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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
16/56

木曜 3

 オレはウキウキしながら華の家に入って、持ってたでかい皿置いてラップを取った。


「華、おめでとうって言って?」


 不思議そうに皿を見て座った華にお願いする。


「おめでとう。」

「ありがとう!」


 にこにこ笑いながら、皿からアップルパイを一切れ取って華に差し出した。


「美味しい?」


 甘いもの好きな華は顔をキラキラさせて、美味しそうにアップルパイを食べてる。その姿を見てるだけで、幸せで死にそう。

 今日は、オレの誕生日。

 アップルパイの二切れは母親の為に家の冷蔵庫に入れておいた。

 華からは昨日、最高のプレゼントと、勉強終わって帰る時にリンゴをもらってアップルパイ作った。

 生地は冷凍のだけど、意外と上手く焼けた。オレ天才。


「美味しい。」


 アップルパイの合間に、水筒に入れて来た温めの紅茶を飲みながら華が笑う。

 結構ボリュームたっぷりに作ったから、華は一切れでお腹いっぱいになったみたいだ。

 オレも華に食べさせてもらって、アップルパイを堪能した。


「ね!華は誕生日いつ?」


 昨日のラプンツェルヘアーが可愛かったから、今日もそれにしようと鏡に向かって、華に聞く。


「8月7日。」

「あぁ。だから名前がハナ?」


 なんか納得。

 でも華は頷かないで鏡越しにオレをじっと見てる。どうしたの?って首を傾げて見せたら、口を開いた。


「ママが、百合なの。」


 言葉の意味を考える。

 百合は花で……ゆりの花。なるほど。


「百合の、華?」


 華が頷いた。


「ママが考えたの?」

「パパも。」


 なんだ、ちゃんと愛されてるんじゃん。なのに父親、なんで華を独りにしてんだよ。


「良い名前だね。」


 鏡越しに、華がふわっと笑った。



 残ったアップルパイは、放課後勉強の時にまた食べようって華の家の冷蔵庫に入れた。

 一切れラップに包んで学校に持って来たやつは、丁度下駄箱で会った祐介に渡す。昨日の良いきっかけのお礼。


「サンキュー!誕生日おめでとう、秋。」

「おう、サンキュー。」


 華と手を繋いでるオレの前を歩きながら、祐介は早速アップルパイにかぶりついてる。


「うめぇ!女子力たかっ!」

「華に尽くす為に頑張ってるからな。」


 うめぇうめぇうるさい祐介に茶化されながら教室入って、鞄置こうと席に向かうオレに、華がそのままついて来た。


「華?」


 なんか言いたい事あるのかな?って、椅子に座って目線を合わせる。


「秋、誕生日?」

「うん。」

「誕生日は、おめでとう?」

「うん?」


 言いたい事が見えてこなくて首を傾げるオレを、華はなんか不安そうに見てる。

 不安そうな華の両手を握って、華の謎掛けみたいな言葉の意味を考えて……わかった。


「華の誕生日は、おめでとうしないの?」


 華が頷いた。


「一回も?」


 また頷く。


「パパが、泣く日。」


 父親、殴りてぇ。

 どれだけ奥さん愛してたのかとか、オレにはわかんない。だけど、だからって、娘を蔑ろにして良い訳ない。

 オレは、両手で華の顔包んで、おでことおでこを合わせる。

 華の瞳、真っ直ぐ覗いて、にっこり笑う。


「オレは、産まれて、華に会えたのがすげぇ嬉しい。だから、オレはおめでとうが良い。」


 華はオレの瞳じっと見返して、少し考えてる。それから、口を開けた。


「秋、誕生日、おめでとう。」

「ありがとう。」


 オレが笑顔になって、華もつられるように笑う。

 8月7日、盛大に祝ってやろうって、心に決めた。



「なんか、秋が昨日泣いたの、分かったかも。」


 朝のホームルーム中、祐介が呟いた。

 そんな祐介をチラっと見て、オレは頬杖ついて二列向こうの華の背中を見る。


「華のうちって、なんにもないんだ。」

「一人暮らし?」

「そう。なんかすごい状態だった。」


 大掃除前の華の家を思い出して、オレは苦く笑う。

 父親何してんだろって思って、激しくムカついた。



「なんか秋、オカンみたいだな。」

「なんでまた一緒に食ってんだよ。」


 オレの至福タイムをまた祐介が邪魔してくる。

 不機嫌に睨むオレを、祐介は楽しそうに見てやがる。


「苦いの嫌。」


 そんなオレらの前では、華がピーマンを拒否してる。


「苦くないよ。食ってみて?」

「嫌。」


 華は断固拒否の姿勢だ。


「でも華、実はピーマンちょくちょく食ってんだよ?」


 オレは細かくピーマンを刻んでいろんな物に混ぜて、華は気付かずに食べてる。だから、今日はあからさまにピーマンってわかる状態で持って来てみた。


「今まで、オレのご飯うまかっただろ?」


 華は疑うようにオレをじっと見て、食べた。


「苦くないだろ?」


 咀嚼しながら、ちょっと驚いた顔してんのが可愛い。

 ご褒美代わりに、華が好きな甘い卵焼きを差し出した。

 これでピーマン克服だ!


「東さん、お菓子食べる?」


 ごちそうさまして、スケッチブックを取り出した華に祐介がお菓子を差し出した。けど華は無視。ざまあみろ。


「な、これ、秋がやってみて。」


 祐介が言ってくるから、袋から一本取って華の口の前に持って行く。食った。


「か、可愛い!!」

「やっぱな。そんな気した。」


 その後また、祐介が差し出して無視されて、オレが差し出したら食べるってのをもう一回やった。

 何故か祐介が満足そうだ。


「良かったな、秋。」


 にって笑った祐介に、オレも笑う。


「華、大好き。」


 言ったら華が絵から顔を上げて、ちょっと笑った。




 夜の遅い時間。

 布団で寝てるオレの頭を、仕事から帰ってきたばっかの母親が撫でてきた。

 オレは起きてたけど、そのままじっとしてる。


「誕生日おめでとう。産まれてきてくれてありがとう、秋。」


 小さな声で母親が言うこれは、毎年の恒例行事。毎年、オレは起きてるけど寝たふりする。でも今年は、伝えたい事があった。


「産んでくれて、ありがとう。」


 途端に抱きついて来て母親が泣くから、照れ臭くてオレは、そのまま寝た。

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