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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
1/56

月曜 1

作中、画家や画商などの表現が出て来ますが秋同様作者も詳しい知識は持っていません。想像で書いたフィクションとしてお楽しみ下さい。(3/10前書きのみ加えました。)

東華(あずまはな)さん、好きです。オレと付き合って。」


 朝一の教室で、オレが柄にもなく緊張で手に汗かいて対峙してるのは、同じクラスの女の子。

 制服のスカートはヨレヨレで、たぶん梳かしてないんだろうなって髪を適当に一つに結った、今までのオレだったら全く関わろうなんて欠片も思わないような子。



 彼女を初めて知ったのは、今年の春。

 ぶっちゃけ、顔が自慢で女の子にモテるオレは、高二に上がった始業式の日も誘ってきた先輩とイチャイチャする為に空き教室に向かってた。

 第二校舎にある空き教室の一つ。そこに、東華(あずまはな)がいた。

 教室の黒板全部使って、満開の桜と入学式の絵を描いてた。その絵は上手いなんてもんじゃなくて、チョークで描いてるはずの桜が、本物にしか見えなかった。

 思わずオレは、スマホで写真を撮った。

 音に反応した彼女はチラッとこっち見て、興味無さそうにまた絵に向き直る。


 それがきっかけ。


 次の日新しいクラスで彼女を見つけて、ホームルームでやらされた自己紹介で名前を知った。

 東華(あずまはな)はいっつも絵を描いてる。

 朝登校してからも、休み時間も、昼休みも、授業中でさえ何か描いてた。授業中なのに、教師はチラッと見るくせに注意しない。だから一年の時もそんなだったのかな、って思った。

 まぁ、それだとただの絵を描くのが好きな地味な子だけど、東華(あずまはな)は変な子だった。

 昼飯は、りんごとかバナナとかを丸かじりしてたり、食パンそのまま食ってたりする。

 そんで、誰とも会話しない。ほんと、絵ばっか描いてる。

 チラッと見た絵はやっぱりとんでもなく上手くて。でも、学校の風景とか描いてるのに人間が描かれてる事がなかった。

 この子は、人に興味ないんだって思った。

 春に描いてた絵も、入学式の絵だったのに、人はいなかった。写真撮ったオレを見た瞳にも、興味のカケラも浮かんでなかった。


 オレは、東華(あずまはな)が気になってたまらなくなった。

 夏休みも、いつもなら適当に女の子達と遊んだりして過ごすのにそんな気になれなくて、東華(あずまはな)のことばっか頭に浮かんだ。

 新学期始まってからも、彼女を目で追って、オレは、あの瞳にオレを映して欲しいって、思った。


 だから今、オレは登校してきた東華(あずまはな)の机の前に立って、告白してる。

 いつもみたいに絵を描こうとしてた彼女はチラッとこっち見て、興味無さそうに絵を描き出した。

 オレは顔が引きつった。


「冗談とかじゃないよ。真面目だよ。ねぇ、東さん?」


 スケッチブックと彼女の顔の間に手を差し込んで注意を引いてみる。

 煩わしそうな顔されたけど、またオレを見てくれた。


「誰?」


 さすが東華(あずまはな)。クラスメイトの顔と名前、一人も覚えてないんだろうな。


「秋。寺田秋(てらだあき)。寺に田んぼの秋って書くの。同じクラス。秋って呼んで?」


 女の子達に評判の笑顔で言ったのに、東華(あずまはな)はそうですかって、本当に興味無さそうに呟く。


「そんでね、オレ、東さんが好きなんだ。オレを東さんの彼氏にして欲しい。」

「興味ない。」


 一刀両断。予想してたし、めげるもんか。


「興味ないのは知ってる。だからさ、これから興味持ってよ。とりあえず華って呼んでも良い?」

「……好きにしたらいい。」


 よし!これでスタートラインだ。



 オレは華にべったり張り付いた。

 休み時間は華の机の隣にしゃがんで、絵を描く華を観察する。なのに華はオレに気付かないみたいに絵を描いてる。

 話し掛けても反応は帰って来ない。

 昼休みは、食パンかじりながら絵を描く華の隣で購買で買ったパンを食った。

 今までは女の子がお弁当作ってくれてたけど全部断って、もうそういうのはやめた宣言もした。

 クラスの奴らは、オレが華をからかってるんだって思って、面白そうに見てたり、不快感を表してたり色々だ。

 放課後になって、鞄を持った華を急いで追い掛ける。帰り道は絵を描けないから、絶好のアピールチャンス。


「一緒に帰ろ!」


 教室を出た華の隣に並んで話し掛けたけど、無視された。


「ねぇ、ねぇ華?」


 注意を引く為にブレザーの裾を引っ張ってみる。

 華はチラッとこっちを見た。やっとこっちを見てくれたって、なんかすっげぇ嬉しい。


「一緒に帰って良い?」

「…好きにしたらいい。」


 返事がもらえて、オレは笑顔になった。緩んだ顔した自覚がある。


「ねぇ華、オレの名前、覚えてくれた?」


 歩きながら聞いてみる。


「秋だよ。寺田秋。秋って呼んで?華、秋って。ねぇ、秋って言って?」


 しつこく言って名前の刷り込み作戦。


「暇?」


 呆れた顔された。でも、無よりマシ。


「暇じゃないよ。この後バイト。でも送る。家近いの?」


 下駄箱で靴を履き替えながら聞いたけど、答えてもらえない。

 華は駐輪場じゃなくて、そのまま校門に向かう。


「オレは近いんだ。歩いて通えるの。華は?歩きなの?」

「……………歩き。」

「そっか。一緒だ!ね、華は家でもずっと絵を描いてるの?」


 隣を歩いてるオレをチラッと見て、華は頷いた。


「そっかぁ、すっげぇ上手いよね?絵、好きなの?」


 そこから、好みの食べ物だとか、休日何してんのだとか、色々聞きまくったけど答えてもらえなかった。

 オレを無視したまま華が入って行ったのは、学校からすぐ側のマンションだった。オートロックで、なんか高そう。

 自動ドアの前でまた明日って手を振ったら、最後にチラッとオレを見てくれた。

 まだスタートラインだ。

 明日もがんばろう!

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