第一話 日常と異変
「ハァ...!ハァ...!」
XXXX年6月某所
小太りの男がほんの少しの灯りしかない夜道を肩で息をしながら死に物狂いで走っていた。負傷しているのか片腕を押さえながらそれでも懸命に後ろから追いかけてくる何かから逃れようと走っていた。
何から逃げてるのかも、何に追われているのかももう男にはわからなくなっていたが、それでも男の本能は叫ぶ、走れと捕まるなと
「なんでっ...!どうして私がっ....!」
そう吐き捨てる男の言葉を捻り潰すかの如く、背後からはドタドタとちぐはぐに地面を蹴る重たい足音が男に近づいて来る。
「クソが…!クソが…!クソが…!クソが…!」
やけくそになった男は正気を失ったようにそう言い放つ、それでも足を止めなかった。しかし不幸にも男は「何か」に躓き、前のめりに転んでしまった
「ぐっ...、クソっ!」
なんとか立ち上がろうとしたその時、男はその「何か」を見てしまった。いや、正確には目に飛び込んできた。
それは、断面がグチャグチャになった人間の片足だった。
「ヒィッ!」
男は腰が抜けたのかうまく立ち上がれず、再びその場で転んでしまう。なんとか後退りする男はそこでふと違和感に気付く、
追いかけていた何かがいない。
「まいたのか?」
そう男が少し安堵した瞬間、男は背後の異様な存在に気付きゆっくりと振り返る。だが男が振り返った瞬間、そこには肉を引き千切るような音と男の断末魔が響き渡った。
2月のほのぼのとした日を受けながら、三日月 天は廃ビルの屋上で心地良さそうに昼寝をしていた。
彼はまるで起きる気配がなく、このまま1日を終えしまうのではないかと思わせる程深い眠りに就いてい。
しかしそんな静寂を乱暴に蹴り飛ばすように、屋上のドアがもはや開かれたと言うよりも、内側から爆発したと言っても過言ではない程の力で開かれた。
「!?」
流石の天でも驚いたのか、ドアが開かれた瞬間に飛び起きた。
それなりの強さで開け放たれたドアから淡い青色のショートカットの少女が怒りと焦りの混じった表情を浮かべながら、ズカズカとわざと足音を立てながら彼に近づいて行く。天は面倒くさそうな顔をしながらも立ち上がり、少女と顔を合わせる。
「どうした?そんな顔して」
天はしらばっくれるが、そんなの関係ないと言わんばかりに少女は天に指を突きつける
「どうした?じゃないんですよ!」
そう怒声を上げる彼女の名は白星清香、天とはクラスメイトでありバディでもある。
「そうカッカッすんなって、寿命縮まるぞ?」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!!」
天が冗談混じりに清香をなだめようとすると、清香は更に声を大きくする。
彼女が怒るのも無理はない、なぜなら彼らは今学校で受けた依頼をこなしている真っ最中だったのだ。
「早くしないと他の人に手柄を取られちゃいますよ!」
清香は天の腕をグイグイと強引に引っ張り、廃ビルの外へと連れていく
「はいはい、わかったよ」
天は清香に腕を引かれるまま、廃ビルを後にした。
「はぁー...」
依頼が終了し、教室の席で清香はそう大きくため息を吐いていた。
「どうした?そんなクソでかいため息なんかして」
そう発言する天をキッと睨み付けた後、もはや怒る気力も無いといったかんじで机に突っ伏した。
「あなたのせいですよ.....」
清香はそうボソッと言った。
「なんて?」
休み時間の喧騒に掻き消されて聞こえなかったのか、聞き返してきた天にとうとう我慢の限界がきたのか、清香は机から勢いよく立ち上がり
「あなたのせいですよ!」
と怒声を上げた。周りの視線が彼らに集まるが、よほど怒っているのかそんなものは気にしないと言わんばかりに続ける。
「いつもいつも依頼を無視してどこかに行くし、それでいて反省してるようにも見えないし、なのに授業は真面目に受けるし先生の言うことは聞くくせに依頼人さんの言うことは無視するしで、毎回毎回うんざりなんですよ!」
一気にまくしたてると、清香は肩で息をしていた。
「悪かったよ、次からは気を付ける。だからまずは落ち着け」
これには天も少し驚きなだめるようにそう言うが、それが逆効果になり更に清香を苛立たせる
「そんな言葉聞き飽きました!もうあなたとなんて組みたくありません!今からでもバディの解散を...」
そう言って清香は教室を出ていこうとする。
「お前にも問題はあるだろ?」
するとそんな彼女の背中に天のそんな言葉が飛んでくる。
それが天の口から出てきたということを理解するのに清香は少し時間が掛かった。
「は?」
そして出てきた言葉は未だに理解出来ないといったかんじで、清香は口を開けたまま固まった。そしてようやく理解するとポカンとした顔からみるみるうちに怒りに満ちた顔をし、口を開こうとするがそれより先に天が言葉を放つ。
「お前、いつも高難易度の依頼ばっか受けてるよな?」
「それは...!」と反論しようとする清香に構わず天は言葉を紡ぐ
「俺達はこの実力主義の世界の学校で最底辺のクラスなんだぞ?そんな俺たちが高難易度の依頼を受ければ、どうなるかわかるよな?」
そう言って天は少し威圧する。
彼らはまだ中学生でありながら学校側が受注した依頼を受け、それの成功回数や成績などで実力が決まるのだ。
「...私はただ、上のクラスに上がりたかっただけで....」
言い訳するように言う清香に天は冷酷に言葉を投げる。
「仮に依頼が成功したとして、お前や俺が無事な可能性は有るのか?」
「....」
押し黙った清香は目線を落とし、天と目を合わせようとしない。
しかし、天には清香の気持ちはわからなくもなかった。なぜなら彼らはもう受験生であり、高校での活躍の期待度もここで決まると清香が思っていると感じ取ったためだった。
「高校生活が上手くいくか心配なのは良くわかる、でも今無理して高校に行けない方が厄介だろ?」
そう諭すように天が言うと、清香は目線を落とした。
「なら逆にあなたはなぜ...そうやって真面目にしないんですか?」
「俺にも色々あるんだよ」
清香の言葉に天はそうはぐらかす。
「そうゆうところなんですよ…」
そう言って清香は教室から走り去っていった。
放課後、天と清香はそれ以降話すことはなく下校時間となった。
(結局一回も話さなかったな....まぁ明日には機嫌直してるだろ)
-------そして翌日、清香は学校に来なかった
(珍しいな、あいつが休むなんて)
そう思いながらもどうせ明日か明後日には来るか、と思いながらその日は過ごした。
そしてその日の放課後、いつものように帰路についていると、
「ねぇ」
と1人の女に声を掛けられた。
パーカーのフードを目深に被って顔を隠しているせいか、年齢どころか胸の膨らみが無ければ女かもわからないような風貌だった。
(うわぁ、関わりたくねぇ)
そう思いながら無視しようと試みる。
「ねぇ」
しかし再び声をかけられ、天は渋々振り返る。
「あー、俺?」
そう自分を指を指しながら聞き返すと女はコクりと頷き、顔を見られたくないのか視線を合わせないように俯きながら近づいてくる
(意外とデカイなこいつ)
天の身長は176cmだが、近づいて来た女の身長は170cm程もあり、服がだぼっとしているからわからないがそれなりにスタイルは良いと天は勝手に考えた。
「あーっと...何の用ですか?」
いつもとは違い物腰を丁寧して話し、出来るだけ相手に当たり障りが無いように尋ねた。
しかし女はそんなことは気にする素振りも見せずに質問を繰り出す。
「貴方、最近ここ辺りで何か無かった?」
そう聞かれて天はキョトンした顔で、首を傾げる。
(なんかあったっけ?)
必死に記憶の引き出しを開けるが、何も出てこない。
「いや、何もなかったと思いますけど…」
そう天が答えると「そう...ありがとう」と言って女は立ち去って行った。
「なんだったんだ、あいつ?」
天はその背中を見ながらこれ以上関わりたくないと思い、そのまま帰路についた。
そこから5日経っても学校はおろか連絡すら返ってこなかった。
(流石に妙だ...何かあったのか?)
そう考えながら適当に朝礼を終え、また変わらず1日を過ごす。しかし、流石に天は清香のことが頭から離れなかった。そして向かえた終礼、未だになんかあったのか?とかなんとか考えながら終礼を受けていると、耳にとある言葉が引っ掛かる
「えー最後に、最近不審者情報が多数上がってるから注意して帰るようにー。それじゃあ日直」
そう先生が指示を出し、号令が掛かり他の生徒達が下校を開始する。
休み時間とは違う騒がしさが訪れる中、天は顎に手を当てながら思考を巡らせる。
「....」
「ん?どうした?三日月、帰らねぇのか?」
彼の異変に気付いたクラスメイトの1人が声をかけると、天はハッとした顔になり立ち上がると
「あ、ああ大丈夫だ、それより最近の不審者情報っていつから出てる?」
唐突の質問にクラスメイトは戸惑いながらも「確か...」と記憶を辿り
「1週間くらい前からかな?」
その言葉を聞いて天は再び顎に手を当ててしばらく考え込むと
「そうかありがとう、それじゃあまた明日」
と言って教室を出た。
天はいつもの帰り道を歩いていた、そしてとある場所にたどり着く。そこは、あの女と出会った場所だった。
「...」
立ち止まり、空を見上げる。空は綺麗な茜色に染まっており、2月の少し冷たい風が吹く
「私を探してるの?」
後ろから突然現れ声を掛けた女に驚くこともせず、天はゆっくりと女を見る。
相変わらず目深にフードを被り、不思議な雰囲気を醸し出している。そんな女に天は表情を変えることもなく
「ここら辺で不審者情報があったらしい、1週間前からだそうだ。それに加えて最近俺のクラスメイトが5日くらい学校に来てない。関係はないかも知れないけどな」
と言う。女は「そう....」とだけ言うと天の脇通り、歩き出す。
「おい!」
天はそう荒々しく女に声を掛ける。
「お前、何を知ってる?」
最初の頃の当たり障りない態度は去り、天は完全に敵意を剥き出しにしていた。
しかし女は意味有りげに「ふふ」と笑いながら
「少なくとも、貴方には関係無いわ」
と言い歩き出した。
しかしそれを天が強引に肩を掴んで引き止め
「せめてお前の名前を教えろ」
とまるで脅しているのかと思う程の圧を出す。
「ごめんなさい、急いでるの」
だが女はそう言って簡単にそれを引き剥がし、去っていった。
天は最後まで女を見ていることしか出来なかったのだった...........(第2話へ続く)




