金曜 4
手を伸ばした先の存在に満足して、温もりを抱き締める。そのまま頭のてっぺんに鼻埋めて息を吸う。
うちのシャンプーの香りに混じって、華の匂い。
目を開けた先には、華の頭。
どうせ潜り込んでくるならって、オレの部屋に布団敷いて寝かせた華は、またオレの布団の中でくっついて寝てた。
「華、おはよ。」
おでこにキスしたら華が目を開けて、ふにゃって笑う。
「秋。…おはよう。」
可愛過ぎて、ほんとこのまま襲いたい。
ぎゅーって抱き締めて、小さい背中片手で撫でて、唇に軽くキスして体起こす。これ以上は危険。
でももうちょっと。
布団の上で座った華を抱き寄せて、キス。角度変えて、舐めて、長くキスして、とまんねぇ。もっと。深く…
「ごっはんよー!」
良いタイミングだ。マジで。
勢い良く戸を開けた母親と目が合って、にやって笑われた。
母親が真っ赤な顔の華の手掴んで連れ去る。
いや、マジで、良いタイミング。
はあーって大きく息吐いて、両手で髪掻き上げてオレも立ち上がった。
「今日はね、二人のお弁当も作っておいたから!」
早出の母親は、もう着替えて化粧もしてる。
机の上にはトーストとスクランブルエッグと昨夜の残りのサラダ。
「あんがと。弁当と…他も。」
台所にコーヒー入れに行った母親について行って礼を言うオレに、マグカップ渡してくれた母親が楽しそうに笑って髪掻き混ぜてくる。
「どういたしまして!」
華のココアと自分のコーヒー持った母親が居間に歩いて行って、オレはその場で熱いコーヒー啜った。
母親見送って、学校行く支度する。
今日は弁当オレが作らなくて良いから時間あるし、華の髪はコテで巻いてみる事にした。ふわふわに巻いて、黒猫のシュシュでハーフアップ。めちゃ可愛い過ぎてヤバイ。
「華、可愛い過ぎ。すげぇ可愛い。ふわふわも似合う。」
ぎゅって抱き締めて、嬉しそうな華のでこにキスする。
昨日のパーカーワンピはうちに置いて、学校行く。
「あっれー今日の秋、無造作ヘアじゃないんだ?」
教室入って鞄置きに自分の席来たオレに、祐介がそんなことを言ってきた。
「昨日は自分の家帰ったからな。」
「そりゃ小柄だからなぁ。三日連続は体がもたないっしょー?」
言ってる意味がわかんなくて祐介の顔みたら、すっげえイラつく感じにニヤニヤしてる。
ちょっと考えてから理解して、思いっきり頭叩いてやった。
「いてぇっ!なんだよ、八つ当たりすんなよ!」
「……まだだよ。」
「は?」
「泊まってっけど、そういう事してない。」
「………………マジ?」
今度こそ八つ当たりで頭叩く。
「マジだよ。大事過ぎて、そんな簡単に出来ない。」
「そりゃあ、なんとまぁ。」
頭抑えてる祐介の表情がぽかんとした後に苦笑に変わった。
「あの秋がねぇ。」
呟きながらやたらあったかい眼差しで見てくるから、最後にもう一回殴っておいた。
「寺田。ちょっと良いか?」
ホームルーム終わりに担任に呼ばれた。机に鞄置いたまま教壇行ったら、担任がチラッと華の方見てからこっち見た。なんだ?
「お前さ、東と付き合ってんだって?」
「そうっすね。」
「その事でな、ちょっと感謝したい訳なんだが…」
わけわかんねぇから黙って聞いてたら、担任が両肩がしって掴んで来た。地味に力強くていてぇ。
「テストを東があんなに真面目に受けてくれたの、初めてなんだよ。これからも頼むぞ!」
「いや、わけわかんねぇ。今までどんなんだったんすか?」
「聞くも涙、語るも涙な先生の苦労、聞いてくれるか?」
「はぁ。」
「一年の時からずっとなんだが、東は気分にムラがある。酷い時には答案用紙いっぱいが絵だった時にはどうしようかと…」
苦労話語り始めた。この担任、一年の時も華の担任だったのかな?
「やれば出来るんだ。だから補習が面倒だって理解してからは赤点は取ってない。だけどそこどまりだったんだよ。その東が!今回全て平均点越え!真面目に解答してたし、寺田が勉強させてたらしいってテスト期間中職員室で大騒ぎだったんだ。もう本当…これからも頼んだからな!」
バシンって両肩叩かれた。だからいてぇんだって。
ちょっとイラっとしたけど、なるほどなって思った。放置されてたのは多分、華が打っても響かないタイプだからだ。教師の事すらずっとシカトしてたんだろうな。なんか、流石華。
「本人に話しても反応ないし、親御さんも中々連絡つかないし、先生、寺田が頼りだ!頼りにしてるからな!」
「華の父親、連絡つかないんすか?」
「あぁ。海外で仕事してるらしいから、生活時間も合わないしな。」
「ふーん。先生会った事あります?どんな親?」
「電話も繋がった事ないし、会った事もないなぁ。」
頼んだぞってまた肩叩いて、担任は教室出て行った。
父親、そこも放置か。なんかなぁって思いながら、待ってた華の所行ってぎゅって抱き締める。
「お待たせ華。帰ろ!」
でこにキスして、指絡めて手繋いだ。
学校では華はやっぱり無表情。でも微かに嬉しそうに顔が綻ぶのがわかるから、まぁいいかって思う。
「秋。」
今日夕飯何しようかなぁって考えながら歩いてたら、華に呼ばれた。
「なに?どした?」
「今日、絵を描く。」
「わかった。じゃあまた夕飯食ってから一緒に行っても良い?」
華が、首、横に振った。
「ご飯いらない。」
「オレか行くのは?」
「今日はダメ。」
「明日のバイト終わりは良い?」
「ダメ。」
拒否された。やっぱ、朝暴走しかけたのがまずかったか?嫌われた?
ショックでぐるぐる考えてるオレを華は真っ直ぐ見てる。
「その次なら良い。」
「………日曜ってこと?」
頷いてる。
今日と明日はダメで、日曜なら良いんだ。なんでだろ?
「………寂しい。どうしても、日曜までダメ?」
「ダメ。」
即答。すげぇしょんぼりなって、華を抱き締めた。ぎゅーってして、髪に頬ずりする。
「我慢する。日曜、バイト終わったらすぐ行く。良い?」
オレのほっぺの下でこくんて頷いたのがわかって、またきゅーっと抱き締める。
明日一日会えないなんてってショック受けたオレは、久しぶりに自動ドアの前で華を見送った。




