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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
14/56

火曜 3

「秋」


 玄関開けた途端の華が、超絶可愛くて困った。

 いつも通り頭は鳥の巣だけど、なんか、オレに会えて嬉しそうに見えるのはオレの欲目か?


「おはよう、華。」

「おはよう、秋。」


 笑ってる。華が笑ってる。

 ふんわり笑って華は家の中にオレを招き入れる。

 絵の部屋で座って、餌待ちのポーズでオレを見上げてる。

 可愛い華に顔が緩みっ放しのオレは、華の隣に座って朝ごはんを出す。今日は甘いのが好きな華の為に、甘いお揚げのお稲荷さん。


「これは既製品です。」


 魔法の呪文を唱えるオレをじっと見て待つ華。

 一つ取って口の前に差し出して、ぱくっと一口。途端、顔がキラキラ輝いてる。これは、すっごい気に入ったみたいだ。


「シャクシャク美味しい!」


 そう言って、またパクんて食べる。シャクシャクは小さく切ったレンコンだ。レンコン、人参、インゲン、ごま入りで栄養バランス考えてみた。


「お茶は?飲む?」


 一つ食べ終わった華に聞いたら頷くから、水筒から温めのお茶をフタに注いで渡した。こくこくお茶を飲んで、ふーって息を吐いたら、また強請るみたいにお稲荷さんを見てる。

 もう一つ、揚げを裏っ返しにしたやつを取って差し出す。パクんて食べて、また顔が輝いた。

 こっちは甘じょっばくした。中身はゆで卵を混ぜ込んである。

 パクパク食べて、お茶をまたこくこく飲む。


「もう一個食べる?」


 聞いたら嬉しそうに頷いてる。華が可愛くて、オレもニコニコ笑ってる。


「どっちが良い?」

「シャクシャク。」


 レンコン好きなのかなって思いながら、レンコン入りの方を差し出して、パクつく華をオレは笑って眺める。


「っ!は、華!ストップ!」


 どんだけうまかったのか、華はぺろぺろオレの指についた甘い汁を舐め始めるから、反対の手で慌てて肩を抑えて止めた。

 きょとんと不思議そうな華に対して、オレは真っ赤になってあわあわ焦る。


「秋も食べる?」


 オレが衝撃から立ち直る前に、華は残った一個を掴んで差し出して来た。条件反射で一口齧って、噛んで、飲み込む。


「美味しい?」


 華が笑って聞いてくるから、こくこく頷いて、残りを口に放り込まれる。

 華は自分の手をぺろぺろ舐め始めた。

 なんかどっと疲れて、タッパー洗おうと思って立ち上がった。

 猫、猫やばい。


「秋、ペタペタする。」


 指を舐め終わった華がそんな事言いながらタッパー洗ってるオレの所に来たから、手を洗わせた。

 これは、もしかしてあれか。オレ、異性として認識されてない?ってか、華って異性とかの認識あるのか不安になってきた。


「秋、秋、秋。」


 ぐるぐる思考の渦にハマってるオレを華が呼ぶ。


「どうした?」


 隣にいる華を見下ろしたら、嬉しそうに笑われた。

 なんだろ、華が笑うと全てがどうでも良くなるから不思議だ。にっこり笑い返したオレに、華はごちそうさまでしたって言った。


「秋のご飯は、美味しい。」


 ニコニコ笑ってる。

 華は学校だといつも無表情だったけど、それは、笑い掛ける相手も、一緒に笑う相手もいなかったからなんだって思う。その相手にオレがなれて、すっげえ嬉しい。


「華、大好き。」


 嬉しさを表そうと思って笑顔で口に出したら、華ははにかんで笑った。


「髪、梳かそうか?」


 濡れた手を拭きながら聞いたら、華は嬉しそうに頷く。

 華は、髪梳かされるの、好きみたいだ。


「華はやって欲しい髪型ある?」


 洗面台の前で髪を梳かしてやりながら聞いてみた。スマホで検索すれば、多分出来ると思うんだ。


「秋の好きなのが良い。」


 なんだよその可愛い返事!!

 内心大興奮しながら、オレは昨日と同じ髪型を作っていく。一番好きなのは下ろしてるのだけど、それだと華が嫌がると思ってこれ。


「秋は、これが好き?」

「うん。好き。可愛いし、華に似合ってる。」


 にっこり笑ったら、また華がはにかんだ。

 イチゴのリップと桜のハンドクリームで完成。あと、もう一つ。


「可愛い。華、すごく可愛い。」


 言いながら、きゅって抱き締めた。


「秋も、可愛い。」


 腕の中で華がそんな事を言う。ちょっと考えて、華は可愛いって言われるのが嬉しいんだってわかった。


「華、可愛い。」


 おでこにチュッてキスしたら、きょとんとしてたのが、また堪らなく可愛かった。



「ね、華?今日バイトないから、学校の後華の家で勉強しても良い?」


 手を繋いで、エレベーターで下りながら聞いてみた。

 来週から中間テスト。自分の家でやるより華の家の方が勉強が捗りそうな気がした。何より、少しでも一緒にいたい。


「いいよ。」


 華の返事が嬉しくて、オレはニコニコ笑った。

 そんなオレを見上げる華も嬉しそうな気がしたのは、気のせいじゃないと思うんだ。



 手を繋いで登校して、華が何故か黒猫の財布を取り出して自販機に向かった。喉が渇いたのかなって見てたら、戻ってきた華の手にはイチゴ牛乳。


「飲みたかったの?」


 聞いてみたら、首を横に振って差し出して来た。


「秋の。」


 意図が分かって、オレはぶはって笑った。華の恩返しだ。


「ありがとう。」


 受け取って、また手を繋いで教室に行った。


「どうしたの?」


 教室に入ったら、いつもは真っ直ぐ自分の席に行く華が着いてきた。

 首を傾げて見せるオレを華は席に座らせて、オレの手からイチゴ牛乳を奪う。

 なんだろうって見てたら、不器用な動きでストロー刺して渡してきた。

 またオレは吹き出して、お礼を言って受け取った。


「美味しい?」


 オレの真似っこがいる。

 イチゴ牛乳を飲むオレを華が見上げてくるから、笑って頷く。

 そしたら華は、嬉しそうな顔で笑った。



「野良猫、手懐けたみたいじゃん。」


 華は珍しく絵を描かないで、担任が来るまでオレの席でオレの観察をしてた。それを隣でニヤニヤ見てた祐介が華が自分の席に戻るのを見ながら小声で言ってくる。


「そうなんかなぁ?だったら嬉しいけど。」

「良い感じに見えた。」

「そっか。」


 華の恩返しが可愛くて嬉しくて、オレは笑ったまま中々顔が戻らなかった。




 張り付いてたお陰か、今日は放課後になるまでに華に変なやつが近づいてる様子はなかった。このままもう何もしないでくれたら良いんだけどな。


「華はテスト勉強してるの?」


 帰りのホームルームが終わって、華と手を繋いで帰る途中で聞いてみた。

 華は何故かきょとんてしてる。


「来週、テスト、分かってる?」


 華は無言だ。これは、まさか。


「華、いつもテスト何点くらいなの?」


 また無言。


「テスト勉強、したことある?」

「ない。」


 堂々過ぎる答えに、顔が引きつった。

 でも補習を受けてる様子はなかったし、大丈夫なのかなって思う事にした。テストの点数やばい子が授業中も絵を描いてたら、流石に教師がなんか言ってるよな?多分。



 途中コンビニ寄って、オレの夕飯とお菓子を買った。

 華の家に着いて、オレは先手を打つ。着替える時には閉めましょうって言って、華を寝室に押し込んだ。

 オレの定位置になりつつある場所に座って勉強道具を出した。

 新しい絵は、まだ何が出来るのかわからない。濃い色だけど、まだそれだけ。

 寝室から出て来た華はいつものサイズの合ってない服で、絵に向かうのかなって見てたらオレの隣に来て座った。


「一緒に勉強する?」


 聞いたらこくんて頷いた。


「なら、勉強道具持っておいで。」


 またこくんて頷いて、立ち上がって戻って行く。

 鞄ごと持ってきた華としばらくテスト勉強したけど、授業中も絵描いてる癖に意外と授業聞いてるっぽい事が分かって安心した。

 しばらく勉強して、オレの腹が空腹を訴えるから飯にする事にした。コンビニ弁当。華も食べるか聞いたら、華は首を横に振った。


「いらない。秋のじゃない。」


 華はもしかして、いつもオレが食わせてるのが既製品じゃなくてオレの手作りだって、分かって食ってるのかもしれないって思った。

 でもやっぱりあのおまじないは必要な物の気がして、詳しく聞くのはやめておく。

 お菓子は差し出したら食って、食い終わったらまた二人で勉強した。

 明日も一緒に勉強する約束して、オレは明日が楽しみで浮かれた気持ちで家に帰った。

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