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▽従者は内政系-女性です。
――
リターンホーム、とアナウンスの指示通りスキルをちゃんと意識して使うと酩酊感に襲われた。
うおおお。なにこれなにこれ!
画面では一瞬だったのに、景色ごとぐるっと変わる酩酊感に堪え切れず、思わず目をつぶると一瞬の浮遊感の後足が地に着いた。
あれ、足浮いてたんだ?
目を開けて瞬かせてみるが、目の前にあるのは一面の暗闇。
あ、あれ。
あれれれれ? なんでここ真っ暗!?
「ふぃ、フィーユー?」
思わずいる筈の従者の名前を呼ぶ。
画面上の付き合いでしかないが、従者フィーユとの付き合いはほぼソロオンラインと同じ時間を過ごしているので長い。
すぐさまいつも通り何か御用ですかマスター、と出てくると思っていたので肩すかしをくらいつつ俺はきょろきょろと周りを見回す。
いや、アナウンスは最初からいたどさ!
やっぱ目の前に出てくるであろう人型キャラとなるとまた感慨は違いそうだって言うか!
狼はリアルだったけど、従者もリアルになってんのかな、とか!
色々思う事あるじゃん? 気持ちぐちゃぐちゃになっててすっかり忘れてたけどさ。
「いない……のか?」
辺りは無音の闇。
もしかして放置しすぎて、解雇扱いになったとか逃走扱いになったとか……。
好感度は元々高かった筈だから早々辞職されない筈だけど、分からない事だらけの現状じゃ何があるかわからない。
心細くなって短剣に手をかけたところで、目の端に光が走った。
「!?」
「危ないですマスター、しゃがんで下さい」
「はい!?」
高くもなく低くもなく。
するっと耳に入りこむような涼しげな声に、思わず言われたとおりに従う。
――――と。
「ッ!」
「邪魔です」
ばちぃ! と凄い音がして今度はド派手な光がはじけ飛んだ。
間近で見た光に目がくらみ思わず目をつぶると、どさりと重い何かが落ちた音がする。
「……なに……?」
「排除しました。お立ちください」
近くに感じた体温が離れて行く。
ってあれ、やっぱ今横にいた? よな。
音の方が気になっていたが、まだまだ近くで声はするのでフィーユ(たぶん)は無事のようだ。
ってか、何が危なかったんだろう。
「フィーユ?」
「何か御用ですか?」
イヤ御用ですかっていうか。
真っ暗すぎて何も見えませんが!
そして何か引きずってる音がするけど、そこは気にしなくていいんだろうか!?
「なんでここ真っ暗?」
「いつも通りです。マスター」
「…………」
えー。
右見ても左見ても絶賛暗闇だよフィーユ。
引きずる音がとまり、ぱたん、と何かしまる音がしたがよくわからない。
えーと何を排除したのかなー……。
「何も見えないんだけど」
「電気がついておりません」
「えっ。なんでついてないの」
「いつもつけられておりません。――――おつけになりますか?」
「うん。おねがい」
「承りました」
先ほどまでは無音だったが、フィーユの声と同時に違う場所に離れて行く足音がした。
しばらく待っていると、じんわりと光が入り始める。
いきなりぱっとつくわけではないらしいので目には優しいな。
おそらくフィーユがいるである方向を眺めると、そこにはほっそりとした輪郭の女性がいた。
内政系なので、体系は基本細い。
年齢は若すぎるとゲームするたんびに犯罪意識しすぎるし、おばあさんにすると潤いがなさそうだしで選んだ適齢の女性だ。
男でも良かったんだが、基本暗殺者は絶賛ソロオンラインなので帰ってきて男に迎えられてもなあと……。
後採集クエとか協力PTでもそこそこ動ける程度の技能が欲しかったので、戦闘能力はさほど高くないけれど情報処理能力が高いという基準で選んだのがフィーユである。
まぁ立ち絵が美人だからって理由で選んだ人も多いんだろうけどさ。
俺は割と相性の良さで選んでみたら結構いい感じだったので、頑張って従者にしたという記憶しかない。基本画面上だと小さなドットだしな。
特筆スキルは雲隠れとか暗視とか。
暗殺者との相性が良いスキルをひと揃え持っているんで、随分楽になった記憶がある。
あ。
暗視?
「そうか。お互いに暗視スキル持ってたからホームに明かりつけてなかったのか俺」
「ホームに明りをつけました。環境更新がありましたので、後でご確認ください」
「あ、はい」
明りついてるついてないは、何に関わるんだっけ?
たぶん付けない方が安全とかなんだろうな、うん。後でメニューで情報確認しておこう。
とりあえずこのフィーユ、会話続くのかな?
アナウンスとは会話らしい会話になってなかったし、普通に考えると命令だけ出来そうな感じがするが……。
「転職して暗視がないんで、しばらくこのままでよろしくね」
「承りました。マスター、転職おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
おお。
なんか、普通に会話だ。
画面って一方的に話されるか、一方的に伝えると承りました、なだけだもんな。
なんかちょっと会話が続くと感動モノである。
「マスター? 何か不都合がございますか?」
「あ、いや。悪かったな、戻ってくるのが遅くなって」
「……」
あれ?
ここは無言になるの?
じー、と見つめられて思わず言葉に詰まる。
明りをつけに行ったままの場所で喋っているので、フィーユの場所は大分遠いが見つめられているのは良く分かる。
うーむ、それにしても立ち絵からリアルになっても違和感ないってすげぇな。
「……お怪我はありませんか」
「ない。遅くなったのは転職するのにちょっと時間がかかっただけ」
「わかりました」
こくり、とフィーユが頷く。
どうやら怪我をしていないかが気になってしまっただけ、かな? 成程。
しかし無表情だけどやっぱ美人は何をしても様になるなあ。
つい親父発想になってしまったが、目の保養は大切だと思う。
「ところでさっきのは?」
「マスター不在時の襲撃です。未確認の撃退数、3。特に情報漏洩はありません」
「おう……」
ホームを不在にし過ぎると、報復イベントが自動発生はこんな状態でも変わらんのね…。
従者の好感度マックスだと先回りして襲撃を潰すので、ホーム帰還時に襲撃されたりはしないんだが、どうやら好感度が下がっているらしい。
メニューには好感度の数値化は存在しないので、気をつけておこう。
あんまり好感度低いと、報復イベントで従者が怪我したりするしな。
最初の頃、上手く好感度を上げる方法が分からなくて怪我させた事があったんだけど、あれは心が痛んだ…もうやらん。
ちなみにゲーム上では迎えてくれる台詞とかで好感度判断が出来る。無言になったり文句を言い始めると危険信号だが、今現在会話が続いてるし最底辺って事はなさそうだ。
うん。
「わかった。今後は定期的にホーム帰還出来ると思う」
「承りました」
「じゃあ、えっと……」
―――
ホームでの行動を選択します。
1→従者システムの概要を思い返す
2→とりあえず装備を充実させる
3→従者と会話する/好感度を上げようとしてみる
4→用が済んだのでさっさとクエストに戻る
5→ホームから街へ従者と移動する
6→ホームから街へ一人で移動する
基本ステは内政系は職業に沿った補助系。
性別差票がそれほどないので恋愛色は低め設定で行く予定。