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ふかふかベッドなのに朝飯の匂いがする。寝ぼけながら目を開けたら、華がオレを膝抱えて見下ろしてた。
「華、おいで。」
腕伸ばして呼んだら華が隣に寝転んで、キスしたくなる。だから、華の上に覆い被さって唇貪った。左手は華の手と指絡ませて、右手は服の中に忍び込ませる。素肌滑らせて柔らかい膨らみに辿り着いて、押し上げるみたいに揉む。
唇から顎、首筋、舐めて吸って、下りてく。
「あ、あき、…ごはっん、あっきままがぁん」
突起引っ掻いたら甘く啼く華。舐めたい。邪魔な服捲り上げようとして、後頭部殴られた。
「寝ぼけてサカってんじゃないわよ!バカ息子!」
いろんな衝撃で撃沈したオレの下から、華が引っ張り出されて連れ攫われた。
ちょい、オレ、再起不能。
このまま二度寝して夢の中に旅立つしかないって思って、布団に潜り込んだ。
「秋、逃げても現実よ!直視して起きなさい。ご飯食べるわよー」
現実、厳しい!
うがぁって叫びたくなったけど、気持ちだけで我慢。
起き上がって、朝飯の元へゆく。
チラッて確認した華は、真っ赤な顔で食パン食ってる。
「……華、ごめん…その、寝ぼけてて、つい…襲いました!」
男は思い切り良く、土下座だ!
しかも母親に見られてた。なんて恥。しかも大切な子を寝ぼけて襲うだなんて、どんだけ欲求不満。
穴があったら入りたい。
「秋。」
顔あげられなくて土下座キープのオレの頭を華が撫でた。
「秋なら、全部大丈夫。」
やばい、今度は違う意味で顔あげらんない。顔真っ赤で熱くて、鼻血噴きそう。
「華、大切にするから!そんな煽るような事言ったらダメ!」
気合い入れて起き上がって、華を抱き締めた。
そんなオレらを笑って見てる母親。昨夜、どこで寝たんだろ?やっぱ同じベッドかな。三人なら眠れそうだしな。
脳内で軽く現実逃避しながら、朝飯食った。
オレらが学校行くのと一緒に母親も出て、うちに仕事の用意しに帰った。
華と手を繋いで学校向かいながら、自分の理性の限界について悶々と悩む。
「秋、何、悩み事?」
自分の席座って真っ先に祐介に言われる程、悩んだ。
「昨日さ、うちの母親を捕食者の瞳で見る男に会った。」
本気で悩んでる方じゃなくて、もう一つの方を口に出す。
銀縁眼鏡田所。あいつの事も少しは考えなくちゃだ。
「あー、秋のお母さん美人だもんな。再婚すんの?」
「違う。その男、華の絵を"持って行く人"なんだよ。遭遇して、うちの母親に惚れたっぽい。」
「何それ、また面白そうな事になってんじゃん。」
興味津々の祐介。そりゃ他人事だったらなんでも面白いだろうよ。
「そんな変なやつなの?」
オレの表情から読み取った祐介の台詞に、オレは頷く。
「嫌なやつ。冷酷銀縁眼鏡野郎。」
「なにそれ?」
「オレがつけた。銀縁眼鏡してたし、あいつは冷酷人間だと思う。」
「ふーん。でもその人、東さんが顔見分ける数少ない人なんじゃねぇの?」
確かにそうだ。それって、やっぱり何かあったからかな?それとも年月の問題?
「うーん。華が見分けてるって事は、あの人なりに華になんかしてくれてたのかなぁ?」
「ご飯くれてた。」
絵を描いてた華が呟いた。
手を止めて、前を向いたまま。
「悲しい顔で、ご飯くれてた。」
「……他には?」
「謝られた。私には、これしか出来ませんって。」
「それがあの高級弁当?」
こくんて頷く華見て、考える。それって、オレがやってた餌付け作戦と一緒じゃないのかなって。
「誰かが、あなたを救ってくれますように。」
「え?」
「言われた。」
「持って行く人に?」
今度はこっちに振り向いて、こくんて頷いてる。
田所の願いなり行動なりは、反応しなくても、華の心には届いてたってことかな。
「華は、救われた?」
怖いけど、やっぱり聞いてみたかった。
内心ビクついてるオレに、華はふんわり笑う。
「秋が来た。」
華が手を伸ばしてオレの頬を撫でるから、オレはその手に擦り寄って、華の瞳を見返す。
「オレは、華の救いになれてる?」
笑顔でこくんて頷いた華に、オレも笑顔になって、顔を寄せる。
「華、好き。大好き。オレは、何よりも華が大切。」
唇に二回、触れるだけのキスをして離れた。
「氷の女王の心を溶かしたのは、秋の献身的な愛情でした。」
隣で頬杖付いてオレと華を眺めてた祐介がそんな事呟くから、そっちに顔を向ける。
「だってさ、東さんって氷の女王っぽくない?魔法溶けて、本来の綺麗な女王に戻りました。みたいな。」
にって笑う祐介が可笑しくて、オレはぶはって噴き出した。
「お前って、結構メルヘン脳だな。」
「秋のいつでもどこでも花畑脳よりマシ。」
笑いながら、冷酷人間は取り下げてやっても良いかなって、ちょっとだけ思った。




