14th サナとの夜
俺はその日、ほぼ上の空で椅子に座っていた。
サナが夜俺の部屋に来る――ギュッと抱きしめてあげよう。
もしくはもう……サナの生脚を思う存分――
「国王様」
背後から声がして俺は思わず飛び上がった。
――突然だれだ?
「レヴィでございます。ヨシカゲ様……今日は少し早めにお風呂を炊きまし
たのでどうぞ……」
何故早く? 別に普段通りでも――
レヴィは耳元に口を寄せ、
「サナ様からのお願いでございます。愛し合う者同士、裸で語り合いたいと」
一昔前の青春バトル漫画みたいだな……
ん? 待てよ。
「おいレヴィ。それは本当にサナが言ったのか?」
立ち去りかけていたレヴィは少し俺を見つめ、目を細めて微笑んだ。
「サナ様はもう入っておられますよ?」
自室の風呂場までは来たが、流石に飛び込むわけにはいかない。
これでもしレヴィに担がれていたのだとしたら――流石のサナでももう俺
と口を聞いてくれなくなるかもしれん。
俺は深く深呼吸をし、静かに風呂場のドアを叩いた。
「サナ? いるか」
ちょっとの間があって、
「いますよ。どうかなされましたか?」
「あ……レヴィに聞いて来たんだが――」
ドアが少しだけ開き、細い腕がニュっと出てきて――俺のズボンを掴み風
呂場へと引きずり込んだ。
ホラーかよ!
――ってか俺まだ服着てるし!
俺はそのまま風呂場へと連れ込まれた。
「きゃぁ!」
「痛っ!」
飛び込んだ瞬間俺は石鹸を踏んだらしく、ツーっと滑って浴槽の段差に小
指をぶつけた。
物凄く痛いぜよ。
「大丈夫ですか!? ヨシカゲ殿」
サナの声が風呂場に響き、若干安心する。
ああ良かった。このまま異世界へと連れてかれるかと――ってここが異世
界か。
「はぅ」
何とか身体を起こすと、サナが手を差し伸べてくれていたのだが――
「サ……サナっ?」
「どうかしましたか。ヨシカゲ殿」
言うまでも無くサナは何も身につけていなかった。
スルッとした綺麗な素肌に、むっちりとした太ももが伸びている。
お湯で濡れて何とも言えない魅力を醸しだし、俺の心拍数が速まった。
「サ……サナ?」
「夜のため、早めにお風呂に入ろうと思ったのです」
夜のためって……
サナが俺の上に覆いかぶさり、
「密着して寝るかもしれません……汗臭いのは嫌でしょう?」
別にサナの汗なら――
「それに――」とサナは俺の身体の上でモゾモゾと動き、
「ヨシカゲ殿も身体を洗ったほうが良いですよ? ほら。お洋服を脱いでく
ださい」
――そういえばそうだな。風呂場で服を着ている方がおかしい。
一瞬の躊躇いの後、俺はサナの言うとおりにした。
身体中から色々な意味で湯気のたった俺らは、フカフカなベッドの上に顔
を見合わせながら転がった。
お互いに顔が紅潮し、息が少し荒くなっている。
「大丈夫か? サナ……」
「ヨシカゲ殿がいてくれたら平気です……」
サナはギュッとシーツを掴み、俺のそばまで近寄ってくる。
ほどよく湿った唇がゆっくり俺の顔に近づき――
「んぅ……♡」
甘い感覚とともに、サナの柔らかい唇を堪能した。
「もう寝ますか?」
「疲れちったからなぁ……」
サナはシーツを顔に押し当て、
「もっとお話していたかったですが……」
話か……それくらいなら大丈夫かな?
「私も眠くなってきました」
可愛らしくおどけるサナ。
俺はサナの頭を撫で、ゆっくりと眠りにつこうと思ったのだが――
「ヨシカゲ~! いる~?」
部屋のドアの方からリーゼの声がした。
何なんだ? 今回のジャスティス撃墜要因はリーゼか? KYなのか、真性
のKYなのか!
俺は仕方なくベッドから立ち上がり、部屋の鍵を開けてリーゼと対面する。
「どうした?」
「私も一緒に寝ていい……?」
リーゼは少々顔を赤らめながら枕をギュッと抱きしめている。
上目遣いでチラリチラリと俺の顔を見てはサッと顔をそらす。
「今はサナが……」
「リーゼ殿」
サナが俺のそばまで来て、そのままリーゼの手をとり部屋の外へと出た。
サナはにっこりと微笑み俺を見て、
「ちょっとリーゼ殿とお約束をしてきますね?」
いい意味で背筋がゾクゾクっとする笑顔。
俺は心から癒されるようなサナの笑顔を見送り、ドアを閉めてベッドに座
った。
――一体サナは何の話をしているんだろうか……?