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絵を描く黒猫  作者: よろず
二部
35/56

3

 ハンバーガー作って売ってってしてると思う。もっと健康的な物食えよって。まぁそうされたら仕事無くなって困るけど。

 うまいけどさ、ハンバーガー。

 楽だけどさ、ファストフード。

 混んでる時はちょっとげんなりする。


「秋は今日も東さんの家?」


 油臭くなった体で学校の制服に着替えてるオレと祐介は、忙しかったから疲れた顔してる。

 行くよって肯定したら、祐介が笑った。


「秋って本気になると一途だったんだな。」

「まぁな。」


 オレは華が初恋。

 今まで付き合った人もいたけど、全部向こうから言ってきた子達。オレなりには大切にしてたつもりだったけど、泣かれたりすると面倒で、別れてもなんにも痛くなかった。

 でも華は違うんだ。

 笑ってて欲しい。なんでもしてあげたい。失うなんて考えらんない。

 こうまで変わるなんて、恋って不思議だ。


 電車の祐介とは駅前で別れて、オレはスーパー寄ってから華のマンション向かう。

 オレがバイトある平日とか華が絵を描くって時には華のマンション泊まってる。それ以外は華がうちに泊まって、母親と三人で過ごす。

 だから、華の家に簡単な調理器具も揃えた。華にあったかい飯食わせられるようにって。

 食材入ったエコバックぶら下げて、鞄から鍵を取り出す。その鍵でオートロックの自動ドア開けてエレベーターに乗り込む。

 鍵は、ちょっと前に華がくれた。インターホンに反応するのが面倒臭かったんじゃねぇかって、オレは睨んでる。

 エレベーターが七階着いて、その鍵で玄関開けて中入ると微かに絵の具の匂い。これが、華の家の匂い。

 リビングダイニングの電気ついてるから、絵を描いてるんだと思う。


「おかえり、秋。」

「華、ただいま。」


 ドア開けたら、華は真っ白なキャンバスの前で体育座りしてた。振り向いたら嬉しそうに笑って駆けて来て抱き付いてくるから、持ってた荷物床に放って、華の華奢な体抱き締め返す。


「絵、描いてなかったの?」


 華に絵の具が付いてない。服に付いてる絵の具は、前に付いて落ちなかった古いやつ。


「考えてた。」

「何を?」

「描くもの。」

「そっか。」


 見上げてくる華の顔にキスの雨を降らせて、離れてた間の華の補充。

 顎から辿って首筋に唇這わせてから、華の首に顔埋める。


「華の匂いだけだね。」


 いつもこの家にいる時は絵を描いてるから、華の匂いに絵の具の匂いが混ざるんだ。


「お腹空いた?」

「空いた。」

「すぐ、作るね。」


 埋めてた場所から顔上げて、耳、唇って軽くキスしてから体を離す。床に放ってたエコバック取って台所に入った。

 華は体育座りになって、動き回るオレをじっと見て待ってる

 大根と人参切って、水と出汁と一緒に鍋に入れて火を付ける。沸騰するまでにほうれん草洗って、ほうれん草とネギ切って、沸騰した所に両方ぶっこんでからお椀の用意。冷蔵庫から前に買っておいた味噌と卵取り出して、卵は二つ、お椀に割り入れて解きほぐす。ほうれん草がしんなりしたら、ミリン、酒、醤油、味噌で味調えて、今日買ってきたうどん三玉投入。うどんに火が通ったら溶き卵回し入れて、かき玉うどん完成。


「今日はおうどん?」


 鍋からお椀に移してたら、鼻をすんすんさせながら華が寄って来た。待ちきれないって顔して覗き込んでる。

 そんな華のおでこにキスして、お椀二つと箸持って台所から出た。

 前にうちから持って来た折り畳みの机にお椀置いて、そのまま床に座る。

 華も隣に座って、二人で手を合わせていただきますって挨拶してうどん啜った。華は猫舌だから、これでもかってくらいふーふー息吹き掛けて冷ましてる。

 オレが完食しても華のお椀にはまだほとんど残ってた。ゆっくり美味しそうに食べる華を目の前で眺めるのは、オレの一日で大事な至福の時間。


 飯の後は、華はまた真っ白なキャンバスの前に体育座り。オレはその背中見ながら洗い物を片付けて、華に声掛けてから着替え持って風呂に行く。

 バイトの後は、さっさと風呂入ってさっぱりしたい。それに今日はマラソンで汗かいたから余計に体気持ち悪かった。


「華も風呂、入ったら?」


 濡れた髪タオルで拭きながら戻ったら、まだ体育座りしてた。

 頷いて華が立ち上がったから、着替え持たせる。放っておくと着替え持たないで風呂行って、タオル一枚で出てくるから困るんだよな。理性の限界チャレンジなんてしたくない。

 華の家にはテレビが無いから静か。でも大抵寝るか、絵を描く華眺めてるかだからそれで問題無い。

 冷蔵庫からミネラルウォーター出して、ベランダに出る。そこから見える微かな夜景とうっすらした星空眺めながら水飲んだ。

 空気が冷たい。もう冬かって思いながら吐き出してみた息は、少し白かった。


「さむっ」


 流石に長くいるともう寒いなって思って中戻った。


「秋。外、見てたの?」


 窓とカーテン閉めてたら華が戻ってきた。側に行って、タオルを受け取る。


「華が描いた絵、思い出してた。」

「"地と空の星"?」

「それがタイトルなの?」


 髪拭いてるタオル越しに、華がこくんて頷いた。


「あの絵、どんな人が買ったんだろうな。」


 答えないって事は知らないんだ。

 華の手を引いて、洗面所でドライヤーで髪乾かして梳かす。終わったら華がまたキャンバスの前で体育座りするから、オレもその後ろ座って華を抱き締めた。

 次はどんな絵描くのかなって、楽しみ。

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