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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
10/56

金曜 2

 結局昨日は、華の家で寝こけたから自分の家に帰った時には十一時になってた。

 昨夜帰る時にちゃんと風呂に入れって言ったけど、大丈夫かな。って心配してたら案の定。玄関開けて出て来た華は、寝起きで絵の具が付いたままだった。

 早めに来て正解だったみたいだ。

 華を風呂に放り込んで、その間にオレは見つけた掃除機で床の埃撲滅。


「は、華?!ふ、ふふ服を着ろー!!!」


 襲えっていうお膳立てか?!いやまて落ち着けオレ!

 華を着替えがあるっぽい寝室に押し込んで頭を抱えた。タオルを巻いててくれてたのがせめてもの救いだ。全裸だったら、オレの理性焼き切れる。なんかここ数日、オレの理性が試されてる気がする。

 大きな溜息吐いてたら、制服に着替えた華が出てきた。髪びちゃびちゃで。


「おいで、華。」


 呼んだら寄ってきたから、髪を拭いてやる。ドライヤーを昨日見つけたから、洗面所まで連れて行ってドライヤーで髪を乾かしてたら、鏡に映った華がなんか気持ち良さそうな顔してて可愛い。

 乾いたらそのまま髪を結う。今日は、ネットで調べた編み込みに挑戦。中々手こずったけど、上手く出来た。満足。

 華も嬉しそうで、より満足だ。

 その後は暗示の時間。

 今日はおにぎりにしてみた。しかも、魚嫌いの華に鮭と胡麻のおにぎり。子供は鮭は好きだし、大丈夫な気がする。

 海苔巻いて差し出したら、華は受け取らないでオレの手から食べた。


「美味しい?」


 可愛いから良いかってそのままにする。

 華は気に入ったみたいだ。鮭のおにぎりだけど。

 もう一つはおかか。これも受け取らない。しかもオレの手首を両手で掴んで食べてる。よくわからんが、可愛いから良しとしよう。

 食後は水筒からあったかいお茶。猫舌っぽい華の為にぬるめ。

 華はなんか、幸せそうにお茶飲んでる。


「ごちそうさまでした。」


 今日は自分から言って、華は笑った。


「お粗末様でした。」


 歯を磨かせて、イチゴリップ塗って、手を繋いで学校行く。

 なんか、華が大分懐いて来てくれた気がする。


 今日もイチゴ牛乳はなしで良いって言うから、教室着いてイチゴのチョコを口に入れてやったら、喜んでた。


 いつも通り華は休み時間絵を描いて、オレは飽きずに眺める。

 昼も暗示作戦でちゃんと食事を取らせて、イチゴリップ塗ってやった。


「華!それどうした?!」


 満たされた気持ちでいたら、飯の後トイレに行って戻って来た華の膝から血が出てた。しかも両方。


「転んだ。」

「また?保健室、行くよ。」


 歩くの痛そうだったから、華を横抱きにして保健室に行った。消毒して、絆創膏貼ってもらって、とりあえず一安心。怪我も膝だけみたいだ。


「ねぇ、華。本当に転んだの?」


 教室戻るのも痛そうだったから抱えた。抱えながら、華の顔を見て聞く。


「転んだ。」


 でも華はそれしか言わない。

 教室に戻って、華を椅子に下ろしてから、オレは華のほっぺたを両手で包んで目を合わせた。


「ねぇ華?ちゃんと、困った事があるなら、言わないとダメだよ。わからなかったら、助けたいのに助けられない。オレは、華がすごく大切なんだ。」


 じっと見つめたら、華の瞳は揺れて彷徨った。それでも華は、何も言わなかった。




 今日は買い物して夕飯を作らないとだから、華を家に送ってそのまま帰ってきた。ただ、明日バイト終わりに家に行っても良いって許可をもらえた。


 夕飯はハンバーグ。刻んだピーマン入り。明日バイト先の冷蔵庫借りて、華の家に持って行くつもりだ。


「ただいまー。良い匂いー。お腹空いたー。」


 頭を掻き回しに来る母親を避けて着替えの為に部屋に押し込んだ。

 その間に味噌汁あっためたり机に夕飯並べる。


「ハンバーグうまいー。あんた料理の腕上げたわね!」


 母親はうまいうまい言って食ってる。

 オレは箸を握り締めて、相談しようと口を開いた。


「あのさぁ……」

「なによ、どうしたの?」


 なんか躊躇って、母親が先を促してくるから続きを言う。


「オレ、いつか刺されるって言われるような事、してたじゃん?」

「そうね。でも、やめたんでしょう?」

「やめた。ちゃんと女の子達にも、謝ってもうしないって伝えた。」


 覚えてて、その時に関係あった子だけだけど、ちゃんと別れて終わらせた。


「………でもさ、もし、オレを刺したいって思ってた子がいて、それが、オレの本命の片思い相手に向く事って、あると思う?」


 絵の具の水を被ってびしゃびしゃになってた華。

 転んだって言って、両膝から血を出してた華。

 華を見るようになってから、華がそんなんなってる姿は、オレが近付いて初めて見た。だから、なんか、オレの所為かもって、不安だ。


「あると思うよ。女はね、怖いのよー。愛した男より、その男が大切に思ってるもの狙うの。それが自分より大切に扱われてるんなら、面白くなくてなんかするかもね。」

「っ、マジかよ。じゃあやっぱ、オレの所為?」

「なに?本命ちゃんなんかされてんの?」


 オレは母親に、びしょ濡れ事件と今日の怪我の事を話した。

 なんか、胸の奥に固いしこりみたいなのがある気がして、苦しい。


「それだけだとなんとも言えないけど…あんたが守ってやんなさいよ。多分、そういう子達はあんたの前ではやらないから。」

「……そういうもん?」

「そういうもん。あんたに見られたら嫌われるじゃない。」

「訳わかんねぇ。そういう事やってる時点で嫌いなのに。」


 机の向こうから手を伸ばしてきた母親に、頭ぐしゃぐしゃに撫でられた。


「ま!本命ちゃんがなんにも言わないなら、出来るだけ側にいて気を配ってやんなさい。」

「わかった。」


 母親の手から逃げて、オレはハンバーグを口に放り込んで、咀嚼した。

 このハンバーグを食べてる華を想像したら、ちょっと和んだ。

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