月曜 4
昨日は結局、勉強は全くしなかった。
華も一緒にスーパーで夕飯の買い物して帰って、母親が夕飯作ってる間、オレは絵を描く華を眺めた。夕飯食って風呂入ったら、歩き回って疲れた華はオレの膝で爆睡。オレも勉強だるくなって、そのまま寝た。
朝起きたら、毛布掛かってたけど体バキバキ。しかも華はオレの腕を枕にして寝てるし。我慢出来なくなって、寝てる華抱き締めて軽くキスしといた。んでまた、母親に邪魔された。あのしたり顔、イラっとくる。
「華ちゃん、好きな時にうち泊まってね!むしろ毎日でも大歓迎!」
午後から仕事の母親がスウェット姿でオレと華を見送る。
うちだったら、華にあったかい飯食わせられるしその方が良いけど、毎回母親に華とられて邪魔されんのかと思うとちょっと嫌だ。
そんな事考えてるオレの隣で、華は機嫌が良い。柔らかい表情でオレと手を繋いで歩いてる。
今日の華の髪は母親がやった。
緩めに何本か三つ編み作って、纏めて一つのお団子になってる。すっきりしてて、これも可愛い。
「華、華、大好き。」
歩きながら顏覗き込んで言うオレを瞳に映して、華がはにかんだ。
繋いでた手を引いて道の端寄って、ちょっと長くキスをする。
右手は繋いだまま、左手は華の腰に添えて。唇離して見下ろした華は、真っ直ぐオレを見てた。
「いや?」
おでこくっつけて囁き声で確認したら、華はふんわり笑う。
「嬉しい。」
「そっか。」
オレも笑顔になって、もう一回、触れるだけのキス。
また手を繋いで歩き出したオレの顏はだらしなく緩んで真っ赤だったと思うから、手の甲で隠しといた。
教室入って向かうのは、いつもと違う席。テスト期間は出席番号順で座る。
華は廊下側一番前。オレは三列目の真ん中。華の隣が祐介なのがちょっとムカつく。
「秋、にやけ過ぎ。デレ過ぎ。」
鞄置いて、形だけはって教科書持って華の所に行ったら祐介に笑われた。
「ほっとけ。」
自分でも顔が緩んでる自覚あるから仏頂面作ってみるけど、上手くいかない。
「東さんはいつも通りなのに、秋はご機嫌だな。」
華はテストだからかスケッチブックは開いてないけど、教科書も開いてない。顔もいつもの無表情。うちであんなに笑ってたのが嘘みたいにいつも通りだ。
「華、勉強する?」
聞いたらこくんて頷いたから、華の隣にしゃがんで一時間目の教科の勉強する。オレが問題出して、華が答える。しばらくしたら教師が入って来て、こっち見てすっげぇ驚いた顔された。
よくわかんなかったけど、オレも自分の席戻ってテスト受ける。まぁまぁ出来たかなって感じ。
次も教科書持って華の所行って、一緒に勉強する。また入って来た教師に驚いた顔で見られた。
そんなのが全部の教科で繰り返されて、流石にわかった。教師は全員、華が勉強してる事に驚いたんだ。今まで勉強した事ないって言ってたもんな。
「華、うち来る?」
帰りに聞いてみたら、華はこくんて頷いた。
「泊まる?」
これにはちょっと悩んでる。でも結局、こくんて頷く。
「着替え、取りに行こっか。」
にっこり笑って言ったら、華もふんわり笑ってくれる。学校の外だと笑ってくれるみたいだ。
着替え取りに華のマンション行ったら、何故か華が鞄にりんごをパンパンに詰め始める。テスト期間だから教科書も入ってて重いだろうって思いながら見てたら、今度は冷蔵庫から食パン一斤取り出した。
「華、それどうするの?」
「あげる。」
「うちにくれるの?」
こくんて頷いた華を見て、オレはぶはって笑って華を抱き締める。
おでこにキスしてから体を離して、自分の鞄からエコバックを出した。よく学校帰りに買い物行くから、折り畳み常備。主夫の鏡のオレ。
「なら、これに入れよう。」
華の鞄からリンゴを移したら、華はエコバックがパンパンになるまで更に詰めた。食パンは入らなくなったから手で持つ。
右手に自分の鞄とリンゴでパンパンのエコバックを持って、食パンは華に左手で持ってもらう。空けた手を繋いで、マンション出てうちに向かって歩いた。
うちに着いたら手洗ってうがいして、華を制服から母親の部屋着に着替えさせる。
オレも部屋着になって、昼飯に簡単な炒飯作って二人で食った。
「華、髪、それほどく?」
勉強するかって、教科書出して、ふと思って聞いてみた。家の中だし、楽なのが良いかなって。
こくんて頷くから、オレは華の後ろで膝立ちして髪をほどく。ほどいた髪は癖がついてウェーブになってて可愛い。
「華、可愛い。」
手櫛で梳かしながら言ったら、華が首だけ動かしてオレを見上げて笑顔になった。
可愛いってもう一回呟いて、おでこにキスする。それじゃ足りなくて、華の隣に座って唇にキス。
「好き。華、大好き。」
もう一回だけ。ばくばくする心臓の音を聞きながら、触れるだけのキス。でも全然足りなくて、もっともっとってなるけど、軽く吸い付いて音立てて離れた。
真っ直ぐオレを見てた華は、ちょっとだけ顔を赤くして、照れて、笑った。
「秋、秋、布団で寝なさい。」
揺すられて、目が覚めた。
電気が付いた部屋で、母親がオレを見下ろしてる。腕の中には華がいて、オレの服を掴んでくっ付いて寝てる。
「おかえり。」
「ただいま。お風呂、入ったの?」
「入った。横になってたら寝てた。」
夕飯のあと華を風呂に行かせて、その後オレも入って出たら、華が丸くなって寝てた。可愛くて、隣で寝顔見てたらオレまで寝ちゃったみたいだ。
「布団で寝かせてやりなさい。」
「ん。」
華を起こさないように起き上がって、ちょっと伸びをする。
華を抱き上げて、母親の部屋に敷いておいた布団に運んだ。
母親が風呂入ってる間に欠伸しながら夕飯あっため直す。皿に盛って机に運んだら丁度風呂から上がって来たから、冷蔵庫から発泡酒出して渡した。
「ありがと。」
「おう。お疲れ。」
母親は最初に数口飲んでから飯を食う。オレはその横で頬杖ついて眺めてた。
「テスト、問題ない?」
「あー、多分いつも通り。」
「そう。まぁ、そこそこ出来たら良いのよ。」
うちの母親はいつもそう言う。母親の言葉にちょっと笑って、オレは立ち上がる。
「華がリンゴたくさんくれた。食う?」
「食う食う。私もウサちゃんが良い。」
「言ってろ。」
洗ったリンゴを皿に乗せて、ナイフ持ってまた座った。
「華ちゃん…」
リンゴ剥いてるオレの手元を見ながら母親が呟いた。
オレがそのままリンゴをウサギにしてたら、母親は少し黙ってまた口を開く。
「あんた、華ちゃんが有名なの知ってんの?」
「は?」
突拍子もないこと言われて、手を止めた。オレの表情から理解したっぽい母親が話しを続ける。
「ネットでね、名前検索したらすぐに出て来たの。絵、すごい有名みたい。華ちゃんのお母さんも、有名な画家だったみたい。」
「………父親は?」
「画商っていうの?絵とか売る仕事、やってるみたいよ。」
「……なんか、色々納得。でも、華が独りなのは理解出来ない。」
「そこは多分、表に出ない部分なんでしょうね。ただ…そういう子だって理解しときなさい。守りたいと思うなら、理解した上で側にいて、守ってやんなさい。」
「………わかった。」
有名だって無名だって華は華だ。
あんな、寂しいって泣いてる絵を描く華を独りにし続けてる父親は、理解出来ない。
なんか、事情とか色々あるんだろうけど、そんなん知らない。オレは華が笑ってくれたらそれで良い。
オレは、華を独りになんて、しない。




