19
眠りから浮上して、腕の中の温もりの素肌に手を這わせる。
背中、お腹、柔らかい膨らみ。やわやわ両手で堪能してたら、華が起きた。
おはよってキスして、舌絡める。両手の動きを捏ねるように変えて、オレは囁く。
「ね、華、またしたい。」
「………たくさんした。」
掠れた声の華の抗議に、オレは口角上げて笑う。
「足りないんだもん。ダメ?」
右手はそのまま刺激して、左手は背中滑らせてからお尻を掴む。甘えるオレのおねだりに、昨夜啼き過ぎて声が枯れた華が咳払いして悩んでる。
オレはちゅっちゅって顔にキスを降らせ始めて、華がまた甘い声を出す。
「ね、ダメ?」
両手の動きはそのままで、瞳覗き込んでまたおねだりするオレに、華が折れた。
「いいよ。」
ふんわり笑った華の唇にキスして、深くする。掌であちこち撫でて、目的の場所に忍ばせようとしたら、スマホが震えた。
めちゃくちゃ無視したい。でもなんか、嫌な予感もする。
華の唇にちゅぅってキスしてから右手伸ばして、スマホの画面確認。……田所。
はぁって、溜息吐いて、名残り惜しくて華の胸の蕾にちゅって吸い付いてから体起こした。
一緒に起き上がった華の体を左手で抱き寄せて、スマホの画面スライドさせる。
『もう昼ですが、おはようございます。秋くん。』
「………なんですか?」
不機嫌なオレの声に気付いたのか、田所が電話の向こうで苦笑してる。
『千夏さんからの指令でギリギリまで時間稼ぎはしましたが、そろそろ限界のようです。そちらに、社長が向かいます。』
「……どのくらいで来ます?」
『伸ばせて一時間です。それまでに身支度を整えて下さい。』
「……りょーかい。」
通話切って、スマホを放り投げる。オレは華を抱き上げてベッドから降りて、きょとんてしてる華のほっぺにキスした。
「一緒にお風呂入ろ。」
そこから、きっちり一時間で玄関のベルが鳴った。
華もオレも身支度ばっちり。ベッドの名残りも片付け済み。チェーンも外しておいたけど、自動ドアスルーしたのに玄関ではインターフォン押すなんて、田所の優しさなのかなんなのか。
玄関開けたら、田所と華パパが立ってた。なんか美味しそうな匂いがする。
「今日は横浜に行くと伺っておりましたので社長にはそうお伝えしたのですが、どうしてもお二人に会いたいと仰るのでお連れ致しました。」
ビシッとスーツ、仕事モードの田所が説明してくれた。
田所の後ろでは、よくよく見たら申し訳無さそうな顔になってる華パパ。よく見なければ偉そうな顔だけどね。流石社長。
どうぞって招き入れて、田所がお昼にって出来たてっぽいお弁当差し出してくれた。秘書ってのは出来る男がなるのかって、ちょっと納得。
華は立てないから、絵の部屋のオレの定位置に背中預けて座ってる。
受け取った弁当机に置いて、オレは華を膝に乗せて座った。田所は飲み物も買って来てくれてたから、そのまま弁当開けて華と一緒に食べる。
田所は離れた場所に正座して、華パパはオレらの前に座ったけど、弁当食ってるオレと華を見るだけで何も言わない。
華がお腹いっぱいになって、オレも弁当食い切って、お茶飲んでる所でやっと華パパが口を開いた。
「昨日、秋くんのお母さんと色々話をさせてもらってね。彼女は…私と違って、強い人だね。」
なんかしょんぼりしながら話してる。何を話したのか、聞いてないから知らない。でもなんとなく予想はつく。
「母は、確かに強い人で、オレに弱音を吐いたりした事はないですけど…その分一人で、たくさん泣いてたと思います。」
泣いてる母親で覚えてるのは、死んだ親父の体に縋り付いて泣き崩れてる姿。オレは小さくて他はよく覚えてないけど、そこだけ何故かはっきりと覚えてる。それ以来母親がそんな風に泣いてる姿は見た覚えがない。
「そうだろうね。私も妻を亡くしているから、痛い程気持ちは良くわかる。だけれど、私は、君のお母さんのように強く生きられなかった。娘から、華からも逃げ出した、ダメな父親だ。」
項垂れた華パパ見て、オレは膝に座ってる華の顔を確認する。無表情で、目を伏せてる。だから、華の頭撫でて、こめかみにちゅってキスした。
「お父さんがうちの母と話して、もし何かに気付いたんだったら、これからあなたがどうするのかですよ。華はオレが支えます。だからお父さんも、怖がってばかりいないで下さい。」
お腹に回してたオレの手を、華が指を絡めて繋いできたから、ぎゅって握り返した。
「君は、お母さんと同じ事を言うんだな。」
くしゃりって顔歪めて、泣きそうな顔して華パパは笑った。
勇気出すみたいに息吸って、華をまっすぐ見た。
「華、パパは、たくさん間違ってしまった。だけどまた、チャンスをくれないだろうか?」
まっすぐ華を見て答えを待つ父親。
華は俯いて、繋いでるオレの手を撫でてる。
華だって、望んでたと思うんだ。ずっと一人でさみしくて、パパの服も靴も捨てられなくて、制服以外はパパの服着てたんだから。だから、オレは勇気出してって、気持ちを込めて、華の手を握る手に力を込める。その手を華は握り返して、顔を上げた。
「いいよ。」
たった一言だけど、華は父親をまっすぐ見てた。
この一言で、二人はまたやり直すチャンスを掴んだんだ。
どうか、そのチャンスが無駄にならないように、二人がまた、イチゴって名前の黒猫飼ってた時みたいに笑い合えたら良いなって、オレは願いを込めて、見守るんだ。




