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曖昧の彼方  作者: 南傘 千里
第1章 灰色の出会い
3/10

02

 昼に友達に聞いた『図書館の主様』の話。

 あの時は、よくある学校の噂話だろうと軽く受け流す程度にすぎなかったが、今の僕はそうも言っていられない。 

 何しろ僕は今、(くだん)の話にあった図書館5階の奥にある立ち入り禁止の区域に入る事になったばかりか、どうやらこれから本当に『図書館の主様』とやらの御尊顔を拝む事になるようだ。

 4階の奥にあった扉を山本さんに連れられて入る。

 そこに広がる光景をみて、僕はかなり驚いた。

 本、本、本……。広くはない部屋の中に、とにかくたくさんの本が本棚におさめられている。ここまでは普通の図書室のようなものだ。ぱっと見たところでの話だが。

 僕が驚いたのはそこにある本の内容だ。

 がっしりした表紙を持つ大小様々な本。歴史の教科書に載ってる昔の絵に描かれている人が持っているような綴じ方の、要はどう考えても古い本だと分かるもの。何やら難しい言語で書かれた本。

 まず、普通の図書館には並んでないだろう、そんな本達だ。

 確か東京のどっかに、国にとって重要な文書とか本とか、昔の人達が書いた本とかを保存したり修繕をしたりする施設があったな。そんな事を考えてしまう。

 僕がそれらに気を取られていると、前を歩く山本さんに声をかけられる。

「どう、やっぱり気になる? これらの本」

 正直に答えよう。

「……そうですね。かなり気になります。見たところ、普通の場所では見られない本ばかりですね」

「やっぱり分かるかぁ。川島クンにはかなわないわぁ」

 そういって山本さんは小さく笑う。

「でも、だからって今の君は読んだらだめよ。ここに集められた本は、君にとっては禁書と言ってもいいレベルの本だから」

 禁書という言葉を聞いて僕はちょっと固まる。

 それを察したのか、山本さんはまた笑ってフォローを入れる。

「あぁあぁ、でも禁書と言ってもそんなアブナい感じじゃないから。禁書っていっても色々な物があるからさ。えーと……、ほら、『不思議の国のアリス』だって、国によっては禁書として扱ってたくらいだし」

「マジですか!?」

 いきなり関係のないファンタジーなものが出てきた。

「そうよ。そもそも禁書って、要はそれぞれの権力者が見られたら困ると思った本を『見んなよ!』て指定した本達の事だから、国によっては18禁の本の類いを禁書って言ってる場合もあるのよ」

「……そんなものですか」

 なんとなく何かをごまかされた気もするが、今はいいだろう。

 だとしても、『不思議の国のアリス』を見られたくないって、どんな国だよ。逆に知りたくなってきた。

「そんなもんよ、禁書って。でもここにある本も、いつか君には順を追って読んでもらう事になるかもしれないけどね」

 そこまで言って、山本さんは1つの本棚の前で立ち止まる。

「これだったかなぁー。ちょっと待っててね」

 言うが早いか、彼女は本棚の目の前まで進んでいく。

 まずはその本棚から1冊の本を抜き出してその場で開くと、そのまま数ページをペラペラとめくっている。その本を本棚に戻すと、今度はまた別の本を開いていく。

 何かを確認している?

 僕がそう思った頃、山本さんは満足そうに4冊目の本を閉じ、元あったところに戻すと、今度は棚の右側に手を掛ける。

 そして思い切り本棚(それ)を左にずらした。 

 明らかに軽い音をたてて動いた本棚の向こうにあるのは、当然ながら壁。

 今度はその壁のはじっこ、つまり動いた後の本棚のすぐ横の壁を押す。

 押した壁が僅かにへこんだ。と同時に、そこから右側にあたる壁が、今度は手前に出てきた。つまり、壁が回転している。

 本棚とその奥の壁が、それぞれ隠し扉になっていたのだ。しかも、壁の方は回転式のドアになっていた。

「さ、入って入って」

 山本さんが回転ドアの手前で手招きしている。今度は僕が先に入るようだ。

 山本さんに言われるがままに壁をくぐる。後から山本さんも入ってきて、さっき壁の内側に押した方の壁をまた押し返して再び壁と同化させる。

 回転ドアの向こうは、左右に伸びる通路だった。それも横幅はかなり狭い。大人2人がすれ違う事も出来るかどうかも定かではない。

 そして何よりも暗い。今僕がいる通路も左右に伸びているまではかろうじて分かるが、それぞれがどこに繋がっているかなんて、分かりゃしない。壁に手をついていないと立っているだけで気が滅入ってきそうだ。

「暗くてごめんねー、そのうち慣れるから。そのまま右に進んで、ゆっくりでいいよ、ゆっくり。怖かったら壁に手をついて」

 すぐ左から声がする。

 僕はその声が左からしたという認識を元に、その声に背中を向ける事によって右を向いた事を確認した。そうでもしないと、あまりに暗くてそろそろ左右の感覚も無くなりつつあった。

 そしてようやく足を前に出す事が出来た。もちろんゆっくり恐る恐る、足場を確かめるように。右手はしっかりと壁に。手を離すとバランスを崩してうずくまってしまいそうだ。 

 しかし、ゆっくりと歩いていくうちにその感覚にも慣れてきた。足を前に出すペースもだんだんと早くなる。 

 何より目が慣れたからかもしれない。この通路に入った時は、明るく広い室内からいきなり照明のない狭い空間に入ったものだから、目の前がいきなりブラックアウトしたかのように思えてしまった。

 しかし今では、自分が歩く通路の壁が打ち付けのコンクリートのようなものになっている事までは目で確認できるようになった。

 明かりも、完全に無い訳では無かった。

 やはり照明は無いようだったが、左右の天井付近から小さく明かりが漏れている。同じように床にも、左右から漏れる光。その為、足下の確認が出来るようになっていた。

「この明かりはさっきいた部屋の明かりですか?」

「そう、右からの明かりはね。左は外の明かりだよ。ここは4階の1番はじっこに作っているから。別に天井際と床の近くに隙間を作っても、ここが暗けりゃ気付かないでしょ」

 すぐ後ろから答えが返ってくる。

 なるほど、納得した。それなら照明が無くとも採光が取れる。

「………よし、止まっていいよ」

 更に10歩程歩いたところで再び声が掛かる。足を止めて目の前を凝らすと、目の前は壁だった。

 いや、ドアだ。今度はちゃんとした、マンションとかでよくあるタイプのドアだ。

「取っ手のカードリーダーにコレ通してちょうだい」

 背中に何かが当てられる感覚。背中に手を回してそれを受け取る。山本さんの教員証明のカードだった。

 目の前のドアを目を凝らしてみると、なるほど、確かに取っ手がある。

 そしてその横にカードリーダーがあって、上の小さなランプがオレンジ色に小さく光っていた。

 山本さんのカードを通すと、ピピッと小さな音が鳴り、オレンジの光が緑に変わった。「ドア開けて、入っていいよ」

 言われるままに、ドアを開ける。

 今度は広そうだなと、軽くそんな事を思いながらドアをくぐった。


 一言でいうと、僕は唖然とした。

 図書館の裏側をどんどん進んでいって、隠し扉も隠し通路も使って、入った空間にはキッチンがあって応接セットが揃っていて、ベットまであって、つまるところ普通の住居がありました、なんて、誰が想像しただろう。

 立ち尽くす僕を横目に、山本さんは何食わぬ顔で入ってきて何をすると思いきや、

「帰ったよー!」

 大声で帰宅宣言をなさった。

「ここ、私の部屋。家に帰らない時は、ここで寝たりしてる」

 山本さんの説明がようやく入る。それだけではこの部屋の説明は十分じゃない気もするが。

「ささ、どーぞどーぞ」

 山本さんはいたずらっぽく笑うと、また先に歩き出した。僕はあっけにとられながらも、それに続く。

 山本さんが自分の部屋だと言った部屋の空間の奥には上階、つまり5階に続く階段があった。

 つまりこれを上れば。

 学校の噂、というか実在する『(ぬし)様』とようやく対面を果たすのだろう。

 山本さんはもう慣れているといった感じでさっさと階段を上っている。

 トントントンと、テンポよく足音が響く。

 僕はそれに続いて階段に足を掛けながら、ある事に気が付く。

 もしかして山本さん、主様と同居中?

 階段を上りながら思わず山本さんに訪ねる。

「山本さん、ひょっとしてさっき言ってた図書館(ここ)の主と一緒に暮らしてるんですか?」

 彼女は「あぁ、そうだねぇ」と軽く笑いながら答えを返す。

「一緒ねぇ……。そんなところでいいかなぁ。『一緒に』の言葉の(くく)りにもよるけど、元々ここも図書館の主(あの子)の居住スペースで、そこをちょいとお借りしているだけだからなぁ。どうだろね」

 山本さんが言い終わると同時に、僕たちはついに5階に足を踏み入れた。 

 しかし、僕の期待と言っていいのかは分からない程の微々たる高揚感は、再び裏切られた。


 目の前に広がるのは、またしても本棚の本の群れだった。しかも、本棚に並べられた―むしろ詰め込まれたと言った方がいいだろう―本達は更にその種類を増している。分厚い洋書もあるし、ただ紙を重ねてホチキスで留めた程度の束もあるし。それに、そこにあるのは……、ライトノベルの類いだ。しかもこの春新しくアニメ化した本だ。

 本達のジャンルがバラバラなら、本棚そのものもバラバラだ。その本棚の種類こそ、この図書館で1階から5階の普通の貸し出しフロアで見かける本棚のそれだが、あっちを向いたり、こっちを向いたりと、置き方がまるでぐちゃぐちゃだ。

 おまけに、本棚に入れてもらえなかった本達は床のあちらこちらで積み上げられており、ちょっとでもつま先があたってしまうと、一面が紙の海と化してしまいそうだ。

「うぅ、散らかっててごめんね。足下とか気をつけて」

 さすがに山本さんも1言入れる。

 本棚の隙間をぬい、紙の山をかき分けて進む。

 そして、本棚の群れをなんとか抜けたとき。

 その空間は突如現れた。



◇◆◇



「やつ、来たぞ」

 私の視線の先で、相棒が本棚の隙間から外の様子を覗いている。

 ここは図書館の5階『曖昧の書庫(グレーゾーン)』の一画。

 いくつかの本棚を動かして区切っただけの簡単な部屋だ。

 今日は、これからこの場所に新しい人を招き入れるという事で、私は相棒と一緒に待機の命を受けている。

 そして今、その新しい人が来たようだ。

 彼が本棚にかじり付かんばかりで外の様子を観察している一方、

「ほう、来ましたか。時間は……、まぁ予定通りですね」

 私は彼の反対側にある本棚に背中を預けてティーカップの紅茶を注いでいた。

 ——別に2人揃って本棚にかじり付く必要も無いですしね。

 しかし客人が来たのを確認した以上、これ以上彼がそうやって本棚にくっついているのは危険だ。そのうち本棚を蹴っ飛ばして飛び出していきそうな勢いだったので、とりあえず座らせる事にした。

「紅茶のお変わりは?」

 彼に問いかけると、空っぽになったティーカップが目の前に突き出される。

「ミルクティーだ」

 という声と一緒に。

 私は「もちろん」と小さく笑ってカップを受け取って、ポットの紅茶を注ぐ。さらに、砂糖とミルクを入れて軽くかき混ぜる。 

 相棒は私のこちらに向き直ってあぐらをかいて座る。

「不安じゃないのか?」

 と私に問いかける声を、私はカップを彼の目の前に置きながら聞いた。

 サンキュ、と1言つけてカップを手に取ってすする。あ、熱かったらしい。

「不安? 何がですか?」

 カップの中身に息を吹きかけて冷ましている彼に聞き返す。

「今回の件だよ。新しい人を入れるって」

「あぁ。別にいいのでは? 人出も増える事ですし」

「オレ達とは無縁な…言っちまえば部外者(・・・)が入るんだぞ」

「うーん、そうですねぇ。確かに不安が無いと言えば嘘になります……」

 いや、実際には私だってかなり不安だった。

 出来る事ならこの事態は避けたかった。

 ここは、言ってしまえばこの学校にまつわる、いや、学校内では到底収まりきれないようなレベルの裏社会の、その中心だ。そこに人を入れてしまえば、たとえ本人が嫌と言っても協力をさせなければならないだろう。

 しかも、その人がもし私達から離れてしまったら、もしかしたら情報が漏れ出てしまうかもしれない。

 それに個人的な意見として、やはり無関係な人を巻き込みたくはない。出来る事なら私達関係者だけで解決したいものだ。

「……しかし」

 そう、しかしなのだ。入れてしまったからには、受け入れなければならない。

「不安がってばかりじゃ事は動きません。これ以上先延ばしにしていても、事態は何も変わらないでしょう?」

 止まった時間は動かさなくてはならない。私達が知らないうちに動き出してしまう前に。 

 それは彼だって分かっている。

「……分かっているけどさ。でもオレは完璧に賛成はできねぇ」

 ようやく冷めてきたミルクティーを飲みながらぶっきらぼうに言い返す相棒は、なかなか面白かった。

「まぁ司書長が決めた人だから、それなりに信用には値すると思いますよ」

 僕は付け足す。

「それに、何かあったら私達がなんとかすればいいでしょう」 

「……うーん」

 目の前であぐらをかいて、ミルクティーをすすりながらうなる。

 納得まではいかないまでも、一時よりは落ち着いただろう。

 私は残りの紅茶を飲みながら手元にあった資料を手に取る。

 ——川島京君ねぇ。

 吉と出るか、凶と出るか。

 それは私にも分からない。

 でも、少しでも吉になるようにするのが私たちの役目だろう。


 賽は投げられた、と言っていいだろう。



◇◆◇



 本棚の森を抜けて先にあったその空間。

 そこは、1言で言えば『異様』だった。

 中央には大きめな丸いテーブル。その奥には大きな天蓋付きのベット。

 周りの棚には多数のぬいぐるみ、人形。

 それらと一緒に置かれているものは、様々な道具。何に使うのかは、さすがに分からない。いや、今は分からない方がいいのか。

 1見すると、シンプルな子供部屋—それでもだいぶ変わっているが—に見える。が、僕が異様と感じたのは、その空間が持つ『空気』だろうか。

 何か重い、何かを隠している、簡単には立ち入ってはならない、そんな空気が僕を飲み込む。

 これ以上来るな、そう言われている気がして、思わず1歩下がってしまう。

 山本さんは、そんな空気を気にする事無く空間、部屋の奥に向かっていき、ベットを覆っているレースをめくり中をのぞきこんでいる。

「これ、いつまで寝ている。早く起きな」

「……さっき寝たばかりだもん……」

 誰かを起こしている。レースの中から小さく声が漏れる。

 そんな光景を遠目に見ていると、気が付いたかのように山本さんがこちらを振り返る。

「こっち来ていいよ」

 ニコニコ笑ってこちらを手招いている。笑っていはいるが、 それは同時に「君はもう後には引けないよね」と言ってるのと同じことだろう。

 僕は恐る恐る前に進む。途中、通り過ぎた丸いテーブルが何も置かれていないのがなんとなく気になった。なんとなくだ。

 そして、

「……昨日の……たんだもん……もう少し……よう」

「うん。それは分かった。だから起きよう。今日、客人来るって言ったでしょう」

 未だにベットの主を起こしている山本さんの横に立つ。

 そこからは、ベットの主も見える。

 それはつまり、ベットの主も僕の事が見えるようになる訳で。

 僕とその子(・・・)

「……んん……いいから……——寝かせ……、え」

 ばっちり目を合わせる事になる。

 そのまま数秒が経過。

 その子は黒くて長い髪の毛を持ってて、大きくて黒い、けど少し青がかった、透き通った目を持った可愛い女の子で——

「——きいぃぃゃゃゃゃぁぁああ!!」

 その子はいきなりパニックになったように叫びだす。しまった、女の子だったか。女の人の寝起きって見たらまずいんたよなぁ。

 わたわたとひとしきりベットの上で慌てた後、いそいそとシーツの中に潜り込む。

 そして僕はというと、

「はいちょっとごめんね」

 山本さんに後ろから襟を掴まれたかと思うとあれまあれよと後ろに転がされた。ちなみに床はカーペットではない。背中をしたたかに打ち付ける。頭をぶつけなかっただけまぁよしとしよう。

 そして、僕が床に転がると同時に、頭上では小さな戦いが始まる。

 攻めるはベットの少女。とにかく投げる、投げる。絶え間なく投げ続ける。

 熊のぬいぐるみ、うさぎのぬいぐるみ、分厚い本、クッション、熊のぬいぐるみ、人形、トランプ、枕、本、フクロウのぬいぐるみ、うさぎのぬいぐるみ、熊の人形、カエルの置物、カード、瓶、ドールハウス、人形、カップ、クッション、本、象のぬいぐるみ、……いや待て待て、色々危ない物が混ざっているぞ。

 それに対して守りは山本さん。ベットから飛んでくるありとあらゆる物を、ある物は手で叩き落とし、ある物は受け止めて近くの棚などに置いて、またある物は……。

「物投げるのは構わないけど、刃物はやめようね」

 片手で持った大判の本に刺さっているのは大量の黒い刃物。確か本で見た、苦無という忍者の武器のはずだ。中には小刀も刺さっている。

 僕はその光景の意味を理解するのに数秒を要した。

 つまり、ベットにいる女の子は、自分の寝起きを見知らぬ男(僕)にみられ、パニックのあまり、身の回りにあるありとあらゆる物に混じって多数の刃物を投げつけていた、という事になるだろうか。

 普通に考えたが、結構背筋が寒くなる話だ。何も言わずに床に転がされた事もそこそこ痛かったか、あのまま立ってたらどうなっていたか、考えたらいくらでも床に這いつくばれそうだ。

 そして、叩き落とされたクッションやぬいぐるみ達に埋もれた僕がもう1つ驚く事。

 飛んできたものの全てに顔色1つ変えずに冷静に対処し、誰も怪我をせず何も壊す事無く済ませてしまった、山本さんの事だ。

 いや、全て無傷という訳ではない。その手が持つ本はベットから飛んできた刃物によってズタズタになっている。

 ——山本さんって確か図書館(ここ)の司書だったな。司書が本をこんなにして……良いのだろうか。

 そんな僕の視線に気付いたのか、山本さんは足下に転がる僕をちらりと見ると手にしている本から苦無を1本抜くと刃があたらないように軽く叩き付ける。

 コンコンと軽い響きが聞こえる。

「これ、本の形にした()だよ。本棚に置いておくと本物の本みたいでしょ」

 彼女の言う通り、よく見ると刃物が刺さっているそれは本には見えるものの、表紙と表紙の間にあるのは紙の束ではなく、ただ白く塗られた木目だった。

 何なんだ。この司書(ひと)といい、この部屋といい、このいきなりの攻撃に対する用意の良さは。これはいったいなんなんだ。

 ひょっとして僕が今いるこの空間には、僕みたいな1般人が入ってはいけないのではないか。僕は来るべきではなかったのではないか。

 若干混乱気味の僕に山本さんは声をかける。

 まるで、本ほんの気まぐれで家に上がってもらったら偶然家の人の寝起きを見せるはめになってしまって、ああちょっとタイミング間違ったな……とでも言っているかのように。 

「いやぁいきなりごめんね。起きてろって言ってたんだけどね。うーんと、ちょっと着替えさせてくるから待ってて。そこの人が相手してくれるから」

 それを聞いて、急いで起き上がって山本さんの指し示す方を見ると、そこには2人の男の人がいた。

 1人は優しそうな顔をしていてニコニコと笑顔をこちらに向けていたが、もう1人の人は何か面白くない事でもあるのだろうか、不機嫌な表情だ。

 

 2人とも、手にはティーカップを持っていた。

 

 






 


途中出てきたアリスの話の件ですが、

アリスの本を禁書に指定していた国は、実際にあったそうです。

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