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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
18/56

土曜 3

 起きたら華がいて、びびった。

 体育座りして、オレをじっと見下ろしてる。


「おはよ、華。」

「おはよう、秋。」


 ふわっと笑って挨拶を返してくるからたまらない。起き上がって抱き寄せようとしたら、母親が戸の所でニヤニヤして立ってるのが見えた。


「見てんじゃねぇよ。」

「あら!ここは敢えて邪魔した母を褒めてもらいたいわ!」


 母親の言う事も一理ある。頭、沸騰しかけてたし。

 きゅって抱き締めて、デコチューで我慢した。オレ偉い。


「華、お腹空いた?」

「ウサギが良い。」


 そんなにウサギが気に入ったか。

 笑って立ち上がって台所に行く。


「華、コーヒーは飲める?」


 華は首を横に振る。

 まぁ、苦いのダメだもんな。じゃあホットミルクにしようって決めて牛乳沸かした。


「熱いから、気を付けろよ?」


 マグカップを渡して注意する。

 オレと母親が台所で飯の支度してるから、華はまた昨日と同じ場所に体育座りしてこっちを見てホットミルク飲んでる。


「もー、華ちゃん可愛い!いっそ今日も明日も泊まってそのまま学校行ったら?二人でガッツリテスト勉強頑張れば良いじゃない!ラストスパートよ!」

「朝から何勝手な事抜かしてやがる。」


 オレはリンゴをウサギに剥いて、母親はオレと自分の食パンを焼いて、フライパンで目玉焼き作ってる。


「泊まりたい。」


 オレらの後ろで、また華が驚きの発言をする。


「まぁ!じゃあ決定!今日もおばさんとお風呂入りましょ!」


 華はこくんて頷いた。嬉しそうに顔が綻んでる。

 やっぱ、あの家に一人は寂しいんだな。そりゃそうだ。


「華、可愛い。」


 剥いたリンゴを入れた皿持って、華の三つ編みの頭を撫でた。

 昨日から、華はずっとにこにこしてる。


「ウサギ、剥いたから机で食べよう。」


 華の手から飲みかけのマグカップを取って、机に連れてく。

 マグカップとリンゴの皿置いて、オレと母親の朝飯も取りに行く。

 三人揃っていただきますして、華はウサギリンゴを頬張った。



「華ちゃんが可愛い過ぎてツライ!仕事行くのツライ!一緒に遊びたい!」


 着替えた母親が華を抱き締めて駄々こねだした。


「馬鹿言ってねぇで、さっさと仕事行け!」

「秋冷たーい。華ちゃんアイスは好き?帰りに買って来てあげる!」


 母親の腕の中で華がやたら嬉しそうなのは良いけど、なんか面白くない。


「イチゴが好き。」

「イチゴね!じゃあイチゴのアイス買ってくるから、勉強頑張るのよ!行ってきまーす!」

「おう、頑張れよ。」

「……いってらっしゃい。」


 はにかんで言った華にまた反応しようとしたから、玄関から締め出してやった。


「華、おいで。」


 ずっと母親に華をとられてたから、ぎゅーって抱き締めて補充。


「秋の匂いがたくさん。」


 それは…どういう意味だ?オレ、臭いってことか?

 オレが悩んでるのには気付いてない華が、笑ってオレを見上げてた。


「お家。全部、秋がいる。」

「………それは、嫌?」

「安心する。」

「っ!!華、可愛過ぎ!!!」


 ぎゅーって力いっぱい抱き締める。

 なんて殺し文句を言うんだ、華は!

 これ以上好きにさせてどうすんだよ!!


「華、好き、大好き!」


 チュッチュッチュッて、でこ、鼻、ほっぺにキスした。唇は、なんか緊張したからとまった。

 でも、華がやたら嬉しそうに笑うから、やっぱとまんない。


「大好き。」


 軽く触れた華の唇は柔らかくて、ミルクの味がした。

 オレは、まるでファーストキスみたいに心臓がバクバクして壊れそうになってる。ファーストキスでもこんなんならなかったのに。


「…嫌、だった?」


 きょとんとしてる華に聞いた。


「嫌じゃない。」

「そっか。」


 笑ってまた、きゅうって抱き締める。


「華、可愛い、可愛い可愛い可愛い!」


 連呼したら華がくすくす笑うから、しばらく玄関先でハグしてた。



 華の三つ編みを結い直して、テスト勉強しようと勉強道具出したけど、華は色鉛筆で絵を描き始めた。

 ちょっと悩んだけど、そのままにしておく。

 昨日までに一緒に勉強した感じだと、想像してたより全然平気だったから。やっぱ、教師が放っておくにはそれなりの理由があったってわかった。

 完成した絵はあったかい色で、やけにリアルな昨夜の夕飯とウサギリンゴだった。



「たっだいまー!」


 テンション高い母親が帰って来て、一気に部屋が騒々しくなった。


「お疲れ。」

「……おかえりなさい。」


 また華ははにかんでる。

 言い慣れてないからだろうな。


「ただいまただいまー!良い子に勉強してたかしら?」


 母親が華に飛び付いて抱き締めた。母親の手から袋を取って、アイスを冷凍庫に仕舞う。そのままオレは夕飯を仕上げる為にコンロに向かった。

 子供舌の華の為にオムライスとコンソメスープ。昼はまたウサギリンゴ食べてたから、華も腹減ってるはず。


「着替えて、手洗ってうがいしろよ。すぐ出来るからな。」

「はーい。」


 母親は華を解放して着替えに引っ込んだ。

 華はまたにこにこして体育座りでオレを見てる。可愛い過ぎてツライ。

 オムライス三つ机に運んで、スープも運んだ。華のオムライスに猫描いてみたら、華が嬉しそうに笑ってオレからケチャップを取った。オレと母親のオムライスには、華がウサギを描いた。リアルじゃなくて可愛いやつ。


「華ちゃん上手!ウサギ可愛いー!食べるのもったいない!でも食べる!いただきまーす。」

「「いただきます。」」


 華は口の周りにケチャップ付けて、幸せそうにオムライスを食った。

 オレと母親は華を笑顔で眺める。


「あー可愛い過ぎてツライ。華ちゃん、秋のお嫁さんにならなくてもいいからうちの子にしたい!」

「バカか。」


 華はくすくす笑いながら、オムライスとスープを完食した。

 食後にアイスも食って、華は満腹で動けなくなった。


「だから残しても良いって言ったのに。」


 呆れて言うオレを見て、華は笑う。


「美味しかった。」

「華ちゃん可愛いー!」

「華、可愛い!」


 うちは親子で華にメロメロだ。似たもの親子なんだろうな。

 華がまた絵を描き始めたから、オレは洗い物するのに台所に行った。


「華ちゃん絵本当に上手いのねぇ。うちに飾りたいくらい!むしろ飾る?」


 また母親がバカなこと言ってるの聞いて、オレは笑った。


「………ダメ。」

「あら、恥ずかしいの?」


 首を横に振る華は、無表情に戻ってる。


「怒られる。」

「……誰に怒られるんだ?」


 洗い物が終わってオレも会話に参加する。なんか、良い話じゃない気がした。


「パパと、持って行く人。」


 母親も真顔になって、オレを見てくる。


「なんで、怒られるの?」


 華は、何も言わない。


「華?なんで怒られるの?」

「………怒られる。」

「そうなの。」


 母親はにっこり笑って、俯いた華の頭を撫でた。不安そうな顔で華がオレと母親を見るから、オレも笑う。


「そろそろ、風呂入ってきたら?腹もこなれただろ?」

「そうね!また一緒に入りましょ!」


 風呂場に向かう華と母親を見送って、考える。

 華が描いた絵を持って行く人はパパの会社の人で、華が人に絵をあげると二人は怒る。

 知りたいけど、なんか怖い気がして、スマホ握ったままオレは躊躇ってた。

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