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曖昧の彼方  作者: 南傘 千里
第1章 灰色の出会い
5/10

04

 学校の屋上に出る。

 もう既に大部分が暗くなりかけてる空の中に、今日俺たちの中で一番がんばったあいつは一人でいた。

「今日は頑張ったな、(そう)

 声をかけると、そこで俺に気づいたのか、一瞬で振り返る。その手に光る物を持ったのを、俺はついでに確認する。

「……なんだ、(そら)か」

 自分の気付かない間に後ろをとった相手を確認すると、張った気を緩め、手に持った刃物をしまった。

 俺が声をかけてからの反応速度はいつも通りだった。しかし、

「珍しいな、声をかけるまで気付かないなんてな。やっぱり今日は疲れたか」

 いつものこいつは、屋上に続く廊下を歩く足音で誰が近づいているのかまで判別できるのにな。

「今日は、いろいろ頭を使いましたからね。……考え事をしていただけです」 

 少し拗ねたように言葉を返す蒼。といっても、普通の人には表情の変化は分からないが。 

 まぁこいつが疲れたのは分かる。

 (こいつ)は、もともとそんなにおしゃべりが好きじゃない。今日程しゃべり続けた日は無いだろう。

 でも、そんな蒼におしゃべりを強いてしまったのは、俺や山本さんだ。

 俺は数歩進んでいって、手に持った得物をしまい再び静かに空を見上げた相棒の横に立って、同じ空を見上げる。

「悪かったな、面倒な事おしつけちまってな」

 一応、謝っておく。そう言えば最近、これほど奇麗な空をゆっくりと眺める暇なんて無かったな。

「いいんですよ」

 蒼は静かに答える。

 こいつはいつだってそうだ。俺たちの中で一番冷静で、静かで、気がきくのだ。だから、

「あの中では、私が適役でしたからね。仕方ありません」

 自分がどれだけ損な役割になっても、こうして相手に気を使ってしまうのだ。

 だから、たまには詫びでも入れなきゃあいけない。

 だけどなぁ、俺は頭が悪いからなぁ。

「おい、蒼」

「なんですか?」

「……なにが食べたい? おごってやるぞ。なんだったら俺が作ってやる」

「宙、この前そうやって私の為にクッキー作ろうとして粉類の材料全部間違えたでしょう。砂糖を塩と間違えるどころが、小麦粉を片栗粉と間違えたでしょう」

 今までまともに蒼になにかしてやれた事が無いんだよなぁ。

 仕方なく、俺は再び黙って蒼と同じ空を見上げる。星がいくつか瞬き始めている。

「……奇麗だな、空」

「そうですね……」

 思わず言葉が漏れる。しばらく二人で夜空を見つづける。


「そういえば、宙。山本さんから連絡が」

 隣で空を見上げたまま蒼が口を開く。

「また面倒ごとか?」 

 俺は小さくため息をつく。

 俺たちの周りでは、いつでもきな臭いもので溢れている。家柄が家柄だけあって、よく面倒くさいことが舞い込んでくる。

「まぁいつもの事ですよ。むしろ、今回の件はかなり小さい。ただですね……」

 振り返りながら、目線を落とす蒼。何か迷っているようだ。

(けい)君、彼をこのタイミングで私達の仲間に入れてしまったのは、少し早かったのでしょうか」

 ——あぁ、あいつか。

 俺はついさっき山本に言われて校門まで見送った高等部一年を思い出す。

 あいつは、俺はまだ気に入った訳じゃない。でも、きっと悪いヤツじゃない。きっと、流々のいい遊び相手になるだろう。そう思っている。

 だからこそ、本心から言ってやれる。

「お前は間違っちゃいねぇよ。いつ俺たちの所につれてきたって、面倒くさい事に巻き込むのは同じなんだ」

 振り返って、目を細めたまま考え込む蒼の方を軽く叩いてやる。

「だから、俺たちが面倒見てやりゃいいんだろ」

 ハッとしたかのように、俺の相棒は顔を上げてまじまじと俺の事を見る。

「宙、その言葉さっき言えば相当な慰めになったんだけど」

「うっうるせぇ!」

 辛口な一言ありがとう。



◇◆◇



「ただいまー」

 ようやく家に帰ってくる。思わずため息が混じる。

 ただいまなんて、別に言わなくてもいいんだけど帰ってきたときについ言ってしまうのは、日本人の性か。

 部屋の電気を付ける。いつもならすぐご飯の支度をするが、今日はあまりにも疲れたので荷物を放り投げて座り込む。

 そのまましばらく、何も考えないでぼんやりとする。

 もうため息も出ない。

 とりあえず、今日あった事を思い返してみる。

 僕は、普通の学校生活を送ろうとしていたはずだ。というか、送っていた。

 どこで足を踏み外したんだろうか。

 なぜ僕はこんな目にあわなくてはならないのだろうか。

 ふうとため息をついて、僕のすべてが変わってしまったであろうあの部屋での話を思い出す。


「君に主に頼みたい事は、簡単に言えばそこにいる流々(るる)の遊び相手です」

「遊び……相手ですか」

 優しい目をした蒼さんの口から出た言葉は、僕の想像していたものとは全く違ったものだ。

 もっとこう、危険な荒事の片棒でもかつがされるのだと思っていた。危険な物を運ぶとか、情報収集とか。

 どんな事を言われてもいいように構えていた僕が返した声には、拍子というのが抜け落ちていた。

「おいおい、なんだその声、拍子抜けてるぞ。まぁ、抜けるのも分かるけどな」

 僕の声があまりに惚けていたのか、宙さんが僕に声をかける。

「でも俺たちからすりゃあ、結構真面目な頼みなんだよ」

 隣でクッキーをかじる少女をちらりと見て、先を続ける。

「こいつはちいと事情があってな、生まれてこのかた自分の一族の者以外の人に会った事無いんだよ。つまりな、おまえは流々にとっちゃ初めての他人なのさ」

 それを聞いて、僕は自分でも気が付かないうちに絶句していた。今の言葉の意味が、一瞬分からなかった。

 自分の一族以外の人に、会った事が無い?

 初めての、他人?

 その年でそんな事が、あるのか?

 もしもそれが本当なら、今目の前の席に座って、面白い形を見つけたのか一つのクッキーを山本さんに見せている、この見た目と動作と言葉があまりにも不釣り合いな少女はいったい何をしていたんだ?

「いろいろ分からない事だらけで、悪いとは思ってる」

 流々からクッキーを受け取りながら山本さんは言った。

「でも、今はあんまり詳しく言っても、もっとややこしくなるだろう」

 ——多分な。

「めんどくさい事に巻き込んじゃうのはこっちも分かってる、だから」

 今度は何を吹き込まれるだ?

「バイト感覚で頼むわ。バイト代は、こんな感じで」

 なんて事言うんだ司書長! 確かにこの学校はバイトに関してはあまり厳しくないが、教員ともあろう方がそんな事言うか!

 手元にあった紙にさらさらと数字を書き込んでいく。試しに見てみると、これがまたたいそうな金額だ。普通にバイトするよりはよっぽど儲かる。

 高額なバイトかぁ。危ない仕事なんだろうなぁ。

 しかし、儲かるのは助かる。この春から一人暮らしを始めた身だ。仕送りは実家からもらえるらしいが、それでもバイト先を探していたのは事実。ここでバイトの方から転がり込んできてくれたのはありがたい話だ。しかも高額というおまけ付きだ。 

 最終的に、僕は何も実態の知らない意味不明のバイトに頷くしかなかった。そもそも断る事の許されない話だ。意味不明もくそもない。

 ただ、こういうバイトの面接は一生経験しないだろうなぁ。

 その日は、その後また蒼さんがいろいろと話して、ようやく図書館の奥の秘密の部屋から解放されたのだった。


 やはり、どう考えても訳の分からない話だ。

 僕はこれからどうなってしまうんだろうか?

 僕は何をしていけばいいんだろうか?

 もうしっちゃかめっちゃかだ。なにがしっちゃかめっちゃかなのかも分からなくなってきた。

 とりあえず分かるのは、明日も学校だって事だ。明日からは授業も本格的に始まるらしいし。えーと、時間割なんだっけな。

「……もう、何かテキトーに食べて、寝よ」

 戸棚にカップ麺かなんかあったかなぁ。

 もう今日は考えるのはよそう。おーい明日の朝、さっさと来いよー。



◇◆◇



「さて、今度は宙と手合わせだ」

 山本さんが流々に話しかける。

 彼女は『曖昧の書庫(グレーゾーン)』の部屋にいた時と同じゆったりとしたワンピース、上から黒い上着を着て、フードを深くかぶっている。

 私と宙、そして山本さんはそれぞれ着替えている。細かい所は違うが、上は着物のように着用するタイプの服。下は動きやすい黒いズボン。さらにその上から、流々と同じ黒い上着を着てフードをかぶっている。

「今日は、負けねぇよ」

 宙は、ニヤリとして隣にいる少女に声をかける。

 声をかけられた流々(るる)はふんと小さく鼻を鳴らし、彼を見上げる事なく答える。

「言っておれ。今までわしに勝った事ないじゃろうに」

「き、今日は勝つんだ!」

 あらら、完全に言い負かされているよ宙。

 今日は一対一の訓練。私達はフロアから出てギャラリーから二人の戦闘を見守る。

 フロアに残った宙と流々はお互い部屋の端まで歩いていき、相手の事の事を見つめ合う。 

 緊張感に包まれた部屋内に、緊張のない山本さんの声が響く。 

「ルールはいつも通り、初撃一発勝負ね。じゃぁ、いくよー」

 アナウンスを聞いて、宙はいつでも前に飛び出せるように腰を低く落とす。一方で、反対側に立つ流々は変わらず立ったままの姿勢。見た目は普通に立っているように見えるが、しかしながらそこから滲む気迫は、間違いなく本物だ。

 そのまま数秒が経ち、

 ポーン。

 気の抜けたサイレンと同時に、二人はそれぞれ動き出した。


 数分後。

「いってーなぁ。おい流々。今のは反則だろう」

 床に直接あぐらをかき、悔しそうな顔で山本さんの手当を受ける宙。

 私はとりあえず近くのベンチに腰掛けて、嬉しそうにピョンピョン跳ねる流々と遊んでいる。

 さっきの対戦、宙もいい所までいったんだけどなぁ。結局また流々の勝ち。

「反則なんて関係ないでしょうが。勝ちゃあいいのよ。どんな事したって勝てば」

 ぐちぐちと漏らし続ける宙の左腕の手当を終え、山本さんは立ち上がって腰を伸ばしながら物騒な事を平然と言い放った。 

「うっせーよ。俺はこいつ一本でやっていくんだよ」

 手当を終えたばかりの腕をぐるぐると回しながら、傍らに置いてある自分の刀に目線をやる。

 ここでほぼ毎日やる私達の訓練は、内容によってはレプリカや模造刀も使うが、だいたいは自分が使用する武器をそのまま使う。危険なのは重々承知だが、実戦経験を積むにはこれが一番手っ取り早い。

 だから当然傷も付き物だ。本物の武器を使うのだから、負ける時は相応の傷を負うし、勝っても無傷だとは限らない。傷を負うのも経験の内だ。

「さて、今日の訓練はひとまずここまでにして、仕事の話でもしようか」

 宙の手当に使った道具を片付け、再び私達の所まで来た山本さんが言った。

 それを聞いて私はベンチに座ったまま彼女の方を見る。私の周りで飛び跳ねていた無傷の流々も静かになり私の隣に腰掛ける。 

 ——さて、今回はどんな面倒ごとでしょうか。

 その場にいるみんながおとなしくなったのを確認して、山本さんは話を始める。

「今回は今のところ学校外。まだ完全には調べきれてないが、まぁそこんとこはいいか」

 あらまなんともテキトーな説明ですね。

「今回の相手は星ノ本の信者だ。でもって……おっと、今日はもう遅いし、詳細はまた後で」

 そこまで話をしながら時計の時間を確認して、我々にとってもう遅い時間だとようやく気付いた山本さんはテキトーに切り上げ、じゃあねーと手を振りながら、「流々も、もう寝るぞー」と流々に声をかけて部屋を出て行った。

 流々も山本さんに呼ばれて、またねと手を振ってついていく。

 そして部屋には、私と宙が残った。


 改めて私も時計を見上げると、なるほどもうそんな時間か。山本さん達は寝に行くのも当然の事か。 

 しかし、私達はそんな事はい。星ノ本のつらいところですかね。

「よいっしょ……。俺たちも引き上げるか」

 宙が腰をあげ、傍らにあった刀を左手にとり歩き出す。

 私はとりあえずフロアの電気を消し、宙の後をついていく。

 ギャラリーの部屋から出たところで、私は気になった事が会ったのを思い出し、私が鍵を閉めているのにさっさと先に行ってしまう相棒に声をかける。

「ねぇ、兄さ——」

 兄さん、とは最後まで言わせてもらえなかった。

 結構先まで進んでいたはずなのに、彼は気が付けば鬼の形相で私の目の前まで戻ってきて、私の鼻先に持っていた刀を突き出した。でも私は微動だにしない。刀は鞘に納まったままだ。

 でも目の前の私にある顔からは、怒気がむんむん溢れていた。

「……わざと言っただろう。わざとだとしても、兄とは言うな」

 宙は低い声でそれだけ言って、刀を引っ込める。

 私達は学校での学年も違うし、(おおやけ)には兄弟としているが、本当は兄弟ではない。

 それを気にしてか、彼は私を弟とは思っていない。彼の中で私は、大切な相棒であり大切な片割れ(・・・)なのだ。

 だから今のように私が一言「兄」に類する単語を言ってしまえば、公の場にいる時以外はたちまち彼のお怒りが届くのだ。

「それで、何か用か?」

 あっという間にもとの宙に戻った彼は、さっきの事など無かったかのように私に聞いてきた。 

「今の勢いで忘れてしまいましたよ。また今度にします」 

 私はさらりと答える。

 もちろん忘れてなどいない。しかし、宙は一度私がそう言ったら何を言っても無駄である事をよく知っているため、

「そうか。ま、帰ろうぜ」

「はい」

 すぐに引き下がった。

 明日からは授業も始まるし、明日の時間割も確認しなければ。

「そう言えば、蒼」

「何でしょう? 何となく分かりますが」

「俺の明日の時間割、なんだっけな」

「私が知っているとでも」

「いやーね、学校に出した時間割、メモするの忘れちゃって」

「あぁ、珍しく学校に出すの忘れなかったんですね。ならいいじゃないですか。学校に明日聞きに行けば、やさーしく教えてくれますよ。優しく」

 私の前を歩く相棒からイラッと何かが燃えるのを感じましたが、まぁ気のせいでしょう。 

 


◇◆◇



 このアパートから自転車で十分程こげば、もう学校につく。

 だから朝はわりとゆっくりしていられる。 

 テレビを付けてニュースを眺めながら、ぼんやりとみそ汁を飲む。

 スープとパン。一人暮らしを始めてからの僕の朝のスタイル。器に粉とか固まりとかをいれて上から沸かしたお湯を注げばもう完成のスープ。隣にパンでも置けば、もう立派な朝定食に違いない。ただし、島川京風朝定食だが。

 本日のスープはみそ汁。粉を入れてお湯を入れて混ぜて即完成のスタンダードなヤツ。ちなみに、朝昼夕と三種類あるタイプの物だが、僕の好みは夕のタイプのみそ汁だ。

 隣に置きますは食パン二枚。八枚切りの食パン。実家にいた頃は六枚派の母とケンカをした事もあったが、ここでは心おきなく八枚切りを買える。

 頭の中で今日の時間割を確認する。今日は一限は無くて二限から、確かクラス授業だったな。なら、朝は更にゆっくりしていられる。

 別にする事も無いので、近くに置いてあったリモコンでちょいちょいとチャンネルを変えてみる。

 実家暮らしじゃないのだから何を見たって別にいいのだろうが、朝のテレビに映るのは何となくNHK。何を見ようか、考えるのもめんどいからだ。

 ピッピッとチャンネルを変えているとふいにその手が止まった。その番組は、僕の知らない物では無かった。勿論そんなに見た事は無いが、中学時代クラスメート達の会話によく出てきた番組の一つだ。

 みんなはこんなのを見ているのか、と何気なくその番組を見ていると、朝に似合う明るい声でコーナーが切り替わった。

『次はみんなのお待ちかねっ、今日のアナタの運勢は? 星座占いコーナー!』

 ——いや、別に僕は待っていないんだけどなぁ。

 そう思っていても、頭の中で自分の星座を引っ張りだしてしまう。ええと、双子座は……、あー、微妙だ。これは喜べばいいのか泣けばいいのか分かんないな。

 まぁいいか、と思いながら、中学時代の会話を思い出す。


『なぁ、占いでよくそんなに盛り上がるなぁ』

 星座占いの結果で女子達がキャッキャと騒いでいたから、占いなんてそんなに信じない僕が思わず声を上げてしまったのだ。

『何言ってるのよ。盛り上がっちゃ悪い訳?』

『えー、聞いてたのぉ? キモーイ』

『だいたい、川島んちテレビ見ないじゃんー。口出しむ、よ、う!』

 その他にもいろいろ言われて、つまりはひどい言われようだった。

 しかし僕はそれにはめげず、更に言い返した。

『るっせーよ。テレビ見てるよ! 悪かったな、みんなが見てるの見てなくて! てかさ、そんなん信じてる訳?』

『なに言ってんの。ばっかじゃない?』

『あの占いチョー当たるって評判なんだよ』

『なんか、けっこうマジな占い師が毎日やってくれてるみたいだよ』

『番組になんとか先生って出てるもんね』

『あれ誰だっけ? 誰か知らない?』

『知るかよ。何か長ったるい名前だったじゃん。忘れた忘れた』

『でも前一回テレビに出てたよ。顔は覚えてる。イケメンだった』

『あー言えてる』

『イケメンイケメン。チョー若かったし!』

『へぇ。わざわざ若い占い師さんが占いねぇ。そりゃ立派な事で』

 なんだか話がイケメンの話になっていったので、それだけ言って退散した。  


 立派な占い師さんね。

 そんな事を考えてるうちに、占いコーナーは後半戦、ついに一位と最下位の星座が発表される前のちょっとした番外編的な物をやっている。

 そしてカラフルな画面の下に、その文字を見つけた。

『星ノ本先生』

 星ノ本……。何か聞いた事あるな。何だっけな。

 少し考えて思い出した。

 ——昨日のあの妙な場所で、あのずっとニコニコしてたあの人、確か星ノ本家のとか言ってなかったっけ。

 そう言えば、隣にいた宙さんも、流々とか言う女の子も星ノ本とか言ったな。

 昨日はあんな話信じるかっていうか信じる物が無いじゃんかと思っていたが、ここまでこられると、少なくとも星ノ本家っていうものは本当にあると信じるしかない。となると、真海家、というのも本当にあるのだろう。

 あぁ、面倒くさい。いよいよ面倒くさくなってきたぞ、こりゃあ。

 とりあえずは学校に行くか。


 

◇◆◇



 個人で選んだ授業の他に、高等学部生は割り当てられているでクラスで一斉に授業をするクラス授業というのがある。簡単に言えば、高校での普通の授業の事だ。 

 朝のホームルームは無いが、クラスメートというのはいる。

 クラスメートがあるという事は、クラスの教室があるという事だ。うん、我ながらよく分からない理屈だ。

 階段をのぼっていき掲示板を確認して、僕の呼び出しが無い事をしっかり確認してから、廊下を歩いて行く。

 一年二組と看板が掲げられたドアを開けると。

「おっ、川島が来たぞ」

「あいつ生きてたぞー」

「おはよう!」

「昨日ちゃんと家に帰してもらえた?」

 入学したばかりでまだそんなに仲良くなっていないクラスメートに囲まれた。

 なんだなんだ? 何の騒ぎだ? 僕が目をしろしろさせていると、後ろからドンと衝撃が走った。

「よーぅ、川島京君。朝っぱらから元気無いなぁ……オレらまだピッチピチの新入生だぜ。バシッとやっていこうぜ!」

「グッ……。朝からそんな元気がある方が僕からしたらフツーじゃないよ、健」

 後ろから肩を思い切り叩いてきたスーパーハイテンションなそいつに、僕はなんとか言い返してやった。

「ほらほら、みんな落ち着け落ち着けって。今から京が報告会してくれるってさ」

 ぐったりしている僕をよそに、すっかりクラスの中心となりつつある健が、教室でわいわいと騒ぐみんなをまとめる。

「報告会って……、僕なんか報告する事あんの?」

 状況が飲み込めない僕に、健がズイッと詰め寄る。

「おうおう、川島君。しらばっくれてもだめですよー。昨日の呼び出しのその後、きっちり説明つけてもらおうじゃあないか」

 そこまで聞いて、僕は昨日あった出来事をもう一度思い返す。

 掲示物での呼び出しで図書館に行った。その呼び出しを教えてくれたのがクラスの女子。そのときクラスのみんなは……。

 ああああ、思い出した。みんな、あの時僕をはやし立てたことよく覚えているなぁ。

「で? で? 何されたの?」

「どんな事された?」

 ええい待て待て、え? なんだこのクラス中の目線は。このキラキラ目線に僕はどう答えればいいのだろうか。というか、どこからどこまでを、どのように話せば良いのだろうか。

「え、えっと……」

 とりあえず何か言わねば! そう思ったのはいいが、実際口から出たのは所詮時間稼ぎのための(かす)れ声。

 僕に向けられる期待の眼差しの中、ついに入学早々みんなの前で涙が出そうになった時。 


 ガラリ。


 教室のドアが、音を立てて開いた。   


 ああもう、今度はなんだよ!

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