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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
3/56

水曜 1

 次の日、オレは昨日とは違うぜ、な気分で登校した。


「華、おはよう!」

「……おはよう。」


 教室の前のドアから入って来た華に駆け寄って、席まで着いて行く。

 華が椅子に座ってすぐ、オレは手に持ってた物を机に置いた。


「あげる。」


 時期じゃなくて生は無理だから、イチゴ牛乳。餌付け作戦第二段。

 華はイチゴ牛乳のパックをじっと見てる。


「飲む?」


 聞いたらこくんと頷くから、机の上から取ってストロー刺して渡した。華は受け取ってチューチュー飲み始める。

 隣にしゃがんで、机に置いた手に顎乗せて飲んでるのを眺める。ちょっと喜んでる気がする。甘い物、好きなのかも。

 飲み終わったパックをもらって、捨てて戻ると華はまた絵を描いてた。

 担任が来る前に完成した絵は、イチゴ牛乳のパック。

 オレはまた、ぶはって笑った。


 二時間目は体育。二クラス合同で、サッカー、バスケ、バレーボールの三種類から選択したのに別れてやる。華もオレもサッカーだ。九月の選択の時、華が書いた選択の紙を覗き見して決めたんだ。

 パス練習の時、華はいつも余って先生と組んだりしてた。

 けど、今のオレはスタートラインに立った男。


「ね、華、オレとやろう?」


 勇気出して誘ってみたら、華はチラッとオレを見て、首を横に振る。


「もしかして、下手だから?」


 華はパス練習で空振りばっかだ。先生が応援してるけど、やる気もない。多分体育は嫌いなんだと思う。

 華が答えないから、無理矢理ペアになった。

 華とのパス練習は、面白かった。

 先生何教えてたんだよってくらい下手。

 蹴ったボールが変な方向に飛んで行くのは当たり前。だいぶ近づかないとオレまで届かない。オレのパスは華を通り越して遠くに行っちゃう。

 オレは華にボールの蹴り方を教える事にした。でも、パス練はすぐに終わって試合になっちゃった。

 華は試合も全く走る気がない。ずっと立ってる。やる気の無さがいっそ清々しい。

 授業終わりに最後だって言って壁に向かってボール蹴らせたら、ちゃんと前に飛んだ。華は、ちょっと嬉しそうだった。

 三時間目と四時間目の間の休み時間に見た華のノートには、サッカーボールがたくさん描いてあった。

 それを見て笑ったオレを華はチラ見して、何も言わずに違う絵を描く。何故か黒板の絵だった。無駄に上手いし。



 昼休みは、昨日の反省を踏まえてプチトマトを持ってきてみた。

 味が混ざるの嫌だから、弁当とは別の容れ物に入れてる。

 華はまたバナナを剥いて食べてた。


「華、トマト食べる?」


 ヘタを摘まんで差し出してみたら、華はオレの顔をチラッと見てから口を開けた。

 かぷっと咥えたから、ヘタを千切る。

 ……すげぇ、照れる。

 おかしい。今までは誰とでも食べさせあいはよくやってた。人前でも全然躊躇なく出来て、なんとも思わなかったのに。


「お、美味しい?」


 照れたのを誤魔化すように聞いたら華は頷いて、まだ残ってるプチトマトを見てる。

 もう一個差し出したら食べて、満足したのか絵を描き始めた。

 また、オレの弁当の絵。その横にプチトマト。

 なんか絵日記みたいだ。



 五、六時間目の間も絵を描く華を飽きずに眺めて、放課後また一緒に帰る。

 昨日の焼き芋屋は今日いないみたいだ。残念。


「オレね、バイトしてるって言ったじゃん?駅の側のハンバーガー屋なんだ。華はハンバーガーは好き?」


 反応なし。


「手作りダメって言ってたじゃん。ファストフードは手作りに入る?食べれるなら今度食べに来てよ。」


 チラッとこっちは見るけど答えはない。あんま興味ないのかも。


「ねぇ、華。好きだよ。オレは秋。名前、呼んで欲しいな。」


 めげないけど、無ばかりは悲しい。

 しょんぼり言ったけど、華は絆されてくれない。

 ガードが固いのか、やっぱり華も、オレがからかってるって思ってるのか…。

 華が何考えてるのか、その瞳に映ってる世界がどんななのか、オレは知りたい。


「また、明日。」


 またあっと言う間にマンションについてしまった。近すぎだろ。

 手を振るオレをチラリと見て、華は行っちゃう。

 今まで、女の子から好きって言われて、特になんとも思ってなくても付き合ってきた。やる事やって、独占欲とか束縛とか酷くなってきたら簡単にはいさよなら。

 いつか刺されるぞとか言われてたオレが、人生初めての片思い。多少は、この顔でいけんじゃねぇの?とか思ってたんだけどね。そんな上手くいかないもんだな。

 ちょっと落ち込みながら、華のマンションから学校に戻る方向に歩いて、オレはバイトに向かった。



「おー秋。なんか落ち込んでねぇ?」


 バイト先の更衣室で、先に来てた祐介に言われた。

 こいつは一年の時から同じクラス。バイトも一緒でよくつるんでる。


「華がさぁ。中々名前呼んでくんないんだよね。」

「あー、あの不思議っ子。まぁまだ三日だし、頑張れば?」


 言われなくても頑張るけどさ!なんかどうでも良さそうなのが腹立つ。


「秋、もしかしてマジだったりする?」


 ムッとした顔してるオレに気付いて、祐介はそんな事を言う。


「マジだよ。初恋だよ。わりぃか。」

「あーマジなんだー?オレてっきり、冗談とか、からかって遊んでんのかと思ってたわ。」


 オレが着替えながら睨むと、祐介は笑った。


「マジかー、あの子どこが良いの?今まで付き合ってたタイプと全然違うし、なんか小汚くねぇ?」

「汚くねぇよ!見た目は無頓着だけど華は良い匂いするし、可愛い。」


 なんかひいた顔された。

 

「まぁ、なんか、頑張れ。」


 言われなくても頑張るさ!

 明日の餌付け作戦何にしようか考えながら、オレはハンバーガー作った り売ったりした。

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