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絵を描く黒猫  作者: よろず
二部
42/56

10

 決戦の木曜日!

 ただ飯食いに来るだけだけど。母親狙ってる奴がうちに来るなんて初体験だからちょっと緊張する。

 やっぱりオレが守るべき?それとも本人達に任せるべき?

 考えてもよくわかんないから、流れに身を任せるしかないかなって思う。

 華と一緒に学校から帰ったら、母親はうっすら化粧してた。服もいつもの毛玉だらけのオレのお下がりスウェットじゃなくて、ジーンズにロンTパーカー姿。

 流石に他人が来るのにいつもの格好じゃまずいだろうって言ってた。

 オレはスウェットズボンに上はロンTとパーカーのいつもの部屋着。華は母親がパーカーワンピに着替えさせたみたいだ。


「夕飯、鍋にすんの?」


 着替えた後、台所に出てる土鍋と冷蔵庫の中身見て母親に聞いた。

 うちは冬ほとんど鍋になる。楽だから。


「もう寒くなって来たし、鍋なら好きに食べられるじゃない?」

「酒は?飲む?」


 冷蔵庫には発泡酒。田所、こんな安い発泡酒なんて普段飲まねぇんじゃないかな。


「車かもしれないし、どうかしら?それは私が飲みたくて買ったの。」

「家だからって、あんまり飲み過ぎんなよ。」


 まだ夕飯支度するには早いし、居間で絵を描いてる華の隣に漫画持って座った。

 母親が観てるテレビでは、デパートでやってる北海道展の紹介してる。


「フロマージュ美味しそう。」


 母親の声で画面に目を向けたら、リポーターがチーズケーキを食ってた。


「日曜、華と行ってきたら?そんな遠くないじゃん。」

「行こうかしら。華ちゃん、日曜ここ行かない?」


 スケッチブックから顔上げた華がテレビ画面確認して、頷く。


「行く。」

「やったぁ!日曜は美味しいもの食べましょうね!」


 華が絵を描かない時の日曜は、母親が華を独占する。二人でオレおいてあちこち出掛けてたりする。


「オレにもなんか買って来て。」


 ほんとはオレも行きたいけど、バイトだから仕方ない。それに、出掛けた後の華が楽しそうにどこで何したって話してくれるの聞くのも楽しいんだ。


「秋には何が良いかしら?このカニ弁当とか?」

「でもこれ、限定で並んでるじゃん。日曜は無理じゃねぇか?」

「そうね。こんなに並ぶのは嫌。」


 だろうなって笑って、漫画また読む。チラって見た華が絵を描かないでテレビ観てたから、ゴロンて華の膝に寝転がる。見上げた華は、オレを見下ろして笑ってる。頭撫でてくれるのが気持ちくて、漫画置いて華のお腹に抱き付いた。


「秋、可愛い。」


 ほっこり気持ちがあったかくなって、グリグリ華のお腹に顔擦り付ける。そしたら華が、くすくす笑ってる。


「華の方が可愛い。」


 溶けた顔で見上げて言ったオレのおでこに、華がキスをくれた。


「もっと欲しい。」


 上げようとした華の頭片手で抑えて止める。

 横目で見た母親は、苦笑しながら台所行った。


「ねぇ、華、もっと、欲しい。」


 ちょっと苦しい姿勢でオレに止められてる華は、迷ってから、唇にキスしてすぐ離れる。それをオレはまた止める。困った顔の華が可笑しくて、オレは蕩けた顔で笑った。


「足りないよ。」


 甘えて強請ってみたオレのほっぺに手を当てて、上半身折り曲げて長いキス。チロって唇舐めたら、華から舌を出して絡めてくれた。

 二人きりじゃないからそこで終わり。

 満足して笑って、オレはまた、華のお腹に腕巻き付けた。



 18:30過ぎに、玄関のベルが鳴った。

 鍋は母親が用意して、くつくつ煮込んでる。居間でテレビ観てた母親が立とうとしたの止めて、オレが玄関行って戸を開けた。


「こんばんは。」

「こんばんは。迷わなかったですか?」

「大丈夫です。近所に住んでいますから。」


 招き入れながら、衝撃の事実発覚。土日の二回とはまた違ったスーツをビシッと着てる田所は、仕事帰りだけど全くヨレヨレしてない。鉄人かロボットなのかも。


「あら、ご近所さんなの?」


 母親も居間から顔出して、近所発言に驚いてる。それに答えた田所が言った場所は、確かにうちから十分くらいで着く所だった。


「お嬢様のマンションから近い場所に住んでいるので、私が選ばれたのですよ。」


 なるほどな。じゃなきゃ五年も通ってられないか。

 しかし、母親の危険度が増した気がするのは気のせいか。


「宜しければどうぞ。」


 田所が母親に差し出したのは、近所のスーパーじゃ見掛けないような赤と白のワイン。それと、生のイチゴ。


「華の好きな物、知ってるんですね?」


 会話がままならなかったって聞いてたから、ちょっと意外。


「お嬢様は果物しか召し上がらないので、色々お持ちしてみた時にイチゴが一番減りが早かったもので。お好きなのかと思いました。」


 よく見てる人なんだな。やっぱり冷酷人間は取り下げよう。

 立ったままもあれだからって、ワインとイチゴをオレに渡した母親が居間に田所を案内した。

 イチゴはデザートで出そうと思って冷蔵庫しまって、ワインって冷やすものかわかんなくて悩む。母親が飲むのはいつも発泡酒だから、ワインなんて扱いがわかんない。


「ねぇ、ワインって冷やすの?」


 わかんないから聞いてみた。

 それに答えたのは田所だった。


「白ワインは冷蔵庫で、赤ワインは常温が良いです。」

「近所なら、田所さんも飲みますか?」


 田所に聞いてるオレの横で、母親がご機嫌で滅多に使わないワイングラス二つ出してる。


「鍋が肉団子だから、赤か良いわ!」


 そういうもんなのかなって思いながら、白は冷蔵庫入れて、赤ワインとコルク抜き持って居間に行く。

 開け方わかんないから、田所に渡した。

 母親は一緒に飲む気満々でワイン開くの待ってるからオレは食う支度するかってまた台所戻ろうとして、華に抱きつかれた。


「どうした、華?」


 きゅうって腰に巻き付いてくる華が可愛くて、緩んだ顔で見下ろす。


「秋、ご飯?」

「ご飯だよ。お腹空いた?」


 頷いた華のおでこにキスしたら、華はいつもの場所で体育座りになった。

 オレは鍋の様子確認して、食器や箸の支度する。ニコニコしてる華に見られながら、台所と居間を行ったり来たりしてるオレを田所もワイン片手に観察してた。


「なんすか?」


 やたら優しい瞳で観察してくるから、居心地悪くて田所に聞いた。


「いえ。本当にここは、"温もりの場所"なのだなと思いまして。」

「あら、なんですか?それ?」


 にっこり笑った田所の言葉がわかんなくて、オレは首傾げて、母親が聞く。

 それに、田所は笑みを深く優しくして、答えをくれた。


「お嬢様が描いた絵です。"温もりの場所"というタイトルで、こちらの台所が描かれていました。」

「あぁ。あれか。」


 あの絵かって、オレは納得して、また台所戻って鍋を取りに行った。


「好きなように食って下さい。」


 鍋の蓋開けて、田所に言う。


「華、おいで。食おう。」


 鍋の蓋台所に置いて、華連れてオレらも座った。

 取り皿に華の分取り分けて、最初は取ってやった方が良いかなって田所の皿にも食べれない物ないか聞きながら取り分けて渡す。

 田所はなんでも食えるらしい。


「秋くんは、面倒見が良いんですね。」


 オレが差し出した皿を受け取りながら田所がそんな事を言う。だから、普通ですよって答えておいた。

 うち来てから、やたら優しいあったかい瞳でオレを見てくるの、やめて欲しい。

 そういえば、田所はいつの間にかネクタイ取ってジャケットも脱いだシャツだけのちょっとラフな格好になってる。ハンガーに掛かってるのが見えたから、母親が脱がせたのかな。鉄人が人間になった気がする。


「秋、秋、イチゴ食べたい。」


 最初に取り分けてやった分完食した華が主張した。目ざとい。実は玄関のやり取り見てたんだなってわかった。


「まだダメ。後で。もう少し鍋、食えるだろ?」


 不満顔、可愛い。

 にっこり笑って、でもオレは負けない。


「ほら、肉団子好きだろ?あと何が良い?」

「………しいたけ。」


 肉団子二個としいたけ皿に入れて、華の前に置く。


「秋きっびしー。」


 ほろ酔いでご機嫌の母親がそんな事言ってるから、溜息吐く。


「おら、お前も酒ばっか飲んでないで食え。何食う?」

「肉団子と野菜!」


 食より酒が進んでる母親にも具を取って渡した。


「田所さんは、食ってます?遠慮しないで下さいね。」

「大丈夫です。頂いてます。この鍋も秋くんが作ったんですか?」


 確かに田所はちゃんと食って、酒も飲んでる。顔色変わってないから、酒強いみたいだ。


「鍋は母親が作りました。」

「そうですか。とても美味しいです。」

「それは良かった!」


 母親、発泡酒の時より機嫌が良いのは、酔ってるのかワインがうまいのかどっちなんだろ。赤ワインもう空きそうだし、心配になる。


「秋、食べた。イチゴ。」


 肉団子と椎茸完食して、イチゴ強請る華に苦笑する。


「もうお腹いっぱい?」

「いっぱい。でもイチゴは大丈夫。」

「仕方ないなぁ。」


 そんなにイチゴ好きなんだなって笑って立ち上がる。

 今の時期のイチゴは高い。だからうちで買えるのはもっと安くなってから。

 どんだけイチゴ食いたいのか、華は自分の食べ終わった食器持ってついてきた。食器をシンクで水に浸けてから、イチゴを冷蔵庫から出したオレの背中に貼り付いてくる。

 背中で見えないけど、絶対顔キラキラさせてんだろうなって笑って、イチゴ洗った。皿三つ出して分けて、華のにはオレの分も一緒に入れる。

 二皿はまた冷蔵庫入れて、待ちきれない顔してる華にその場で一つ口に運んでやった。


「美味しい?」


 にっこにっこして味わってるから聞かなくてもわかるけど、聞いてみる。

 ぶんぶん首縦に振って、皿から一個、華がオレに差し出してくれてオレも食う。


「甘くて美味しいね。」


 こんなに喜ぶなら、時期が来たら毎日でもイチゴ買ってやろうって、思った。

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