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布団が徐々に増えてきて、中々起きられなくなる季節。
オレは寝ぼけながらすぐ側の温もりを抱き締めて、顔を埋めて満足する。柔らかくて、あったかい。掌であちこち探りたくなる。
目が覚めてきて、オレは自分の手が不埒な動きをしないように握り拳作る。毎朝の試練。
目を開けると大好きな女の子。
安心しきった幸せそうな顔ですやすや寝てる。幸せな拷問。
寝顔眺めながら、煩悩と戦ってたら、オレの腕の中で華が目を覚ます。オレと目が合うと、嬉しそうにふにゃりって笑うんだ。
「おはよう。秋。」
「おはよ、華。」
起きてるなら許されるかなって、顔近付けてキスする。長く唇合わせて、我慢出来なくなって来て、閉じた華の唇を舌先でチロチロ舐めてノック。華が少しだけ開いて許可をくれたら滑り込ませて、舌を見つけて絡ませる。誘い出して、オレの口の中招き入れて、拳にしてた手が緩んできて、柔らかそうな膨らみににじり寄る。触りたい。前に着替えてるの見た時、大き過ぎず小さくもなく、すげぇ柔らかそうだった。指先で、少し掠める。
「朝よー!ご飯よー!起きなさーい!」
勢い良く開かれた戸を合図に、また手を握り込んで唇も離す。
毎朝危うい所で邪魔する母親。助かるけど、出来ればもっと早く邪魔してくれねぇかな。
もそもそ起き上がった華が母親の所行って、オレは布団の中でがっくりして蹲る。生殺し、煩悩との戦い、ツライ。
気合い入れて布団から立ち上がって自分の部屋から出る。華は机の側でマグカップ抱えてホットミルク飲んでる。オレのコーヒーも机に置かれてるから、華の隣に座って啜る。
最近うちの朝飯は華の家から持ってくる食パンとかバナナにヨーグルトかけて食べるのが多い。
華はバナナにヨーグルトが気に入ったみたいで毎日それ。オレは両方食う。
「華、筋肉痛きてない?」
昨日はデートでたくさん歩いた。夜寝る前にマッサージしてやったけど、インドア派な華は筋肉痛酷いんじゃねぇかな。
「ふくらはぎピリピリ。」
やっぱりなって思ってオレは笑う。
「今日体育マラソンだったよな。ヤバくねぇ?」
「歩く。」
華は体育やる気ないもんなって、また笑う。サッカーの授業は、パスが少し出来るようになった所で終わった。
「いいなぁ、私も行きたかった!」
「仕事だったんだから仕方ねぇだろ。それに、息子のデートについてくんな。」
「えー私も華ちゃんと遊びたい!」
「ふざけんな。この前オレがバイトの時二人で買い物行った癖に。」
母親は日曜は仕事休みだから、オレがバイト頑張ってる時に華を一人締めしてやがる。
昨日華が背負ってたリュックは、その時母親が華に買ったやつだ。オレの知らない所で二人で出掛けて、いつの間にか華の服とかが増えてたりする。
別に良いけど!羨ましくて悔しい。だから来月はバイト減らそうか悩み中。
母親が遅出の時は華の髪は母親がやる。その間にオレも自分の準備。
今日は遅出だから、母親が弁当も作ってくれた。
支度終わって居間に行ったら、華は頭のてっぺん一つのお団子になってる。
「可愛い!それも似合う!」
きゅうって抱き締めた腕の中で華は嬉しそうに笑う。母親も満足気に笑って、オレと華を見送った。
「華、すっげえ可愛い。大好き。」
指絡めて繋いだ手を引っ張って抱き寄せる。おでこにキスして、華と笑い合ってからまた歩く。
学校は、最近やたら視線感じるようになった。振り向くとオレと華をうっとりって顔で見てる女の子達。あからさまに観賞されてるんだよな。
でも、あれから華が変な事されてる様子がなくなったから、見るだけなら好きにしろって放置してる。華も別に気にしてないし。
「おは。これやる。」
教室入ったら祐介に昨日買った土産を渡した。
「サンキュー!おはよ、東さん、オレの名前は?」
「秋の友達。おはよう。」
がっくり肩落とす祐介の姿に、オレはぶはって笑う。
華は祐介を名前で呼ぶ気はないみたいだ。でも会話が成立するようにはなってきてる。
祐介も華の絵の事知ってるけど、芸術はわかんねぇって言って別に何かが変わる事はなかった。
変わったといえば、席替えしたんだ。
オレは窓際一番後ろ。華はオレの前の席。なんか、華の前後と隣のクジ引いたやつが交換してくれるって言ってくれて、でかいオレが視線遮らないように後ろのやつと交換してもらった。みんな親切。
その時祐介も便乗して、華の隣と交換してもらってた。だから席替えしてからは、絵を描く華を眺めながら祐介と会話してる。
「なぁ、昨日の写真撮ってねぇの?何乗った?」
「撮った撮った。絶叫系一通り乗った。」
スマホ出して、昨日撮った写真表示させて祐介に渡す。
「コスプレしてんじゃん!しかも似合ってるし。流石二年の名物バカップル!」
「んだよ、それ?」
「秋が学校のどこでもデレてるから、結構有名。」
ファンクラブの次は名物とか…どんだけ見世物なんだよってげんなりする。
写真から視線上げた祐介はオレの顔見て声出して笑ってるし。他人事だと思いやがって。
「てかさ、祐介のその情報通みたいなのなんなの?」
「普通だろ。知らないのは秋が当事者だからだよ。ほら、あそこ。あれも秋と東さん見に来てる。」
祐介が指した教室の後ろの戸を見たら、数人の女の子が固まってこっち見てた。目が合ったら途端に騒いでる。
「なんで華まで?」
オレはファンクラブとかあったらしいけど、なんで華を女の子達が見て喜ぶのかわからん。
「東さん、ちゃんとしてたら美少女じゃん。だから、秋と東さんの美形カップルのイチャイチャを愛でて楽しんでるらしい。」
「暇人かよ。」
呆れて溜息出る。
なんかほんとにアイドルみたいだ。でもまぁ、そんなに有名なら華に迂闊に手を出せないだろうし、逆に安全なのかも。
「華。」
呼んだら手を止めて振り向いてくれる。オレが何も言わないで見つめてたら、首傾げてどうした?って動作。
「可愛い。大好き。」
髪崩さないように後頭部に手を添えて引き寄せる。チュッて、唇に触れるだけのキス。顔離したら、華がふんわり笑ってくれる。あー幸せー。ってデレてるオレの耳に甲高い声が届いた。
さっきの女の子達を横目で見たら、赤い顔して興奮して騒いでる。
「うるせぇ。」
ついつい出た舌打ちで、ピタリと静かになった。
「見るなら静かにしてろ。」
幸せ気分の邪魔されてオレは不機嫌。騒いだ奴等に顔だけ向けて睨む。こくこく頷いてるから理解したっぽい。
「てかさ、クラスの奴らまで見てんだな。」
今まで気づかなかったけど、みんなチラチラこっち見てる。オレと目が合うと、誤魔化すみたいに笑ったり、焦って視線逸らしたりで色々な反応。
「何が楽しいの?」
理解出来ない。不機嫌と呆れが混ざってるオレに、祐介は他人事感丸出しで笑ってくる。
「害なければ良いんじゃねぇ?」
オレはまた溜息吐いた。
害はある。折角華がこっち向いて笑ってくれたのに、また前向いて絵を描き出しちゃった。
しょんぼりして机に上半身倒して手を伸ばす。後ろじゃなくて隣にしとくべきだった。最近背中ばっかだ。
華のブレザーの縫い目指で辿ってまた溜息。
マジ、さっきの邪魔した奴ら恨む。




