第0章:発端 「どうやら女神様に助けられたらしいです」
第0章:発端から3rd 宮殿までを統合
俺はいつもの通り、同じクラスの親友と脚について語り合っていた。
大友って言うやつなんだが、俺の趣味を知ったうえで付き合ってくれて
いる数少ない俺の友達だ。
こいつと出会うまで、俺は去年までクラスでぼっちだった。
「でさー……今日の電車の座席の前に座ってた女子高生の脚が――」
親友である大友はにこやかに俺の話を聞いてくれるが、自分からは話題
をふらない。
たまに俺も、大友の声を忘れてしまいそうになるぐらいだ。
「もう……最高でさぁ! 思わず脳内に焼き付けて今日の……」
「朝っぱらからキモイ話してんじゃねーよ!」
委員長だ。いつも俺が大友に話してるとこう言ってキレる――もしかし
て大友の事好きなのか? って聞いたら「倍返し」とか言われて足で蹴ら
れた。
あんま俺、委員長の脚は好きじゃ無いんだよなぁ……
だから、蹴られても何も嬉しくない。
「そうそう、外で陸部の子たちが走ってたよ?」
委員長の言葉は俺の心を鷲掴みにした。
何? この炎天下のグラウンドを走っている……だと。
「見てきたら?」
「はい!」
俺はマッハで窓まで寄り、窓から身を乗り出してグラウンドを見る。
だが俺の目には健康的な太ももの持ち主は一人として映らない。
「どこだ!? 誰も走って無いじゃねーか!」
俺は必死にキョロキョロとグラウンド及び校庭を見渡していたが――
「いつもテメー気持ち悪いんだよ!」
後ろから委員長に背中を蹴られた。
……ああ、あれは嘘だったのか……
身を乗り出していた俺は窓から真っ逆さまに落ちた。
ここ三階、下コンクリート、小学生でも分かるほど単純な次の光景。
さて、正解はどれでしょう。
一、真っ逆さまに落下して頭を打って死亡。
二、クルッと半回転し、華麗に着地。
三、誰かが来て助けてくれる。
誰がどう見ても分かる、答えは一だ。
俺は体操選手みたいに運動神経が良いわけでも無く、マントをつけたヒー
ローに今まで会ったことも無い。
俺に待つ運命は酷い重症か、死のみである。
さようなら……短かった俺の人生――でも死ぬ前に、極上の太ももに挟ま
れながら、気持ちよく寝てみたかったなぁ……
「その願い、叶えよう!」
落下しながら俺はそんな声を聞いたような気がした。
だがもう遅い、俺は後一回まばたきをする前に頭とコンクリートが盛大に
キスをする。
俺はもう死んだんだ。
1st
俺が目を覚ますと、ピンクや黄色の淡い光がただよう世界に倒れていた。
「ここが……死後の世界か」
「違いますよ?」
目の前に綺麗な女の人が現れた。思わず脚を見るが――細くて白い、綺麗
な脚だった。クソ! 俺の好みじゃねえ!
「私は人間の生と死を司る女神です。ちなみに、あなたの死亡を許可せずこ
こに連れてきたのは、私の夫であり生と死を司る神、ゲーデスと呼ばれてい
る偉大なる神の一人です」
何となく聞いたことのあるような無いような……
「神が言うには、あなたはまだ死ぬべき人間では無いとの事です。ただ、あ
そこまで極端な運命を変えるのは……流石の神でも難しかったのです」
女神様は一息つき、
「そこで、あなた専用の世界を構築いたしました。どうぞ使ってください」
え? 今何て言った? 世界を作ったって……ええ!?
「あなたが死に間際に一つお願いをしたそうですね。神はあなたが死ぬ運命
を作ってしまったことに、酷く心を痛め――願いを一つだけ叶える、とそう
したそうなのです」
「じゃあ! ここはもしかして……楽園!?」
女神様はにこやかに、
「願いが叶った瞬間、あなたは先ほどの世界の時間軸に戻され、即死なさい
ますが……そのお願いを叶えるまでは、いつまでもこの世界にいて結構です」
即死って……怖っ!
「では、この世界を心ゆくまで楽しんでください――それでは」
女神様はスーっと消えていったが、なるほど――ここは俺のための世界、
俺が好きなように出来る……フハハハハ!
「俺はこの世界の王だー!」
俺の声が何もない世界にこだました。
2nd
俺はとりあえず、川を反対側に歩いて行った。
ええ、そこに三途の川って注意書きがあるんで。
看板に書いてある事は信じないと、この先やってけない。
いったい神様はどこまで世界を構築してくださったのだろう……
歩き始めること三時間、町どころか人っ子一人出会わない。
まさかこのまま永久にさまようだけで終わったりしないよな!?
「疲れた……もう動けない……」
俺はドサりとその場に倒れこみ、地面とキスをしているような格好になり、
「誰でも良いから助けてくれーっ!」
そう叫んだ。
「ん? あんた大丈夫かい?」
俺の視界に脚が――うおお! 脚がぁ!
褐色とまでは行かない健康肌、なめらかな曲線美、そしてなにより……挟
(はさ)まれがいのありそうなムッチリした太もも……
「いただきます!」
「お腹でも空いてんの? ほら、やるよっ……遠慮すんなって」
女の子はその場にしゃがみ、俺にパンのかけらをくれた。
……まあ、せっかくだしもらっておく。
「美味いか? そうか――ところであんたの名前は何て言うんだい?」
「俺は、足利美影――君は?」
女の子はスっと立ち上がり、
「私はリーゼ、この先の町の住人だ」
リーゼと名乗る女の子は腰に手を当て、とびきりの笑顔で俺を見下ろした。
……ヤバい、この娘顔も可愛いかも。
「あんたはあそこで何をしてたんだい?」
俺はこの世界の王であり、神様に選ばれた超凄い人間なんだと説明したが、
リーゼは八重歯を見せながらケラケラと笑った。
「キャハハ! あんたが王様? そんなわけ無いじゃん! 私たちはもう何
百年も前からこの世界に住んでるんだよ! それが、こんな小っちゃい男の
子が王様だなんて」
身長の事は言うな、一応気にはしてんだから。
――だが、女神様が言うには俺のために世界を構築したって……
「それにさ」
リーゼは笑顔のまま、
「私がこの国のお姫様なんだよ、私の知らない王様がいるわけ無いじゃん!」
ええ!? この女の子がお姫様!?
俺は仰天したが、リーゼはにこやかに、
「三番目のお姫様だけどねっ――上にお姉さまが二人と、お兄様が四人いる
から、将来女王様! ってわけにはいかないけどっ!」
なんと……そんな娘がこんな素晴らしい脚を……
「ねぇ、ヨシカゲっ! 今から家来ない? 両親に会わせてあげたいんだよ
ねっ!」
俺はそれを快く受け入れた。
3rd
「ここっ!」
リーゼに連れられ、俺は大きな宮殿? に入った。
てっきり西洋風の王国かと思ったが、色んな国の物が混ぜ込まれたような変
な建物だった。
「お父様! リーゼです。ただいま戻りました!」
リーゼがカメラつきインターフォンに手を振った。
なるほど、俺の住みやすい世界を作ってくれたのか。
ゲーデス様だっけ? 後で心からお礼を言っておこう。
「リーゼ、帰ったか」
リーゼのお父さんって事は、この方が王様か……なるほど、立派な口ひげ
をたくわえ、いかにも王様って感じの顔をしている。
「面白いお友達を見つけました! ヨシカゲって言うんです」
王様の視線が俺に向き、思わず頭を下げた。
この人には人を従えさせるだけの威厳がある。
「ヨシカゲ……ふむ、聞き覚えのある名前だな」
王様はしばらく考え、ハッとした表情をすると――どこかに電話をかけた。
……タッチパネル式の携帯電話で。
現代の物ならなんでもあるんだな、この世界。
俺がボサッと辺りを見渡していると、後ろから妙な格好をした人が入って
来た。
全身真っ黒な布地をかぶり、背は……俺よりも低い。
その人は俺の横を素通りし、王様の耳元に近寄り、何か囁いた。
「やはりこの子が……」
王様は俺を凝視した。え? 何ですか、俺の顔に何かついてますか?
「ぷはっ……そのですね」
王様に何かを言いに来たその人が、顔にかかったフードのような布地を取
った。
――まさか、そんな……
「女の子だったのか……!」
猫のような目で俺を見る、ショートヘアの小さな女の子。
黒くて可愛らしいお目目でこっちをじっと見つめている。
「あの子がヨシカゲ君と言うらしい……」
黒い格好の女の子は、
「私の占いに間違いはありません、この子は正真正銘王様の親戚です」
王様は椅子から立ち上がり、俺の手を強く握った。
「生きていたのか……! 亡き兄の息子が……生きておったのか!」
何だか分からなかったが、王様は俺にいろいろと説明してくれた。
さっき来た黒い子はこの国の占い師で、年齢不詳の女の子。
その子が今日の朝、王様の予定を占ったとき――ヨシカゲと言う現王様の
亡き兄である先代王と血が繋がった子がやってくる、と告げたそうだ。
実際はそんな事無いんだが、多分察するに……ゲーデス神が世界を構築し
たと言う話から、俺のこの世界での立ち位置は――
「先代王の血を唯一継ぐ者であり、現王より王になる資格を持った。この国
の王、最大有力候補……ヨシカゲ殿だ!」