第5部 第7話 裂ける星図
翌朝、星図都市の会議堂に緊急招集がかかった。
星図の中央に、赤い印がいくつも灯る。
「報告します。南方連盟、砂塵世界、潮の民――
合わせて四世界が、統合からの離脱を宣言しました」
会議場が一斉にざわめき、緊張が走る。
(四世界同時……! これは偶然じゃない)
胸の奥の環が激しく鳴り、手が冷たくなる。
(陰謀はもう、表に出た。
次は航路そのものが切断される)
「放っておけば次々と離脱するぞ」
「軍を送るべきだ!」
「いや、武力介入は統合の理念に反する!」
会場は怒号に包まれた。
(皆、恐怖に駆られている。
でも、ここで武力を選べば統合は崩壊する)
胸の奥の環が苦しげに鳴る。
(どうする……? この場をまとめる言葉が見つからない)
深呼吸して立ち上がった。
「まず、離脱宣言を出した世界と直接対話する。
強制ではなく、彼らが望んで戻れる道を作る」
「そんな悠長なことを!」と反発の声。
「急ぐからこそだ。力で抑えつければ、航路は二度と繋がらない!」
会場が静まり返った。
(これが最後の調停になるかもしれない)
胸の奥の環が強く、しかし落ち着いた音で鳴る。
(たとえ失敗しても、剣より言葉で決着をつける)
オルビタが再び航路へ出る。
しかし、航路の途中で灰色の霧が広がり、分断が始まっていた。
「急げ! 完全に閉ざされる前に!」
(間に合わないかもしれない……
でも、ここで止めるんだ)
胸の奥の環が痛いほど鳴る。
霧の向こうで、離脱世界の代表たちが待っていた。
その顔には怒りと恐怖が入り混じっている。
「中央が我らを支配する前に、航路を切る!」
「待ってくれ! 中央の暴走は俺が止める。
だが、航路を閉ざせば再び渦が生まれる!」
(届いてくれ……頼む)
胸の奥の環が震え、光が航路をかすかに照らした。
「では証明しろ。中央の命令を止め、我らの代表を交渉に加えろ」
リュシアンは迷わず頷いた。
「約束する。調停者として、必ず実現する」
代表たちが霧を少し晴らした。
「三日だけ待つ。その間に約束を果たせ」
(三日……短いが、やるしかない)
胸の奥の環が力強く鳴った。
(次は中央そのものと正面からぶつかる)
星図都市の遠い空で、巨大な灰色の門がゆっくりと開き始めた。
(これが、最後の選択だ)
リュシアンは舵輪を強く握った。