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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
4/56

木曜 1

 4日目。自販機でイチゴ牛乳買ってたら、後ろから来た祐介に可哀想な物を見る目をされた。

 オレは決して可哀想なんかじゃない!

 

「なんか…ウケる。」


 そう言う祐介の顔は全然ウケてない。

 二人で教室行って、自分の机の上にイチゴ牛乳置いて華を待つ。

 友達とかクラスのやつらに挨拶しながら待ってたら、華がきた。


「華!おはよう!」

「…おはよう。」


 駆け寄るオレを、華は毎度のチラ見だ。

 いつか真っ直ぐ見て欲しいもんだけど、今はこれだけで満足しとく。スタートラインに立つ前は、認識すらされてなかったんだから。


「飲む?」


 席に向かう華に手にしたイチゴ牛乳を振って見せたら、頷きが返ってきた。昨日みたいにストロー刺して、座った華に渡す。

 オレがあげたイチゴ牛乳をチューチュー飲んでる華。それを隣でしゃがんで見上げるオレ。なんだろ、この幸福感。


「イチゴ牛乳、好き?」


 飲み終わったパックを受け取って聞いてみた。


「好き。」


 やばい。やばいやばいやばい。

 勝手に脳内変換出来ちゃうオレは変態か。

 腰砕けそうになりながら、ゴミ箱に空のパックを捨てに行った。

 今回の華の絵は、ゴミ箱に落ちる潰れたイチゴ牛乳のパック。いつかその絵に、オレも入れてくれないかな。



 やってきたぜ弁当タイム!

 華はまたバナナ。多分バナナを房で買ったのが家にあるんだろうな。


「ね、華?これは手作りじゃないよ。これなら食べれる?」


 昨日バイトしながら思い付いた作戦。既製品ならばいけるんじゃないか。

 期待と不安が入り混じりながら、オレはミートボールを箸で摘まんで差し出す。

 華は、そんなオレとミートボールを交互に見て、少ししてから口を開けた。その口に恐る恐るミートボールを差し入れる。ぱくんと小さな口が閉じて、箸をその口から抜いた。

 た、食べた!!!


「美味しい?」


 半端ない感動を覚えながら、ミートボールを咀嚼してる華に聞いたら、頷いた。

 なんか涙でそうになってるよ、オレ。


「あのね、このほうれん草も冷凍食品。食べる?」


 ミートボールを飲み込んだ華に聞いてみるけど反応がない。箸で取って口元に運んでみたら、口を開けた。

 なにこれ、マジやばい。可愛過ぎてヤバイ!

 むぐむぐ口の中のほうれん草を噛みながら、華はスケッチブックと鉛筆を持った。多分これはもういらないんだな、って判断してオレも食おうと弁当に向き直る。

 これ、この箸。

 変な緊張がオレを襲う。童貞かよってくらいその箸に興奮して、なんでもない風を装って弁当食った。

 なんか心臓バクバクしてる。

 華が昼休みに書いたのはまたオレの弁当。だけど今回は、箸に摘ままれたミートボールが仲間入り。明日は何を持ってこようかなって、なんかウキウキした。



「華!帰ろ!」


 ホームルームが終わったら脇目も降らずに華に駆け寄る。

 祐介が忠犬かよって呟いてたのは無視した。華に飼われるなら、犬でもなんでも構わない。


「ね、華?」


 階段降りながら華を呼ぶ。チラッと華の瞳がオレを見た。


「華、好き。」


 黙殺されたけど、何度でも言う。信じて。冗談とかじゃない。本当なんだ。

 好き好き攻撃を仕掛けながら下駄箱まで行って靴を履き替えた。


「秋は、変。」


 華が呟いた。

 華がオレをチラ見した後、目を丸くしてまじまじと見てくる。初めてこんなに長く華の瞳にオレが映ってる。

 胸が、震えた。


「名前、嬉しい。」


 オレは、みっともなく泣いてた。

 名前呼ばれただけでこんなんなるなんて、どうかしてる。

 ぐしぐしと袖で涙を拭ってるオレを、華はまだ見てる。


「秋?」

「なに?」

「嬉しいのに、泣くの?」


 華は、心底わからないって顔してる。

 オレはもう、華の声がオレを呼ぶのがたまらなく嬉しくて、泣きながら頷いた。


「嬉し過ぎて、涙でる。」


 オレから視線を外した華は、変なのって、呟いてた。

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