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いくさのくに  作者: 勅使河原アキ
遭遇編
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1.プロローグ

須田公一すだ こういちは今年で19歳になる。

東京の大学に合格し、寮で一人暮らしを始めて一ヶ月が経とうとしていた。

東北の田舎の生まれである公一にとって東京というのは異国に等しいものであった。

とくに複雑極まりない電車の乗り換えは苦手だ。

携帯端末で乗り換えルートを調べ、やっとの思いで新宿駅の京王線改札前にたどり着く。

そこが姉に指定された待ち合わせ場所であった。

途切れることのない人の多さに気後れしつつ、適当な柱のそばで連絡を待った。

携帯が鳴る。

着信表示には須田明美すだ あけみとあった。


「はい、もしもし?」

「あ、公一? いまどこ?」

「もう駅についてる」

「そっか。明美もいま着いたから向かうね。京王の百貨店口の方だよね?」

「えっと、たぶんそう」

「たぶんてなんだよー。まだ分かんないの?」

「まぁ、そのうち慣れるよ」

「あっそ。んじゃ、もうすぐ着くから、一旦切るね」

「ああ」


公一は通話が切れたことを確認して携帯をズボンのポケットにしまった。

明美は2つ年上の姉である。

そこそこ有名な私立大学の英文学科に通っており、去年の夏には米国に留学までしていた。

英語が大の苦手である公一とは趣味も性格も正反対な姉であったが、姉弟仲は悪くなかった。

今日も明美の誘いで昼食をごちそうになる予定である。


「公一、おまたせ」


聞き慣れた声に振り向くと、手を振りながら明美がやって来たところだった。

膝丈のスカートにブラウス。

髪は明るく染めており、薄く化粧もしている。

手には公一にはいまいち価値のわからないブランド物のバッグがある。


「ん」


公一は軽く手をあげて応えた。

明美が隣に並ぶ。

着古した上下にリュックという公一とはなかなか不釣り合いであった。


「それで、どこ行く?」

「もう予約してあるから。京王プラザホテルのお寿司屋さんね」

「場所は?」

「調べてあるよ。こっち」


明美に腕を引かれて公一は歩き出した。


「一人暮らしはどう?」

「どうってこともない。普通だよ」

「ご飯はちゃんと食べてる?」

「それなりに」

「大学はどう? もう授業始まってるでしょ」

「ぼちぼち。実験とレポートが大変」

「実験とかやってるの? フラスコを爆発させたりして」

「それ大惨事だから。実験はもっと地味だよ」


そんな話をしながら地下道を通り、地上への階段を登っていった。

久しぶりの家族との会話は懐かしいものがあった。

公一は自分をもっとドライな人間だと思っていたので、そのような思いを抱いていることを自覚して意外に思った。

そのため、気づくのが少し遅れた。


「ええっ?」


明美が素っ頓狂な声を上げる。

地上への階段を登った先には、新宿西口の街並みが広がっているはずだった。

しかしそこにあったのは土がむき出しの地面と、うっそうと茂る森であった。


「なんだ、これ?」


公一は呟いた。

答えるものはいなかった。

2014/05/12 名前にルビを追加

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