水曜 3
今日の華の髪型は映画で観たラプンツェル意識してみた!
時間かかって大変だったけど、腰まである華の髪を複雑な感じで編み込むのは楽しかった。小花とか散らしたら似合いそうでやばい。
「華、可愛い!」
イチゴリップと桜ハンドクリームの後のハグとデコチュー。恒例にしようと思うんだ。
華はオレの腕の中ではにかんでる。実は照れてたりするのかな?でもどっちかって言うと嬉しいが勝ってる顔かな。
「秋も、可愛い。」
そう言って笑ってる華のが可愛いです!やばいです!オレの胸はきゅんきゅん通り越してぎゅんぎゅんいってる。頭の中花満開。そんな気分で手を繋いで学校向かってたら、華が立ち止まった。
「どした?」
じーっと華は道の端を見てる。
なんだろ?ってオレもよくよく見てみたら、生垣から猫が顔を出してた。茶色い縞猫。華と目線があった猫は、お互い譲らず見つめ合ってる。
どうするのかなって思って、オレは黙って華と猫を眺める。
「にゃー。」
華が、にゃーって言った!!
繋いでるオレの手は離さないまましゃがんで、猫ににゃーって話し掛けてる。
しかも、猫、返事した。華は猫語が分かるのか?なんて考えながら、可愛過ぎる華にオレ大興奮。
にゃーにゃー二言三言会話したら茶縞猫が華に体を擦り寄せて、そのまま去って行った。華は、猫が見えなくなるまでしゃがんだまま見てた。
「あー、毛が付いてる。」
満足したのか、華が立ち上がったから猫が擦り寄った所を見たら、紺色ハイソに猫の毛が付いてた。軽く払ってみたけど、動物の毛って図太いんだよな。コロコロしなくちゃ完全には落ちない。
ある程度叩いて諦めて、歩きだす。ここまでずっと華はオレの手を握ったまま離さなかったのがまた可愛くて、オレはデレデレだ。
「猫、なんて言ってたの?」
会話してるみたいだったから聞いてみたけど、華は首を傾げてる。
「にゃーって、会話してたじゃん?」
「にゃーって言うとにゃーってなる。」
「そっか。楽しかった?」
華は満足そうな感じで頷いた。
残念ながら、華は猫語が分かる訳じゃないらしい。
「オレもにゃーって言ったらにゃーって返してもらえるかな?」
首を傾げてる。まぁ、わかんないよなって、オレは笑う。
「華、にゃー?」
「にゃー。」
「かっわいい!!」
堪らず抱き締めたのは校門前で、前から歩いて来てた祐介と目が合って呆れた顔された。
「おは。」
「おは。秋のデレ顔半端ねぇな。」
「うっせ。」
「おはよう。東さん。」
祐介が華に挨拶したけど、華はチラッと祐介を見ただけで答えない。
「華、こいつ、オレの友達。佐々木祐介。同じクラスだよ。」
「秋の友達。」
「そ、友達。」
見上げて来た華ににっこり笑ったら、繋いだ手をきゅって握られた。
「…………………おはよう。」
華は下を向いて、小さい声で挨拶した。褒めるみたいに、オレはよしよしって頭を撫でる。
祐介はオレらを面白い物でも見るみたいな顔で見てた。
「で、さっきのにゃーって何?」
祐介がオレの隣で三人並んで下駄箱に行く。
「猫がいたんだ。」
「本物?」
祐介の言葉にオレはぶはって笑う。
「本物本物。茶縞猫と可愛いオレの黒猫が会話してたの。」
「マジかよ。東さん猫語わかんの?」
華はオレの手をまたきゅって握ったけど、無言だ。
「激しい人見知り?」
祐介はそんな華を面白そうに見てる。
「でもそこがまた可愛い。華、可愛い!」
下駄箱で靴履き替えてる華をオレはまたきゅって抱き締めた。オレの腕の中で、華はオレの制服の肘の部分をきゅって握る。
初めての反応に、オレはもうデレデレに溶けた。
祐介が一緒だったからか、華はオレと手を繋いだまま無表情で無言だった。
教室着いたらそのままするりとオレの手を離して自分の席で絵を描き始める。
「なぁ。東さん、オレ同じクラスって知らなかったの?」
祐介が不思議そうに首を傾げてる。
まぁ二学期だし、普通なら同じクラスのやつらの顔と名前くらいは分かるよな。
「他人は、オレとパパと持って行く人しか認識してないっぽい。」
「は?」
「お前だけじゃねぇってこと。」
祐介がぽかんとした顔してるから、オレは可笑しくてちょっと笑った。
「秋のお姫様は、やっぱり不思議ちゃんだな。」
「お姫様とか、何くせぇ事言ってんだよ。」
「くさかったのは一昨日のお前だ。」
「あ?」
「昼休み、廊下で。」
ちょっと考えて、分かった。
まぁ、あれは、今考えると確かに恥ずい発言だったかも。
「勝手に聞いてんなよ。」
照れて、オレは仏頂面を作る。
「王子様は注目されてっからな。聞きたくなくても、女の子達が騒ぐから耳に入る。」
「それは、怖ぇな。」
「だな。負けんな、アイドル。」
肩にグーパンされて、オレは溜息吐いて華の席に向かう。
絵を描く華を見てたら、ちょっと癒された。
昼休みになる頃には、朝の猫そっくりなやつがスケッチブックにでかでかと座ってこっちを見てた。
「華、これは既製品と冷凍食品です。」
お昼休みのおまじない。華はじっとオレを見て待ってる。最近の華のリンゴは、弁当と交換でオレの胃袋に入る。
「なぁ、いつもやってるそれ何?」
何故か祐介がオレの隣で購買のパンを食い始めた。
「オレと華の秘密。」
華に蓮根の金平を食わせながら答えるオレに、祐介はふーんって呟いてる。
「でもそれ、全部秋が作ってんじゃねぇの?」
余計な事を!怒りの形相で睨んだオレに、祐介がビビった顔になる。
オレはそんな祐介から視線を華に戻してオロオロする。
箸で差し出したオレ作の鳥肉団子を前に、華がぴったり口を閉じて固まってる。
どうしよ?手作り気持ち悪いって言ってたから、吐く?吐いたりするかも?
差し出した箸を引くのも忘れてパニックのオレ。そんなオレを華はじっと見て、パクんて、鳥肉団子を口に入れた。オレを見ながらむぐむぐ噛んで、飲み込む。
「秋のなら、平気。」
華の言葉で、オレは、ぶわって泣いた。
「おい、秋?」
祐介が引いてるけど気にしてられない。
「良かった。」
良かったを連呼しながら、オレはぐしゃぐしゃに泣く。なんか、胸がいっぱいで感動だ。嬉しい。華がオレのだけでも、ちゃんとご飯食べれるんだって思ったら、嬉しくて堪らない。
「秋。」
華が泣いてるオレに手を伸ばしてきて、涙に触ってくる。
「嬉しい?」
オレの涙で濡れた華の手を掴んで、頬を擦り寄せた。
「嬉しい。華がちゃんと飯食えて、すっげえ嬉しい。」
泣き笑いで言ったら、不思議そうだった華がちょっと笑った。
もうおまじないは、いらないかな。
涙が収まったオレが華に飯食わせて、自分も食ってから華がくれたリンゴを食う。
華はもう、絵を描き始めてた。
「オレ、禁句口にした?」
オレらの様子に面食らってた祐介が、罰が悪そうな顔してる。
そんな祐介に、オレは笑った。
「まぁな。でも良い方向に作用した。ありがと。」
「なら良いんだけど。…悪かったな。」
オレは笑って、肩にグーパン食らわせてやった。
「華は、なんで手料理、気持ち悪いのかな?」
絵を描いてる華に思わず呟いた。
答えは返ってこないよなって思ってたけど、華が絵から顔を上げてオレをじっと見る。
「黒くする人が、ご飯を作ったの。気持ち悪い。」
絵を中断して答えた事に驚いて、華が言った言葉に眉間に皺を寄せる。
「黒くする人は、誰?」
「ママを、黒くするの。怖い。」
あぁ、やっぱ母親が言った通り、なんかトラウマだ。
淡々と話してるけど、華は怯えてる。だから、オレは出来るだけ優しく笑う。
「その人は、もういない?」
華は頷いて、オレを見てる。
「秋がいる。」
華は絵に向き直って、オレはまたちょっと、泣いた。
華のトイレに、祐介まで付いてきた。男二人で女の子のトイレ待ちとか、ちょいキモい。
「なぁ、東さん、家庭複雑?」
祐介は飯の時の事を聞きたくてついて来たみたいだ。
オレはトイレと隣のクラスを横目で警戒しながら頷く。
「まだ詳しくはわかんないけど、複雑っぽい。」
「そか。秋、相当好きなんだな。」
なんかしみじみ言われた。
「好きだよ。」
華が寂しいなら側にいたいし、怯えてるものから守りたい。
相当オレは、華に参ってるんだ。




