5th 悪酔する第二王女
アホと言われた気がして目を覚ますと、空をカラスが群れを作って飛ん
でいた。
――もう夕方か、元の世界での生活より一日一日を無駄にしている気が
してきた。
「だーれだっ!」
柔らかいお手手で後ろから目隠しをされた。
この声は――
「リーゼ、何か用か?」
「何ー? 用が無いとこういうスキンシップもしちゃいけないのかー?」
リーゼは目隠しを取り、俺の前にちょこんと座った。
夕日を受け、いい色になったリーゼの脚を見ていると、やっぱりドキド
キしてくる。
「ヨシカゲって今暇?」
暇だな、今だけじゃなくずっと。多分これからも。
リーゼが耳元に口を寄せ小声で、
「じゃあさ、ちょっと私の部屋に来てくれない?」
何故だ? 俺はリーゼの顔を見た。
「見せたい物があるんだけどっ」
リーゼの部屋は、典型的な女の子の部屋……と言う感じなのか分からん
が、黒い物とピンクの物が多い気がした。リーゼの趣味なんだろうか。
「見せたい物って何だ?」
俺はリーゼの部屋の真ん中にあぐらをかいて座ると、リーゼはおもむろ
にスカートを脱ぎだした。
「な!?」
俺は思わず目をそらす。
……そんな目の前で脱ぐなよ、座ると目線の先にはリーゼの腰辺りがあ
るんだから……
スカートを床に落とし、体育座りをしながら、邪魔なニーソックスもせ
っせと脱いでいる。――それは良い心がけだ。
次にシャツをガバっと脱ぎ、その辺に脱ぎ捨て――腰に両手を当て身体
を反ると言う、何だか最近見たことのあるような光景が眼前に広がった。
――え? 何で女の子が目の前で脱衣しているってのに平然と実況でき
るかって? それはリーゼが……
「どう? 似合ってる?」
可愛らしい水着を俺に見せてきた。
年頃の女の子が可愛らしくこのようなお姿を見せていると、いかがわし
い感情より微笑ましい感情の方が強く感じるものだ。
「可愛いよ、リーゼ――凄く似合ってる」
これは正直な感想だ。
どちらかと言うと発展途上な身体をしているリーゼだが、この水着は別
に刺激的過ぎも無く――だからと言って子供っぽくも無く、リーゼの趣味
の良さを心から実感した。
「エロいですか?」
そんな事聞くもんじゃありません。せっかく可愛いって褒めたところだ
っていうのに。
「これならどうですか?」
リーゼが次にとった行動を見て、俺は心からこの子はメアの妹なんだよ
なって事を実感し――さっきまでの微笑ましい感情は宇宙の彼方へと光の
速さで飛んでいった。
リーゼはワンピース型の水着をスルリと脱いだ。
全身肌色だったもんで俺はびっくりして目をそらした。――が、
「ヨシカゲったら! 別にすっぽんぽんじゃ無いわよ!」
純情をあざ笑うかのように言われ、俺はホッとして視線をリーゼに戻し
た。――だが、断言しよう。その瞬間、俺はホッとした自分を心から後悔
した。
「な……なんて格好してるんだ!?」
リーゼは確かに素っ裸では無かった。
確かに水着は着ている。
着てはいるのだが……
「どこか変?」
リーゼは腰をグリグリ回し、俺を挑発的な目で見た。
変じゃ無い、ただその格好はいささか問題があるなってだけで……
「別に見えて無いし」
「そういう問題じゃ無いでしょ!?」
結論から言うと、リーゼが着ているのは――なんたらビキニとか言う、
凄い肌の露出の多い水着で――視力が悪い人が見たら多分、一見何も着て
いないように見えると思う。
それくらい隠す布地もそれらをつなぐヒモのような部分も小さかった。
さっき風呂場で一瞬見たリーゼの丸裸が頭をよぎった。
今回は危ない部分は隠れているものの……逆に他の部分が一切隠せて無
い。
何なんだこの水着!
「それともヨシカゲはこんな格好でうろつかれると、私に欲情しちゃうの
かなぁ~?」
リーゼの挑発的なポーズ。俺はあぐらをかいていた事を深く後悔した。
「にゃ~ん……♡」
「その表現やめろぉ……!」
2
リーゼに散々からかわれ、ようやく部屋から出た俺は心も身体もクタク
タだった。
通常ならここで、シャワーでも……となるのだが、風呂場にトラウマの
あう俺は、しかもその日にもう一度お風呂場に行く気にもなれず、仕方な
く自室のベッドの上に倒れ込んだ。
「もう駄目……疲れた」
俺がベッドにうつ伏せで倒れ込んでいると、誰かの気配がし――
「ダーン!」
そう叫びながら背中に何かが飛び乗ってきた。
落下の反動もあって、俺は胃の中身を出さないよう堪えるのが精一杯だ
った。
「何やってんのー! こんなところでぇ!」
メアの威勢の良い声が部屋中にこだました。
もうちょっと静かにしてくれよ……
「ヨシカゲしゃまもこれ飲みましゅか~!」
何かメアの喋り方に違和感を感じると思い、俺は胃をさすりながら仰向
けになると――
「これ、美味しいれしゅよ~」
メアが手に持っているものは……
酒だった。GINって書いてあるけど大丈夫なのか、これ。
「これをこうしてれしゅね~……」
顔を真っ赤にさせ、コップに注いだ酒を一気に口に含み、
「んみゅぅ~♡」
どうやら口移しで俺に飲ませようとしているつもりらしい。
言語道断だ。
高校生だぞ、俺は。
『未成年の飲酒は日本の法律では禁止されています』
誰でも知っているフレーズを頭の中で復唱したが……あれ? ここ日本
じゃ無ぇ!
にへ~っと笑い、服を脱ぎだした。
何故そうなる! あれか? 酒に酔うと脱ぎ出すとかそういうやつか?
下着姿になったメアは、顔を紅潮させ俺を見下ろすようにして、
「ぴゅぅぅぅ……♡」
唇の隙間からお酒を水鉄砲のように飛ばした。
バカ! 顔にかかるっ!
「みゅぅぅ……♡」
さっきより紅潮し、挑発するような目つきで俺に顔を近づけた。――俺
は突然顔の上に振ってきたメア風味のお酒の雨にびっくりして、逃げ出す
タイミングを完璧に逃した。
「ちゅぅぅぅぅ……♡」
メアの柔らかい唇が俺の唇に触れた。だが口を開くわけにはいかない、
開いた瞬間――確実に俺の口の中はメア味の酒でいっぱいになってしまう。
ボトボトと唇の隙間からお酒がこぼれ落ちる。あー……俺のベッドが。
「にゅるっ……♡」
俺の唇にねっとりした物が当たった。
必死に俺の唇の隙間に入ろうとしているようで、俺の唇が少し濡れ始めた。
「ー!?」
お酒とメア自身の湿り気もあってか、メアの温かくねっとりした舌が俺
の口の中に入って来た。
口中に苦いお酒の味が広がり、思わず吐き出しそうになった。
――が、同時にメア風味の甘い舌が混入され、俺は口中が苦味と甘味に
支配され――ぷっくりとしたメアの唇の感触を楽しむ余裕も無く、
――あ。これ俺のファーストキスだ。
高校生にして、ファーストキスを酒の力で済ましてしまうと言う何とも
言えない後悔の渦に巻き込まれ、俺はもうこのままメアに全てを任せよう
とまで思った。
が――
「失礼いたします。ヨシカゲ様――」
時間が止まった。むしろ実際に止まって欲しかった。