日曜 4
長かった。やる気出ないバイトなんとか終わらせて、華の家に急ぐ。
なんで拒否されたのか考えてもよくわかんなかったけど、今日は会ってくれるって言ってたし、会ってから聞いてみよう。
華のマンションついて、自動ドア横のインターホン押す。ちょっと待ったら無言で開錠されて、エレベーター乗って七階まで上がる。
早く会いたい。会いたくてたまんない。ちょっとのエレベーターすら長く感じる。
インターホン押して、出て来た華見たらすげぇほっとした。
「秋。」
パパの服着て、絵の具だらけ、髪もボサボサ。いつも通りの華。オレを見て、ふんわり嬉しそうに笑ってくれた。
「華。会いたかった。」
笑ってくれたから、嫌われた訳じゃないってわかって、きゅうって玄関先で華を抱き締める。
絵の具と華の匂い。安心する。
「ねぇ華?ちゃんと飯食ってた?サンドイッチ作って来たけど、食う?」
イチゴジャムサンドにツナたまごサンド、あとレタスとハムとチーズのサンドイッチ。一緒に食おうと思って多めに作った。飲み物はコンビニ寄って一リットルのコーヒー牛乳買ってきたんだ。
華がこくんて頷いて、靴脱いで玄関あがる。したら華から手を繋いできて、一緒に絵の部屋入った。
「………華、これ、ずっと描いてたの?」
この前来た時は電車の窓からの風景の絵があった。だけど今日は違う絵がイーゼルに立て掛けられてる。
まだ絵の具が乾ききってないっぽいその絵は、ほんわかあったかい色使い。今すぐ誰かがそこで動き出して音が聞こえてきそう。描かれてないのに、絵のフレーム外に人の気配がする。そこが好きなんだって華の気持ちが、伝わってきた。
華が体育座りしてる目線から見た、うちの台所。
「嬉しい……。この絵、母親にも見せたい。」
絵から視線外して華を見たら、はにかんで笑ってた。
黄色い絵の具がついた華のほっぺを撫でて、オレは笑う。なんだかすごく、優しい気持ちになる絵だ。
「いいよ。」
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑った華が許可くれたから母親にメールを打つ。
見せたい物があるから華の家来いって送っといた。
「秋、お腹空いた。」
華が飯を強請るから、絵の具のついた手を洗わせて一緒に座ってサンドイッチ食う。
二切れ華が食った所で母親から返信があった。
「母親、すぐ来るって。」
こくんて頷いた華に、コーヒー牛乳のパックに長いストロー刺して差し出す。でかいパックだから自分で持たせるとひっくり返しそうな気がして、オレが持ったままで飲ませた。
持って来たサンドイッチ全部食い切って、オレの定位置で胡座かいた足の間に華を座らせて後ろから抱き締める。
華の頭に顎乗せて、二人で黙って絵を眺めてたらインターホンが鳴った。
立ち上がった華がインターホンの画面確認して無言開錠。ちゃんと誰か確認して開けてたんだってわかって安心した。
華が膝に戻ってきて、顎掴んで振り向かせて華の唇舌先で舐める。舐めて、長いキスして、唇合わせたまま舌で華の唇の間を探る。鼻摘まんで口開けさせようとした所で、玄関の呼び鈴が鳴った。
暴走する直前。ナイスタイミング。
赤い顔の華のおでこにキスしてから、オレが立ち上がって玄関行く。
最近暴走気味だから、止めてくれるのがいないとヤバイんだ。華を傷付けたくない。
「よ!」
玄関開けて母親に片手上げる。
じっと顔見られて、デコピンされた。
「あんた顔でバレバレよ。まったく。」
マジかって呟いて両手で顔こすっといた。
玄関で靴脱いだ母親の目を閉じさせて、後ろから両肩掴んで押す。
良いって言うまで開けんなよって念押しして、絵の部屋入った。
「いいよ。」
絵の正面立たせてから目を開ける許可を出す。
目を開けた母親がしばらく黙って絵を見つめて、華の方に振り返った。
「すごく、素敵な絵ね。」
優しい顔で笑って、華を抱き締める。
華が寂しいって泣いてる絵、多分ネットで見たはずだから、この絵を見せてやりたかったんだ。
華は母親に抱き締められて、安心しきった顔で微笑んでる。
「他の二枚も見せて良い?」
華に聞いて、頷いたから、壁に立て掛けてある電車の絵と夜景の絵も見せる。
「優しい絵ね。」
華の頭を撫でながら、母親は優しくて嬉しそうな笑顔でしばらく、三枚の絵を眺めてた。
「華、絵の具落として来いよ。」
日が落ちて暗くなった部屋の電気付けて、気持ち良さそうに母親に頭撫でられてる華を風呂入るように促す。
母親から離れて立ち上がった華に着替え持たせて風呂場に連れてった。
「華。」
脱衣所で名前呼んで振り向かせる。
両手を腰に周して、ぴったり体くっつけた。
「大好き、華。」
片手を腰から離して、華の小さい鼻摘まんで唇合わせる。開いた隙間に舌滑り込ませて、逃げる舌追って絡ませた。
すぐに開放して、親指で唇拭ってやる。
「ゆっくり入っておいで。今日は一緒にうち帰ろう。」
蕩けた顔で笑うオレを華も蕩けた顔で見返してくる。
両手が暴走しないように握り込んで、廊下出てドア閉めた。
心臓が早くて苦しい。どれだけキスしても足りないんだ。もっともっとって、際限なく求めて、華を壊しそうな自分が怖い。大切に、大切にしたいのに…ぐちゃぐちゃにしたくなる。
デコピンされて落ち着くかって考えて、母親の所行った。
絵を眺めてた母親がオレが入ってくる気配で振り返って、顔見て笑われた。
「おバカねぇ。」
呟いて笑ってる母親の側に正座して、デコピン連続二発くらう。地味にいてぇ。
「あんたってほんと、章人さんの子よね。」
デコおさえて蹲ってるオレを見て、母親が呆れた声で呟いた。
「何?なんでここで親父なの?」
三歳で死んだから、父親の記憶はあんまりない。でも、よく母親が愛しそうな顔で話してくれてたから、親父の事は結構知ってる。
「付き合ったばっかの頃、今のあんたとおんなじ顔してた。」
「どんな顔だよ。」
オレの言葉に、母親はそんな顔よって笑って言う。
きっと父親も、オレと同じ煩悩と戦ってたのかもなって納得しといた。




