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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
24/56

木曜 4

 ベッドはやたら寝心地良かった。眠り過ぎて起きるのだるい。

 華の家の絵の具の匂い。すげぇ好き。

 隣に寝てる華を抱き寄せようと手を伸ばして、いない事に気が付いた。


「華?」


 眠い目なんとか開けて、華を探す。

 寝室にはいない。

 絵の部屋覗いてもいない。

 風呂かなと思って、洗面所のドアの前行ってみたらシャワーの音した。

 オレも風呂入んなきゃなって考えながらトイレ行って、寝室戻って時計確認する。7:30。ベッドが気持ちくて寝過ぎた。このベッド、良いな。


「秋、おはよう。」


 ぼんやりベッドに座ってたら、華がきた。


「……華?食っちゃうよ。マジで。」


 でっかい溜息吐いて、オレは頭抱える。

 華はまた、ビショビショの髪でタオルだけ巻いた格好でオレの前に立ってる。


「カニバリズム?」


 本気で言ってんだろう華に近寄って、首筋に噛み付いてやった。苛立ち込めてちょっと強めに。


「秋、痛い。」

「オレに、食われたい?」


 抗議してくる華は無視して、噛んだ首筋から耳に掛けて、ゆっくり唇這わせて、最後に噛んだ所戻ってべろりって舐める。


「オレも風呂入ってくる。着替えたら髪、拭いとけよ。出たらドライヤーしてやるから。」


 華の顔は見れなくて、逃げるように入った風呂でしばらく、オレは冷たいシャワー浴びて頭冷やした。


 風呂から上がったら持って来といた制服に着替える。

 着てた服はここに置いてこうって考えて、洗濯機に突っ込んだ。ここの洗濯機はタイマー付いてるから、学校が終わる頃に乾燥まで終わるようセットして、帰ってきて畳めば皺くちゃになんねぇだろ。

 濡れた髪拭きながら寝室戻ったら、制服に着替えた華がタオル被って頭拭いてるとこだった。

 拭いてやろうと思って華の前立ってタオル越しに頭触ったら、あからさまにビクってされた。


「華、どうした?」


 覗き込もうとしてるオレから逃げるみたいに、華はタオルで顔隠してる。


「華?」


 タオルおさえてる手を退かして顔出したら、真っ赤だ。真っ赤で泣きそうな顔してる。


「オレが、人肉食べるやつだって、ビビってんの?」


 膝立ちになって、立ったままの華を見上げる。

 華は、首を横に激しく振った。濡れた髪が当たって冷たい。


「なら、怖かった?ごめん。」


 また首を激しく振ってる。


「……どきどき、して、苦しい。病気?」


 あぁ、なるほど。

 理解して、オレはふって笑う。


「病気じゃないよ。」


 オレは笑って、華の濡れた髪掻き分けて真っ赤な顔を探し当てる。

 顎から辿って華の唇を舐めて、音立ててキス。


「オレも、華にこうするとドキドキして苦しい。華のこと、すっげぇ好きだから。」

「好きは、苦しい?」

「うん。でも悪い苦しいじゃなくて、幸せな苦しいだよ。華もそうじゃない?」


 華がこくんて頷いたから、唇にちゅぅってして、立ち上がる。洗面所で華の髪乾かそうと思って、手を引いた。


「秋、手、冷たい。」

「………黒猫の誘惑と戦ってた。」


 不思議そうに首を傾げた華には、それ以上答えないでおく。

 髪乾かして、今日の華の髪は黒猫のゴムでポニーテールにしといた。

 昨日持ってきたサンドイッチを華に食わせて、残ったのはオレが華に食わされる。オレが食い足りない分は、冷蔵庫から食パン出してまんま食った。

 二人で歯を磨いて、昼飯用にりんご三個持って家出る。

 指絡めて繋いで、学校までゆっくり歩いた。

 華はちっさいから歩幅も狭い。オレ一人で歩くより時間がかかるから、あちこち景色見たり、華の横顔見たり、満たされる時間。


「華、可愛い。大好き。」


 口から出さないと溢れる気持ちでどうにかなりそうになる。だから、たくさん言う。

 それに、華が嬉しそうに笑ってくれるから、オレは華の笑顔の為にも何度だって伝える。


「秋も可愛い。」

「すっげぇ嬉しい!幸せ!大好き!!」


 真っ直ぐ見上げて答えてくれる華は、たまらないぐらいに可愛い過ぎる。だから、オレの顔は緩みっぱなし。


「デレ顔王子と東さん、おは。」


 下駄箱で祐介が後ろから追い付いて来て、背中バシンッて叩かれた。


「ってぇな、羨ましいのか。」

「まぁな。てか、オレ、東さんにすっげぇ警戒されてんだけど、なんで?」


 祐介に言われて華を見たら、華が毛を逆立てた猫みたいになって祐介を睨んでた。


「華?どしたの?」

「秋、痛い?」


 華はオレの背中を心配そうに撫でてくる。


「かっわいいー!!華!可愛い!」


 ぎゅうぎゅう抱き締めてオレは嬉しさアピール。そんで、にこにこしながら華の頭を撫でた。


「華、心配してくれてありがとう。でも戯れてるだけだから、大丈夫だよ。」


 オレに頭撫でられながら、華は首を傾げてる。


「遊び?」

「そ、遊び。」


 納得したみたいな顔になった華は、祐介をチラっと見た。


「おはよう。秋の友達。」

「おはよう、東さん。オレ、佐々木。」


 名前を覚えてもらおうとした祐介の言葉は、華に無視される。

 なんだか、なんでも"秋の"って付くのがオレ中心って思えて、すげぇ嬉しい。


「で、おめでとな感じ?」


 指絡めて手を繋いでるオレと華見て、祐介がにって笑ってるから、オレは満面の笑みで答えてやる。


「まぁな!すっげぇ幸せ!」

「そか。良かったな。」


 一緒に喜んでくれる祐介と、まだ祐介を警戒してる華と三人で四階まで上って教室に入った。




 テストの返却で、華は勉強してない割にそこまで酷くない事が分かった。

 オレは普通に勉強して、平均点ギリ越えくらい。華もそんくらい。

 でもこの成績で授業中絵ばっか描いてるのが許されるのは、やっぱり学校側も華の絵の事知ってんじゃねぇかって思った。


「華、今日母親休みで華に会いたいって言ってんだけど、泊まる?」


 一日目のテスト返却終わって、放課後。帰り道を歩きながら確認する。

 一昨日昨日は母親が華に会えなかったから、会わせろってメールがきたんだよな。


「行く。」

「今日、飯母親が作るけど、食える?無理ならオレがなんか作るけど?」

「秋ママも平気。」

「そっか。」


 オレ以外の飯も食える事に、ほっとした。


「今朝華の家の洗濯機セットしてきゃったからさ、一旦寄って良い?」


 華が頷いたから、うち帰る途中にある華のマンション寄って、洗濯物だけ片付ける事にした。



 華の家ついたら乾燥まで終わってた洗濯物、皺にならないように畳む。

 畳んだ洗濯物持って絵の部屋入ったら、華が可愛かった。


「かっわいい!!着替えたの?着てくれたの?!」


 こくんて頷いた華は、この前買ったワンピースに着替えてた。

 グレーのパーカーワンピ。マキシ丈だけどちっさい華に合うのがあって、オレが選んだ。カジュアルで楽そうだと思ったんだ。

 洗濯物は床に置いて、可愛いを言いまくって、華を抱き締めて顔中にキスする。


「ほんと、可愛い過ぎて今すぐ食べちゃいたい。」


 掠れた声で言うオレを見上げて、華は困った顔してる。


「食べられるの、困る。」


 本当に困った顔してるから、オレはぶはって吹き出した。


「オレでもダメ?」

「ダメ。痛い。死ぬ。」

「そっか。でもオレは、華にだったら食われたい。」


 心底わからないって表情で、華は首傾げてる。

 まだわからなくてもいいやって思う。その内。


「洗濯物、箪笥しまったらうち行こう。」


 床に置いてた洗濯物とって、華のは箪笥にしまう。オレの着替えもクローゼットに置いといた。

 華の制服と学校の荷物持って、鍵閉めて手繋いで、二人でうちにゆっくり歩いてった。


「おかえり!華ちゃん!今日はグラタンよー!」


 玄関開けたら、母親が華に飛び付いて来た。息子は無視かよ。


「秋ママ、ただいま。」


 母親の腕の中で、華がはにかんでる。


「おかえりなさい!あら!これこの前買ったやつ?可愛い!似合ってる!可愛い過ぎー!」

「おい、とりあえず落ち着け。中入らせろ。」


 玄関から先に進めなくて注意したら、母親は渋々華から離れた。

 母親が華に抱き付いたまま離そうとしなくて、オレは溜息吐きながら着替えに自分の部屋行く。やっぱ、また華とられた。

 部屋から出たら、華がにこにこしながら体育座りして待ってる。うちにいる時の華は、ずっと笑ってる気がするんだよな。


「華、手洗いうがいした?」


 聞いたらこくんて頷いてるから、オレも台所行って手洗ってうがいする。したら、母親がホワイトソース作りながら体寄せて来た。


「ご飯、華ちゃん、食べれるって?」


 心配そうに眉寄せてる母親の眉間、人差し指で突いてやる。


「平気だってさ。秋ママ。」

「そ。それなら良かった。」


 オレが突ついた眉間片手で摩る母親は、優しい顔して笑ってた。

 オレは、この人の息子で良かったって、よく思う。言ってやんねぇけど。


「華、やっぱその服似合ってる。すげぇ可愛い。」


 にこにこ笑ってオレらを見上げてる華の隣座って、デコチューした。

 華は嬉しそうにくすくす笑って、鞄とこまで四つん這いで歩いてスケッチブック取り出す。オレもその隣移動して、テレビ付けて夕方のニュース聞きながら漫画読むことにする。

 しばらく二人でそうやって過ごしてたら、チーズの焼ける良い匂いがしてきて、華が絵を描きながら鼻をすんすんさせてた。


「華、可愛い。」


 あんまり可愛いから鼻の頭にキスして、母親の手伝いに立つ。

 机拭いて、三人分のサラダとスプーン並べる。

 華は絵を描く手を止めて、じっとまたオレの動きを目で追ってる。でも無表情じゃなくて、楽しそう。多分、グラタン楽しみなんじゃねぇかな。

 猫舌の華の前には、最初に焼けたやつを置く。目がキラキラし始めてる華は、やっぱグラタン大好きみたいだ。

 三つ共焼き上がって、母親も座って、三人で食い始める。食いながら、母親は横目で華を気にしてる。

 熱いのを一生懸命息吹きかけてぱくりって口の中に詰め込んだ華は、ゆっくり咀嚼してから幸せそうに笑った。


「秋と同じ味。」


 オレも母親もほっとして笑って、二人して華の頭撫でた。


「オレは母親の味で育ったからな。多分他の料理も一緒。」

「秋のご飯、好き。」

「すげぇ嬉しい!華大好き!」

「でもそれ、私のご飯も好きってことかしら?」


 母親の質問に、華はこくんて頷いてる。


「嬉しい!華ちゃん大好き!」


 にこにこ笑う華と華にデレデレの母親とオレ。ギャーギャー騒ぎながらの晩飯は、腹も気持ちも満たされた。



 華はまた母親と風呂入って、寝る準備終わってしばらくしたら、漫画読んでるオレの膝に華が擦り寄って来た。


「秋。」


 頭をオレの膝に乗せて、呼んできた。

 漫画から視線やると、華はとろんて眠そうな目して見上げてる。


「どした?」


 頭撫でながら聞くオレ見て、ふにゃりって笑う。そんでまた、名前呼んでくる。


「秋。」

「なに?」

「秋。」

「……どした?」


 なんか、やたら幸せそうな顔で笑って、華は満足そうに目を閉じた。


「………華。好きだよ。大好きだ。」


 目を閉じた華の頭撫でながら小さい声で囁く。

 華はまた嬉しそうに笑って、寝息を立て始めた。

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