後、敵艦隊まであと10分ほどの地点に差し掛かった時、高橋は前方に黒点があるのを確認した。


「どうやらお出迎えのようだ」


 前方に6機ほどの敵戦闘機が現れたのを確認するや否や、制空隊の零戦が颯爽と飛び出していった。攻撃隊の護衛と言う足枷はあるが敵の数は3分の1、敵戦闘機は瞬く間に零戦との戦闘に巻き込まれ、遂には攻撃隊に一発の機銃弾を撃つ事なく墜とされていった。


「あれで終わりか?いや……」


『下方より敵機!』


 無線機を通して僚機から警告が来る。素早く反応して機体を滑らせた途端、今までいた位置が光弾に包まれた。まさに間一髪である。


「第1小隊4番機被弾!落伍していきます!」


 後部座席から防御機銃である7.7mm機銃の軽快な発射音とともに絶叫に近い報告が来る。首を捻って後ろを見ると、上方に突き抜けた敵機を追いかけて直掩の零戦が上昇してゆくのが確認できた。上昇していった敵戦闘機はおよそ8機。対して追ってゆく零戦は6機であった。しかし低空での上昇力に定評のある零戦は離脱する敵戦闘機に容易く追いつき瞬く間に2機を撃墜する。この一撃で敵機と同数になった零戦は必死にさらに追いすがるも、さらに1機の艦爆が被弾、炎上してしまった。2機が被弾、墜落してしまった攻撃隊だったが、その後は制空隊の活躍によって1機も落とされることなく進撃を続けることができた。また、敵戦闘機隊との戦闘を続けていた零戦も次第に主導権を掴み寡兵の敵機を翻弄、最終的には先の6機と合わせて撃墜12に対して被撃墜5と言う圧倒的なスコアでガーランド帝国機との初空戦を制する事となる。そして戦爆合計7機の犠牲を払いつつも進撃を続ける攻撃隊は、敵艦隊がいると思われる海域に差し掛かっていた。


「そろそろ敵艦隊が見えるはずだが……」


 未だに発見できないことに少し焦りを感じつつ辺りを見回す高橋と小泉だったが、運悪く雲が垂れ込めているため発見は容易ではなかった。そして5分ほど飛行を続けた時、やっとの事で敵艦隊らしきものを発見する事ができた。


「隊長、4時の方向に航跡が見えます!」


「4時の方向だと?やはり雲の下に隠れていたか」


 自分でも航跡を確認したのち、敵艦隊発見のバンクを振ると同時に無線に向かって怒鳴る。


「攻撃隊全機、突撃体型作れ(トツレ)!翔鶴隊は手前、瑞鶴隊は奥の空母を攻撃しろ」


 それと同時に電信機からはト連送が打電される。その命令に従って艦爆隊は上昇、艦攻隊は高度を下げていく。狙いは一にも二にも空母、これ以上帝都に反復攻撃をさせる訳にはいかない。制空権を確保してしまえば脅威となるのは戦艦のみ、戦艦だけでも相手は1隻なのに対しこちらは集めれば12隻。補助艦艇の差を考えても勝負にすらならない。


「いいかお前ら。奴らは白昼堂々、宣戦布告もなしに帝都を爆撃し、民間人を殺傷した不届き者連中だ。聞けば奴らは異界から来た人の生き血を吸う化け物共、そんな奴らをみすみす逃したとなれば日本海軍の、いや、人としての名折れだ!何としてでも沈めるぞ、いいな!」


「おう!」


 高橋に喝を入れられた攻撃隊は一気に士気を高め、各々の攻撃位置に就くべく速力を上げる。この頃には敵艦より放たれる対空砲火も激しくなりつつあるが、高速で飛行する艦爆を捉えきれておらず爆発は軒並み後方で起こっている。また低空に降りた艦攻隊も、並みの技量では到底成し得ない低空飛行を行っており、爆発は全て編隊の上で起こっているという状況だ。


 そしてその頃、攻撃を受けているガーランド帝国第3遠征艦隊では軽い恐慌状態に陥っていた。


「敵編隊は戦闘機隊による迎撃網を突破、こちらへ向かってきます!」


 見張り員より寄せられた報告に艦橋にいた司令部要員全員が驚愕する。特に“蛮族”、“亜人種”などと侮っていたゲーレン航空参謀などは半分放心状態にある。


「クソッ、こんなに早く来るとは……。完全に後手に回ってしまった。全艦に射程に入り次第撃てと伝えろ!」


 バーグレーが急ぎ指示を出すが、日本の攻撃隊は既に艦隊外縁部の艦からは目視できる位置に到達していた。


「敵編隊視認!戦爆連合およそ60機です!」


 その報告にアルザンツ艦長のヤレートが命令を下す。


「左舷高角砲、撃ち方始め!」


 やがて左舷の45口径5ykt(ヤクト)(10.75cm)高角砲が一斉に発砲し、敵編隊の方角に爆煙が生じる。昨年の改装により単装6基6門から連装6基12門に強化された高角砲の攻撃を受けて、バタバタと敵機が堕ちてゆくのを想像した一同であったが、現実は非情だった。敵機は物怖じもせず一直線にこちらへ向かってくる。そして対空砲火に絡め取られた敵機はまだ、いない。なまじアーレンウェルトで低速のワイバーン共を相手にしていた為、高速で突破してくる機体に対応できていないのである。


「敵機、二手に分かれて突破して来ます!」


 見るとやや小型の単発機は高度を上げ、もう片方の魚雷と思しき物を抱えている機体は高度を下げていた。


「高度を下げた方は雷撃機か?上の奴は水平爆撃…にしては機体が小さいな。……まさか急降下爆撃機か!?」


 その頃には全艦が猛烈に対空砲を打ち上げており、やっとの事で射撃精度も上がりつつあった。そして誰もが待ち望んでいた報告がようやく飛び込んできた。


「敵機一機撃墜!」


「よし、このまま撃ち続けろ!」


 歓喜に包まれる艦橋であったが、撃墜は一機のみ。しかも上空を飛ぶ九九式艦爆はともかく、地を這うように飛ぶ九七式艦攻は全くもって捉えきれていなかった。


「敵雷撃機、外周の駆逐艦を突破します!」


 その報告にバーグレーは双眼鏡を構えて敵編隊がいると思しき方向を見る。初めは駆逐艦上方の対空砲火が炸裂している辺りを探したバーグレーだったが一向に敵機が見つからない。疑問に思ってふと視線を下げると、海面すれすれをかなりの高速で突き進んでくる物体を確認した。


「な、何だと!?あんな低い高度を飛ぶのか!?」


 自分達が行う雷撃ーー投下高度は良くても50m、速度もあれよりはるかに遅いーーと比べて技量が違いすぎる。ひょっとしたら10mを切っているのではないか!?


「上空の敵、サントスの上方に到達……あっ!敵機急降下!」


 サントス上空で敵編隊が単縦陣となり急降下を始めるその光景は、ある程度は予想していたもののやはり衝撃的であった。しかもその角度はガーランド帝国軍機のそれと比べても遜色ない。むしろ彼らの方が急角度で降下している始末である。そしてサントスの必死の回避運動も虚しく敵弾は初弾から命中する。バーグレーは双眼鏡を片手に被弾回数を数えていたが、6回を超えた時点で数えるのをやめてただ呆然と眺めるのみとなっていた。


 この時、サントスに攻撃を仕掛けたのは二航戦の江草隆繁少佐と並び、日本海軍艦爆乗りの二枚看板であった高橋赫一少佐率いる瑞鶴艦爆隊だった。途中で敵戦闘機と対空砲火によって3機を失うも残り16機が次々と急降下、さらに機銃掃射で一機が離脱するも残りの15機が投弾に成功、その内8発が命中した。また、同じような光景が空母ヴィヘイムの上空でも起こっていた。こちらには翔鶴艦爆隊が攻撃を仕掛けており、こちらも14機中12機が投弾に成功し、6発が命中している。両隊とも命中率は実に50%以上という脅威的な数字を叩き出している。また、艦攻隊もほぼ同時に攻撃を仕掛けており、こちらは両隊とも1機ずつを機銃掃射で失うも残りの機は投弾に成功、サントスには右舷に2発、左舷に1発の計3発、ヴィヘイムには右舷に1発、左舷に3発の計4発を命中させている。こちらも命中率は30%を超えており、技量の高さを伺える。


 投弾を終え、上空で戦果確認をしていた高橋機は黒煙を吹き上げつつ、行き足が衰え傾斜していく2隻の空母を観察していた。


「よし、あの2隻は撃沈確実、悪くても大破漂流ってとこだろう。小泉、艦隊に打電だ。『空母2隻並びに駆逐艦1隻を撃沈確実。されど戦艦並びに補助艦艇は健在なり。第二次攻撃の要ありと認む』だ」


「了解です」


 指示を受けた小泉が電鍵を打ち始める。ちなみにこの駆逐艦は命中コースにあった魚雷とサントスの間に割って入った駆逐艦である。そしてこの電文は第三航空艦隊のみならず日本各地の航空基地でも傍受され、特に陸攻部隊を擁する基地は制空権が確保された今、残った戦艦を撃沈すべく大急ぎで攻撃準備を進めている。また、各鎮守府からは一足早く準備の整った水雷戦隊が出港を始めており、ガーランド帝国第3遠征艦隊にとってはまさに絶体絶命の危機であった。そして当のガーランド帝国第3遠征艦隊司令部は、60機ほどの攻撃にしては凄まじすぎる被害に絶句していた。


「各艦より被害報告の集計がきました。……サントス、ヴィヘイムの両艦は機関室が完全に浸水、復旧は絶望的とのことです。またサントスをかばって被雷したストマースは既に沈没、現在生存者の救助に当たっているとの事です」


 報告を行った通信士官も、一見は淡々としていたがその表情はとても暗かった。


「そうか……、ご苦労。サントスとヴィヘイムには生存者の救助に全力を挙げよと伝えてくれ。それから全艦に通達、漂流者の救助が終わり次第、『門』をくぐって撤退する」


「撤退ですと!このままおめおめと引き下がれる訳が…… 」


 この命令に驚愕したゲーレン航空参謀が食ってかかるが、バーグレーはこれを一喝し制した。


「馬鹿者!貴様にはあの攻撃隊の練度が分からんのか!もしもう一度あの攻撃を受けてみろ、アルザンツもただでは済まないぞ」


「しかし空母2隻の被害を出して敵艦隊を無傷のまま放置して撤退するのは……」


「では両空母とその艦載機を失った今、どうやって攻撃をするのだ?」


「そ、それは……」


「まさかアルザンツ1隻で突っ込むつもりか?」


 ここまで来るともはや言い返すことは不可能であった。他の参謀も皆、心の中ではやりきれない思いがあるが、現実問題撤退以外の選択肢は無かった。


「ですが提督、今『門』をくぐって撤退しますと第二次攻撃隊の回収ができません。まさか彼らをこの地に置き去りに、いや、見殺しにするのですか!?」


「いや、攻撃位置と『門』の場所を考えると彼らには直接飛んでくぐってもらう方が速い。向う側で洋上に不時着してもらう。至急その旨を打電してくれ」


「わかりました」


 通信士官が敬礼をして去って行くのを目線で見送ったバーグレーは呆然と考え込む。


(我々はとんでもない世界に喧嘩を売ってしまったのかもしれん…。もし彼らが我々の世界に攻め入ってきたら苦戦は免れないだろうな……)


 そしてこれが、日本、アメリカ、ガーランド帝国、そしてアーレンウェルト世界の各国を巻き込んだ大戦の本格的な幕開けであった。



以前に月に2話などと言っていましたが、今月は1話ですすいません。その分と言っては何ですが、今回は分量が多いのでそれでご容赦下さい。


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