水曜 1
次の日、オレは昨日とは違うぜ、な気分で登校した。
「華、おはよう!」
「……おはよう。」
教室の前のドアから入って来た華に駆け寄って、席まで着いて行く。
華が椅子に座ってすぐ、オレは手に持ってた物を机に置いた。
「あげる。」
時期じゃなくて生は無理だから、イチゴ牛乳。餌付け作戦第二段。
華はイチゴ牛乳のパックをじっと見てる。
「飲む?」
聞いたらこくんと頷くから、机の上から取ってストロー刺して渡した。華は受け取ってチューチュー飲み始める。
隣にしゃがんで、机に置いた手に顎乗せて飲んでるのを眺める。ちょっと喜んでる気がする。甘い物、好きなのかも。
飲み終わったパックをもらって、捨てて戻ると華はまた絵を描いてた。
担任が来る前に完成した絵は、イチゴ牛乳のパック。
オレはまた、ぶはって笑った。
二時間目は体育。二クラス合同で、サッカー、バスケ、バレーボールの三種類から選択したのに別れてやる。華もオレもサッカーだ。九月の選択の時、華が書いた選択の紙を覗き見して決めたんだ。
パス練習の時、華はいつも余って先生と組んだりしてた。
けど、今のオレはスタートラインに立った男。
「ね、華、オレとやろう?」
勇気出して誘ってみたら、華はチラッとオレを見て、首を横に振る。
「もしかして、下手だから?」
華はパス練習で空振りばっかだ。先生が応援してるけど、やる気もない。多分体育は嫌いなんだと思う。
華が答えないから、無理矢理ペアになった。
華とのパス練習は、面白かった。
先生何教えてたんだよってくらい下手。
蹴ったボールが変な方向に飛んで行くのは当たり前。だいぶ近づかないとオレまで届かない。オレのパスは華を通り越して遠くに行っちゃう。
オレは華にボールの蹴り方を教える事にした。でも、パス練はすぐに終わって試合になっちゃった。
華は試合も全く走る気がない。ずっと立ってる。やる気の無さがいっそ清々しい。
授業終わりに最後だって言って壁に向かってボール蹴らせたら、ちゃんと前に飛んだ。華は、ちょっと嬉しそうだった。
三時間目と四時間目の間の休み時間に見た華のノートには、サッカーボールがたくさん描いてあった。
それを見て笑ったオレを華はチラ見して、何も言わずに違う絵を描く。何故か黒板の絵だった。無駄に上手いし。
昼休みは、昨日の反省を踏まえてプチトマトを持ってきてみた。
味が混ざるの嫌だから、弁当とは別の容れ物に入れてる。
華はまたバナナを剥いて食べてた。
「華、トマト食べる?」
ヘタを摘まんで差し出してみたら、華はオレの顔をチラッと見てから口を開けた。
かぷっと咥えたから、ヘタを千切る。
……すげぇ、照れる。
おかしい。今までは誰とでも食べさせあいはよくやってた。人前でも全然躊躇なく出来て、なんとも思わなかったのに。
「お、美味しい?」
照れたのを誤魔化すように聞いたら華は頷いて、まだ残ってるプチトマトを見てる。
もう一個差し出したら食べて、満足したのか絵を描き始めた。
また、オレの弁当の絵。その横にプチトマト。
なんか絵日記みたいだ。
五、六時間目の間も絵を描く華を飽きずに眺めて、放課後また一緒に帰る。
昨日の焼き芋屋は今日いないみたいだ。残念。
「オレね、バイトしてるって言ったじゃん?駅の側のハンバーガー屋なんだ。華はハンバーガーは好き?」
反応なし。
「手作りダメって言ってたじゃん。ファストフードは手作りに入る?食べれるなら今度食べに来てよ。」
チラッとこっちは見るけど答えはない。あんま興味ないのかも。
「ねぇ、華。好きだよ。オレは秋。名前、呼んで欲しいな。」
めげないけど、無ばかりは悲しい。
しょんぼり言ったけど、華は絆されてくれない。
ガードが固いのか、やっぱり華も、オレがからかってるって思ってるのか…。
華が何考えてるのか、その瞳に映ってる世界がどんななのか、オレは知りたい。
「また、明日。」
またあっと言う間にマンションについてしまった。近すぎだろ。
手を振るオレをチラリと見て、華は行っちゃう。
今まで、女の子から好きって言われて、特になんとも思ってなくても付き合ってきた。やる事やって、独占欲とか束縛とか酷くなってきたら簡単にはいさよなら。
いつか刺されるぞとか言われてたオレが、人生初めての片思い。多少は、この顔でいけんじゃねぇの?とか思ってたんだけどね。そんな上手くいかないもんだな。
ちょっと落ち込みながら、華のマンションから学校に戻る方向に歩いて、オレはバイトに向かった。
「おー秋。なんか落ち込んでねぇ?」
バイト先の更衣室で、先に来てた祐介に言われた。
こいつは一年の時から同じクラス。バイトも一緒でよくつるんでる。
「華がさぁ。中々名前呼んでくんないんだよね。」
「あー、あの不思議っ子。まぁまだ三日だし、頑張れば?」
言われなくても頑張るけどさ!なんかどうでも良さそうなのが腹立つ。
「秋、もしかしてマジだったりする?」
ムッとした顔してるオレに気付いて、祐介はそんな事を言う。
「マジだよ。初恋だよ。わりぃか。」
「あーマジなんだー?オレてっきり、冗談とか、からかって遊んでんのかと思ってたわ。」
オレが着替えながら睨むと、祐介は笑った。
「マジかー、あの子どこが良いの?今まで付き合ってたタイプと全然違うし、なんか小汚くねぇ?」
「汚くねぇよ!見た目は無頓着だけど華は良い匂いするし、可愛い。」
なんかひいた顔された。
「まぁ、なんか、頑張れ。」
言われなくても頑張るさ!
明日の餌付け作戦何にしようか考えながら、オレはハンバーガー作った り売ったりした。