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絵を描く黒猫  作者: よろず
二部
38/56

6

 華の家には炊飯器ない。だから米は鍋で炊く。

 米研いで、水につけるのは時間ないから省いて蓋した鍋をコンロで強火に掛ける。その横でフライパンでお湯沸かす。昨日残ったほうれん草は洗ってシンクに置いといて、100均で買ったまな板出して玉ねぎ薄切り。

 お湯沸いたフライパンに塩とほうれん草入れて茹でて、茹だったらお湯から上げて冷水で晒してから絞ってザルに置いとく。

 米の鍋ぶくぶく泡が無くなったから中火。スマホで七分タイマーセット。

 フライパン軽く洗ったら出汁の素と水、醤油、酒、みりんで出汁作って、買ってきた鳥モモと玉ねぎ入れて蓋して煮る。

 洗ったまな板でほうれん草切って、胡麻和え作って、今度は油揚げと大根切って別の鍋に水と出汁と一緒に大根入れる。

 タイマー鳴ったら米の方弱火にしてまた十分セット。

 沸騰してるフライパンコンロからどかして大根入った鍋を火にかける。丼三つと味噌汁のお椀二つ、オレの分は適当な大きさの器用意。

 沸騰した鍋に油揚げ入れて、ちょっと待ったら火を止めて味噌溶かす。米のタイマー鳴ったら火を消してコンロからどかして、またフライパン火にかける。卵三つ解きほぐしたら煮立ったフライパンに回し入れて蓋。

 火を止めたら布巾で机拭いて、箸三膳並べて、皿に盛った胡麻和えと味噌汁並べて、蒸らし短いけど丼にご飯と具をのせて親子丼も運ぶ。


「華おいで。」


 体育座りでオレを見てた華呼んで、机に座らせた。


「簡単なものですけど、どうぞ。」


 オレと華を正座のまま観察してた持って行く人にも声掛けてオレも座った。


「「いただきます。」」

「……いただきます。」


 しばらく三人で黙って飯を食う。オレも腹減ってたから、親子丼掻き込んで、華の口にほうれん草運んで食べさせたりしながら完食。満腹だ。

 華はいつも通りゆっくり。持って行く人は上品な感じでまだ食ってるから、お茶淹れるかなって空の食器持って立ち上がる。

 お茶淹れて戻ったら、持って行く人が食い終わってた。


「ごちそうさまでした。」

「お粗末様でした。」


 三つ淹れたお茶一つを持って行く人の前に置いて、空いた食器回収して台所に持って行く。


「寺田さんは、料理がお上手なんですね。手際もいいです。」

「それはどうも。うち、母子家庭なんでガキの時から台所立ってたんですよ。」


 華がまだ食ってるから、オレもまた座ってお茶飲んだ。


「田所さんって、華の父親と連絡取り合ってるんですよね?」


 さぁて聞くか、ってちょっと気合い入れて、前に座ってる持って行く人を見る。


「社長はほとんど海外にいらっしゃるのでメールが主ですが、お嬢様の様子はご報告しています。」


 放置だけど、父親も一応気にしてはいるって事なのかな。


「なんで父親が華を放置して独りにしてるのか、田所さんは知ってます?」

「……私は雇われている身なので、社長のプライベートまでは存じ上げません。」


 淡々とした声で返って来た言葉に、落胆する。そんな気はした。だって、この人あからさまに仕事人間で興味無さそうだもんなぁ。

 がっかりしたから、華の頭撫でて癒される。やっと食べ終わった華は、口の回り汚してた。いつもの事だから、ティッシュ取って拭ってやる。


「秋のご飯は美味しい。」


 口の周り綺麗にしたら、華がにっこり笑ってオレを見上げて来た。可愛くて嬉しくて、オレもにっこり笑ってキスする。


「お腹いっぱい?」

「いっぱい。」

「そっか。」


 笑い合ってもう一回キスして、食器片付けるのに立ち上がって、思い出した。一瞬、忘れてた。この人の存在。目の前で正座してオレと華を観察してるこの人、存在感薄いっていうより、消してるよな、絶対。

 まぁ、こういうのも報告されて、父親が焦って日本帰って来たりしたら会えるし、いっか。


「田所さん。もし父親にオレの事報告するなら、うちの母にも会っておきます?」

「ご迷惑でなければ、お会いしたいです。」

「なら、明日でも良いですか?明日なら母が仕事休みなんで、今日オレが帰って来たのと同じ時間にここ来るように伝えます。」

「それで構いません。」


 後で母親にメール入れておくかって考えながら机の上を片付ける。

 この報告で、パパに会えたら良いんだけどな。


「では、私はお暇します。明日、16:30にこちらに伺えば宜しいでしょうか?」

「そうですね。それで良いです。鍵、持ってるんですよね?」

「お預かりしています。」

「華はここで絵を描いてると思いますけど、オレと母の方が遅く着くかもしれないんで、今日みたいに中で待ってて下さい。」

「わかりました。」


 話しながら持って行く人を玄関まで送って、靴べら使って革靴履いてるのを見守る。


「それでは、また明日。」


 磨かれた革靴履いた持って行く人は、きちっとしたお辞儀してから玄関出ていった。

 ビシッとアイロンかかったスーツ。磨かれた革靴。靴下も新品同様綺麗なやつ。あんな人が前の酷い状態だったこの家出入りしてたなんて、苦痛だったんじゃないかなって思った。でも、それでもあの人は放置してたんだから、オレには関係ない。


「疲れた。」


 いつか遭遇出来るだろって思ってたけど、いざ遭遇したら気疲れした。

 あの人がもっと人間味のある人だったら、華は救われてたのかな。なんて、考えても仕方ない事が頭を過る。


「秋。」


 ドア開けたら、華が駆け寄って抱き付いて来た。

 きゅーって抱き締めて、華の首筋に顔埋める。絵の具の匂いが混じった、大好きな華の匂い。


「明日、また来るんだって。絵を描く邪魔になっちゃうけど、ごめんね?」

「問題ない。」

「そっか。……ね、キスして良い?」


 いつもは確認なんてほとんどしないけど、今は許可が欲しい気分。

 首筋から顔上げて、おでこぶつけて華の瞳を覗き込む。真っ直ぐオレを映してくれるようになった、華の瞳。


「いいよ。」


 ふんわり笑った華がくれた許可で、長く触れるだけのキスをする。華は、キスする時もずっとオレを見てる。だから、いつもオレもその瞳を見返す。華の瞳にオレが映ってるのが、たまらなく嬉しい。


「華、舌ちょうだい?」


 強請るオレに、華は口開けて小さい舌を差し出してくれる。口角上げて笑って、オレは吸い付く。水音立てて舐めて、扱いて、吸って、背中に回してた両手、柔らかさ堪能しながら下ろしてく。


「どうしよ、めちゃくちゃ華のこと、食べたい。」


 このままだとマズイって思って、キスの合間に掠れた声で呟いた。両手は、辿り着いた柔らかい場所を服越しに撫でて、ちょっと掴む。


「た、たべるの…だめ。」

「………残念。」


 意味は分かってないだろう華の制止の言葉で、華の可愛いお尻から手を離した。唇も離して見下ろした華は、息乱してオレに縋り付いてる。


「でも…少しだけ、味見。」


 少しだけ。そう思って、腰に回した腕に力込めたら、華は胸元差し出す格好になった。首筋に唇押し当てて、跡付かない程度で吸ったり、ちろりって舌出して舐めながら鎖骨まで。腰に添えてない右手で、服越しに華の胸を包んだ。柔らかい。


「華、絵、描く?」


 そのままの体勢で鎖骨の所で声出したら、華の体がビクッて震えた。

 右手は、動かさないように我慢。鎖骨から顔上げて見上げたら、華がこくこく頷いた。


「そっか。じゃあオレは、洗い物しなくちゃ。」


 右手、やわやわ優しく動かして、あぁ、離れなきゃなって考える。


「あっ、秋!え、絵、絵を描く!」


 甘い声で啼いた自分に驚いたっぽい華が、焦ってオレを呼んで、もがいた。残念だけど、解放。

 両手離したら、華は床にへたり込んだ。


「華、かぁわいい。」


 しゃがんでにっこり笑い掛けて、オレは立てなくなった華を抱き上げる。描き掛けの絵の前で下ろして、おでこにキスしてから離れた。

 洗い物したら、風呂入って頭冷やさなくちゃって考えながら、台所行った。

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