ぬいぐるみは夢を見る
いい天気だなあ。
窓の外が明るい。
ぽかぽかと春の陽気がまぶたを重くする。
ああ、眠たい。
ふさふさのからだがじんわりと温まって、もう、起きて、いられない。
まどろみに、落ちてゆく。
ぼくはつるです。ぞうのぬいぐるみ。
ままのためぞぞう団の一員です。
今日は森林公園に遊びに来ました。
「さあ、あの山のてっぺんの旗のところまで競争だよ」
ままがよーいどんと走り出しました。
みんな走りました。ぼくも走りました。
ふわりふわりとからだが軽く、みんなを追い越して驚いているあいだにてっぺんです。
一着!?と思ったとたん、ままの手が遠くからうにょうにょうにょと変な音をたてて伸びてきました。旗をつかんだままのからだはしばらく待ってようやく見えました。
てっぺんに来るとままは「一着はまま」と言いました。
ままの負けず嫌いはすごいなあ。
ぼくはつるです。
「つるさんはほんと毛並みがいいねえ」
ままがぼくをかかえて撫でていると、こぞうちゃんが近寄ってきて「僕はハゲ!」と言って去りました。
みんなで散歩をしていました。
「あ、つるさんここでちょっと待ってて」ままです。
何か忘れ物?
雲を見ながら待っていてもなかなかままは戻ってきませんでした。
でもぼくは待っています。
どうしていいのかわからないからずっと待っています。
「つるさーん、つるさーん」
呼んでいるのはだあれ?
「つるさーん、つるさーん」
どこ、どこにいるの?
「つるさーん、つるさーん」
ここですよー。
「つるさーん、つるさーん」
あ、亀さんだ。
ぼくたちが駒になって遊べる大きなすごろくを作りました。二部屋と台所、全部使っています。大きなサイコロを転がして一進み、二進み。白馬エリアで一休み。沖縄エリアへひとっ飛び。
サイコロころころ。ふりだしに戻る。えー。がっかりしてふりだしに戻るとぞうちゃん、まま、つかいさん、ドイツさんがいました。
「あれ?」
マンモさんがやってきました。
ちゅるさんもやってきました。
『ふりだしに戻るが多すぎる!』
みんなの声が重なりました。
また亀さんと出会いました。
ちっちゃな緑色の亀さんです。
「期待しても何もありませんよ」
亀さんは言いました。
「今日はこの穴を探検しましょう」
ぞぞう団の本日の活動は洞窟探検です。
右へ右へ。右へ右へ。
ぐるぐると渦巻き状に続く一本道の洞窟でした。
だんだん渦巻きが小さくなって行き止まりました。
「じゃあ、戻りましょう」
つかいさんが眉間にしわを寄せていました。
「どうしたんですか、つかいさん?」
「ん、勝負してるんだ」
つかいさんと向かい合っていたままを見ると、ままも眉間にしわを寄せていました。
何の勝負?
またまた亀さんと出会いました。
前と同じ小さな緑色の亀さんです。
「あのう、亀さん、前にぼくのこと呼びましたよね?」
「……」
「つるさん、つるさんって」
「……」
「何かご用だったんですか?」
「……しょうがないなあ。はい、500円」
「え?」
いい天気。
こんな日は濡らしてしまった布団もすぐに乾いてしまうはず。
ん?
ぼくはぬいぐるみだからおねしょなんてしません!
あ、夢を見ていました。
ずいぶん長く寝ていたような気がするけど外はまだ明るいです。
あたたかい。
つい、お昼寝をしてしまいました。
あたりをみまわしても亀さんはいませんでした。