~新たな命~
○○町にて人身事故
昨日23時頃、○○町にて人身事故がありました。 被害者は佐藤良樹さん27歳。 病院に運ばれましたが間もなく死亡が確認されました。 加害車両を運転していたのは45歳男性。 男性は警察が駆けつけた時には事故現場から約100メートル離れたところの電柱に衝突し、気絶しておりました。 警察は男性からはアルコール臭がしていたことから――― とある新聞より抜粋。
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(んぅ、なんかまぶしいな。 俺は……。 ああ、そうだ。 俺は車に撥ねられて、撥ねられてどうしたんだっけ?)
目を覚ますと強烈な光が目に飛び込んできて、目が痛む。 良樹は手で目を庇おうとするが、腕が麻痺しているのか力の入り具合がおかしい。
「……ッ! …ッ! …………」
(? 聞いたことのない言葉だな)
近くには人がいたのか、良樹を抱き上げる。 成人した男性を抱き上げるのは少々異常なことなのだが、頭がボーっとしている良樹は気が付かない。
「………~。 …? …………」
(この外国人の人は誰だ?)
良樹は眼は悪くないのだが、抱き上げてる人がぼやけてよく見えない。 かろうじて金髪ということが分かる程度だ。 などと思っていると両足を掴まれ、逆さ釣りにされた。
(ふえ? な、なんだ? どうして逆さ釣りなんぞされにゃならんのだ?)
「……ッ!! ………ッ!!」
良樹が混乱していると、勢いよくお尻をぶっ叩かれた。
「あぎゃぁぁっ! おぎゃぁぁぁっ!」
(いってぇぇぇっ! え? なんで赤ん坊のような声……。 あれ? 手も小さい)
強烈な痛みに頭がはっきりしてくると、色々な違和感が目に飛び込んでくる。
「………~。 ……」
(なにがなんだか。 でもなんか眠く……)
だが抱きしめられ、心地よい人の温かさ、かすかに聞こえてくる心音の子守歌に眠気が襲ってきたことにより、違和感のことは忘却の彼方へと去り、眠りについた。
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時は過ぎ、約2か月は経ったのではないだろうか。 良樹はベビーベッドの上にいた。 ベビーベッドと言っても木で囲ったものに綿の入った大きなクッションに寝かされている感じだ。
(ほい。 ほい。 ほい)
今、良樹は寝転がりながら、拍手と足での拍手を交互にペチペチとやりながら遊んでいる。 目もある程度は見えるようになったのだが、ベビーベッドの周りにはテーブルとイス、あとは母親のベッドくらいなものだろうか。
(ふ~、今日もよく運動した。 ふわぁぁああ)
赤ん坊の体なので眠気がすぐに来る。 赤子の仕事は食うことと寝ることとは前世のどこかで聞いた話だ。
良樹は生まれてから3、4日経過して自分の転生を実感した。 自分が死んだことや、両親、仕事などで随分と落ち込んだ。 あの時こうしていれば、ああしていればと後悔や、寂しさなど負の感情ばかりが出て、よく泣いた。
その度に母親が抱っこしてあやしてくれた。 この人から生まれてきたのだと体が分かっているのだろう、体温や心音でものすごい安心感がある。
まだ未練のようなものは残っているが、徐々にせっかくの第二の人生だ、楽しまなきゃ損だろうと、前向き思考に切り替えていった。
(あ、……むぅ)
ただ、前向きに物事を考えようとしても、恥ずかしいことは多い。 体年齢は生後間もないといっても、精神年齢は27歳なのだ。
(おふぅ。 “出物、腫物、所構わず”とはよく言ったもんだが、さすがに俺にはキツイ)
そういえば、この世界の技術は現代の日本よりだいぶ遅れているようで、良樹がしているのは布製のおむつ。 事をするたびにはずして洗濯しているようだ。
(う~、気持ち悪い。 泣いて呼ばないといけないのか)
まだ、しゃべれるまでに言語を覚えていないので盛大に泣いて親を呼ばねばならない。 まぁ、発声器官もまだ未発達だと思うし、言語覚えても生後2か月の赤ん坊がしゃべりだしたら驚愕されること間違いなしだ。
「………おぎゃああああッ! あぎゃあああ!」
トタトタと軽い足音が近づいてきた、母親が来たのだろう。 良樹の母親は前世の記憶から見てとても美人だ。 容姿としては、サラサラとしていて指で梳くと気持ちが良さそうな金髪にエメラルドのような鮮やかな色をした瞳は常に微笑みを絶やさない。
―あらあら、どうしたのかしら~?―
ようやくこの頃になって表情や、雰囲気で大まかな意味合いは分かるようになった。
―あら。 よく出たわねぇ。 はぁい、じゃあ綺麗にしましょうねぇ~―
良樹の当てている布おむつを丁寧に外して、タオルで優しく拭かれ、新しい布おむつを装着される。 もうさすがにこれだけの期間が経つと慣れてくるというものだ。
―はい。 綺麗になったわよ~。 また、おねんねしましょうね~―
抱っこされ、ゆっくりとリズムを刻むように良樹の背に回した手をトントンと母親が叩くと良樹の目はとろんと蕩けていく。
―~~~♪ ~~~~♪ ~~♪―
徐々に良樹の意識は暗転していった。
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ぼやけた良樹の目のにデカデカと父親の顔があった。
(うおっ、親父か。 びっくりした)
父親は茶色の髪に同じく茶色の目を持つ。 細い体躯をしているようだが、抱かれていると結構しっかりしているのが分かる。
どうやら、今は夕食の時間のようだ。 ふわりと美味しそうな香りがする。 良樹はもうそろそろお腹が減ってきた為。 母乳を催促する。
「あぅ、あぁう!」
良樹の意思を察してくれたのか、母親が良樹を抱き上げて奥の部屋に引っ込んだ。
―はぁい、今あげますよ~―
さすがにまだこちらの方は慣れていない。
だいぶ成長したのではないだろうか。 良樹は近頃ハイハイが出来るまでに成長した。
自分で移動できるようになると、身の周りに興味が沸くのは当然だろう。 母親付きで、良樹のベビーベッドがある部屋の中だけだが、カーペットの上をハイハイして行く。
―こっちよ~―
母親が手を叩きながら良樹を促す。 良樹はハイハイしながら母親の方へ向かう。
―はい、よくできました~―
母親は良樹を抱っこして高い高いをし始めた。 良樹の体重は結構重くなってきているのだが、‘女は弱し、されど母は強し’なのだろうか。 良樹が喜ぶので20分はやっている。
―さて、そろそろお昼ごはんの準備をするから待っててねぇ~―
(さて、母さんも出てったことだし、少々散策でも)
ベビーベッドからでは分からなかったが、どうやら本棚があったようだ。 良樹はそちらに向かって、ハイハイして行く。
(う~む、背表紙も読めん)
まぁ、当たり前のように読めはしない。 仕方ないので、さっきまで母親と一緒になって遊んでいた玩具が散らばっている一角に向かう。
(前世じゃ見たことのないおもちゃだよなぁ)
振るとピカピカ光る玩具があるが、どう見ても電池や、豆電球などがない。 光る部分は良樹の手の平に乗るような曇った水晶のような物があるだけだ。
(どういう原理なんだろう?)
首をひねって様々な角度から眺めてみるが、さっぱりだ。
また別の玩具を手に取る。 こちらは手でたたくと音が出る類の物だ。 動物の声を録音した物のようで結構面白い。
きょぇぇぇぇえええええッ!
ぎゃっぎゃっぎゃっ!
ぼろろろろろろろろろろろ!
……少々、この世界の動物に恐怖を感じてくるのは致し方ないのかもしれない。
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そうこうしているうちに、どうやら夕食の時間になったようだ。 テーブルに母親と父親が着き、良樹は母親の膝の上。 どうやら食器は木製が主のようだ。
料理はいつも父親が作っているようで、とてもうまい。 物足りない感があるのはすべてが離乳食で噛めないからであろうか。 噛むのも一つの味覚だからな。
夕食が終わると、良樹はまた一人部屋に置かれる。 両親は料理店を営んでいるようで、今が書入れ時のようだ。 奥まっているこの部屋までお店の喧騒が聞こえる。
(だが、こんなにうるさくても眠くなるのは幼い体がなせる技か)
良樹はむしろ喧騒が心地よく感じつつ睡魔に身をゆだねた。
読んでいただきありがとうございます。
こんな感じの鈍亀更新。 すらすらと書ける他の作者様はすごいですね。 私にゃこれが精一杯^^;
ではでは~。
2013.07.12 追記
次のお話が全然思いつかず、書けてもほんのわずかなのでこちらの話とくっつけました。
読んでいただいている方にはご迷惑をお掛けします。