帝都初空襲
お待たせいたしました。
なにぶん年度始めのドタバタや、いろいろと忙しい日々が続いていました。
これからは更新速度を上げるよう努力します。(早くなるとは言ってない)
1943年10月27日 日本時間 08:35
帝都 霞ヶ関 海軍軍令部
この日の早朝、東京の海軍軍令部に横須賀鎮守府を経由して八〇一空から房総半島沖合にて不審な構造物を発見したとの報告が入った。
「なんだね?その構造物というのは」
報告を受け取った部長は案の定、そのように聞き返した。だが横須賀鎮守府でも正確には把握していない。いや、現地にいる二式飛行艇の乗員でさえ規格外の現象すぎて困惑しっぱなしだったのだから無理はない。
「とりあえず調査隊を編成するべきか?」
「二式飛行艇ならばあと数時間は上空に留まれます。もう少し詳細な報告が来るはずなのでそれを待ってからでも遅くはありません」
確かに、B29以上の航続距離を誇る二式飛行艇ならば数時間どころか十時間以上も上空に滞空できるだろう。だが、次に駆け込んできた参謀による新たな報告によりその楽観的な考えは吹き飛んだ。
「なに?不審船から攻撃を受けただと!」
この報告を受けた部長は文字通り、目を見開いて聞き返した。
「はっ、国籍不明の駆逐艦クラスの艦艇より砲撃を受けたとの事です!」
「すぐに国籍を確認しろ!それから政府にも至急連絡を入れろ!」
「はっ!」
命令を受けた参謀がすぐ様飛び出していくと同時に報告は軍令部総長の永野と次長の伊藤へと上げられた。
「総長、房総半島沖合を哨戒中の二式飛行艇が洋上に謎の構造物と不審船を発見したとの事です。もしやこれは例の異世界へ通じる門の可能性があります」
「なに?門の予想出現区域は中部太平洋ではないのか?」
参謀の言葉に永野が驚きの声を上げる。日本政府および米国政府ではここ1年、中部太平洋に置いて異常現象が多発していることからここを要注意区域として軍の監視下に置いている。というのも、ヴェルテら使節団の情報を併せて検討した結果、異世界と通ずる『門』が現れる前兆ではないのかと睨んでいたのだ。この情報は両国政府と軍上層部に伝えられており、万が一の場合に備えて作戦計画も練られている。
「あくまでも予想ですので。さらに厄介な事に二式飛行艇が攻撃を受けたとの報告もあります」
「攻撃?それで無事なのか?」
「今のところ速報のみですのでなんとも。それと万が一に備えて臨検隊および攻撃部隊の出撃の許可を」
参謀の言葉に思案する永野と伊藤であったが、臨検隊は良いとしても攻撃となると次長の一存では決められない。戦時なら全く問題ないが今は平時だ。国籍も確認できてない以上、迂闊に動くことはできない。そして伊藤が総長に目配せをして話し始める。
「まあ待て。臨検隊についてはすぐに派遣してよろしい。だが攻撃は待つんだ。だが準備はしておけ」
そう言うとさらに伊藤は永野に向き直り意見具申をする。
「総長、至急全部隊に警戒態勢を取らせるべきです。さらに臨検隊の支援として艦艇の増派も行なうのがよろしいかと」
「だがな、いたずらに緊張を高めるのもいかんぞ」
「しかし万が一がある以上、警戒態勢をとるのは国軍の務めです」
「しかしな……」
結局この後も議論は平行線をたどるかと思われたその時、新たな報告が軍令部に舞い込んできた。
「報告します!二式飛行艇からの入電によりますと、付近に出現した艦隊より発艦した艦載機から攻撃を受けたとの事です!」
「なんだと!艦隊の規模は⁉︎」
「はっ、報告によりますと戦艦1、空母2、重巡4、駆逐艦16です!さらに空母からは艦載機が発艦中との事です。二式飛行艇は現在も追撃を受けつつありとの事です」
この言葉に部屋の中にいた3人の顔が青ざめる。二式飛行艇の現在位置からこの帝都まで500kmも無い。航空機ならば1時間半もかからずにたどり着く距離だ。
「総長、これはまずいです。相手は警告もなしに二式飛行艇を攻撃してきました。もしこの艦載機が帝都に飛来すれば警戒が薄い今、甚大な被害を受けます。万が一の話となりますが……畏くも陛下が御座します宮城に……」
ここまで言われてピンとこない人間はそうそう居ないであろう。伊藤のこの言葉に永野は先程よりも青ざめた顔となり、ついには決断を下すこととなっな。
「ううむ……。独断専行となるがすぐに周辺の航空隊に戦闘配置、帝都防空の任に就かせるのだ。それから二式飛行艇の援護に戦闘機隊を向かわせろ。連合艦隊司令部に連絡を入れるのも忘れずにだ」
「は、はいっ!」
先ほど報告に来た士官が命令を受けて飛び出していく。だが航空機はともかく軍港にいる艦艇は即座に動くことはできない。缶圧を上げるためにかかる時間は数時間にも及び、その時間は大型艦になるほど長くなる。そのため大型艦艇の出動は絶望的かと思われたその時、新たな報告が舞い込んできた。
「GF司令部より入電です。既に五航戦を中心とする艦隊が紀伊半島沖合に展開完了、さらに4時間後には第一、第二艦隊も出航準備が整うとのことです」
「馬鹿な、いくら何でも早すぎるぞ」
無論これは命令を受けてから出航準備を始めた訳ではない。ヴェルテからの2ヶ月以内という言葉から警戒感を抱いたGF司令部が事前に訓練と称して常時中規模の艦隊を本土沖合に展開、さらにその他の艦隊も即応体制にあり5時間以内には整備中の艦艇を除くほぼ全ての主力艦が出航できるという状態であった。
「まあいい。それで展開中の艦隊の詳細は?」
「はい。えー、現在展開中の艦隊は角田覚治中将率いる五航戦を主力とした部隊です。その編成は、空母翔鶴、瑞鶴、戦艦榛名、重巡最上、三隈、軽巡阿武隈麾下の第二、第四、第九駆逐隊の合計18隻です」
総計すると、空母2隻、戦艦1隻、重巡2隻、軽巡1隻、駆逐艦12隻の堂々たる艦隊である。擁する空母も新鋭艦の2隻であり、練度こそ1航戦や2航戦に劣るものの十分な技量を誇る。(と言うより1航戦と2航戦の練度が異常なだけであり、5航戦も他国の部隊と比べてもトップクラスの練度を誇る)この報告を聞いた3人は安堵の溜息を吐く事となる。いきなり大艦隊が現れて艦載機が多数発艦中、さらには接触した機体が攻撃を受けたと悲報のオンパレードだったこの状況でこの報告はまさに蜘蛛の糸ともなるものだった。だがその数十分後、またもや3人、いや、日本首脳部全体が絶望の淵へと立たされる事となる。
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同日08:55
帝都
後に歴史の転換点として語られる事となる東京初空襲。その第一報は千葉県勝浦にある電探施設からであった。その報告によると、本土に向け国籍不明編隊が接近中との事であった。この時点で東京までおよそ200km、飛行にかかる所要時間は40分と言ったところであろう。しかし迎撃態勢はそう簡単には敷かれなかった。報告を受けて確認のために偵察機が緊急発進したのが報告から7分後、さらに二式飛行艇からの緊急電を受けて戦闘機の発進が始まったのは報告から15分後という遅さであった。さらに発進した機体は一部を除いて2級線の機体が多く、中には九六式艦戦や九七式戦が混じっているという状況であった。と言うのも海軍は中部太平洋やマリアナ諸島、台湾などの警戒、陸軍は緊張が増すソ満国境に集中的に新鋭機を配備していたからだ。
兎にも角にも、緊急発進した戦闘機隊は上空で素早く編隊を組むと国籍不明編隊へと向かって行く。この頃には既に最高速ですっ飛んで行き接敵している偵察機より詳細な報告が入り始めていた。それによると国籍不明編隊の総数は70〜80機程で全て単発機。中には攻撃機と思しきものも含まれているとの事であった。この情報は地上を経由して英国製の明瞭な機上無線より戦闘機隊にも伝わり、ここで本格的な邀撃行動に移ることになった。先陣を切ったのは唯一の例外として新鋭機である三式戦一型乙を装備して駐屯していた飛行第244戦隊第1中隊と第2中隊である。(第3中隊は九七式戦装備で現在機種改変中)
飛行第244戦隊は主として宮城警護、首都圏防空の任についている部隊であり、その任務から自他共に近衛飛行隊と称していた。また、飛燕に機種改変した当初は劣悪だった稼働率も、川崎の指導のもと徹底した整備教育を受けた事により他の空冷機に勝るとも劣らない稼働率を維持している。そのためか今回の出撃における稼働率は74%という驚異的な数値を叩き出していた。
その244戦隊は敵が高度3000m付近を飛行中との報告を受け4000m程まで急上昇、敵編隊の上を取る形となった。だが初手は敵が取る事となる。今まで敵編隊と付かず離れずしながら報告を行っていた偵察機がついに発見、撃墜されたのだ。しかしその直後、244戦隊による反撃の一手が打たれた。
雲を巧みに利用しながら敵編隊の上空を占位していた244戦隊は、あっという間に急降下し、敵編隊へ一撃を加えて下方へと離脱する。12.7mm機銃4門という陸軍機の中でも重武装にあたる三式戦一型乙の攻撃を受けた敵編隊はこの時点で戦闘機2機と爆撃機3機の計5機を失う事となった。それに対して244戦隊の損害は数機が被弾したのみであった。下方へ離脱した三式戦を追って敵戦闘機隊が急降下をかけるも速度に乗った三式戦に追いつく事は出来ず、逆に距離を離される始末であった。そして反転した244戦隊はそのまま再度攻撃を仕掛けて敵編隊を乱し、その後は敵味方入り乱れての乱戦となった。
近衛飛行隊の名に恥じぬ獅子奮迅の働きを見せた244戦隊であったが第3中隊が欠けている今、いかんせんその絶対数が少なかった。結局その乱戦に全ての敵機を巻き込むことはできず、大多数の攻撃機と少数の戦闘機に突破されてしまった。だがその編隊に今度は海軍の零戦が襲いかかる。五二型や三二型などの新鋭機は母艦航空隊や外地の飛行隊へ優先配備されており残っていたのは初期型の一一/二一型だった。しかし今では最前線を退いた一一/二一型とは言えども伊達に数年前まで主力機を張っていた訳ではない。未だ有力な機動性と瞬発力を駆使して敵機を翻弄する。その結果敵機は零戦の6機に対しほぼ同数の戦闘機を向かわせねばならず、攻撃隊の直掩はさらに薄くなる。だがこの時点で日本側の手札もほぼ尽きていた。残る戦闘機は九六式艦戦と九七式戦合わせて13機。とてもではないが残り40機以上はいると思われる敵編隊を防ぐには足りない。既に日本各地の航空基地から迎撃機が慌ただしく離陸準備を始めているが、どう考えてもすでに本州上空に入ろうとしている敵編隊の方が早い。九六式艦戦と九七式戦が果敢にも挑んでいくが3機に損傷を与えて爆弾を投棄させた他はさしたる戦果もなく後部機銃と敵戦闘機に妨害された。
そして破壊と殺戮の幕開けは唐突に訪れた。
空襲警報の発令も遅れる中、第一弾はいきなり東京の中心地に落ちることとなる。この編隊を訓練か何かと勘違いして見上げていた市民は爆発音と衝撃波、さらには被害者の呻き声によってやっと我に帰り逃げ惑う。悲鳴と怒声に包まれた市街地に容赦なく降りそそぐ爆弾、低空から掃射され、人々の四肢を吹き飛ばす機銃弾。倒れる人々、倒壊する家屋、広がる火災、地獄絵図はすぐそこに広がっていた。
炎上する建物から這い出てきた会社員、子供の手を引き必死に逃げる母親、逃げ惑う人々を必死に誘導する警官や憲兵隊、消化活動を始める為に出動する消防隊、やっとの事で撃ち始めた高射砲部隊。全てが等しく攻撃対象となり、爆炎と光弾に包まれる事となる。
やがて敵機を振り切った244戦隊や各飛行場より緊急離陸した戦闘機隊が到着するまでの間、敵機の殺戮は続くこととなった。
死者263名、負傷者1682名、家屋全壊357戸、戦闘機19機損失、飛行艇1機損傷、商船2隻沈没、3隻大破。この被害は、日本が開戦を決意するのには十分過ぎる数であった。
さて、前書きの冗談は置いておいてですね、忙しいのは本当なのでご勘弁下さい。
これからは戦闘シーンが続く?と思うので作者のモチベーションも上がってきております。最低でも月に2話は更新していきたいと思いますのでこれからもどうぞ宜しくお願いします。