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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
12/56

土日 2

 台所を磨くオレを、華は体育座りでじっと見てた。段々黒猫の世話をしてる気分になってくるから、笑える。

 ピカピカになったコンロとシンクに満足した所で、そういえばって思い出す。

 鞄から小さい容れ物を出して、体育座りしてる華の側に座った。


「手、貸して?」


 華はじっとオレを見て動かない。警戒してる猫みたいな華が可笑しくて、笑いが込み上げる。


「痛い事も怖い事もしないよ。」


 笑っていうオレを見ながら、恐る恐るって感じで華は手を差し出した。

 容れ物からハンドクリームを取って、オレの掌であっためてから華の手に刷り込む。


「良い匂い。」


 華が鼻をくんくんしてて、可愛い。


「桜の香り。季節外れだけど、良い匂いだろ?」


 昨日の帰りに見つけて買ったハンドクリーム。オレにとって、華は桜のイメージ。多分、最初に見たのが桜を描いてる華だったからだ。

 イチゴ味のリップに桜の匂いのハンドクリーム。オレの鞄に、華の為の物が増えてく。


「気に入った?」


 聞いたら華は頷くから、なんだかすっごい幸せな気分でオレは笑った。


「また、明日来て、掃除しても良い?」


 七時過ぎたし、今日はもう掃除は微妙だなと思って聞いてみた。


「いいよ。」


 すぐに答えてくれたのが嬉しい。

 人の家で掃除しまくる変なやつになってるけど、気になるんだから仕方ないと思う。

 明日こそ床の埃撲滅だって誓って、玄関で靴を履く。


「また明日ね。」

「……また、明日。」


 返って来た言葉に満足して、オレは玄関を出た。今日の夕飯と明日の事を考えながらの帰り道は、なんか楽しかった。




 頑張って働いて、昨日と同じく休憩室のレンジであっためたタッパー持って華の家に急ぐ。

 今日はグラタン。冷めない内に食わせたい。


 華の家に入ると、あの絵が無かった。

 消しゴムで綺麗に消したみたいに真っ白に戻ってる。


「華、昨日の絵は?」


 既に座って餌待ち状態の華に聞いたら、首を傾げてる。


「木と空の絵、どこ行っちゃったの?」


 あんな大きいものが消える訳ない。でも部屋の中には見当たらなかった。


「持って行った。」

「誰が?」

「持って行く人。」


 なんか、謎掛けみたいだ。

 グラタンがこれ以上冷めても困るから、待ってる華の隣にオレも座る。


「これは、冷凍食品です。」


 華にじっと見られながら、毎回の暗示。

 やっぱり華はグラタンが好きみたいで、持って来た分ほとんど食べた。苦しそうにお腹さすりながらのごちそうさまでしたが可愛かった。

 残りはやっぱりオレが食べさせられて食事が終わった。

 さて掃除だって、立ち上がって気が付いた。

 台所に、手付かずの高そうな店のっぽい弁当がある。


「華、これは食べないの?」


 華は頷く。


「秋の方が美味しい。」


 なんだよ、それ。

 嬉し過ぎて、かぁーっと熱くなった。こんな高そうな店のより、オレが作ったやつのがうまいとか、最高の殺し文句。


「で、でもこれ、食べたくて買ったんじゃねぇの?」

「持って来た。」

「誰が?」

「持って行く人。」


 一瞬父親かと思ったけど、違うみたいだ。

 謎掛けみたいな華の言葉に、眉間に皺を寄せて考える。考えながら見回した台所は、りんごの箱が新しくなってて、冷蔵庫の中のバナナと食パンも、新しくなって増えてた。


「ねぇ、華。持って行く人って、誰?」


 体育座りでまたオレの動きを見てた華の側に戻って、オレも座る。

 華は首を傾けてオレを見てる。


「親戚の人?」


 華は首を横に振る。


「家政婦さんとか?」


 また首を横に振る。


「パパの会社の人。」


 よくわからんが、海外にいる父親の会社の人がたまに来て世話をしてくれてんのか?その割りに部屋が酷い状態だったのは無視なのか?


「よく、来るの?」

「持って行く時だけ。」

「……りんごとかバナナはその人が買ってもってくるの?」

「持って行く時だけ。」

「持って行かない時は?」

「運ばれてくる。」


 んー?世話をしてくれてる訳ではない事はわかった。

 パパは海外、ママはお空。

 華が描いた絵をパパの会社の人が持って行く。その時ご飯を持ってくるけど、しょっちゅうじゃない。だからやっぱり、華の生活の世話をする人は近くにいないのか。

 なんとか頭の中を整理しながら、掃除機で埃の撲滅。華は何故か体育座りのまま、オレをじっと観察してた。



 玄関の埃撲滅を終えたオレが戻ると、華は体育座りしてた場所で丸まって眠ってた。華は実は前世猫だったんじゃねぇかって考えながら、華の側に胡座で座る。

 寝顔見てたら、なんかオレも眠くなってきた。バイトの後に連続大掃除は、流石に疲れた。

 少しだけって思って、華の近くで身体を横たえて、目を閉じた。



「体、いて〜」


 固い床で寝たもんだから、目が覚めたら体が軋んだ。伸びして体伸ばして目を開ける。


「華?」


 真っ暗な部屋の中に、華がいなかった。

 体起こして床に座ったまま見回したら、カーテンが揺れてる。立ち上がって、カーテン潜って開いた窓から外を覗いたら、華が体育座りで空を見てた。

 オレが顔出してもそのまま空を見てるから、オレはベランダから見える景色を眺めてみる事にした。

 結構良い景色。ちょっとした夜景が綺麗だ。空も、秋の澄んだ空気のお陰か星が少し見える。


「どうした?」


 景色を堪能してから振り向いたら、華がこっちをじっと見ててちょっとびっくりした。


「秋。」

「なに?」

「秋は、変。」


 なんかしみじみ言うもんだから、ぶはって笑って、オレはそっかって返す。そうやって笑うオレを、華は相変わらず猫みたいにじっと見てた。

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