私だけのものでいて
オレは今、華から出禁を食らってる。
一応スマホは買って持たせてるから、連絡はくれるって言ってたけど、今日で一週間。会えなくてツライ。
高校卒業してから、華は絵の勉強する為に有名な芸大に入って、今年卒業する。
オレは二年専門通ってから華パパの紹介で、とあるメイクアップアーティストのアシスタントさせてもらってる。まだまだ駆け出しだから給料そんなに貰えないけど、すげぇ仕事楽しい。でもその分華に会える時間減ってるから、一週間会えないなんて、華不足で死にそう。
でも卒業制作とか忙しいって華言ってたし、邪魔しちゃダメだよなって我慢。我慢してる。
仕事終わって、今日も会えないのかなって溜息吐いてスマホ見つめる。
電車から降りて、とぼとぼ歩いてる所で、スマホが震えた。華だ!
『来て良いよ。』
いつも通り短いメールで出禁解除のお知らせ。
オレはすぐ行くってメールして、華のマンションに走った。
焦って震える手で鍵取って、自動ドア開錠して、エレベーター乗り込む。七階までが永遠に思えそうな気持ちで上がって、玄関開けて飛び込んだ。
「秋。」
そしたら、玄関で華が体育座りで待ってた。
「華、華華華華っ!会いたかった!こんなに会えないなんて、オレ死んじゃうっ!!」
オレはそのまま玄関に膝付いて、華の体掻き抱いた。
首筋に顔を埋めたオレの頭を華が優しく撫でてくれる。久しぶりの華の匂いと温もりに、泣きそう。
「秋。見て欲しいものがある。」
華の声に促されて、オレは体起こした。手を引かれて、絵の部屋に連れてかれた。入った先にあったでっかい絵に、オレは目を見開いて固まる。
オレの絵だ。
いつも絵を描く華を眺める時に座るオレの定位置で、毛布に包まって寝てるオレ。
あったかい。この絵、華の気持ちが溢れてる。華が、オレを好きだ好きだって気持ち。愛してるって、たくさん言われてるような気分になって、真っ赤になった顔、オレは手の甲で隠した。
「秋なら、描けた。」
ずっと独りで、他人に興味無くて、人を描くのは難しいって言った華。そんな華が初めての人物画で、オレを描いてくれた。
言葉で言い表せないくらいそれってすっげぇ事で、オレにとって、なんて幸せな事なんだろう。
「秋、タイトル見て。」
涙ぐんで放心状態のオレに、華は言った。言われるまま、絵の裏回って屈み込む。いつも華がタイトル書き込む場所に書かれてたのは、
"私だけのものでいて"
最高の殺し文句。
オレは華に駆け寄って、抱き締めた。
「オレはもうずっと、華だけのものだよ。」
そう言ってキスの雨を降らせ始めたオレに、華は何故か不満顔だ。どうしたんだろって首傾げるオレに、華は唇を尖らせてる。
「そうだけど、違う。秋、結婚しよう。」
「え?」
「秋、わたしの旦那さんになって下さい。」
えぇー!!これってまさかの逆プロポーズ!
「オレだって結婚したい!だけどオレ、まだ駆け出しで、華を養えない。子供出来ても、オレの今の給料じゃ学校行かせたり出来ない…」
段々尻すぼみになる言葉は、自分の情けなさに落ち込んできたから。本当は、もっと早く結婚出来るように、普通の会社入れるようにしようって思ってたんだ。だけど、母親の言葉で考え直した。
『あのね、今しか道は選べないのよ。今、華ちゃんを理由に夢を諦めたら、今後何かあった時にあんたは華ちゃんのせいにしちゃう時が来るかもしれない。人生に絶対なんてないの。だから、そうなる可能性があって、そうなるぐらいなら、全部手に入れなさい。』
今の道選んだ事に、後悔はない。諦めなくて良かったって、母親に感謝してる。でもやっぱり、結婚はちゃんと家族養えるようになってからしたいんだ。
「お金はある。秋のパトロンになるから、結婚して、わたしだけのものになって?」
「でも、それって情けない。オレ男だし、やっぱりオレが養いたいんだ。」
「男が養わなきゃいけないなんて決まってない。たくさん愛して、側にいて?」
首を傾げて見上げてくる華に、敵わないなって苦笑する。
「華、愛してる。結婚しよう。幸せにするし、たくさん、たくさん愛すって約束する。」
「秋は、わたしだけのもの?」
「オレは華だけのものだよ。」
華を抱き上げて、ベッドに運んで倒れ込む。深く甘いキスをして、二人溶け合うように、体を重ねた。
オレの奥さんは東華。
風景画が得意な画家。だけどたまに描く家族の絵が有名で、愛が溢れた絵を描く、オレの最愛の人。
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秋と華の物語。楽しんで頂けていたら幸いです。




