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きみの後ろ姿

梅雨だ。

ここのところよく雨が降る。

今日も午後から雨が降り出した。

サッカー部の練習も今日はない。



帰ろうと傘を開くと、隣にきみがいた。

思わず息が止まる。

こんなに近くなるのは初めてだ。

肩にかかる髪も、震えるまつげも、丸い鼻も、いつもよりずっとよく見える。



どうやら傘がないらしい。

・・・傘を、貸してあげなければ。

きみは今にもこの雨の中へ走っていってしまいそうで、

傘を差し出そうと、柄を握る手にぐっと力を込めた。

心臓が大きく波打つ。



そのとき、ぼくじゃない誰かから、きみに傘が差し出された。



―――あいつだ。



あいつは気取ることなく、自然にそれをやってのけた。

ぼくのように勇気を振り絞る必要もなく。他意のない笑顔で。



それを受け取って照れたように笑うきみ。

本当に嬉しそうで、でも目を逸らせなくて、胸が苦しくなった。



羨ましい。



あいつへのぼくの気持ちはただひたすらにそれだけ。

ぼくだったら絶対きみを選ぶのに。



そこへあいつの彼女がやってきた。

ピンクの水玉模様のかわいい傘を持って。

当然のようにその傘に入って帰っていく2人。



ぼくはきみの顔を見ることができない。



見なくてもわかる。

きみの、悲しそうな顔。

わかるよ。ぼくも同じ顔をしてる。



初めてあいつを憎いと思った。

あいつの優しさはきみを傷つけるだけ。

あいつがきみを好きにならない限り、中途半端な優しさはきみの心を痛めつける。



でも。それでもきっと。

きみはあいつの優しさを求めてしまうんだ。



だって優しくされたい。こっちを見てほしい。

ぼくも同じだから、わかってしまうよ。



きみは、あいつの傘を開かずに、ぎゅっと掴んで走って行った。





6月

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