3rd 危ういバスタオル
「はぁ……疲れが取れるぜ」
昼間っからのお風呂って言うのもなかなか良い、明るい日差しが窓から
差し込み、何となく暖かく感じる。
これから入浴は昼過ぎくらいにするかな。
「?」
脱衣所でパタパタと音がした。
召使さんか誰かが脱いだ服でも持って行ってくれたのか?
何て事を考えて気にしなかったのだが、次の展開に俺は少しでも怪しむ
べきだったと後悔した。
「ヨシカゲ様! お背中を流しに来ましたっ」
バスタオル一枚を身体に巻いただけのメアが、可愛らしく八重歯を見せ
ながら風呂場のドアのところで仁王立ちしていた。
「うわあぁぁぁ!?」
俺は側にあった洗面器で大事な所を隠し、メアの方に向き直った。
この子に背中を見せるのはまずい。
俺はメアの姿をもう一度見て、思わず唾を飲み込んだ。
「メ……メアっ?」
メアの身体は成長途中ではあったが、出るところは一応出ているような
身体だった。その上バスタオルが小さすぎて……その、なんだ。
「メア? それ、ちょっと小さく無いか……?」
メアは八重歯を見せながら顔を近づけ、
「何? 何が見えそうって?」
そりゃー……少し膨らんだ胸もギリギリまでしか隠れて無いし――だか
らと言ってあと少しバスタオルを上にあげたら、健全な男の子には刺激の
強すぎる箇所が目の前に露出する。
ようするに、かなり危うい格好なわけで……
「ほら! 背中向けて、その邪魔な洗面器もどけて――大人しく身体洗わ
せてよ!」
性に関して興味津々なお年頃なのか、単に免疫の無い俺をからかって遊
んでいるのか分からんが、この状況はかなりまずかろう。
俺自身の理性が失われ無いためにも、メアにはすぐさまここから離脱し
てもらわないと――
「お姉ちゃん?」
リーゼの声だ。ヤバい! と直感的に思った俺はメアを風呂場に入れ、
ドアを閉めた。
「ヨシカゲ様は積極的だなぁ……♡」
いたずらっぽく俺を見るその目と――
「凄ぉ~い! 洗面器が腰の前で浮いてる~。ねえ、ちょっと見して!」
その手には乗らん。
「私も洗面器使いたいんだけど……」
ぐぐぐ……。メアは俺の洗面器を力いっぱい引っ張り出した。
俺はそれに対して必死に抵抗する。
こいつ……小悪魔訂正だ。
いたずらっぽい目つきも八重歯も――小悪魔なんてレベルじゃない。
悪魔か! こいつは。
「良いじゃん! 減るもんじゃ無し……!」
力を込めているのがはっきり分かる。
八重歯がさっきから隠れ始めた。
小悪魔笑いを止めた証拠だ。
「えいっ」
「きゃぁぁぁ!?」
俺は洗面器を持った手を離し、代わりに身体を洗うためのタオルを腰に
巻いた。
最初からこうすれば良かったぜ。
メアは勢い余ってドシンと尻餅をつき、
「急に何すんのよ!」
――ヤバい!
「メア? ちょっと……」
メアの身体の下にバスタオルが綺麗に広がっている。
どうやら結び目を身体の前に作っていたらしい。
いや、今はそんな分析をしている場合じゃ無い。
バスタオルが身体の下に落ちていると言うことは?
「きゃぁぁっ!」
メアの綺麗な素肌が全開になっていた。
流石のメアもタオルを巻き直し、俺の方を顔を赤らめながら睨みつけた。
「――見たわよね!?」
結果だけ言おう、びっくりして見る暇が無かった。
「私にも見せなさい!」
何故そうなる! 顔も怒って無ぇし。発情期かお前は。
「はぅ……!」
俺はメアから目をそらした。
バスタオルはギリギリの長さなんだ。
そんな即席で巻いて、ピッタリ同じように巻ける事があるはずも無く……
ぷっくりした桃色が脳内をグルグル回っている。
今までネットとかでも脚ばっかり見てたから――実を言うと見るのはマ
ジに始めてだ。
「お姉ちゃん?」
何だこのタイミング。
リーゼの影がドアの曇りガラスに映った。
何故リーゼって分かったかって? そりゃ、映っていた姿が――
「いた! おお、ヨシカゲもいるし!」
リーゼはタオルさえ巻いて無かった。
全身肌色。俺の視界に入った最後の光景だった。湯気のせいで細かい身
体の箇所は見えなかったが、どっちかと言うとまだペッタンコな身体に似
合わずムッチリした脚が――メアのを含め四本あることを認識したと同時
に、俺は鼻血を垂らしながら風呂場で気を失った。
2
「大丈夫でございますか?」
色白で端麗な容姿をしたメイドさんが、俺の身体をうちわで扇いでいた。
「お風呂場でお気を失っているところを、メア様とリーゼ様がご発見なさ
って、のぼせたようでしたけど――浴槽のお湯の温度をもう少し下げましょ
うか?」
心配そうに俺の顔を見つめるメイドさんに、物凄く悪い気がしながらも、
俺は大丈夫だと伝えた。
まだ心配そうに俺を見ていたが、フゥっと息を漏らし、真面目な表情で
去っていった。
……もしかして気づいているんだろうか?
自室の風呂場で倒れているところを、女の子二人に発見されると言う妙
な実態の本当の理由を。
「メイドさんはカンが鋭いって言いますからね~……」
聞き覚えのある声、リーゼでもメアでもサナでも無い。
俺は顔を上げ、声の主の顔を見ようとしたが、
「あっと! 駄目です。本当、容姿には自信が無いんです」
声の主は一歩後ろに下がった。
この控えめな喋り方。
「リンさん……ですか?」
「はい、妹達が迷惑をかけてすみません。後でキツく言っておきますから、
どうか妹達を嫌わないでください。あの子達も別に、悪気があってやった
わけでは無いと思いますので……」
リンさんはいい人だなぁ……脚も物凄く素晴らしいし。
「お詫びと言ってはなんですが、ちょっと目をつぶってくれません?」
俺は目を言われた通り目をつぶった。
すると後頭部に心臓が飛び出しそうなほど素晴らしい感触を感じた。
「こっ……こ、こ、こ、これはっ!」
目を開けようとしたが、しっかりとリンさんの手で塞がれている。
「膝枕……お好きでしょう?」
うっとりするような可愛らしい声。
俺は頭を撫でられ、甘いボイスを耳に感じながら――凄く幸せな気分で
眠った。
3
「大丈夫、寝てるよ」
「起きない?」
女の子のボソボソ声が聞こえ、俺は目が覚めたが、何となく会話の続き
が気になるので俺は寝たふりを続ける事にした。
「え~! 流石にヨシカゲ怒るよ」
「心配無いって、むしろ喜ぶんじゃない?」
声の主はメアとリーゼらしい。耳に全神経を向けていたが、俺は次の瞬
間。耳から全神経を戻す作業に取り掛かる事になった。
「……!?」
顔を何かで挟まれた。
柔らかくて……でも太もも程は柔らかくないし、二人の太ももにしては
ちょっと細い。
それに、太ももに顔挟まれて寝たら俺死ぬんじゃ無かったっけ……?
俺はそっと薄目を開け、状況を把握した。
――って、寝とる場合じゃ無い!
「むぐっ……!?」
顔を挟んでいるのはメアと見た。
なら口の上に柔らかい脚を乗せてるのは……リーゼだな?
「あ、起きた」
「えへへ~、ヨシカゲ可愛いんだ~」
どうやら俺の顔を挟んでいるのは膝下に広がる希望。
女の子の柔らかいふくらはぎと、まさにそれだった。
俺はちょっと唇の隙間から舌を出してみた。
「ひゃうっ!」
俺の口を塞いでいるのはやはり、リーゼのふくらはぎだったらしい。
可愛らしい声が耳に突き刺さる。
突き刺さった声を、俺はこのまま絶対引っこ抜かない。
「ヨシカゲ様? ヨシカゲ様が気を失った時、私たちが何もしないでメイ
ドを呼んだとお思いで?」
視界に入ったリーゼの顔が少し赤くなった。何だ? この反応。
「バッチリ記憶に収めさせていただきました……♡」
メアの色っぽい声が耳を癒した。
――が、ちょっと待て、何を記憶に収めたって?
「ヨシカゲったら、可愛いんだ~♡」
さっきから言ってたリーゼの可愛い発言……大体読めてきたぞ。
「ニャ~ンって、猫の尻尾みたいで……♡」
うわぁぁぁ! 見られた!? 女の子に素っ裸見られた?
「そんな顔しないでください。ヨシカゲ様の裸を見たからと、今さら接し
方を変えようとは思いませんわ」
俺じゃ無かったら変えるって事だよな?
メアが笑顔で俺の顔を上から覗き込んだ。
八重歯が出ている。
嫌な予感しかしない……
「ヨシカゲ様の生まれたままのお姿……」
メアの顔が目の前まで近づき、
「とても、良かったですよ……♡」
うっ!?
可愛らしい女の子にこんな事囁かれ、しかも顔を四本の生脚で絡められ
――本能に直結している思春期男子がこの生理現象を止められるはずも無
く……
「にゃ~ん……♡」
「にゃぉ~ん……♡」
リーゼとメアに盛大にバカにされた。もうヤダ死にたい……