表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
7/56

火曜 2

 次の日マンションの自動ドアから出て来た華の制服は、ヨレヨレだった。

 昨日帰る時しつこいくらいに言ったのに、干さなかったに違いない。


「おはよう、華。制服、干さなかっただろ?」

「おはよう。」


 くっ、首を傾けてるのが可愛いが、誤魔化されるもんか!


「一着しかないの?」


 華は答えない。


「華?華?華華華ー」

「………ない。」


 名前連呼攻撃が有効だって判明した。


「どうすんの、それ?流石にひどくない?」

「問題ない。」

「いや、問題あるだろ。……ねぇ、華ってもしかして一人暮らし?」


 あんな大きいマンションに住んでるのに、制服はシワシワ。髪はボサボサ。昼飯も果物か食パンばっか。世話を焼いてくれる家族の存在が全く浮かんで来ない。

 華は答えない。でも、高い確率で華は一人暮らしだ。

 そう思ったら途端に色々心配になってきた。


「ねぇ、ちゃんと生活出来てる?」

「ちゃんと生活?」

「ご飯とか、洗濯とか、掃除はどうしてんの?買い物は?」

「……問題ない。」

「華、もし困ったりしたら、オレ、助けるから。」


 華はじっとオレを見たけど、何も言わなかった。



 朝のイチゴ牛乳タイムで、オレは華の髪を梳かす事にした。

 昨日梳かして気に入ったんだよね。

 梳かして良いか聞いたら華は何も言わなかったけど、許可だと勝手に受け取っておいた。


「華、今日はこのまま髪下ろしておかない?」


 飲み終わったパックを受け取りながら言うオレに、華は何も答えない。でもそのまま絵を描き始めたから了承してくれたのかも。いや、結い直すのが面倒だった可能性のが高いか。

 髪を下ろしてる華は、綺麗だ。

 サラサラした髪が揺れて、絵を描くのに邪魔なのか耳に掛ける仕草が色っぽい。


「秋、髪、邪魔。」


 二時間目の終わり、その姿を堪能しようとしてたオレに華は言った。

 そういえば、朝梳かす時に取ったゴム、そのままオレの手首にあった。


「オレが結んであげる!」


 また櫛を取り出して、四苦八苦しながら髪を結ぶ。ポニーテール。結構上手く出来た。仕上げにズボンのポケットに入ってるリップを出して、華の唇に塗る。


「べたべたスースーする。」


 華は嫌そうな顔してるけど、オレは大満足。ツヤツヤした唇にキスしたくてたまんない。


「可愛い、華。大好き。」


 絶対今のオレの顔はデレデレだ。でも良い。実際、メロメロのデレデレなんだから。



 華の昼飯はまたリンゴ。

 今までの華を観察してた経験からすると、リンゴがしばらく続くと思う。


「はい、華。」


 リンゴをシャリシャリしてる華に、冷凍の白身魚フライを差し出した。

 そしたら、華が警戒するみたいに匂いを嗅いで、リンゴに戻った。


「もしかして、魚嫌い?」


 こくんて頷く。


「揚げ物は嫌い?」


 ちょっと悩んでるっぽい。

 それならばとコロッケを差し出してみた。


「これはコロッケ。冷凍のだよ。」


 食べた。なるほど、揚げ物は大丈夫だけど、好きという程ではないんだな。

 ご飯の後に、またリップを塗った。あんまりカサカサだと痛そうだし。でも華は、スースーするのがすっげぇ嫌みたいだ。

 今日はバイトないし、イチゴ味のリップを買いに行こうと決めた。


「ね、華、帰り一緒に寄り道しない?」

「しない。」


 華が絵を描き始める前にと思って急いで提案したら、否定が早くてちょっと落ち込んだ。




「華の家って、アイロンある?」


 オレは今日一日、華のシワシワの制服が気になって仕方なかった。

 あるならアイロン掛けるように言おうと思ったんだけど…この反応は、ないな。


「もしさ、もし良かったら、うちからアイロン取ってくるから掛けても良い?」


 一人暮らしかもしれない女の子の家。好きな子だけど、疚しい気持ちはないよ。ただ単に、シワシワの制服が気になるだけ。

 ドキドキしながら答えを待ってたオレに、華の返事は早かった。首を横に振って、ノーの返事。

 ですよねー、って、肩を落とす。


「学校の前なら良い。」


 一瞬、理解するのが遅れた。


「え?それって、明日の朝なら良いってこと?」


 まさかまさか、いいの?マジで?


「良い。」

「じゃ、じゃあ!明日!いつもより早い時間に来るね!あ、部屋何号室?」

「701。」

「分かった!」


 華はそのまま自動ドアの向こうに消えた。

 舞い上がったオレは、駅に向かって歩きだす。明日が楽しみでたまらない。アイロン掛けに行くだけだけど!



「あっれぇ秋じゃん!」


 駅で華の為のリップ探してたら声を掛けられた。前に付き合ったことのある女の先輩。


「何してんのぉ?」


 なんか華に慣れたらやたらこの女香水臭く感じる。名前、なんだっけ?


「久しぶり。買い物してんの。」


 腕を絡めて胸を押し当ててくる女を押し退ける。うぜぇ。


「なぁにぃ?イチゴ味のリップとか、ウケんだけどぉ。」


 なんもウケねぇよ。マジ、消えてくんねぇかな。


「ねぇ、暇なら久しぶりに遊ばない?」

「遊ばない。もうそういうのやめた。」

「あーなんか聞いたぁ。小汚い女構ってるんだってぇ?あんまり初心な子からかったら可哀想だよぉ。」


 この女、こんなウザい喋り方するやつだったっけ?マジウザいから、さっさとレジに行く。


「そんじゃ、急いでるから。」


 レジ終わってもなんか待ってたから、撒いた。

 くっそ、折角の幸せ気分が台無しだ。身から出た錆っていうんだろうけど、オレ、本当しょうもないやつだったよな。

 華に会いたくてたまんない。

 たまたま通った雑貨屋に黒猫グッズがたくさん並んでたから覗いてみる事にした。

 華はいつも黒いゴムだから、なんか買ってあげようかなって考えたら、ちょっと浮上した。

 黒猫柄のシュシュと黒猫の飾りが付いたゴム。

 明日、喜んでくれたら良いな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ