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曖昧の彼方  作者: 南傘 千里
第1章 灰色の出会い
6/10

05

 クラス授業といっても、書いて読むが如し、クラス全員で授業を一斉に受けるというものだから、今まで僕たちが小中学校でやってきた様な授業とさほど変わらない。きっと、他の普通の高校でもだいたいは同じものだろう。

 しかし、一つのコマが九十分だというのには、さすが大学だなぁとため息をつくしかない。

 高等学部の授業システムでは、まだ高校生の立場でもある僕たちがいきなり九十分授業、というのは少し酷なとこがあるというのだろう、ということで何かあったはずなんだが……。まぁ、僕もまだよく分かっていない。昨日の午前中、説明があった気があるか、実際にやってみれば分かるだろう。

 とりあえず今言えるのは、授業中だという事だ。

 入学して初めての授業、やけに静かな教室内。机に静かに突っ伏す僕としては、ぼんやりと黒板を見る事しかない。

 一回目の授業でやる事といえば、ガイダンス。担当の先生の自己紹介、遅刻欠席の扱い、その他いろいろ。

「……っと、これが先生の名前だ。これテストに出るからなぁ、漢字フルネームで覚えておけ」

「先生ぃー、そんなのテストに出る何て話あり得ませんよぉー」

 先生の冗談に、黙る事に飽きた生徒の一人が声をあげる。

「るせい。男に二言は無いっ」

 ——テキトーな先生だなぁ。ま、いっか。

 あくび一回。

 腕を組み直して、顔を伏せてさっきの事を思い返す。


 ガラリ。

 昨日あの部屋——曖昧の書庫(グレーゾーン)であった事は話す訳には行かないだろう。

 しかし、クラスに溢れる期待の中でうまい事を言う術なんて、あいにく僕は持ち合わせていない。

 そんなピンチの僕を救ってくれたのは、授業を始めようと教室に入ってきた先生だった。 

「おーい、何やってんだ? 授業始めるぞ、席に着けぇ」

 キョトンとした顔のまま入ってきて、教壇の上に立つ僕を見て、更に一言。

「ほれ、川島も席に着けー。教壇(そこ)は先生とそれに(あたい)する者にのみ許されたステージなんだぞ」

「……あぁ、はいすいません」

 ようやく足が動きだした頃には、さっきまで教室に充満していた僕への目線はどこへやら。僕もそそくさと自分に割り当てられた席へと急ぐ。

 ようやく僕に戻ってきた平穏。号令に従い、椅子に座ると、午前中だというのに疲れがどっと溢れる。あの空気に耐えたんだ、疲れるのは当然だ。

 ——どうせガイダンス程度だろうし、寝たっていいよな。

 そうと決まれば、のんびりと春の新しい空気に浸っていけばいい。

 先生の話を右から左へと聞き流し、たまに机の下でケータイを見て、そうしているうちに今に至る。


 窓際という訳ではないが、今座っている席からは窓から外の景色が十分見える。

 あそこに立つ桜の木は、あさってにもなれば満開になるだろう。

 授業中の時間だから人の行き来は少ないが、それでもこの時間に授業の無い暇な人達がのんびりと時間を潰しているのが見える。

 大学というのは、想像以上に自由らしい。

 そんな事を考えているうちに、僕の思考はいよいよ夢の中へと船を漕ぎ出していった。



◇◆◇



 ゆさゆさ。

「……」

 ゆっさゆっさ。

「……、……ば」

 ゆさゆさゆさ。ゆっさゆさゆさ。

「……い、お……ー」

「んだ? ゆさゆさと」

 気付けば誰かにゆさゆさと肩を揺らされていた。

 目を覚まして、先生だったらまずいなと一瞬心の奥で身構えたが、僕の肩から離れた手を目で追っていくと、ほっと気を抜いた。

「健か」

「おぅ、オレじゃ不満か? 入学してしょっぱなから気持ちよく寝てやがって」

 再びあくびをする僕に、昨日から変わらない元気な声が降ってくる。

「寝不足なんだよ。昨日全然寝てないんだよ」

 出来たばかりの友達に気の抜けた声で言い返す。

 どうやら授業が終わっていたらしい。いつの間にか教室の中の空気は僕の知らない間に和やかなものに変わっていて、みんなそれぞれ出来たばかりの友達とくっつき合って色々と雑談にいそしんでいた。

 それにしてもこの学校は九十分授業。始めの十分くらいはまだ起きていたとしても、授業中ずっと寝潰していたとは、さすがに寝すぎか。

 そう思いながら、ふと教室にかかる時計で時間を確認して思わず声が出た。

「おい、もう授業終わったのか?」

 二限目が始まったのは確か十時四十分。この時計が正しいとすれば、授業が始まってからまだ四十五分ちょいしかたっていない。いくらガイダンスだとしても授業を本来の時間の半分で切り上げるとは、これはいいのだろうか。

「京ー。おまえ、昨日の説明会聞いてなかっただろ。高校生の教室授業は分割授業だろ!」 

 ここぞとばかりに声高らかに説明してくれた健に、僕は少し考えてからあぁとあくび混じりの声を返す。 

「あれか」


 分割授業というのは、この星海学院の高等学部にある授業システムの事だ。

 普通高校は基本的に五十分授業。大学と同じ扱いだとしても、まだ中学から入ってきていきなり九十分も授業をするのは酷だろうとでも思ったのだろうか。まぁ、そうなんだろうけど。

 数学や外国語(英語)など教室内で済ませられる教科は、九十分の半分の四十五分で授業を行い、一コマで二教科の授業を行う事も出来るようにとの事だ。


 ようやく頭が覚めてきた。

「分割授業か」

 僕がつぶやくと、ようやく分かってくれたかと言わんばかりに顔を綻ばせる健。

「そーいうことだ。二限目はもう終わりだ」

 ニコニコというよりはニヤニヤ、もう何か企んでいるとしか思えないそいつは、何か言いたそうに僕を見る。

 ——もうお昼か。なるほど。

 僕は机の側でニヤつく(そいつ)に、あいつの期待通りの声をかけてやる事にした。

「さてと。昼飯にするかぁ」

 一緒にあくびを噛み殺しながら立ち上がると、目の前の顔は満足げに輝いた。

「そうこなくっちゃ! ホラホラ、行くぞー!」

 男子高校生はお腹がすくとこうも幼くなるのか。いや、もともとこういうもんか。

 ——あ、置いてかれた。置いていくなよー。まだ校舎の配置憶えきれてないんだよ。



◇◆◇



「そーいや、京。お前三限目なんか授業取ってんの?」

 高等学部の校舎の廊下を歩いている時、ふいに隣の健が聞いてきた。

「ん? あぁ……、なんかあったな……なんだっけな」

 頭の中で時間割を思い出しながら曖昧に答える。何か授業を入れていたはずだが、時間割のメモを確認しなくては、はっきりとは答えられない。後で見ておこう。

「なんだよぉ、まだ憶えてねぇのか」

「じゃお前はどうなんだよ」

 笑った健に、少しむっとしながらも言い返してみたら、そいつは数歩分僕の先に進んでからこちらに向き直った。やけに自信満々だ。何となく嫌な予感がする気がする。

「無いっ!」

「だと思ったよ」

 健が言うには、今日は三限は授業が無いが四限には授業を入れているそうだ。もちろん、僕はそんな事聞いちゃいない。あいつが勝手にべらべら喋った事だ。口の減らないやつだ。 

 僕たちは階段を一階まで降りていき、廊下に出ようとした。


 一瞬、小さくは無い衝撃が走った。

 一瞬、何が起きたか分からなかった。


 気が付けば僕は階段と廊下の境目の所で尻餅をついていた。ぽけーとしていると、僕の近くで同じように床にぺたりと座り込んでいる人がいる事に気が付く。

 どうやら、出会い頭にぶつかってしまったようだ。体が全体的に痛い。

「あのっ……」

 急いで謝ろうとして、思わず言葉が喉で止まる。

 いそいそと立ち上がって制服を、スカート(・・・・)を整える。

 あぁ、なんという事でしょう。

 僕がぶつかってしまったのは、あろう事か女子生徒だったのでした。

 ——でした、じゃねぇぇっ!

「あ、あの……。ごめんなさいっ、ほんと、ごめんなさいっ」

 彼女もかなりテンパっていたのだろう。僕を確認すると大急ぎで謝る。

 それを聞いて、ようやくも喉から声が出るようになった。

「……あ、いや。こっちこそ、ごめん」

「本当に? 痛くない? 大丈夫ですか?」

 落ち着いたのかどうかはともかく、今度は僕の顔を覗き込んできた。

 何のマネだ?

「あ、本当、大丈夫なんで」

 僕もなんとか自分の無事を主張する。

 改めて見ると、手に何やら本を三冊程抱えている。重そうには見えないが、いやホント、悪い事したなぁ。

「本当? あ、私一年の塚原です。一年五組の」

 なんか自己紹介始まった。もうほんと、これなんの話?

「ぼ、僕も一年です、二組の川島です」

「……ふぇ、あぁ同じ学年ですかぁ。よかったよかった」

 僕もなんとか自己紹介を返しながら立ち上がると、彼女はあからさまに安心した様に息をついた。どうやら先輩格の人とぶつかった時の事を想定してとりあえず謝っておいたのだろう。

「じゃ、私これで」

 それだけ残して、彼女は階段を駆け上がっていった。

 三段程上がった所で立ち止まり、こちらを振り返ると小さく手を振って、再び階段を昇っていった。

「……はぁ」

 ため息しか出てこなかった。

 あっという間すぎて、何が起きたか未だによく分からない。


 なんとか気を取り直し、僕を置いていったあいつの姿を探しながら廊下を歩いていると、校舎から外に出た所でようやく見つけた。僕を置いてこんな所まで来ていたのか、こんちくしょう。

「おいおいおい。置いていくなよ、健」

 ようやく追いついてそいつに声をかけると、健はこちらを向いた。

 予想通りというか何というべきか、その顔は満面の笑み——いや、満面のニヤニヤでいっぱいだっだ。

「やいやい京よぉ、オレを差し置いて早くもいい子ちゃんゲットかよー」

「……えぇ、なんだってぇ」

「そんな怒るなよぉ。オレだってうらやましくてたまらないんだよぉ」

 だから、そのニヤけ面をやめてくれないか。

「なら、お前も廊下を前を見ずに曲がってみな。きっといい子に出会う」

「いやいやー、そんな事は無いって。そんな強烈な強運なんて、ウン十人に一人の逸材に!」

 どんな逸材だ!

 ——あー、今日は何食べようかなぁ。

 健はまだいろいろと喋っていたが、とりあえずお昼を食べに学食に向かう。



◇◆◇



「……ふぅ」

 小さく息をついて足を止める。

 さっきまで歩いてきた道を思い返しながら、頭の中で考える。

 この立場は非常に動きやすい。普通の高校生と違って、単独行動を基本とするこの人達の中ではこちらも余計な事を気にせず活動ができる。

 手に抱えた本を少しずらして、挟んでいた資料を確認する。さっきは思ったよりも勢いよく落としてしまってどうなるかと一瞬思ったが、案外問題は無さそうだ。よかったよかった。

 それにしても、あのお方の近くで確認されたとはいえ、あの子はあまりにも普通すぎた。なにか関係があるのだろうか?

 それでも完全に怪しくない、という訳ではないのだから、あのお方のためにも出来る事はやっておかなくては。

 とりあえず、教室に戻る事にしよう。

 廊下を歩きながらも、心なしか口が綻んでしまうのが分かる。綻ぶ? いや、ちがう。思わずニヤけてしまっている、というべきだろう。

 最初の目標があの子なら、この仕事は楽というものだ。

「……川島京、か」

 言葉まで漏れてしまったようだ。口が軽くなってしまうのはいけない。私達の仕事はいつも秘密がいっぱい、思わぬ事で情報を漏らしてしまってはどんなに仕事を速く終えても無駄になってしまうかもしれない。

 気を引き締めてかからなくては。


 さてさて、次はどう出ていきましょう。



◇◆◇



 僕の今日の昼食は日替わりランチA。すなわち、ハンバーグランチ。けっしてお子様と言う訳ではない。やけにおいしそうだなって思ってであって、

「お前、高校生にもなってハンバーグかぁ。お子様だなぁ」

 こんな事を、昨日と同じうどんをすすっている友達に言われる筋合いはない。けっして、無い。

「いやいや、昨日はきつねうどんだったが、見ろ! 今日は豪勢に天ぷらうどんだ!」

 あそうですか。


「五組って、あれじゃないか? 芸術コース」

「そうなの?」

 先程のお喋りでは諦めきれなかったのだろう、今度は例の女子の事を聞きかじりにきた。 

 さっきあの女子が言っていた事をなんとか思い出し、目をらんらんと輝かせている彼に話してやると、そいつは持ち前の妙な情報緑を発揮してくれた。


 芸術コースとは、高等学部にあるコースの一つだ。

 僕が所属しているのは、普通科進学コース。まぁ普通科と同じだ。芸術コースと違いを付けるためになんだか長ったるい名前をつけている。

 芸術コースの本名は、普通科芸術探求コース。よく考えたら、こっちの方が名前長いな。 

 その長い名前の通り普通の括りだが、カリキュラムの中に芸術関係の科目の割合が多い。 

 普通科と芸術科の中間という事だろうか。なんだか中途半端だなぁ。

 それでも学科としてのレベルは低くは無いらしく、有名なコンクール等でも優秀な成績を修める生徒が毎年出ているそうだ。


「それにしても、芸術かー。きっと心も美人なんだろうなー」

 頬杖をついて口の中のうどんを片付けながら、なぜかうっとりしたように言葉をもらす健。

「でっでっ? 名前とかはなんか言ってたのか?」

 身をのりだして聞いてくる健。彼の手元にあるどんぶりが少し傾く。危ないなぁ。

「あー、うーんと……つかはら、とか言ってたなぁ」

「つかはら? なるほどなるほど……つかはら」

 危なっかしい友達のためにも、頭の片隅を引っ掻き回しながらもなんとか聞いたばかりの名前を出してやると、健は珍しく静かになってなにやら考え込み出した。うどんをすする事は忘れないんだな。

「つかはら……。あー、一年五組の塚原だっけな。そいつじゃないか?」

「ほぉ、よく知ってるな」

 そんな情報どこで手に入れてくるんだ?

「あーそうだ、塚原美愛(みお)って子だ。確か、音楽が専攻だったっけな。大当たりじゃないか!」

 なるほど音楽専攻——じゃなくて、だからその情報はどこで手に入れてくるんだ? 情報屋でも目指せるんじゃないのか?

「その目は、オレの情報力はどこから? と言いたそうな感じだな」

 うどんを一口ごくんと飲み込んで、にんまりとドヤ顔の健は箸をこちらに突き出して僕の心中を読みやがった。

「まぁ、オレは情報力の塊だからなぁ」

 ——聞いた僕が間違いだった。

 それにしても、芸術科かぁ。

 ほんの一瞬しか顔を合わせなかったが、なにかが気にかかる。

 ハンバーグを口にいれながら、少し考え込む。

 僕は目の前でのんきに麺をすすっているコイツと違って心中の読もうとかは考えないが、それでも何かが気になる。

 あの子……何か気になるなぁ。



◇◆◇



 相変わらずやかましい健と別れて、三限目の授業に向かう。

 今度は高等学部の校舎ではなく、いよいよ大学生と同じ教室で授業を行う事になっている。

 百聞は一見にしかず、とはよく言ったものだ。この光景を見ていると本当にそう思う。

 テレビなどでしか見た事のないような広々とした教室には私服の大学生と制服姿の高等学部の生徒がバラバラに散らばって座っている。その机は、僕が今まで普通に見てきた様な、一人に一個割り当てられる木と鉄パイプで作られたものと違い、横に長く伸びていて何人かで座れるもので、椅子も座るときに倒して使うものだ。


 それにしても大学生というのは、高校生と違ってあまりつるまないのだろうか。ほとんど一人で教室に入ってきて、一人で席に着く。教室に入ってきて友人を見つけたときにその人の隣に座る程度だ。大学というと、個人的に賑やかに集まっているイメージがあったのだが。

 つまり、僕は広い教室の後ろの隅っこで静かに座って先生の話を聞くつもりだったのだ。 

「いやぁ、偶然見つけたものでして」

 僕の隣に昨日出来たばかりの知り合いが私服で座っていて、その人の話も聞いているとは、決して考えてもいなかったのだ。

 その知り合い——蒼さんは僕の隣で昨日と同じニコニコした笑顔で紅茶をすすって、小さな声で話を続けてきた。

 なぜこの先輩は授業中にもティーカップを手にしているのかとは思ったが、きっと授業中に一人お茶会をしても周囲の人に問題が無いように後ろの席に座っているのだろう。


 先生のボソボソした声はマイクを通しても聞き取りづらく、僕はそちらに気を集中させたかったが、蒼さんの話はそれをさせてくれなかった。

「実は今朝方(けさがた)、『曖昧の書庫』より早速アナタへ指示がありましてね」

 そんな話をされては、おちおち聞き捨てられない。昨日の事はまだ完全に信じきれていないが、僕にも責任とやらはあるからな。きっと、よく分からないが命令が下されるのだろう。

 そして蒼さんの口は開き、曖昧の書庫における僕への初めての指令が下された。

「本日の午後、昨日と同じように図書館に行くようにとの指示でしたが、それは無しに。今日の授業が終わったらまっすぐ帰って下さい」

 ……へ、それだけ?

 僕の惚けた様な顔を見て、蒼さんは口からカップを離すとその笑顔をさらに増して、続けた。

「思ったのと違う、といった表情ですね。でも、お願いしますよ。道草など食わずに、まっすぐ自宅に向かって下さい。それと、これを」

 彼の差し出したのは一枚の紙。何やら表が書いてある。

 蒼さんが机の上を滑らせてきたその紙を見て、僕は更に拍子抜けした。

「本当は、今日図書館で渡そうとしたものですが、その機会が無くなってしまったので」

 それは学校の時間割表だった。蒼さんのかと思って思ってよく見ると、表の中に、高等学部生の必修科目も書かれていた。つまりこれは。

「明日からの京君の時間割です。山本さんを通して学校の事務にも出してあるので、何も心配せずに、この時間割の通りに通って下さいね」

 ——いやいやいや、心配するよこの時間割は!

 違和感だらけのこの時間割。どこが違和感かというとそのスカスカ加減だ。どのくらいスカスカなのかと聞かれると、僕が始めに提出した時間割の三分の一以上が消え失せている。

 週に一回二回ならいいだろうが、月曜から土曜の全てが半日で授業を終えている。こんな時間割、よく通したな。

「心配ばかりなんですけど……」

「まぁ、そうですよねー」

 僕が思わず呟くと、横に座る蒼さんはにっこりと満面の笑みで言葉を返してきた。

「まぁとりあえず、騙されたと思って半年頑張って下さいな」

 お気楽な調子で続けた彼は机に置いていたカップに手を伸ばし、再びお茶を飲み始めた。 


 その後、何かに気付いてはっとした彼は、笑顔をこちらに向けてきた。

「ひょっとして、京君も欲しいですか、紅茶。大丈夫ですよ、あなたの分も用意はありますから」

「いえ、いりません」

 なんでバックからもう一個ティーカップが出てくるんだろうか。


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