第5部 第9話 星々の対話
三日の期限の最終日。
四世界の代表たちが星図都市の広場に集まった。
広場の空には灰色の裂け目が大きく口を開けている。
「これが最後の会談だ」
砂塵世界の代表が言い放つ。
(ここで失敗すれば、本当に航路が切れる)
胸の奥の環が痛いほど鳴り、手のひらに汗がにじむ。
「中央の支配をやめろ」
「軍事航路を完全に閉鎖しろ」
「監査官をすべて追放しろ」
矢継ぎ早に要求が突きつけられる。
(全部は呑めない……でも拒めば彼らは離脱する)
胸の奥の環が乱れ、視界が滲む。
深呼吸して、声を絞り出す。
「中央は確かに間違っていた。
だが、航路は俺たち全員のものだ。
ここで切れば、世界は再び孤立し、闇が広がる」
(もう、格好つける余裕なんてない)
「俺は調停者だが、英雄じゃない。
でも、誰かが繋ぎ役にならなきゃ、この星図は死ぬ」
声が震える。だが、嘘はなかった。
潮の民の長が目を伏せる。
「お前は中央の犬かと思っていたが……違ったようだ」
「中央と戦う覚悟があるのか?」と砂塵世界の代表。
「ある。命を賭けても」
胸の奥の環が白金色に輝き、広場に光が満ちる。
(これが……俺のすべて)
四世界の代表が視線を交わし、頷いた。
「三ヶ月だけ待つ。その間に中央を変えられなければ、今度こそ離脱する」
「約束する。その三ヶ月で必ず答えを出す」
(繋ぎ止めた……だが、時間は少ない)
胸の奥の環がゆっくりと鳴り、しかし重く響く。
(これからが本当の試練だ)
空の裂け目がゆっくりと閉じ、星図に再び光が戻った。
広場に集まった人々が安堵の息をつく。
ガルドが肩に手を置いた。
「お前、よくやったな……でも次は中央の心臓部だぞ」
「分かってる。これが最後の交渉になる」
遠い空で、新しい星がまたひとつ灯った。
(次は、中央を変える戦いだ)