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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
29/56

月曜 5-2

 華がそのまま腕の中で寝たから、布団に運んだ。でも一人にしたくなくて、オレもその隣で横になる。

 まだちょっと湿ってる髪撫でて、ぐっすり寝てる顔を眺めた。

 しばらくそうしてて、制服の事思い出した。ぐっすり寝てるし、今の内に洗うかって立ち上がって洗面所で付いた絵の具を落とす。

 ブレザーは両方綺麗になったけど、やっぱ華のワイシャツはダメだった。


「秋。」


 制服ハンガーに掛けてたら、起きた華がオレの部屋から出て来た。

 オレの顔見て両手伸ばしてくるから、近寄って抱き締める。

 寝癖がついた髪撫でたら、華は満足そうにオレの胸元に擦り寄ってきた。


「弁当、食う?」


 昼もだいぶ過ぎて、腹減った。

 華も頷いたから、母親が朝作ってくれた二人の弁当鞄から出して机に置く。


「このまま、食うの?」


 胡座で座ったオレの膝に、わざわざ机を前に押してスペース作ってから、華が座った。


「このまま食べる。」


 可愛いけど、食いにくい。でも、可愛いからいっか。

 華が自分の弁当箱開けて、箸をオレの右手に握らせてきた。これは多分食わせろって事かって思って、左手で華の弁当箱持って、おかずを華の口に運ぶ。


「美味しい?」


 こくんて頷いた華は満足気だ。後頭部しか見えないけど。

 華が食い終わったら、今度はオレの番らしい。華が膝の上で動いて、横向きに座った。オレの弁当箱と箸持って、おかず箸に突き刺して差し出してくる。

 何これ、可愛くてやばいんだけど!って思いながら、口開けて食わせてもらう。刺せるおかずは良いけど、米が大変で、華は頑張ってて可愛かった。

 なんとかって感じで弁当食い終わって、弁当箱洗いに立ったら華が背中にへばりついた状態で一緒に来た。洗ってる間もそのままじっとくっ付いて離れない。

 洗い終わって、居間に戻る時もそのまま。

 オレが座ったら、膝の上にまた座ってくっ付いて来た。


「華!可愛い!!やばいそれ!!」


 大興奮で抱き締めて、可愛い連呼して大騒ぎ。大騒ぎする腕の中で、華がくすくす笑った。

 イチャイチャしてる所に、スマホが鳴った。見たら祐介からのメール。


『今日バイト代わるから、東さんと一緒にいてやれよ!

あと学校。なんか大騒ぎになってる。秋の蹴りはお咎め無しっぽいけど、やった三人、美術教師と校長の逆鱗に触れたっぽい。

東さんって大物?』


 メール読んで、なんて返すかちょっと悩む。


『バイト、ありがと。すげぇ助かる。今度なんか礼する。

華の事は、ネットで名前検索したらすぐわかる。』


 祐介だったら、変な事にはなんねぇだろって思ってそう返信した。

 学校側、華の"絵"で大騒ぎしてんだろうな。やられたのが華の絵じゃなかったら、絶対そこまで騒がないと思う。


「華の絵本、美術の課題だったんだろ?評価ってどうなんだろ?」


 真っ黒なページだけやり直せば良いのかな。それも華は被害者なのになんかなって思う。


「大丈夫。あの授業は形だけ受けたら許される。」

「……どういう意味?」

「そうなってる。」

「それは、父親がなんかしてんの?」


 首傾げてる。華は詳しくは知らないって事か。

 でも泡吹いて倒れるくらいだから、美術教師もそんな作品の評価なんて出来ないのかもな。もうプロって事だもんな。


「ねぇ、華のパパはいつ日本に帰ってくるの?オレ、会いたい。」


 また華は首傾げてる。


「華は、パパとあんま会えないの?」


 この質問には、視線下げて俯いた。


「……パパは、わたしに会うのが怖いの。」

「なんで?」

「ママを思い出すから。」

「だから…ずっと海外にいて、華には会わないの?」


 こくんて、華は頷いた。悲しそうな顔で。

 父親は、華から逃げたんだ。逃げたくなる程に愛した人の忘れ形見なのに。写真で見た華のママは、華が年重ねたらこうなるのかなってくらいに確かに似てた。


「華は、いつからあそこで独りなの?」


 何年も掃除してなさそうだった華の家。一人暮らし用の1LDK。ベッドも一つで、家族で住む部屋じゃない。


「中学の少し前。」

「小学校卒業までは、父親は一緒だったの?」


 華は首を横に振る。


「小学校入る前、新しいママだって、あの人が来て、段々帰って来なくなった。ママの絵が全部真っ黒にされて、パパは日本からいなくなった。」


 それが、小学校卒業する前までの出来事って事か。そんなに長く、華は一人で、再婚相手に心を痛めつけられたんだ。父親は一人で海外逃げて、そんなに長い事、娘放置かよ。


「今は、秋がいる。」


 唇噛んでたオレに、華が擦り寄ってきた。だから、ぎゅうって、力込めて抱き締める。


「秋がいるから、大丈夫。」


 涙が溢れて、華の肩に顔押し付ける。そんなオレを、華が抱き返す。


「華華華!……オレは、華を独りにしないよ。側にいる。大好きだ!」


 鼻啜りながら言った言葉に、華は頷いてくれる。


「秋が大好き。」


 泣いたまま顔上げて華を見たら、華は優しい顔で笑ってた。

 絶対、独りになんてするもんかって決意して、オレも無理矢理笑う。


「秋が笑うのは、好き。」


 そう言って、華がキスしてくれた。初めて華からしてくれたキスに、頭が沸騰する。クラクラする程嬉しい。


「華、もっと。もっとして。」


 強請ってみたら、軽く二回、唇が触れた。


「足りない。」


 今度は自分から唇寄せて、押し付ける。華の髪に右手差し込んで固定して、唇開けてって舌でノックする。ちょっと視線彷徨わせて、華が開いてくれた場所に滑り込んだ。

 口の中あちこち舐めて、逃げる舌追いかけて捕まえる。音立てて絡めて、舐めて、吸い付く。

 とまんない。もっと、もっと。

 服の裾から手を差し込んで、脇腹撫でて、あーやばい、とまんないかもって茹だる頭の隅で考えた。

 華が苦しそうに涙零したから、手はそのままで唇の距離を少しだけ開ける。

 肩で苦しそうに息する華を見つめて、完全に息が整う前に我慢出来なくてまた唇覆って舌を絡める。

 服の中の手は腰に滑らせて、背中辿って登る。ホックまで辿り着いて、そこでなんとか理性掻き集めた。


「ごめん。理性、ぶっとんだ。」


 荒い息吐いて謝ったら、華は目に涙溜めて真っ赤な顔で苦しそうに息してた。

 名残り惜しくてホックを指先で弄るけど、瞬きで溜まってた涙が零れたの見て、その手も服から抜いた。


「頭、冷やして来る。」


 このままここにいたらまた襲いそうで、風呂場行って服脱いで、頭から冷たいシャワー被る。

 蹲ってうーうー唸って、もういっそこのまま体も洗おうと思って、お湯に切り替えて頭と体洗った。

 風呂から上がったら、華はまださっきの場所でぼんやりしてる。


「………華?」


 大暴走した手前ちょっと気まずくて、恐る恐る顔覗く。

 華がぼーっとした顔でこっち向いて、オレの顔見て、真っ赤になって、床に突っ伏した。ジタバタし始めるから、どうしたら良いか迷ってとりあえず謝る事にする。


「ごめん。………いや、だった?」

「……………いやじゃない。」

「そっか。」


 ほっとして笑って、ジタバタ暴れてる華の頭を撫でた。

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