金曜 3
何故か今、華がオレの家にいて、台所に立つオレを体育座りしてじっと見てる。
そんな見られてると流石にちょっと料理しにくいんだけどなって思いながら、野菜を切った。
今週の放課後は、華の家で毎日二人でテスト勉強してた。けど金曜はオレは帰らないとだから、うちで一緒に夕飯食う?って言ってみたんだよね。したら頷いて、手繋いでスーパー寄って、うち来て今、な感じ。
まさか、本当に来るとは思わなかった。
狭いうちに華がいる!!
内心大興奮のオレは、華にあったかい飯食わせてやれるのも嬉しくていつもより気合い入れて飯の用意してる。
ほうれん草と油揚げの味噌汁に回鍋肉、大根の煮物。まぁ、メニューはいつもとかわりばえしないけど、気分が違う。
「ただいまー。お腹空いたー。良いにお……きゃー!!こんばんわぁ、秋の母です!何?!なになになに何事?!」
「何事はお前だ!落ち着け!」
うちは玄関入るとすぐ台所だから、母親が帰ってすぐ大騒ぎし始めた。
「まぁ!まぁまぁまぁ可愛らしいじゃないー、本命ちゃん?本命ちゃんなの?本命ちゃんよねぇ?」
「良いから!まず着替えろ!手を洗ってうがいしろ!!」
「でも秋!部屋着あんたのお古のスウェットしかない!どうしよう!」
「それで良いから!華はそんなん気にしないから!着替えろ!騒ぐな!」
「まぁ!華ちゃんっていうの?名前まで可愛いー!!」
火を止めて、騒ぐ母親を部屋に押し込んで溜息吐く。騒ぐとは思ったけど、ここまでとは思わなかった。
華はきょとんとした顔でオレを見上げてる。
「今の、オレの母親。」
「秋のママ。」
「そう。オレのママ。」
華の頭を撫でてから、オレは途中だった料理を仕上げて皿に盛る。
三人分、料理を運んでる所でスウェットに着替えた母親が出てきた。なんで恥ずかしそうにしてんだよ。
手洗いうがいしに台所来て、母親が擦り寄って来る。
「どうしよう。緊張。」
「………がんばれ。」
そわそわしてる母親を適当に応援しといた。
「秋のママ。東華です。はじめまして。」
正座してちゃんと挨拶した華に、オレは驚き過ぎて固まった。
「まぁまぁご丁寧に。秋の母の千夏です。ママなんて、柄じゃないから照れちゃう!」
母親も華の前に正座して、きちんと挨拶してる。
「華、ちゃんと挨拶と敬語、できんだ?」
びっくりして華を見たら、華は頷く。
「教わった。」
「誰に?」
「持って行く人。」
持って行く人、なにもんなんだよ。
「いつ教わったの?」
「前。」
「……子供の時とか?」
華は首傾げてる。
母親はそんなオレらを面白そうに、顔輝かして見てた。
「んだよ?」
睨んだオレを見る母親が、なんか嬉しそうで面食らう。
「秋、ちゃんと優しいのね。安心した。」
優しい顔で笑うから、オレは照れ隠しに顔逸らした。
「おら、飯にすんぞ。」
味噌汁置いて、華を隣に座らせて気付いた。華、ちゃんと箸で飯食えるのかって。いつも箸はグーで握る。むしろ、自分で食えんのか?
いただきますって三人で言った後、華はじっと食卓を見てる。
「ねぇ、手料理、大丈夫?」
華を見ながら母親が小声で聞いてきて、オレは頷く。
「今は、オレのは平気だって。」
「まぁ!だから最近私のお弁当まであるのね!頑張ってんじゃなーい!」
「うっせ。」
「秋。」
呼ばれて見た華は、なんか、困った顔してた。
「どうした?」
「綺麗に食べれない。」
母親がいるから気にしてんのかな?オレは華の箸を持って笑って差し出す。
「誰も気にしないから、好きに食って平気。」
頷いて箸を持った華は、やっぱグーで、食べ方下手だった。
「待て。ごめん、一旦ストップ。」
制服汚しそうな事に気付いて、華を止めて立ち上がる。タオル持ってきて、華の首につけてやった。
「いいよ、食って。」
じっと待ってた華が、また一生懸命頬張りだす。
「美味しい?」
頷く華を母親も笑顔で見てた。
やっぱり華は少食で、ちょっと食べたら箸を置いてごちそうさまって言った。
「あら、もう良いの?」
母親をじっと見てから、華は頷く。
「お腹、いっぱいです。」
「女の子って少食なのねぇ。可愛い!」
笑って言った母親を、華はなんかチラチラ気にしてる。
「華、どうした?」
やたら母親を気にしてるから、聞いてみた。華はオレをじっと見て、また母親を見る。
「秋が二人いる。」
ぶはって、オレと母親が同時に笑った。
「そんなに似てるかしら?」
華は頷く。
オレは見た目は父親似って言われるから、多分性格のことかな。
「秋のママ、秋と一緒。」
「あらー、あんまり似てるって言われないんだけどね。」
「多分性格じゃねぇか?」
「あら!騒々しいってこと?」
「かもな。」
ちょっとウンザリしてオレが言ったら、華がくすくす笑った。
初めて、笑い声聞いた。
「華、可愛い!」
「ほんと、華ちゃん可愛い!うちの子にならない?」
「なに馬鹿な事言ってんだ。」
また、華がくすくす笑う。
ほんとやばい可愛い。可愛くてやばい。
「ね!華ちゃん一人暮らしだって聞いたけど、今日泊まったら?おばさんとお風呂入る?」
「何言ってんだ。テスト勉強しに来ただけだって。」
「えー、でもどうせあんたも土日バイトないじゃない?いっそ泊まってそのまま勉強したら良いわよ!私娘に憧れてたの!」
「勝手に憧れてろ!」
「入る。」
「は?」
華はずっとくすくす笑ってて、なんか驚きの台詞を吐いた。
「一緒にお風呂、入る。」
照れてはにかみながら、そんな事を言う。
「きゃー!華ちゃん可愛過ぎ!入りましょ!一緒に寝ましょ!」
「マジ、テンション高過ぎだから、落ち着いてくれ。」
オレが華の可愛さに感動してる暇もなければ、一緒に風呂とか……羨まし過ぎる。
でも、華が楽しそうで嬉しそうだから、いっか。
着替えは母親の服出して、二人が風呂入ってる間に洗い物した。
人見知りの華がうちの母親とは普通に話してるのに驚きだ。
やっぱり、母親ってものはなんか持ってんのかな?
「秋。」
華がタオルを頭に巻いて出て来た。この巻き方は、多分母親がやったやつだ。
「気持ちかった?」
華は嬉しそうに頷いてる。
「華、ウサギ。食う?」
アップルパイの残りのリンゴがあったから、切ってウサギにしてみた。
華が目を輝かせてまじまじと見てる。
「華、楽しい?」
ウサギは観察されてるから、ちゃんと皮剥いたやつを華の口に差し入れた。一口齧って、華は満面の笑みで頷いてる。こんな笑顔見れるなんて、母親に感謝だ。
その母親は、華と同じように頭にタオル巻いて、戸の所でこっちを笑って見てる。
「リンゴ、食う?」
「食う!ウサちゃんなんて可愛い事するじゃない!」
「まぁな。」
華は母親と仲良さげにしてるから、任せてオレも風呂に入る事にした。
風呂から出たら、母親に三つ編みに髪を結ってもらった華が、丸まって寝てた。
それを母親が優しい顔で見てる。
「飲む?」
冷蔵庫から発泡酒出して渡してやって、オレは隣に座ってお茶を飲む。
「トラウマ、当たってたっぽい。」
「……手料理の?」
「なんか、ママを黒くする人がご飯作って、気持ち悪いんだって。」
「子供の時に、何かあったんでしょうね。…父親は海外なんでしょう?」
オレは頷いた。
発泡酒飲みながら、母親は華の頭を撫でてる。
「可愛い、良い子ね。」
「だろ?可愛い過ぎてマジやばい。」
「お風呂で、秋の事、話してたわよ。」
「なに?なんて?」
すっげえ気になって勢い込んで聞くオレを母親が笑う。
「秋は優しいって。名前呼んでくれて、可愛いってたくさん言ってくれるって。」
「………それって、異性として見られてんのかな?」
「それはなんとも言えないけどね。……ちゃんと、守ってあげなさい。」
「わかってる。」
歯は磨かせたって言うから、母親の部屋に布団敷いてそこに寝かせた。
安心仕切った顔で、幸せそうに眠る華を見てたら、なんかまた、泣きそうになった。




