日曜 3-2
ワンピ姿で黒タイツに足元ローファーの華の首には、黒猫財布がぶら下がってる。
華の手は右がオレ、左が母親と繋いで、三人で並んで最寄り駅の駅ビルに靴を買いに向かう。
「華ちゃんはどういうのが良い?」
靴屋に向かいながら母親が聞いたら、華は首を傾げてる。
「まずはこのワンピに合うのが良いだろ。ヒールは、華怪我しそう。」
「秋が好きなのが良い。」
「あらまぁ。秋、真っ赤。」
母親が、良い物見たって顏でオレを見て笑ってる。
なんで華はこんなに可愛いんだろ。とりあえず、溢れる気持ちを表す為にぎゅーって抱き締めとく。
「華可愛い。なんでも買ってやる。」
腕の中で、華が頬を擦り寄せてきた。
もーやばい。やばいやばいやばすぎる。このままほんと、うちで一緒に暮らしたい。
「ほらほら、行くわよー。」
笑ってる母親に促されて、また三人、手を繋いで歩き出す。
入った靴屋でいくつか試着させて、母親と一致したのがインディゴのローヒールのパンプス。シンプルだけどワンストラップで、足も疲れにくそうだし、他の服にも合わせ易いと思う。
「お金ある。」
レジで会計しようとした母親に、華が黒猫財布から何か出して渡した。
母親が目を丸くして固まってるから、オレも近寄って華の手元を見る。
そこには、黒いクレジットカード。
これって、あれか?金持ちカードだよな?
「それ、華の?」
オレも目がまん丸になってると思う。
華はオレを見上げて、こくんて頷く。
「好きな物買って良いの。」
「パパがそう言ってたの?」
こくんて、華が頷いた。
海外で仕事してるだけあって、パパはやっぱ金持ちみたいだ。
「でも、この靴は私が買うわ。」
母親はにっこり笑って華の頭を撫でて、華は不思議そうな顔したけど、黒いカードを黒猫財布にしまった。
てか、そのカード、そんな無防備な財布に入れておいて良いのか?心配になる。
買ったパンプスに履き替えさせて、履いてたローファーはパンプスと交換で箱に入れて袋の中。
「次は、鞄かしら?」
「だな。」
華の姿を母親と眺めて、足りない物を相談した。
「でもここじゃあんまり可愛いのないし、あそこ行く?」
「だなぁ。そっちのが色々一気に見れんだろ。華、電車平気?酔ったりしない?」
うちの最寄り駅だとそんなに大きくないから、洋服屋の種類がないんだよな。だから、服を買うのにいつも四駅先のショッピングモールに行く。
「乗ったことない。」
首を傾げての華の返事に納得。そうじゃないかと思ってた。だって、電車乗ってる華とか想像出来ない。
「車に酔ったりはしない?もし具合悪くなったらすぐに言うのよ?」
母親とオレで言い聞かせて、華には切符買って渡した。
改札の通り方教えて、オレは華の後ろからスイカ使って入る。
駅で三人並ぶのは邪魔だから、母親の後ろを華と手を繋いで歩く。華は、一生懸命あちこちキョロキョロしまくってたから、階段で躓いた。やると思った。
予想してたからすぐ受け止めて、階段はちゃんと歩くように注意する。
電車の中でも、華は物珍しそうにキョロキョロしてた。日曜で人多いから、母親とオレで華を囲むようにして、車両の端の開かない側のドア前に立った。
「華、ここ掴んで。」
電車が走り出すとよろけたから、近くの棒を掴ませる。
窓の外を楽しそうに眺めてる華を笑顔で見てた母親とオレは、お互いのデレ顏を見合わせてこっそり笑った。
モールに着いたらまずは飯。
飯屋はどこも日曜でいっぱいだから、パン買って広場で食う。華は自分で手を出そうとしないから、千切って口に運んでやったら食った。
「か、可愛い!私も!」
母親が騒いでオレだけの特権を奪った。華は、母親が差し出したパンを迷わず口開けて食う。オレだけだと思ってたのに、ちょっとショックだ。
軽く落ち込んだオレは、一緒に買ったイチゴ牛乳のパックにストロー刺して華に渡した。
「華、オレからじゃなくても食うんだな。」
良い事だけど、ちょっと寂しくて零したオレを華はイチゴ牛乳飲みながらじっと見た。
「秋のママだから、平気。」
それは、どっちの意味だ?
"オレの"ママだから?それともこの母親だから?
悩むオレの横で、母親がまた可愛いって大騒ぎして華を抱き締めてる。
華は楽しそうで嬉しそうで、どっちでもいっかって笑って、オレも手を伸ばして華の頭を撫でた。
腹拵えした後は、買い物。
まずは鞄。華はショルダーバッグのイメージ。無防備だし、幼稚園児みたいに斜めにかけられるやつが良い。
「華ちゃんは何色が好き?」
「白。ママの色。」
「なら鞄は白が良いかしら?」
母親と手を繋いで、華はこくんて頷いてる。
白いワンピースとか、華似合いそう。絶対可愛い。想像して、オレはウキウキする。
鞄は、白くて小さいショルダーバッグを母親。
スケッチブックが入りそうな大きめのトートバッグをオレが買った。持ち手が茶色。上が白で、下三分の二が赤と紺のチェックになってるやつ。
今日は黒猫財布を入れる為に、母親が買った方を肩から掛けさせた。
一通り華の服が完成したから、あちこち周って色々試着させる。
いつも華は男物のズボン姿だから、ワンピースを三着とカーディガン。それに合わせてパンプスとブーツ一足ずつとタイツ。冬用コート一着。母親とどっちが出すか言い合いながら買った。
結局は半分ずつ出して、コートだけ華がカード使いたいって言ってカードで買って、買物終了。
華はカード使うの初めてだったみたいで、なんか楽しそうにしてた。
「りんごとか絵の道具はそれで買わないの?」
コート買った後に気になって聞いてみたら、華はこくんて頷く。
「運ばれてくる。」
「制服買った時は?」
「運ばれて来た。」
「パパが注文してんのかね?」
華は首を傾げてるから、知らないみたいだ。完全放置じゃないことが分かって、ちょっと安心した。
本当は部屋着も買おうとしたんだけど、華がパパのが良いって言うから、外出着だけになった。
買った荷物は、華の家寄って置く事にした。
だだっ広い何もない部屋に、母親が泣きそうな顔になってる。そのまま母親が華を抱き寄せてぎゅってしてるから、オレは買った物を片付ける事にした。
靴は箱から出して、空っぽの靴箱に。前掃除した時気付いたけど、靴もローファーとボロボロのスニーカーしかないっぽい。しかもスニーカーは、多分パパのだ。男物で華にはでかい。
ワンピースは皺にならないように寝室のクローゼットが良いかなと思って、不思議顏で母親に抱き締められたままの華に許可もらって開けた。
クローゼットは、華が言ってたドレスと着物。それに合わせた靴や小物がズラッと並んでた。ちゃんと華に似合いそうな色とデザインで、父親、愛情表現下手くそかよってオレは苦笑する。
空いてるハンガーにワンピースとコート掛けて、鞄もその隅に置いておいた。
全部片付けて戻ったら、母親はポロポロ泣きながら華を抱き締めて、でっかい描きかけの絵を見てた。
「千夏、千夏。」
華が母親の名前を呼んで、手を伸ばして母親の涙に触れる。
「嬉しい?」
これは、華なりの慰めなんだと思う。華は、自分の名前を呼ばれるのが嬉しいんだ。華のママとパパが考えた名前が大好きなんだ。
母親はポロポロ泣いたまま笑って、華をまたぎゅって抱き締めて、華の頭を撫でる。
「秋も、私も、華ちゃんが大好きよ。」
華が嬉しそうに笑って、母親の腕の中で目を閉じてじっとしてるから、オレも後ろから華に抱き付いた。
「華、可愛い。大好き。」
オレと母親にサンドされて窮屈そうにしながら華がクスクス笑うから、オレと母親も笑って、しばらく三人、ぎゅーぎゅーくっつきあってた。




